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FacebookとGoogleも落ちる、Microsoftがはまった罠


 AI(人工知能)や自動運転などの新技術が次々と登場する中で、いつも話題の中心にいるのは「GAFA(Google、Amazon、Facebook、Apple)」と称される米ITジャイアントである。ここに来て、その中のGoogleとFacebookの2社に逆風が吹き始めた。 

個人情報収集への世間の眼は冷たい 

 これらの2社に共通するのは、収入源の大半をネット広告に依存するデジタルマーケティングの会社であるという点だ。Webメールやソーシャルメディアといったサービスを無料で提供しながら、同時にネット広告などを表示することでビジネスとして成立している。ネット広告は、各個人の趣味嗜好に合わせた広告を表示することで、クリックの確率を上げ広告効果を最大限に高められる。    そのためにGoogleもFacebookも、魅力的なサービスを公開して多くのユーザーに使ってもらう裏側で、個人情報を収集している。  よく知られているはずのこのビジネスモデルに、改めて疑問符が投げかけられるきっかけとなったのは、2018年3月に明らかになった英国のマーケティング会社Cambridge AnalyticaにFacebookユーザーの個人情報が渡っていた問題からだ。英国の研究者経由で、実に8700万件という膨大な数のFacebookユーザーに関する個人情報が、不正に流用されたと伝えられている。もはや事件と言えるほど大規模な個人情報の流出は、一昨年の米大統領選での投票操作への影響も懸念され、米国内で大問題となった。ついには、Facebookのマーク・ザッカーバーグCEO(最高経営責任者)が米議会の公聴会に出席して証言する事態にまでなった。                                             公聴会での証言を乗り切って一息ついたと思ったところで、今度は2018年5月25日(現地時間)に欧州連合(EU)が一般データ保護規則(GDPRという新しい法律が施行されることになった。このGDPRでは個人情報を収集するために必ず本人の同意を求めるだけでなく、サービスに不必要な個人情報についての収集について厳しく規制している。これまでの認識で個人情報を扱うと大きな問題になりかねない。GDPRが施行された初日には、さっそくGoogleとFacebookの2社が提訴される事態となり、両者の株価も急落した。 さらに2018年7月18日には、EUの行政執行機関である欧州委員会からグーグルが競争法(独占禁止法)に違反したとして43億4000ユーロ(約5600億円)という莫大な制裁金の支払いが命じられている。まさに、これまで今まで順調だった2社に次々と試練が襲いかかっているといえる状況になりつつある。 

まるで20年前のMicrosoft 

 GDPR関連の訴訟に関しては、どのような判断が下されるか、その行方はまだわからない。だが、試練が次々と襲ってくる最近の2社の状況を見て、筆者は1990~2000年代のMicrosoftとイメージが重なって見える。今でもITジャイアントの地位を十分に保っているMicrosoftだが、当時は現在のGoogleやFacebookと同じか、むしろそれ以上にイケイケの急成長する元気な会社だった。 当時のMicrosoftは、新技術を開発する一方で、Windowsの圧倒的なシェアを武器に次々と登場するライバルを次々と蹴落としてきた。     例えば、急成長していたインターネット向けWebブラウザーでは、ライバルのNetscape Communicationsの製品が人気を集める中で、独自開発のInternet Explorer(IE)をWindowsに標準でバンドルするなど、なりふりかまわぬ戦略を採っていた。                        こうしたMicrosoftの戦略は、当然のように米国内などで独占禁止法(反トラスト法)違反に問われることとなり、米司法省(および米連邦取引委員会)と何年にもわたって裁判所で闘うこととなる。その結果、2000年6月の地裁判決では、MicrosoftのOS部門とアプリケーション部門の分割を命じる判決さえ出たこともある。この企業分割には、当時のビル・ゲイツCEOが先頭に立って「OSとWebブラウザーは一体化しており抱き合わせに当たらない」と主張して必死に抵抗し、その後の2001年6月の高裁判決で分割判決を棄却させることに成功した。 

組織のスピード感が失われる恐れ 

 裁判のような、本来目指すべき技術の進化とは違う方向でのゴタゴタが、技術指向のIT企業に与える影響は意外に大きい。 Microsoftと米司法省の戦いは2002年に和解に至ったものの、その結果としてWindows XP SP1ではIEだけでなく、メディアプレーヤーや、メッセンジャー、メールソフト、Java仮想マシンについてもMicrosoft製と他社製を選択できるようにせざるを得なかった。他社製を選ぶユーザーはほとんどいなかったから、ユーザーにとっても歓迎すべき結果ではなかった。結局、Microsoftは出したかったものと違う形の製品を、市場に提供する羽目になってしまった。それ以上にダメージとなったのは組織への影響だ。                            このときの騒動をきっかけに、MicrosoftではFTCやEUといった各国当局と調整しながら、それらの意向をくんで製品を開発するのが当たり前になった。ある意味では大人の組織になったとも言えるが、その一方で組織としてのスピード感や突破力は確実に失われたと筆者は感じている。GoogleやFacebookでも、今後同様の悪影響が出る可能性がある。今後の2社は、恐らくアクセルとブレーキの両方に足をかけながら開発を進めていくことになるだろう。これまでのようなアクセル全開が難しくなったときに、どのような会社となるかが要注目だ。