読める未来、読めない未来、そして作る未来


2019年は「気候変動の重要性が理解される元年」に

2019110日(木) 

御立 尚資

 

 2018年後半からTech titan(いわゆるGAFA、すなわちGoogle、Amazon、 Facebook、 Appleを中心とした超大手テクノロジー企業)に対する批判が強まり、とどまる所を知らないかに見えた株価も変調をきたしている。 

 ユーザーのデータプライバシー、海外勢力による世論誘導への意図せざる関与、リアルの世界における雇用への悪影響、国を超えた取引への課税強化など様々な要因があるが、各社への危惧に通底するのは、「データ寡占」への懸念だろう。

これに、米中のテクノ冷戦、EUのデータプライバシー規制、そしてたび重なるサイバー攻撃(への不安)、といった要素が加わり、彼らへの逆風は強まる一方に見える。 

 

2017年に予見したことが実現

  巨大化・寡占化した米国テクノロジー企業への逆風が吹き始めるだろう、という内容をはじめてこのコラムで書いたのは、2017724日付の記事でだった。

そこでは、アマゾンがリアルの小売業の雇用を脅かしていることに対して、批判が強まってきたことに触れ、その上で、過去、工業化の時代の初期に巨大寡占企業をコントロールすべく独占禁止法が生まれたように、Tech titanらのデータ寡占に対しても同様の規制が加わる可能性について述べさせていただいた。 

 ついで、201821日付の記事では、デジタルエコノミーに対する猛烈な逆風が吹く予兆が出ており、根拠なき熱狂状態にある時価総額もいずれ調整局面が訪れるだろうと書いた(もちろん、その後に本当のデジタル革命がやってくる、と信じている旨を述べて、稿を終えている)。

  今では、彼らに対する逆風や市場調整は、様々なメディアで当然のことのように語られているが、上記の2つのコラムが出た段階では、記事自体、正直なところ、散々な評価だった。 

 直接・間接に、「新しいデジタル時代のことがあまりわかっていない老人」扱いをされたことまである。的を射たご批判はしょっちゅう頂くし、そうではない場合も、あまり気にしないようにしているのだが、この時は、ちょっとへこんだ(笑)。 

 ただ面白いもので、こういう記事を書いたことを覚えてくださっている方もいらして、「どういうふうに、先を読んでいるのですか」といった質問をいただいたりもする。

今回は、私の手の内、というか、自分なりに変化を読むために考えていること、やっていることについて、いくつか触れてみたい。 

 

1. 未来は読めない、と肝に銘じる 

 逆説的な物言いだが、預言者ならぬ普通の人間にとっては、未来は読めない。まず、こう自分に言い聞かせることにしている。

  我々の生きている社会は、複雑系だ。

個々の人や企業・組織のアクションに対し、その他の数多くの人や企業・組織が反応し、その結果、予期しなかったような結果が生まれてくる。

前回の産業革命の際、蒸気機関が発明された段階で、標準化・規格化されたT型フォードが社会と経済を劇的に変えるとは、誰にも想像できなかっただろう。 

 さらに言えば、地震のような自然災害やパンデミックの流行などは、いつ起こるか確実に予測することは不可能だ。

バブルの崩壊も、同様にタイミングが読めない。 

 先ほどのTech titanの話も、タイミングも含めて読みきれたわけではない。

近々こういうシナリオが現実化する蓋然性が高い(が、いつそれが決定的になるか、は人智の及ばぬところ)と考えた、ということだ。 

 そもそも、時代が大きく変わるときには、強い「思い」を持つ人たちが、未来をつくっていくものであって、未来の方が決定論的にやってくるわけではない。

本質的には、未来はつくるものだ、というのが私自身の信念でもある。 

 

2. 一方、「大体」読める潮流は存在する。その中で、他の変化の根本原因になるものをつかみ取る 

 科学技術の進歩で、いつ頃どのようなことが可能になるかは、ある程度予測できる。

量子コンピューティングの実用化で、ある種の問題が、信じがたい速さで解けるようになる時期は、幅はあるものの専門家なら予想可能だ。

マクロな人口動態も、大きな戦争やパンデミックが発生しない限り、一定以上の確率で推定できる。

こういった潮流の中で、他の変化につながる原因となる重要なものを選択し、ウオッチし続けることが重要だと思う。 

 量子コンピューティングが実用化され暗号解読が猛スピードでできるようになると、暗号ベースの技術であるブロックチェーンは、一挙に危機にひんする可能性がある。 

 私自身は、「暗号通貨自体には、様々な問題が存在するが、分散型の信頼システムを構築する上で、ブロックチェーン技術には大きな価値がある」と考えている。

ところが、(タイプにもよるのだが)量子コンピューティングの実用化が見えてきた段階で、この技術が一旦危機にひんする、ないしは、対抗技術の構築のために普及がスローダウンする、ということが予想される。 

 こう考えると、ブロックチェーン技術の実装という将来の世界観を左右する根本原因の一つとして、量子コンピューティングの進化を(専門家の意見を聴きながら)継続モニターしていくことが重要となる。

 

人の話や「べた記事」から兆しを嗅ぎ取る

 

 3. 自らの時代感を言語化して、モデル化する 

 読める潮流を見出し、その中で重要なものをつかみ取っていく上では、何らかの判断軸が必要だ。 

 私の場合で言えば、超マクロに時代を捉えて、現在は「工業化による経済成長モデルの最終盤」と「デジタル化による新たな価値創造モデルの萌芽期」が併存する時代だという自分なりのモデルが(現段階では)基礎になっている。

これに従って、我々にとって何が重要な変化か、それをもたらす(大体読める)潮流は何か、を総合化して考えることを繰り返すようにしている。 

 独占禁止法にしても、グローバル企業への課税のあり方にしても、我々の社会システムを構成する規範やルールは、工業化時代のものであり、デジタル化時代には即していない(ちなみに、政治システムや教育のあり方も同様である)。 

 このため、当面の間、新たな価値をつくり始めたデジタルプレーヤーと工業化時代に最適化したその他の社会システムとの間で、摩擦が起こり続ける。

こう考えれば、Tech titanへの逆風が吹き始めるのは、当然だということになる。 

 そして、様々な人の話や、海外を含むメディアの「べた記事」の中から、その「兆し」が現れたら、その具現化が近いと判断することが多い。

  ドラッカーに『すでに起こった未来:変化を読む眼』という名著があるが、雪の下から草木の芽が出てくるように、目を凝らすと様々な「兆し」がある。

未来は読めなくとも、何かが既に兆しとして表れていることに気づけば、一定の蓋然性で人とは違った未来像を描くことができる。

  逆に言えば、自分なりのモデルさえあれば、面白いことに「兆し」が色々見えてくるとも言える。 

 ちなみに、モデルを作るときに、心がけているのは、異なった領域の専門家の方々の知見をできる限り統合したモデルにする、ということ。

経済学、社会学、歴史学、政治学といった人文科学。コンピューターサイエンス、医学・生理学、あるいはマテリアルサイエンス、といった自然科学と工学分野。 

 工業化およびそれを支える資本主義と民主主義という仕組みをどう作り変えるか、という大きな問いの答えに一歩でも近づくためには、近代以降、分化しながら専門性を高めてきた分野を越境して、モノを見ていかねばならないのではないか、と考えている。

昨今のリベラルアーツばやりも、アートやデザイン思考とSTEMの組み合わせが求められていることも、同じ認識からではないだろうか。 

 なんだか偉そうなことを書き連ねてしまった。もちろんのこと、私が読めなかったことは数多い。

トランプ当選も、BREXITも、専門家の友人たちの話をもとに、30%の確率だと思いつつ、その後の展開も含めて、きちんとしたシナリオを作ることを怠ってしまった。

 

未来に「思い」をどう乗せていくか

  ただ、読めることと読めないことをしゅん別しつつ、未来の環境を想定し、そこに「思い」をどう乗せていくか、を諦めない、という一種の戦闘意欲は失わないでいようと思う。

また、京都大学や早稲田大学での客員教授の仕事の中でも、自分が身につけたことと「思い」を若い人たちに伝えることは続けていきたいと思っている。 

 さて、最後になったが、少しだけ、今年の予想めいたことを。

私が、2019年に起こりそうだと思っているのは、気候変動の重要性がようやく多くの人に理解される元年になることだ。

当たるもはっけ、当たらぬはっけだが、さて、どうなりますやら。

 

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