帝人、欧州で試される自動車メーカー1次サプライヤーとしての力量


帝人は、7月下旬にフランスの拠点で新規製造ラインを立ち上げたばかりだが、          8月上旬にはポルトガルの成形メーカー(写真)を電撃買収した 

写真提供:2点とも、帝人・複合成形材料事業本部

  2018年9月4日 週刊ダイヤモンド編集部 

 近年の帝人グループが展開する企業広告シリーズになぞらえれば、「米国での買収だけじゃない」となる。8月22日、自動車メーカー向けの新ビジネスに注力する帝人は、ポルトガルに本社を置き、欧州で広域展開する複合材料成形メーカーのイナパル・プラスティコの全株式を取得し、完全子会社化すると発表した。買収金額は50億円前後とみられる。金額は決して大きくないが、昨年来の同社の迅速な動きには刮目すべきものがある。順を追って、整理しよう。 

まず、2017年1月に帝人は過去最大の約840億円を投じて、自動車向けのビジネスでティア1(自動車メーカーに直接納品する1次部材メーカー)と認定されている北米最大のコンチネンタル・ストラクチュアル・プラスチックス(CSP)を傘下に収めた。帝人が持つ炭素繊維を扱う技術と、樹脂加工メーカーのCSPが得意とするガラス繊維強化樹脂の技術を組み合わせ、自動車の軽量化にフォーカスして動き始める。通常、素材を販売する化学メーカーは、自動車メーカーの担当者と直接やりとりすることはなく、ティア2(ティア1に納品する2次部材メーカー)を通じて自社の新製品などを持ち込む。 ところが帝人は、自らが雲の上のような存在だったティア1になることにより、自動車メーカーと一緒になって素材の将来を考えるという“特別な立場”を得た。さらに重要な点は、CSPが持つ米国11、メキシコ2、フランス1、中国1の15拠点が手に入ったことだ。このインフラを生かすべく、今年7月30日に子会社の帝人フロンティアが、ドイツの自動車向け内装材メーカーのジーグラーティア2)を買収する。翌31日には、フランスで新しいガラス繊維製品の製造ラインを増設した。その上で帝人は、8月上旬のポルトガルでのイナパルの買収に踏み切ったのだ。同社は、欧州の自動車業界では「クラスAと称される美観を誇る部材を手掛けており、すでにフォルクスワーゲン、メルセデス・ベンツ、BMWなどで豊富な採用実績を持っている。 

競合からはやっかみも

 帝人で、複合成形材料事業本部を率いる中石昭夫本部長は、「自らティア1になったことで、入手できる情報が格段に増した。どこの自動車メーカーでどのようなプロジェクトが進行中であるか、いかなる素材が必要なのかという動きは把握している」と力を込める。しかし、国内の競合他社からは、「本当にデンソーのようなティア1になれるのか」「ティア2を“中抜き”した格好になるが、彼らの報復は大丈夫なのか」とやっかみの声が上がっている。これらをはね返すには、実績で示すしかない。鈴木純社長には、「化学屋(ばけがくや)」ながらティア1であり続ける意思とやり抜く力が問われることになる。        (「週刊ダイヤモンド」編集部 池冨 仁)


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