「毎月勤労統計」の闇



元日銀マンが斬る 厚労省の統計不正、真の“闇”

 毎月勤労統計とは、賃金の動向等を調査し、景気の分析や労働保険の給付金等の算定に用いられるもの。本来、東京都の常用労働者数500人以上の事業所を全て調査すべきところを、2004年からサンプル調査で手抜きしていたことが発覚した。
 18年末から報道されていたが、今年に入り、根本匠厚生労働相が問題を認め、雇用保険などで過少給付があったと発表されると、のべ1973万人という対象人数、約567億円という過少給付額のインパクトもあり、普段、聞き慣れない毎月勤労統計という統計を巡る不正が一気に社会問題化した。
 毎月勤労統計が公表する数値について、最初に疑問を投げ掛けたのは、地方紙である西日本新聞だった。18年9月12日に配信されたネット記事は、Twitterなどで話題を呼んだので、ご記憶の方も多いと思う。
 もっとも、このときは、毎月勤労統計で不正が長年にわたって行われていたという指摘ではなく、18年3月に公表された1月調査から統計の作成方法が見直され、その結果、賃金の増加率が実勢よりも高くなっているのではないか、という問題提起だった。記事中で「安倍政権の狙い通りに賃金上昇率が高まった形だ」とあり、厚労省の統計作成部署が安倍政権に忖度したのではないかとうかがわせる記事の作りになっている。
 毎月勤労統計の数字がおかしいという西日本新聞の問題意識は、結果として正しかったことが証明された。ただ、事の発端は安倍政権が発足するはるか前、04年にさかのぼる。

http://www.itmedia.co.jp/business/articles/1901/17/news026.html


元公務員が見た「毎月勤労統計調査不正問題」の闇

平成31年1月22日、厚生労働省である記者会見が行われた。政府の基幹統計(政策に関わる重要な統計)の一つである「毎月勤労統計調査」(以下「毎勤」)に関して、大きな不正が発覚したというのだ。
不正の概要としては、
・少なくとも平成8年以降、調査対象事業所数が公表資料よりも1割程度少なかった。東京都の規模500人以上の事業所については、「全数調査」と調査年報に記載していたにも関わらず抽出調査としていた。
・平成16年~平成29年の抽出調査では、集計上必要な復元処理が行われず、「きまって支給する給与」等の金額が低めに表示されていた。このため、「毎勤」ベースで算出される雇用保険や労災保険に係る給付額が本来より低くなるという現象が発生している。
・平成16年~平成23年の調査については、復元に必要なデータの保存措置が取られず、再集計値が算出できない状態になっている。
・平成30年9月にサンプルの入れ替え方法に伴う数値の上振れ現象について指摘を受けた際、総務省の統計委員会に復元に関する事項を説明しなかった。

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今回「毎勤」の件で一番不可解なのが、基幹統計の取扱いに関わる各種決裁の権限があまりにもバラバラだということだ。
例えば、東京都の規模500人以上の事業所について、全数調査から抽出調査とする件については、担当課の課長決裁を経て企画担当係長名の「事務連絡」としてシステム担当係長に通知されている。
一方、平成20年に「毎勤」の産業分類変更について検討された際には、厚生労働大臣から総務大臣に申請がなされ、この件については大臣官房統計情報部長の専決(上位者名の文書を下位者がその責任で決定する)決裁となっている。
そもそも、国の政策のみならず世界経済の動向にも関わる基幹統計である「毎勤」について、決裁権限がここまでバラバラになることは、行政事務取扱の手順として本当に正しいと言えるのか。
このあたりについては、「毎勤」の根拠となっている「毎月勤労統計調査規則」に明記がないので、実際のところは細かい事務取扱要領や内規などを洗いざらい読んでみないと何とも言えない。
ただ、行政の現場にいたものの皮膚感覚で言うと、係長名の「事務連絡」はそれこそ資料を送付する際の「送り状」レベルの文書であり、およそ基幹統計の内容を左右する内容の文書としては似つかわしくない。
実際に都道府県へ通知を出す際はまた違った決裁ルートを通った可能性もあり、その中で誰かしらがチェックを入れて然るべきだったのだが、チェック機能が全く働いていない、明確な「行政不作為」が今回の件で証明されたのであり、決裁に関する構造的な問題が横たわっていることがようやく国民の目にさらされたとも言えるだろう。

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全ての鍵を握っているのは東京都
今回の件で繰り返しでてくるのが、「毎勤」に回答する企業、そして自治体から負担が大きいという苦情が寄せられていた、という表現だが、では、実際のところ一番大きい影響を受けた東京都と厚生労働省の間で、どのようなやり取りがなされていたのだろうか。残念ながら「特別監察委員会」の調査は、東京都の担当者までは至っていないようだ。
だが、実は事の真相だけでなく、失われたデータを取り戻す手掛かりまで、全ての鍵は東京都が握っている
なぜなら、統計をやり取りするにあたっては、厚生労働省側だけでなく、東京都側でも決裁行為を経ているはずだからだ。
「報告書」の記述によれば、平成16年~平成23年の調査については、復元に必要なデータの保存措置が取られず、再集計値が算出できない状態になっているという。
ところが、東京都のホームページから公文書検索を行うと、何と平成20年からの調査原票がヒットするではないか。

この文書ファイルの保存年限は10年。少なくとも、平成20~23年の調査原票については東京都側に保存義務がある。もしかしたら、状況次第ではそれ以前のファイルもどこかに移管されているかもしれない。
厳密にいうと、「毎勤」には「全国調査」と「地方調査」の2種類があり、原票の書式は違うとされている。しかし、「毎月勤労統計調査規則」に付属している書式を見比べてみると、「全国調査」も「地方調査」も問われている数字は変わらない。
因みに東京都側に残った「地方調査」の結果は、毎年『東京都の賃金、労働時間及び雇用の動きー毎月勤労統計調査地方調査結果年報ー』という冊子で東京都から発行されているので、図書館で実物を一度見てみるといいだろう。
もし、東京都と厚生労働省の間で「毎勤」の件で突っ込んだやり取りがされているのなら、担当職員メモという形でその内容が残されている可能性がある。
調査原票の件も含め、厚生労働省は東京都に頭を下げて情報提供を求めるべきだ。「自治体の負担に配慮した」と言うなら、実際のところはどうなのか、東京都の職員に効果の程を聞いてみるといいだろう。



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