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ドイツ人の「外国観」激変、中国に失望し米国には不安


 

2018118 

加藤 出 :東短リサーチ代表取締役社長

  10月にドイツのベルリン(ドイツ連邦議会議事堂の会議室)で開催された「第27回日独フォーラム」に参加した。両国の政治家、財界人、ジャーナリストらがベルリンと東京に毎年交互に集まり、政治、経済、文化などを議論して政策提言を行うカンファレンスである。

 セッションの中で今回第一に興味深かったのは、多くのドイツ側参加者の中国への見方が以前と大幅に変化した点である。

 5年ほど前の彼らは、中国の政治体制の先行きに驚くほど楽観的だった。

 経済発展とともに、中国は自由主義、民主主義の価値観を共有するはず、という声が当時は多かった。中国におけるドイツ企業のビジネスが極めて順調に拡大していたこともそういった楽観論の背景にあったように思われる。

  ところが今回は、「習近平体制の中国は全く異なる方向へ進んでしまった」と、強い失望を表す人がドイツ側で大幅に増えていた。

 ドイツの財界も、中国マネーはドイツの優良中堅企業を買収して技術を取得しているのに、ドイツ企業が中国企業を買おうとすると中国政府にストップをかけられる、と強いいら立ちを表していた。

 興味深かった第二の点は、国際政治全般に対するドイツ人の強い不安である。ある識者は次のように述べていた。

 「われわれは20世紀に2度、間違った方についてしまった。しかし、ベルリンの壁崩壊以降は正しい側にいると信じてきた。ところが状況は大きく変わった。ヘルムートコール元首相はかつて『周辺は全て友好国になった』と語ったが、ロシアは2014年にクリミア半島を軍事力で併合した。中国は(前述のように)私たちが期待したラインから全く離れた。中東や中欧にも非民主的な動きがある」

 「ドナルドトランプ米大統領は欧州でドイツを最も攻撃しており、ドイツ人の動揺を加速させている。世界の皆がわれわれの信じる価値観を共有するという仮説は楽観的過ぎた。外交において現実主義になるべきだ」

 そういえば今年8月、ハイコマース独外相はエマニュエルマクロン仏大統領と呼応しつつ、「ヨーロッパの自立」を強く主張していた。また、米政権の対イラク金融制裁に対抗できなかった教訓から、マース氏はドル本位制を弱めるための欧州独自の国際資金決済システムが必要だと言及した(「フォーリンアフェアーズリポート」201810月号)。

 ドイツ人がそこまで言うようになったのは、上記のような国際政治に対する急速な考え方の変化が影響しているように思われる。

 フォーラムではドイツ側から「米露中がこうなると、ドイツと日本の協力は一層重要だ」との声が多く聞かれた。

 ただし、ある参加者は「安倍(晋三)首相はトランプ大統領とゴルフに行っている場合なのか」と、批判気味に語っていた。それを許容している日本国民のバランス感覚は、ドイツ人には理解できないようだった。

 三つ目の興味深かった点は、SNSがドイツの政党政治の脅威になっているという問題意識だ。

 アンゲラメルケル首相率いる与党は地方選挙で惨敗が続く。

 ヘッセン州での大敗後、彼女は党首を辞任する意向を表明するなど、政権は衝撃に見舞われている。

 SNS上のフェイクニュースによるポピュリズム(大衆迎合主義)的な激しい攻撃が、与党の人気低下に拍車を掛けているという。 

それは単に既成大政党にとっての問題ではなく、民主主義の危機ではないかとの声が多数聞かれた。