AIとIoTで効率化~マダイ稚魚の選別


井原 敏宏=日経 xTECH/日経クラウドファースト

                                2018/08/21
 近畿大学と豊田通商、日本マイクロソフトは2018年8月21日、従来人手に頼っていた養殖現場における稚魚選別作業をAI(人工知能)やIoTで効率化する「稚魚自動選別システム」を開発し、実証実験を進めていると発表した。
世界初のクロマグロ完全養殖で知られる近畿大学水産研究所(和歌山県白浜町)では、養殖研究の大きな柱の一つとしてマダイの稚魚を生産し、大学発ベンチャーのアーマリン近大を通じ全国の養殖業者に販売している。出荷前には専門作業員が生育不良の稚魚を取り除くなどの選別作業( 写真は、手作業による稚魚選別の様子)をしていたが、体力的負担などから自動化が長年の課題だった。
 課題解決のため豊田通商と日本マイクロソフトが本研究に参画し、AIやIoTを使って画像解析と機械学習技術による稚魚の自動選別システムを共同開発することにした。豊田通商自動化システムのハードウエア設計とプロトタイプの構築を担う。

日本マイクロソフトはクラウドサービス「Microsoft Azure」のIoT機能や、認知AIサービスの「Cognitive Services」および機械学習サービスの「Azure Machine Learning(Azure ML)」を使い、第1段階として選別作業用にいけすから稚魚を吸い上げるポンプの流量調節を自動化するシステムを開発した。
ポンプ流量調節の自動化では、ポンプでベルトコンベヤーに吸い上げた稚魚の魚影面積と隙間の面積を画像解析し、一定面積当たりの稚魚数を分析する。さらに選別者の作業ワークロードをAzure MLで機械学習させ、作業に最適なポンプ流量を割り出して自動調節するソフトウエアを試作した。実証実験を通じて改良を進め、2019年3月までに本番環境への実装を目指す。

2段階として、目視での生育不良固体の選別作業についても、画像解析と機械学習による自動化を計画している。

   稚魚選別システムの概要図(出所:日本マイクロソフトのプレスリリース)

 

ポンプの水量調節に課題があった

 近畿大学水産研究所は、「近大マグロ」など、多くの魚種の養殖研究を手掛けている。その大きな柱の一つがマダイだ。同研究所が近畿大学水産養殖種苗センターで生産しているマダイの稚魚は約1200万尾で、これは日本の年間生産量の24%に当たる。
 稚魚の出荷に当たっては、生育不良のものを取り除くなど、専門作業員が選別している。具体的には、いけすからポンプで吸い上げた稚魚をベルトコンベアーに載せ、作業員が生育不良の個体を目視で見分ける。この作業は、作業員の経験と集中力が高度に要求されるため、作業員の体力的負担が大きく、自動化が長年の課題になっていた。
 

現在稼働している自動選別システムは、選別工程全体のうちポンプ制御に関する部分。稚魚の選別工程で重要なのがポンプの流量調節だ。水量が多すぎると一度に吸い上げる稚魚が多すぎて、人手による選別作業が追い付かなくなる。水量が少ないと稚魚が少なくなり、作業効率が落ちる。そこでポンプの前後に監視カメラを置いて画像を撮影し、Azure Machine Learningで解析、結果をポンプのインバーターに送り、稚魚の流量を自動制御。具体的にはベルトコンベアー上の魚影面積と隙間の面積をAIによって解析し、まず、一定面積当たりの稚魚数を分析する。並行して稚魚選別作業員の作業ワークロードを機械学習させた。これらの情報を基に選別作業の最適値を求め、ポンプの流量を自動調節している。


メール・BLOG の転送厳禁です!!  よろしくお願いします。