CNFを自動車にどう活用するか


紙の原材料、セルロースで自動車の外板や骨格部材を実装した世界初のコンセプトカーを開発中

2019/1/17

金沢工業大学大学院工学研究科高信頼ものづくり専攻の影山裕史(カゲヤマ ユウジ)教授が副プロジェクトリーダーとして参画する環境省の国家プロジェクト「ナノセルロース・ヴィークル プロジェクト(Nano Cellulose Vehicle Project)」(以下「NCVプロジェクト」)では、植物由来のセルロースナノファイバー(CNF)で外板や骨格部材を製作した世界初のナノセルロース・ヴィークルのコンセプトカーの開発に取り組んでいます。2019年度中の完成を予定しています。

自動車へのCNFの社会実装は世界初の取り組みで、日本が世界に誇るフラッグシップ技術となります。

自動車の大型部品を植物由来のセルロースナノファイバーに置き換えることで、軽量化による走行時の二酸化炭素排出が大幅に削減できるとともに、国内に豊富にある森林活用の活性化にもつながります。

また国連全加盟国が進めるSDGsの達成(気候変動対策)に貢献できるものとして期待されています。

金沢工業大学の影山裕史教授は副プロジェクトリーダーとしてプロジェクトを進めるとともに、自動車における大型部品であるエンジンフード(ボンネット)や構造部材のフロアのCNF化を可能にする成形法と用途拡大を目指す出口戦略を担当しています。2018年に世界で初めてCNFで試作したトヨタ自動車「TOYOTA 86」のエンジンフードでは鋼製に比べて5割近い軽量化を発現できる事を確認しました。更なる軽量化に挑戦中です。(昨年12月に開催されたエコプロ2018で展示)

また、製造過程では現在採用が進んでいるCFRP(炭素繊維強化プラスチック)の成形方法の一つであるRTM(樹脂注入成形)を採用し、低圧成形を可能にすることにより、部品点数の少ない大型一体成形が可能である事を確認しました。
今後は10%以上の二酸化炭素排出量削減を目指し、更なる軽量化のために、フレーム用途に強みを持つCFRPとパネル用途に強みを持つCNFのマルチマテリアル構成に挑戦すると共に、建材や電機、医療等の他分野でのCNF活用の可能性を議論していきたいと考えています。

 

NCVプロジェクト参画機関(22機関)
京都大学、地方独立行政法人京都市産業技術研究所、宇部興産株式会社、株式会社昭和丸筒、昭和プロダクツ株式会社、名古屋工業大学、利昌工業株式会社、秋田県立大学、株式会社イノアックコーポレーション、キョーラク株式会社、ダイキョーニシカワ株式会社、三和化工株式会社、マクセル株式会社、アイシン精機株式会社、株式会社デンソー、トヨタ紡織株式会社、トヨタ自動車東日本株式会社、金沢工業大学、株式会社 トヨタカスタマイジング&ディベロップメント、東京大学、国立研究開発法人産業技術総合研究所、一般社団法人産業環境管理協会


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セルロースナノファイバーを普及させるために求められること
三菱総合研究所 経営イノベーション本部  舟橋龍之介
地球温暖化対策として大気中CO2の効率的な削減を図る目的から、植物由来のカーボンニュートラルな素材「セルロースナノファイバー(Cellulose Nanofiber、以下CNF)」が注目されている。CNFは「軽い」「強い」「硬い」などのさまざまな特徴を有する。しかし、親水性(水に混ざりやすい性質)のCNFを疎水性(水に混ざりにくい性質)のプラスチックなどに混ぜるにはコストがかさむなど、普及に向けた課題も残っている。本コラムでは、CNFの特徴や課題を整理し、普及に向けたブレークスルーポイントおよび将来展望を考える。
tec_13.pdf
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セルロースナノファイバーとは

CNFは、直径が3~50nmでアスペクト比(繊維長/繊維幅)が100以上の、極細の繊維状物質である。

このCNFは、木材や竹などに由来する植物繊維を解きほぐす(解繊する)ことにより得られる。解繊処理にはさまざまな方法が存在する。

CNFの特徴は解繊方法により一部異なるが、CNF全般に共通するものとして、

(1)軽い(比重1.3~1.5g/cm3、鋼の1/5程度)

(2)強い(強度3GPa、鋼の約5倍)

(3)比表面積が大きく(250m2/g以上)、吸着特性が高い

(4)硬い(引張弾性率140GPa程度、アラミド繊維相当)

(5)熱による伸び縮みが小さい(線熱膨張係数0.1~0.2ppm/k、ガラスの1/50程度)

(6)ガラス並みに熱を伝えやすい

(7)生体適合性に優れている、などが挙げられる。


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コメント: 6
  • #1

    メタルケンイチ (日曜日, 16 8月 2020 10:45)

    ダイセルの久保田博士の唱える境界潤滑理論、CCSCモデルの自動車のエンジンのピストンリングへの実装に成功したらしい。鋼材の窒化を簡略したナノベアリングは凄い!

  • #2

    極圧添加剤研究者 (水曜日, 19 8月 2020 22:03)

    それは、特殊鋼新合金Xのことですね。ハイテン成形用の金型他、冷間ダイス鋼の用途としてすでに広がりをもっていますが、摺動部品材料にまで及んできてるのですか。

  • #3

    サステナブル切れ味 (土曜日, 27 11月 2021 11:35)

    兵庫県姫路市は世界遺産、姫路城があるところ。そこで日本刀のマルテンサイトの真髄が科学的に示されたのは大きな歴史的転換点ではないでしょうか。

  • #4

    トランプエレメント (日曜日, 09 1月 2022 16:27)

    日本機械学会で発表あったかいな?知ってたらもっと早く、機械、軸受に使っていたがな。

  • #5

    メタルケンイチ (土曜日, 29 1月 2022 21:06)

    なんとも壮大なメッセージではないか。諸君。

  • #6

    マルテンサイト (金曜日, 02 6月 2023 19:23)

    自己潤滑性特殊鋼の境界潤滑メカニズムを極最表面分析を駆使しながら,解析した結果,境界潤滑のほぼ全貌を説明しうる基本モデルに到達した。それは摺動に伴って,潤滑油が分解し再合成された炭素の結晶体の構造により,摩擦特が支配されるというモデルで名称は炭素結晶の競合(CCSC;Competitive Cristal Structures of Carbon)モデルで提案しており,化学反応を制御することで摩擦特性が変化することを報告する。さらには高面圧トライボシステムへの展望についても述べる。(著者抄録)J-GLOBAL