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サラリーマン川柳で振り返る、平成の日本経済と仕事のあれこれ


第一生命保険が毎年発表している「サラリーマン川柳」(以下「サラ川」)は1987年(昭和62年)に始まり、平成の歴史と重なる。

入選した100句を紹介しながら平成という時代を振り返る。(ダイヤモンド・オンライン編集部 小野寺暁子、取材協力/第一生命、第一生命経済研究所)

【バブル景気】1980年代後半

 一戸建 手が出る土地は 熊も出る(ヤドカリ、1990年第4回)

日経平均が4万円に迫り、不動産価格が2桁の上昇率を記録するなど、空前の資産バブルが発生。一般庶民が都心に一戸建てを購入するのは「夢のまた夢」と言われたように、物価が全て上昇したイメージだったが、不動産や高級車、ブランド品、ゴルフ会員権など高級なモノが売れたというだけで、物価は比較的落ち着き、消費者の生活を取り巻く経済環境は安定していて、日本全体が楽観的なムードだった。土地の高騰などを嘆く句が多い一方で「オヤジギャル」「ブランド品は貰うもの」等、元気な女性を詠んだ句もみられた。

【バブル崩壊】1990年代前半

御取り引き バブルはじけて お引き取り(逆転パパ、1993年第7回)

資産バブルが急速に崩壊し、日経平均は1989年末の最高値からわずか2年後の1992年に一時1万5000円を割り込んだ。実質GDP成長率は80年代後半の5%から90年代前半は2%に落ち込み、倒産件数も増加の一途。この頃から日本の政策金利(公定歩合)は段階的に引き下げられ、普通預金の金利も低下した。
 この頃は、投資の失敗や不景気を嘆く句が多く、後悔、諦め、自虐が滲んでいる。
 1990年代にかけて「完全週休2日制」が広まり、有給休暇の取得を促す動きが進んだが、
我が会社 週休二日 日々残業(炎の飛龍、1990年第4回)と仕事量は変わらず、結局残業を余儀なくされている様子が見てとれる。
一方で、ノー残業 言われなくても 帰る部下(パパっち、2017年第31回より)とワークライフバランスを重要視する新人を詠む句が後に登場するようになった。

【デフレ経済へ】1990年代後半~2000年代前半

ビックバン 俺の財布の 割れる音?(我流転晴、1997年第11回)

「価格破壊」という言葉が流行し、1990年代後半から物価は明確な下落傾向に転じ、デフレ経済に突入。1997年に消費税が5%に引き上げられ、アジア通貨危機や海外経済の混乱も加わり日本経済は苦境に。賃金の下落も始まった。こうした経済環境を背景に日銀は1999年に「ゼロ金利政策」を導入。後に「失われた10年」と呼ばれるこの時代は明るい話題に乏しかったが、パソコンや携帯電話が普及しはじめたことにより、IT革命への期待が高まった。 デフレ関連、消費税増税といった暗い話題の中で、IT関連の句も詠まれ、『IT化 課長の面倒 誰がみる』(金太郎、2001年第15回)という句がある一方で、すでに『ロボットに 肩叩かれる 夢を見た』(読み人知らず、1990年第4回)とAIの出現を予感させるような句も。

【金融危機前後】2000年代半ば~2012年

一〇〇年に 一度の不況が 五年毎(窓際貴族、2009年第23回)

日本経済は金融システム不安を乗り越え、2000年代半ばになるとようやく明るい兆しが出てきた。日経平均株価が1万8000円を回復したほか、地価も下げ止まり、日銀はデフレが終了したと判断し、量的緩和、ゼロ金利政策を解除。しかし、2008年に米国の金融危機が日本を襲うと、その後は深刻な景気後退に見舞われた。世界経済の停滞と為替市場の急激な円高は、日本企業の業績を圧迫。改善に向かっていた雇用・所得環境は、2008年のリーマンショックによって再び悪化に転じた。不況・円高を詠む句が多くあるが、バブル崩壊時と比べると明るく「不況・円高も関係ない」というサラリーマンの開き直りともとれる本音がうかがえる。また、2012年に厚生労働省が「職場のパワーハラスメント」の概念を提言。

気遣いは 昔上司に 今部下に』(×課長)、『頼みごと 早いな君は できません』 

【アベノミクス】2013年~

 小遣いの 異次元緩和 未だなし(三児の父、2014年第28回)

2013年から15年にかけては、日経平均株価が一時2万円を回復。失業率も歴史的低水準まで低下するなど、日本経済の復活を意識させるデータが相次いだ。一方、人手不足は深刻で、求人関連の指標は軒並み上昇し、少子高齢化の影響を浮き彫りにした。また2020年の東京五輪開催決定が一因となって、都心部を中心に不動産市場が活気づいた。相続税の増税もあって、マンションの売れ行きが好調との声も聞かれた。海外では、FRBの利上げ観測、原油安、新興国の成長減速などが話題となった。アベノミクスで景気が上向く中でも、給与、小遣いが追いつかない様子や、消費税増税に悩む主婦の姿など、身の回りの不安や嘆きが多く詠まれた。2017年には、「働き方改革実行計画」に基づき労働政策審議会で議論・答申が行われ、「働き方改革」がクローズアップされるように。

効率化 進めて気づく 俺が無駄(さごじょう)、働き方 改革したら 暇になる(怪傑もぐり33世)と不安をのぞかせる句が登場した。