地方を滅ぼす「成功者への妬み」のひどい構造


 3つのネチネチ」で成功者はつぶされていく

 木下 : まちビジネス事業家 

20181024

 地方に巣喰う、複雑な「妬み」の問題について考えてみたいと思います。 

地域活性化に資する事業において、すばらしい成果や業績をあげた人の共通点は「地元から離れれば離れるほど、その評価が全体的に高くなる」傾向にあります。 

一方で、肝心の地元では、たとえ大きな成果をあげたとしても、そうした事業は「賛否両論」になることが一般的です。

普通なら「成功に続け!」となるはずなのに、その成果を讃えつつ、困難な事業に挑戦する者を育てる、という話にはなりません。

 

挑戦者を「馬鹿」と言い、成功者を「ずるい」と言う土壌

 その地域から若者がいなくなり、挑戦者が去る衰退の背景には、「教育的な問題」「経済的な問題」といったものを生み出す、極めて心情的な問題が存在しています。 

とりわけ「地域活性化の壁」とも言えるのは、挑戦者を支えず、成功者を引きずり降ろそうとする「妬み」とも言える人間関係がそこに存在します。 

皆さんもご存じだと思いますが「よそ者・若者・馬鹿者」という有名な言葉があります。 

地域を変えるのに必要なのは「地域外から来る人」「若い人」、さらに地元では「馬鹿と言われるほど愚直に何かやる人」という意味の表現です。 

私はこの表現がまったく好きではありませんが、それはさておき、地方活性化分野でよく使われ、もてはやされます。 

実際、さまざまな困難に挑戦する地元人材は、いい意味で「馬鹿だ」と言われるのが前提なのです。 

確かに、従来からのやり方で衰退をしている地域で、新たなやり方を作り出し、挑戦するのは短期的に見れば地域内で批判され、割に合わない「馬鹿な行為」と言われれば、そのとおりです。 

しかし「馬鹿な行為」と決めつける人は、極めて個人主義的な考え方で、「自分にとっての損得」でものごとを考えているのです。短期的にはマイナスでも、中長期的、あるいは地域全体という視点に立てばプラスになる挑戦であり、挑戦者を「馬鹿」と言ってしまってはその地域には未来がないわけですが、地域の中では「あいつは馬鹿だ」と言ってしまう困った状況があります。 

さらに、困ったことに、挑戦者が成功すると物事はさらにこじれます 

成功者は「すばらしい」と言われるのではなく、「あいつはずるい」と言われてしまうことが多くなるからです。 

当然ながら、地域における事業は万人にすべて均等に富を配るようなものなどありませんし、不可能です。 

公の行政事業でさえ受益者の濃淡は出るわけで、それが民間事業であれば、「できるだけ多くの人にかかわってもらおう!」と考えたところで、当然ながら個々人の受益には差が出ます。自分たちが恩恵にあずかれない事業で成功すると、「あいつらだけずるい」となって足を引っ張り、どうにかして失敗させようと試みたりするのです。

 

挑戦者や成功者を潰す「3つの方法」とは?

 では、どうやってそうした成功者を潰しにかかるのか。やり方はそれこそ多種多様ですが、ここでは典型的な3つの方法について触れたいと思います。 

1)事業に予算をいれて潰す 

地域で成果を収めた事業は、思いのある数名の有志でお金を出し合い、小さく始めたものが多くあります。 

しかしながら、地域で成果を収めると行政や組合などが横から入り、行政補助や事業組合の予算を用いて、類似する事業の立ち上げを支援することがあります。実は、昔、私たちが東京の早稲田で取り組んでいた環境まちづくりもその罠にかかりました。自分たちで小さくとも稼ぎ成果をあげていた事業でしたが、早稲田と類似する「環境まちづくり事業」を商店街で行うと補助金が出るという制度を国や地方が立ち上げ、潰されていきました。 

また、全国各地で見られる「飲食店の食べ歩き企画」などもこのパターンに入ります。 

当初は有志の良いお店だけで企画していたのに、成功した後、成果を手にしたい行政側の思惑や成功を妬んでいる店などが絡み、施策化して補助金などが投入されるようになります。

すると「税金を使うのだから一部店舗だけでは駄目だ!」といって、「しょうもない店」もこうした企画に入れるようになります。 

しかし、予算を入れてタダで参加する店などが増加して発展するかといえば、逆に参加者の満足度が低下していき、使う側にも敏感にその雰囲気が伝わります。結果として企画そのものが陳腐化し、破綻します。 

2)事業を横取りして奪って潰す

 2つ目は事業の横取りです。たとえば、とある地域の生産者が商品開発や営業で血のにじむような努力をして地元産の良質な農産物などを使った新商品を大ヒットさせました。

 そうすると「あなたのところも組合に属しているのだから」となどといって生産者組合の共同事業にし、さらには「地域を挙げての行政事業にする」といって、地域ブランド認定して事実上横取りしてしまいました。 

血のにじむ努力をした「最初の開拓者たち」は、耐える場合もありますが、こうしたことは本質的に許せるわけがありません。意を決したように組合を通さずに出荷する、などとなったりするわけですが、そうすると今度は地元で嫌がらせを受けるなど、あからさまな営業妨害を受けるケースもあります。

 さらに、道の駅などの公共施設運営事業などの官民連携事業であれば、集客などで成果をあげた途端に「あの事業者ばかりが運営するのは公平性に欠ける」などとイチャモンをつける人々が出てきます。 

その結果、運営主体が、地元で政治力のあるまったく別のグループへと鞍替えになり、施設自体を実質的に乗っ取るような事例も地方では出ています。

 とはいえ、乗っ取り、鞍替えをさせて人気が維持できるかといえば、当然ながらそんなことはありません。 

実力がない人々がやると、すぐに人気がなくなり、経営が行き詰まります。

 

「うわさのある人」というレッテル貼り

 3)風説の流布で人格否定をして潰す

 さらに、最悪の場合が(3)の風説の流布でしょう。「気に食わない」ということで怪文書やネット掲示板などにあることないことを書いて、挑戦者、成功者を陥れようとします。

 こういう場合、地元議員が事業に絡んでいることが少なくありません

 議員が直接、あるいは間接でも信憑性のないことをもとに議会で「黒いうわさがある」などといって質問して、さも実際に発生しているかのような事実へと仕立て上げてしまったりします。 

また地元のメディアも息がかかっているか、あるいはニュースが少ないため、いざこざがあると批判的論調で取り上げてしまうこともあります。問題なのは、事業の内容だけではなく、安易な人格攻撃に政治、行政、メディア組織が便乗するケースがあることです。

 結局、地元では「触らぬ神に祟りなし」ということで、せっかく頑張っていても「うわさのある人」というレッテル貼りがなされ、多くの人が離れていき、仕事に大きな支障をきたすこともあります。 

時に、精神的に病んでしまったり、病気で倒れてしまう人さえいるほどです。

恐ろしいことに、こういう場合、ほとんどのケースでは地元の一部が騒ぎ立て、多くの人は無関心です。

仮に事情はわかっていても、頑張っている人が潰されていく姿を、黙って見ていることが多くあります。

そこには「自分には関係ない」と無関心を決めこんだり、心のどこかで挑戦者が失敗する姿に安堵したり、成功者がたたきのめされる姿を期待するという心理もあるでしょう。

 

挑戦者を支え、成功者を称えることが地域を発展させる

もちろん、どんなにひどい妨害策を受けても確たる覚悟をもってその地元で事業を継続し、仲間と大きな仕事を成し遂げる成功者・挑戦者もいます。

しかし、ほとんどの人はそのような妨害策などに嫌気が差してその地域を去り、より挑戦に寛容である地域へ移動します。当たり前です。地域を変えるために不確実な日々を送るより、別の地域に行ったほうが、話が早いからです。

 相対的にいって人口集積が大きく、他人の挑戦に良い意味で無関心な都市部のほうがいちいちやることなすことに他人から介入されることもないため、都市部のほうが新たな挑戦が始まりやすい傾向にあるとも言えます。

 「新規創業支援」「移住定住促進」という政策において重要なのは、創業支援への予算拠出や移住定住者への補助金などだけではありません。

 むしろ新たな挑戦に寛容であり、成功者を称えるという基本的なスタンスを地域の多くの人が共有できるか、にあります。

挑戦も成功も、つねに孤独から生まれやすいものです。だからこそ地域において互いに支えながら挑戦し、成功を讃えながらさらなる成功を目指す構造をつくれるか否かが問われます。妬みで新たな芽を潰した先に、「地域の未来」などはありません。他人の挑戦を明るく支えられるかどうかこれが、地域の未来を支えるのです。


 地方が妬み地獄から脱出する4つの行動 

様子見は挑戦者潰しに加担するのと同じだ

 木下 : まちビジネス事業家

20181115 

前回のコラム「地方を滅ぼす『成功者への妬み』のひどい構造」(シェア数約380001114日現在)には、「うちの地元もそうだ」「地方の問題だけでなく、うちの業界でも同じ」「うちの地元ではそんなにネチネチ言われない」などなど、本当に多数の反響がありました。誰かの成功を見たときに「ねたみ」を感じたり、「恐れ」を感じるのは、人間としては実は自然なことかもしれません。しかし、そうした感情を制御せず、そのうえ暴れまわるなどというのはまったく理性的な行動ではありません。その地域に「新しい次なる動き」を生み出す動きを止めるばかりか、自分も衰退に巻き込まれていくことを忘れてはなりません。敵は「目の前のやつ」ではなく、もっと外にいるわけです。

 

「ねたみ」の負の連鎖を断ち切るには2軸で考える

 では「ねたむ「ねたまれ、疲弊する」ことによって地域が陥る「新たな負の連鎖」を断ち切るにはどうしたらいいのでしょうか。この問題の解決には2つの軸に分けて考える必要があります。 すなわち、地元の人々が「挑戦者成功者を目の前にしたときにとるべき行動」と、「挑戦者成功者側が意識すべきこと」の2軸です。それぞれ2つずつあるので、両者を合わせると「4つの行動」と言ってもいいかもしれません。 まずは前者からです。地元に「挑戦者成功者が出てきたとき」、どんな行動をとるべきでしょうか。 

応援は「具体的行動」で示そう

 例えば新規店舗をオープンするときに、地方の役所はすぐに家賃補助や改装費補助といった補助金などの案内をします。しかし、私が投資、経営しているプロジェクトではそうした申し出を一切断ります。補助金をいくらもらったところで、初期投資や運転資金の経費負担が少し減るだけにすぎないからです。当たり前ですが、経営で大切なのは売り上げです。そして売り上げを作るのは、ほかならぬ地元の人たちです。

簡単なことですが、たとえば地産地消のレストランなどができたら「地元の長老たちなども一度は食べにいってあげる」「口コミで広げてあげる」役所の人たちも「ランチでもいいから一度は皆で食べに行こう」という輪を広げることに徹底します。これがスタートアップ(創業)時のいちばん苦しい時期を乗り越える力になります。 

「応援する」=「売り上げに貢献する」こと 

たとえば、愛知県春日井市で始まったある英会話教室は、商店街の空き地を購入、たった生徒4人からのスタートでしたが、今は地元でとても話題です。もちろん、経営者の方の努力があってこそですが、PTA会長から商工会議所役員、ロータリークラブの役員などを務めた地元長老たちもともに口コミを広げて応援した結果、1年で約100人の生徒が来る人気英会話教室へと生まれ変わりました。 

応援は具体的行動、つまりは売り上げにつながることに協力することにほかなりません。 

もちろん「2度目以降があるかどうか」は店の努力次第としても、一度くらいは皆で応援してあげるつもりで行ってみたり、お客さんを紹介してあげることが大切です。消極的に「心の奥底で応援」などといっても、意味はないわけです。 

また、ライバルならともかくほかの業種などで「お手並み拝見」な姿勢をとっている人には、「そんなこと言ってないで、新たにオープンしたんだから、応援しろ!」と場合によっては喝を入れないとならないケースもあるかもしれません。 

さらに、自分だけあるいは知人を誘って店にいくだけでなく、メディアなど宣伝に協力してあげたり、SNSなどの口コミで広げるなど、いくらでもやりようはあります。

 創業支援は、ともすると行政の支援策ばかりが議論されがちですが、本来はお客さんとして定着する地元の人たちにできることのほうが大きいのです。 

 「様子見」は、潰しに加担しているのと同じ 

先ほども触れましたが、新しくできたパン屋さんでも英会話教室でも「あそこの店は3カ月で潰れる」「1年は保たない」などと言ってお手並み拝見、のように斜に構えた姿勢でいては、実は地元住民として「潰しにいっている」に等しいのです。何より地域経済においては、集積メリットがあり、誰かが繁盛したら客をとられるのではなく、むしろ客を地元に呼んできている側面が強くあります。誰も繁盛していないところよりも、誰かは繁盛しているほうが、その地域に可能性があるのは言うまでもありません。

何もしないくせに、潰れた後に「私は応援してたんだけどね……」なんて言うのは何の救いにもなりません。そして「あのまちは挑戦には向いていない、潰される」という話が伝わり、次に出てくる人はますます出てこなくなっていき、衰退は極まっていくのです。つまり、地元で新たな店がつぶれたなど失敗の実績が重なれば重なるほど、結局は地元の人にもマイナスが降りかかることになることを、もっと深刻に受け止めるべきです。 

倉敷の大実業家、大原氏が残した最高の言葉とは?

 それでは、もう一方の挑戦者側の視点からはどのように考える必要があるでしょうか。 

実は、先人たちの例をみると、多くの反対をされているからこそ「価値のある仕事」であると考える人も多くいるのです。以下はすばらしい先人の例から学びたいと思います。

 ③ 78人から反対されるうちにやるのが「仕事」 

岡山県倉敷市の生んだ大実業家で、倉敷紡績(クラボウ)や倉敷絹織(現クラレ)などで多数の社長を務めた大原孫三郎氏(1880-1943)は、労働科学の分野に日本で初めて本格的に取り組んだ1人として知られ、労働者の環境改善に努めたり、近代美術コレクションなどの文化事業にも功績を残しています。

しかし、実はこうした大原氏の取り組みは当時からすれば異端の取り組みとして、つねに周りからの批判にさらされ続けていました。そんな大原氏は、生前このように語っています。仕事を始めるときには、10人のうち23人が賛成するときに始めなければいけない1人も賛成がないというのでは早すぎるが、10人のうち5人も賛成するようなときには、着手してもすでに手遅れだ。78人も賛成するようならば、もうやらないほうがいい 

このように身内からも反対されたりしても、それで心折れてしまうことなく、自らがやってみようと思うのであれば、23人の賛成者しかいないときにこそ挑戦しなくてはならないということです。挑戦し、成功すると、さらにまた別の反対者が現れていきますが、それをネガティブにとらえるよりは、「皆が気づいていないぞ」と前向きにとらえるという考え方もあるということです。 

それでは、挑戦し、成果を収めた人たちは、その先にはどういう行動をとるべきか、です。

 

ほかのライバルを潰すのではなく、彼らから徹底的に学ぶ 

福岡市には「ふくや」という有名企業があります。 

福岡市が地方最強の都市になった理由』でも取り上げましたが、ふくやは、創業者と2代目社長という親子2世代で、2つの画期的開発をし、明太子を福岡の地域産業へと育てることにつなげました。 

1つは、辛子明太子を開発し、そのノウハウをなんと無料で他企業に提供、結果として最盛期は1500億円を超える明太子市場を作り上げました。さらに、ふくやは九州でも他社に先駆けてコンピュータを用い、正社員も雇用するコールセンター要員を抱える画期的な通販システムを開発。これもまた他社に公開したことにより、キューサイ、やずやなどを含めてさまざまな九州の通販企業が参考にしたと言われます。 

その結果、現在では九州は「通販大国」と言われるほど通販企業の一大集積地になっています。 

さらに、ふくやは地元の伝統行事である博多祇園山笠などにも多大なる貢献をし、最近では若者たちの企画などへの協賛も惜しまずしています。創業者の川原俊夫氏(1913-1980)は節税などは一切考えずに、納税するものはそのまま納税し、残ったお金はできるだけまちのために投資しつづけたことでも有名です。

 

「ネアカな地域」に人は集まる

 このように、ねたみを持たれることがあっても、それ以上に感謝する人がでてきてしまうような工夫もあり、圧倒的な貢献度でそれを乗り越えてしまう人もいます。 

成功者を潰すのではなく、成功者を讃え、教えを請い、そして褒められた成功者もオープンな姿勢で対応する。 

このような連携が発揮されたとき、地域に競争力のある大きな産業が生まれます。 

ジメジメと潰し合いをする地域よりも、当然ながらネアカで笑って飲んで楽しくやっている地域のほうに人は集まり、挑戦は成果を生み出し、その成果が潰されることなく、むしろ地域全体へと波及していくということも可能になるのです。 

ねたみは、多くの人の心に住んでいるものです。 

だからこそ意識して、具体的な応援につなげたり、学ぶ姿勢に持っていくのもまた、気の持ちよう1つで大きく変わるのです。地域を変えることは、大層大げさな話を考えたり、補助金のことを考える前に、そんな自分1人でもできる、毎日の過ごし方を変えることから始まるのだと思っています。


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コメント: 1
  • #1

    近藤 *OGAWA代筆投稿 (水曜日, 14 11月 2018 18:26)

    小さいコミュニティの時、この傾向が顕著に出やすいのでは。
    前にも書いたことがありますが、当方の実家は島原の乱の後に、どこかのコミュニティをそっくり移住させたため、よそ者が入ってくることを極度に嫌う傾向があったような。
    この傾向は、100人程度の研究・技術の部署は、人の交流が少なく、旧帝大の技術者をトップのピラミッド型コミュニティが形成され、仲間意識が非常に強く、このコニュニティにいる事が大事だと考えている。異能な存在を煙たがる傾向にある。
    若年層も、居心地が良いので、何もしない、じっとして指示を待つ技術屋になり、成長はないが、コニュニティは維持できる。
    武田鉄也「今朝の三枚おろし」なるラジオ番組で紹介されていた~もう少し、サイズが大きくなると、地方を救うのは「よそ者」「若者」「バカ者」になるらしい。
    福井モデル(藤吉雅春著)地方を救うのは「よそ者」「若者」「バカ者」。
    福井、富山の成功事例を挙げて説明している。幸せ度ランキングは福井、富山、石川が上位にあるらしい。
    武田鉄也「今朝の三枚おろし」の福井モデル(藤吉雅春著)
    ☞地方を救うのは「よそ者」「若者」「バカ者」はyoutubeで視聴可。