いま欲しい人材は「やんちゃなエンジニア」


 2019221

古川 湧 日経ビジネス 記者

 ソニーは21日、採用方針に関する記者説明会を開き、データ・数理分析や宇宙科学、物理サイエンスに長けた理学系のエンジニアの新卒採用に力を注ぐ考えを示した。
商品企画、ソフトウエア開発など約80ある採用職種の中に「理学系の研究開発職」を2020年度卒採用から新設。同職種を中心に、R&D(研究開発)領域での新卒採用人数を20%増やす目標を掲げた。ソニーが採用方針について記者向けに説明会を開くのは初めて。
具体的な人物像に言及して欲しい人材を広く公開し、就活生に訴える狙いがある。

イメージングやセンシングといった従来の分野だけでなく、金融サービスなどの分野でもエンジニアの採用が欠かせなくなっている。ソニーで人事部門を担当する安部和志執行役常務は「自分の専門分野に限らず、色々なことに好奇心を持つやんちゃなエンジニアが欲しい」と話した。

IT系人材の獲得競争は熾烈を極めている。GAFA(グーグル、アップル、フェイスブック、アマゾン・ドット・コム)が世界中のIT系大学の卒業生を相次いで採用しているからだ。安部氏は「GAFAの存在を意識している。国内外を問わず、優秀なエンジニアを積極的に採用したい。そのためにアピールが必要と考えた」と説明会の狙いを語る。 国内でも大手電機メーカーに加え、トヨタ自動車や日産自動車などの完成車メーカーが自動運転技術の開発に向けてエンジニアを活発に採用している。新技術が次々に生まれるディスラプショ創造的破壊)の時代。人材の奪い合いに勝ち抜くことが企業の成長に欠かせなくなっている。


元ソニーCEO・出井伸之氏(81)が朝日新聞のインタビューで、「平成」という時代を以下のように述懐されている。

 「日本が凍りつくぐらいの北風が吹いた時代でした。1990年代に米国でIT革命が起き、中国経済の急成長が始まりました。

一方日本は、85年のプラザ合意以降の猛烈な円高で製造業は国際競争力が揺らぎました。さらにバブル崩壊で、残った借金を返済するので手いっぱいでした」
――平成の時代から得られる教訓は。
 「インターネットという時代の潮流になぜ乗れなかったのかを考える必要があります。

平成の間に、米国ではGAFA(グーグル、アップル、フェイスブック、アマゾン)が、中国にはBAT(バイドゥ、アリババ、テンセント)が台頭しました。日本にはこれに匹敵するような、メーカーと消費者をつなぐ巨大企業『プラットフォーマー』が誕生しませんでした」
「米マサチューセッツ工科大の伊藤穣一・メディアラボ所長は、時代を『インターネット前』と『インターネット後』に分けています。日本はいまだに『前』ではないでしょうか」
「日本企業は昭和の時代から、商品ごとの事業部に経営判断を任せる代わり、独立採算とする文化がありました。このやり方では、赤字覚悟の低価格で新商品を出し、市場が育った後の利益で費用を回収する戦略はとれません」
顧客が増えるほど商品のコストが安くなるデジタルの世界では、先に市場を支配した企業が圧倒的に有利です。近年は顧客から集めたビッグデータが大きな価値を持ち、この傾向に拍車がかかっています。アマゾンは長く赤字でしたが、将来性から世界有数の時価総額で評価されています」

 

■ベンチャー企業、育てる仕組みを
「世界経済の中心はアジアに移ってきています。インドやフィリピンなどこれから成長する国に技術供与をしたり、深刻な環境問題を抱える中国で次世代型都市を一緒につくったりするビジネスチャンスがこれからたくさん出てきます」
「金余りと言われますが、ベンチャー企業には資金が回っていません。銀行の多くは担保がないとベンチャーにお金を貸してくれないからです。米国や中国に比べてベンチャーが育ちにくい仕組みを変えていく必要があります」
 「人工知能(AI)、ブロックチェーン、仮想通貨といった新しい技術が台頭しています。インターネット時代の到来に気付かなかった平成の愚を繰り返してはなりません。日本は個人情報保護の意識が薄い中国のような国と競争していかねばなりません。新技術の負の側面にばかり目を向けず、こうした技術でどんな未来をつくるかを考え、実現する制度を国が早急に整える必要があります」


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