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「GAFA」に吸い上げられる日本のマネーは何兆円くらいか

2019年5月7日 
岩本晃一 :経済産業研究所/日本生産性本部 上席研究員

日本では、Uberなどのライドシェアは「白タク」だとして許可されていないため、欧米のように低賃金・不安定労働を強いられている運転手や、Uberに仕事を奪われたタクシー運転手の抗議デモを見ることはない。

だが、多くの人々は意識していないかもしれないが、日本でも膨大なマネーとデータがGAFAなどプラットフォーマーに吸い取られている。


GAFAの収益力に中国企業が到底敵わない理由、「PLの3項目」で分析

  今、米国と中国が世界の覇権争いを繰り広げています。第1次世界大戦から約100年にわたって米国が守り続けてきた覇権国家の地位を中国が脅かす。そんなシナリオが現実味を帯び始め、米国が本気モードに入りました。

では、ビジネスの世界ではどうなっているのでしょうか?やっぱり米国企業の覇権を中国企業が揺るがす事態に陥っているのでしょうか? 

数字で確かめたことがある人はあまり多くないかもしれません。
 そこで、ここでは米中両国の基幹産業であるIT業界から各国代表に登場してもらい、確かめてみましょう。 米国代表はGoogle(グーグル)、Apple(アップル)、Facebook(フェイスブック)、Amazon.com(アマゾン・ドット・コム)の4社。社名の頭文字を取って「GAFA」とも呼ばれますね。  

一方、中国代表はBaidu(バイドゥ、百度)、Alibaba Group Holding(アリババ集団、阿里巴巴集団)、Tencent Holdings(テンセントホールディングス、騰訊控股)の3社です。こちらも3社をひとくくりにした「BAT」という呼び名があります。  

BaiduはGoogleのようなインターネット検索サービスを展開し、AlibabaはAmazonのようにオンラインショッピングができる巨大なマーケットプレイスを運営。Tencentは「WeChat(ウィーチャット)」など、Facebookのようにソーシャル・ネットワーキング・サービス(SNS)を提供しています。

では、この世界的に有名な企業が公開している決算書の数字を確認しながら、ビジネス覇権国家はどちらなのかを見ていきましょう。読み進めていくうちに、日本と海外のどちらでも通用する決算書のエッセンスも身に付いているはずです。 



BATもトヨタも遠く及ばず~Apple驚異の収益力

  何といってもまず気になるのは、GAFAとBATのどちらがもうかっているの?というポイントではないでしょうか。

それは、「財務3表」と呼ばれる決算書3点セットの1つ、損益計算書(Statements of Income / Profit and Loss Statement、PL)を見れば分かります。 

そして、このPLにはたくさんの項目が並んでいるのですが、その中でぜひ覚えてほしいのは3つだけ。「売上高」「営業利益」「(当期)純利益」です。
 1つ目の「売上高」は製品・サービスを販売して得た代金のことで、企業の事業規模を表す代表指標の1つです。

 ここから費用を引いて残った金額が利益となるので、いわば利益の源泉ですね。
 2つ目の「営業利益」は本業で稼ぐことができた利益のことで、本業の収益力が分かります。
 3つ目の「純利益」は売上高から原価や人件費、税金など全ての費用を差し引いた後に手元に残ったもうけのこと。

 「最終利益」とも呼びます。

では、この重要な3つの指標(2018年1~12月期)で、GAFA vs BATの米中対決を見てみましょう(Googleは親会社Alphabetの数値)。すると、売上高、営業利益、純利益の3部門全てでトップ3を米国代表のGAFAが占めました。

3部門全てでトップに君臨し、3冠王に輝いたAppleは売上高が2656億ドル、営業利益が709億ドル、純利益が595億ドルです。

一方、中国代表のBATの中では3冠王であるTencentは、売上高が455億ドル、営業利益が142億ドル、純利益が114億ドル。

いずれも Appleに約5倍の大差をつけられています

では、日本一の企業であるトヨタ自動車と比べてみるとどうでしょうか? 

「異業種交流戦」になってしまいますが、純利益を比べてみましょう。

19年月3末時点の為替レートである1ドル=110円でAppleの純利益595億ドルを円に換算すると、約6.5兆円にも上ります。

一方、トヨタの純利益は約2.5兆円。トヨタはトヨタでスゴい利益をたたき出しているのですが、Appleはなんとその2.6倍

恐ろしいほどの収益力です。 というわけで、GAFA vs BATの収益力対決はGAFA側に軍配が上がりました。

ビジネス界における米国代表であるGAFAの覇権を、中国代表のBATが脅かすのはもう少し先になりそうです。

TencentやAlibabaは「利益率」でAppleに勝る

  ただ、GAFAも油断は禁物です。なぜなら、同じ売上高でいかに効率よく営業利益や純利益を稼ぎ出す力があるかを示す「利益率」の指標では、BATも負けていないからです。 例えば、「営業利益÷売上高」で求める売上高営業利益率では、GAFA・BAT全7社の中で1位のFacebook(44.6%)に次ぐ、2位にTencent(31.2%)がランクインします。一方、収益の「額」では最強だったAppleは26.7%で4位です。 また、「純利益÷売上高」で求める売上高純利益率では、ここでも1位はFacebook(45.4%)ですが、2位にはAlibaba(40.1%)が名乗りを上げています。 事業規模が大きくなれば、成長率が落ちてくる傾向がありますし、IT業界を取り巻く環境の変化スピードはすさまじいです。いかにGAFAといえども安穏としていては、BATにいつ覇権を脅かされるか分かりませんね。「いやいや、すでにAmazonはBATにのみ込まれているぞ」と思った人もいるかもしれません。確かに、Amazonは売上高こそ2329億ドルの2位ですが、営業利益は124億ドルで5位、純利益に至っては101億ドルで6位。十分立派な数字ではありますが、この7社の中では何だかさえませんね。 しかし、そこは時価総額世界3位(19年3月末時点)の企業ですから、特別なワケがあります。ご存じの方もいるかもしれませんが、Amazonは創業以来長年、利益を出さない企業として有名でした。少し前まで純利益は赤字かわずかな黒字という超低空飛行を続けていたのです。その理由は、PL上で利益を出すよりも、さらなる成長のための投資や研究開発に資金を投じてきたからです。18年12月期には、なんと288億ドル(約3.2兆円)ものおカネを研究開発費に突っ込んでいます。 ショッピングや動画配信、アマゾン・ウェブ・サービス(AWS)のクラウドサービスなど、Amazonがなくてはならない存在となっている人や企業は多いはず。「Amazonは最強」というイメージを持っている人も多いかもしれません。決算書の数字を見て、企業に抱いてきたイメージと異なるときは、何か裏があるのではないかと考えてみることも大事だといういい例ですね。


主だった海外企業の決算書は、大きく2種類に分かれます。

米国会計基準国際会計基準(International Financial Reporting Standards、IFRS)です。細かいルールは異なりますが、PLの大まかな構成は同じです。  ちなみに、日本と違って「売上高」のことを「Revenues」と書いていたり、「Net sales」と書いていたりと、項目の表記が企業によってバラバラなのでご注意ください。



ちょっと気を付けた方がいい点をお伝えします。

Appleの例からも分かるように、CFに限らずPLもBSもそうですが、数年分のトレンドを見ることが大事です。

「すごくキャッシュが流出入している!」と思ったら、たまたま例年にないキャッシュの動きを見せているタイミングにぶつかっただけかもしれませんので。
 また、企業のステージによって適切なCFの状況というのは異なります。

例えば、今がまさに伸び盛りというスタートアップであれば、フリーCFがしばらく

マイナスになり続けても投資を続けた方がいいかもしれません。

増資をしたり銀行からの借り入れを増やしたりして、財務CFの「袋」でキャッシュを手当てすれば資金繰りは回りますので。


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