経営を担うための心得とは


高橋功吉=ジェムコ日本経営 常務理事 グローバル事業担当


技術者の皆さんが経営に携わる立場になることが多くなったのを踏まえ、経営にまつわるあれこれを書いてきた。

今回は最終回として、今まで述べてきた話題を整理し、「経営を担うに当たって心がけたい5つの心得」としてまとめたく。


[1]経営とはフリーキャッシュフローを生み出すことなり
 経営とは、株主から預かった出資金や金融機関などからの借入金を元手に、事業に必要な資産を調達し、それを使って新たなお金を生み出すことだ。お金を生み出せなければ、株主への配当はおろか、借入金も返済できないことになる。

 このお金の動きを示すのが「キャッシュフロー計算書」だ。本来の事業活動で生み出したお金を「営業キャッシュフロー」、事業のために必要な投資を「投資キャッシュフロー」といい、営業キャッシュフローから投資キャッシュフローを引いたものが、新たに生み出した自由に使えるお金「フリーキャッシュフロー」である。つまり、このフリーキャッシュフローをいかに生み出すか経営の基本となる。
 事業価値とはその事業によって将来的に生み出されるフリーキャッシュフローを現在価値に置き換えて求める。すなわち企業の価値とは、どれだけのフリーキャッシュフローを生み出せるかで決まるのである。配当金の支払いや借入金の返済はこのフリーキャッシュフローからしていく。これを「財務キャッシュフロー」という。
 経営を担うに当たって一番重要なのは、どれだけのフリーキャッシュフローを生み出せるかということ。フリーキャッシュフローがマイナスといった事態になれば、それだけキャッシュが減る。お金を支払えなければ企業は倒産する。「お金が企業の命」を肝に銘じておきたい。

[2]まずは5Sを実践すべし
 経営を担う立場になってまず行うべきは、本当に有効なお金の使い方ができているかの確認である。

出資金や借入金などで調達した資産を、お金を生み出すよう使えているかという視点で、自社の資産を現場・現物で確認するのが大切なのである。
 例えば、大量の在庫や滞留在庫にお金を使っていて、果たして新たなお金を生み出せるだろうか。

在庫が多ければそれだけお金が減る。そればかりか、在庫の管理コストが増え、在庫分だけ金利も増える。それはすなわちお金が減るということ。資産調達には資本コストと呼ぶコストがかかる。資本コスト以上の利益が出せないものにお金を使っていては、お金は減っていくばかりである。
 多額の投資をして導入した設備も同様である。設備が動いていないということは、新たなキャッシュを生んでいないばかりか、資本コストに加えて、(日本では)固定資産税を払って設備を寝かせている状態である。生きた設備投資にするには、24時間365日設備を動かしてお金を生み出すのが理想。使わない設備は早期に売却すべし。そうすればキャッシュを増やせる。売却が難しければ廃棄する。簿価のある設備を廃棄すれば、その分の利益は減るものの、利益減分の法人税が減ってキャッシュは増える。
 貸借対照表(B/S)の借方の資産は、貸方で調達した資金を使って資産に換えたもの。すなわち、これが真に有効なお金の使い方になっているかをまず確認するのが大切なのだ。その確認は、5S(整理・整頓・清掃・清潔・しつけ)における「整理」といえる。整理とは「今の事業、今の生産に必要なものだけにすること」。真の整理ができれば、資産を圧縮してお金に換えられる。それによって、キャッシュが増えるとともにスペースの創出や資産の管理コストも削減でき、キャッシュフロー経営推進のベースが出来上がる。キャッシュフロー経営という視点では総資産利益率(ROA)の最大化が重要で、そのベースとなるのが5Sの実践なのである。

 

[3]裏付けある計画を策定すべし
 計画に基づいた経営推進にまず必要なのは、裏付けある経営計画の策定である。

そのためには、現場の取り組みがどう経営数字に結び付くかを理解する必要がある。

例えば、在庫を減らせば営業キャッシュフローは増え、その分お金が増える。売掛金の回収が進めば同様に営業キャッシュフローが増える。歩留まりが改善すれば材料費の低減、ひいては利益の増につながり、営業キャッシュフローが増える。
 資金計画立案の際にこうした基本を分かっていないと計画を策定できない。

何をすればどの費目の数字がどう動くのかを知らなければ、裏付けある経営計画は策定できないのだ。
 これは日々の経営管理にも通ずる。基本を知らなければ、何ができていないのでいくらお金が減った、何ができたのでいくら利益が増えたという話はできない。裏付けある計画数字にするためにも、日々の経営管理を実のあるものにするためにも、現場と経営数字の関係をしっかり理解しておこう。
 それと同じく重要なのは、約束した計画数字をなんとしても達成すること。そのための基本が先手の経営管理である。

決算が終わってから、「残念ながら未達でした」というのでは具合が悪い。そうならないためには、2カ月先、3カ月先の見通し数字を出し、計画が未達になりそうなら事前に対策を講じるのが肝要だ。
 そのためには、「未達額を何でいくらカバーする」と、目標を割り付けて推進することが重要だ。

利益や資金計画を守るためのリカバリー対策の組み立ては、何に取り組めばどの費目でいくらの効果が出るかという基本を知っていれば難しくない。計画に基づく経営推進の基本は、まず月々の計画数字を達成し、それを積み重ねること。

計画未達が常態化すると計画という目標を見失い、成り行き経営になりかねない。


[4]判断基準を持つべし
 経営判断の際、どうしようかと一瞬迷うことは大いにあり得る。重要なのは、判断基準をしっかり持つこと。まず絶対に守るべきは法令順守だ。社会規範や倫理が重視される中、コンプライアンス問題は企業の命取りになりかねない。
問題から逃げない姿勢も大切だ。何とかなるだろうなどと放置していた問題が、取り返しのつかない事態を招くことは多い。ささいな問題でも放置せずに正面から解決に向けて取り組む。
 そうした姿勢を貫くことは、法令順守とともに、問題を放置せずに取り組む企業風土の醸成につながる。

そうすれば、規格外れの商品を出荷してしまったり、取引企業との約束を守らなかったり、決算を粉飾したりといった、経営の足元を揺るがすようなことは絶対に起きないはずだ。


[5]人の育成は経営者の仕事
 最大の経営資源は人である。技術を生み出すのも、新たなお金を生み出すのも人だからだ。

この最大の経営資源が流出するような企業は危ない。また、せっかくの人材を活用できないようでは企業としての成長は望めない。人を育成し、皆が知恵を出し合いお互いの力を発揮できる企業は、活力があり、より大きなキャッシュを生み出す。
 そうした企業になるには、人の育成に手間とコストを惜しんではならない。経営の分かる人材を育成できれば、それぞれが知恵を出し自ら判断・実行できる組織になる。なにより自分達の取り組みによる経営貢献も自覚できる。
 また、技能や技術の継承は、事業を支える基盤でもある。人を育成してこそ企業は大きな推進力を持つことができ、それが将来にわたって事業を存続発展させていく原動力になる。ただし、人の育成は短期間でできるものではない。

それだけに短期的視点ではなく、しっかり腰を据えて意識して取り組むべきテーマであり、それこそが経営者の仕事だ。


メール・BLOG の転送厳禁です!!  よろしくお願いします。 


コメントをお書きください

コメント: 1
  • #1

    OGAWA @OTM研究所 (月曜日, 13 7月 2020 21:01)

    ネットで見つけた面白そうな記事です!
    * 成長会社のトップ三十数人の共通点 @ 井原隆一

    数々の企業再建に尽力し、名経営者として高い評価を得てきた井原隆一氏。彼が『致知』1981年11月号の対談記事で語られた「成長会社のトップ三十数人の共通点」という興味深いお話があります。
    ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
    以前に成長会社のトップ三十数人かの人と対談したことがありましてね。で、対談して気づいたのはその三十何人には非常に共通したものがあるんですね。
     一、自分に厳しい
     二、がめつい
     三、エリート意識がない
     四、洞察力がある
     五、物、人に対する感謝の念が強い
     六、これでいいと満足しない
     七、数字が読める(将来の計算をするのが巧み)
     八、厳しい体験の中から自分が成長する糧を見出している
     九、独りぼっちになる(反省)
     十、天才は一人もいない。

    その三十何人かのトップをみていてね、どうしたら、ああいう姿勢を持てるのかを考えてみたんですが、要するに、自分を捨てきっているからなんですね。
    自分を捨てきれない者は会社を捨てるか、自分が捨てられる。
    自分を捨てるというのは、自分の立場とか、名誉とか地位とかね、そういうことにとらわれないで、企業経営のために、全能を傾けられるということです。
    私はね、将たる者は右手に七分の合理性、左手に三分の人間味を持てといってます。厳しさだけじゃ、やはり人はついてこないから、三分の人間味を持つ。
    ところが、その右手に私情を入れる人がいる。
    自分が大切だから、悪口いわれないようにするわけです。
    だから、私を捨てられない人は判断、決断、断行ができない。
    会社のためにはこうした方がいいんだが、失敗したら自分の責任を問われはしないかとかね、自分を先にしている。
    自分を捨てていない。
    企業のためにこうすべきだと判断、決断しながら、私の感情を入れるものだから、断行ができない。こういう公私混同も困る。
    それで、得てして、こういう公私混同が会社を滅ぼす。
    あのトップは立派な人だとか、いい人だとかいわれたくてね、断行を躊躇する。
    勇気というのは私心を捨てたときに、自ずから出てくるものですのにね。
    ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
    誠に、含蓄のある筋の通ったお話ですが、これっ、実行するのは難しい!! 如何ですか?�