最高の雑談力―結果を出している人の脳の使い方


 「雑談というと、意味のない世間話やムダ話という印象も根強い。 

しかし雑談とは本来クリエイティブな行為であり、新しい発見やアイデアを生み出し、仕事にもプライベートにも大いに役立つものだ。さらに著者であり脳科学者の茂木健一郎氏によれば、雑談には脳機能を活性化させる効果もあるという。 

 脳科学的に見ると、人は高度で複雑なことを、雑談のとき自然にしており、この能力は、AI(人工知能)には未だ真似ができない

例えば、一方的に話をする人、ダラダラと話し続ける人、雑談力が高い人とは言えない。 

仕事ができる人は例外なく雑談もうまいが、これは雑談と仕事の脳の使い方に共通点があるからだという。

 本書では、AI時代に求められる雑談力、すなわちユニークで斬新な視点と、相手を喜ばせる利他性を高める方法を、脳科学の見地から具体的に解き明かす。

雑談の心構えから具体的なテクニックまで説かれ、一読すれば、雑談力のみならず、アイデア発想やコミュニケーション力向上のためにも多くの気づきがあるはずだ。 


私たちは雑談に対する誤解があります

1 話し上手でなければならない? NO      4 知らない人とはできない?NO
2 面白くなければならない?
NO        5 沈黙はいけない?NO
3 時間が無駄に
なる?NO

 

AIが雑談するのは難しい

  雑談は「雑」という漢字で構成されていることもあって、「意味がない」「大したことはない」ように思われがちだが、なかなかどうして奥が深い。雑談を通じて、脳機能が活性化したり、人間関係が改善したりするのだ。

「雑談は無限の可能性を秘めている」、これは脳科学的に言っても間違いがない。 

AIチェスや囲碁、将棋のチャンピオンに勝つことができても、雑談ができない

 私たちはふだん何げなく雑談をしているが、それはとても高度な脳の機能を使っているのだ。

 将棋やチェス、囲碁で次にどんな手を打つかは、何千、何万通りとあり、「次にこういう手を打って、相手はこう出てくる。

そのときにはこういう手を打つ」という計算のスピードでは、人間は AIに勝つことはできない。 

 ところが、雑談となると、自分が話したあと、相手がどんなことを言うのかという組み合わせは無限に近くなり、将棋 や囲碁、チェスの組み合わせよりもはるかに多くなる。少なくとも AIはまだ上手に雑談することができないが、人間はそれを何も考えずにさりげなくできてしまう。人間にはあって AIにはないもの、それがまさしく「雑談力」なのだ。

 

仕事力と雑談のうまさには比例関係がある

 私は講演をするために日本各地を訪れたり、学会に参加するために海外に足を運んだりして、日々、何十人という人に会うが、あるとき「仕事ができる人ほど雑談がうまい」ことに気づいた。

仕事ができる人は雑談を大切にしており、雑談でも手を抜いたり、適当に話をしたりすることもない。 

 ではなぜ雑談を大切にするのか。それは雑談するときにその人の本質が表れるからだ。 

1分とか2分の短い会話でも、人物眼の鋭い人なら目の前の相手を診断してしまうのだ。 

例えば、お店に行ったとき、相手から面白い話、ためになることなどを聞かされれば、「次に来るときもこの人に接客してもらいたい」と思う。このときあなたは、雑談を通じて、お店の人に好感を持ち、相手の実力を評価したのである。 

 できる人の雑談が面白いのは、脳科学的に言うと視点と利他性の2つがあるからだ。 

すなわち、相手がハッとするような、ユニークかつ斬新な視点と、相手をトコトン喜ばせる利他性である。 

この2つを兼ね備えているのが、AI時代に身につけるべき雑談だ。 

 この2つを身につけていくと、雑談を楽しめるようになるのみならず、脳が活性化していく。

 視点が面白いから、相手が喜んでくれる。相手が喜んでくれるから、さらに独自の視点を持てるように努力する 

こうなると、雑談そのものが楽しくなるのだ。

 

知らない人とは打ち解けられないという誤解

  雑談についての誤解はいくつかあるが実は、人見知りと雑談ができないことには因果関係がない 

人見知りとは、知らない人と話したり打ち解けたりするのがうまくできないことだが、そもそも初対面の人と会った瞬間から打ち解けることなど、誰もができるわけでない。 

 自分を「人見知り」だと思っている人は、知らない人との間に見えない壁があると誤認しているが、自分を守るために壁をつくっているというのが実態だ。壁をつくってしまうのは、不確実なものを恐れ、確実性を求めすぎているからである。 

たが、確実性がたくさんあると安定・安心できるが、変化や刺激が乏しくなって脳は成長しない。 

脳が機能するのは、確実性と不確実性のバランスがとれているときなのだ。 

 知らない人と話すと、デリカシーのないことを言われることもあり、何が起こるか分からない。 

それがイヤだから、自分で壁をつくるのだが、初対面の中にはあなたに興味を示してくれる人もいるかもしれない。 

人見知りだからではなく、あなた自身が拒んでいるから雑談できないということは認識すべきだ。 

 人は本来話すのが好きだ。程度にもよるが皆おしゃべりで、好きなことならいくらでも話していられる。

 それなのになぜ雑談が苦手になってしまうのかと言うと、「人見知り」「自己肯定感が低い」「ムダな話が嫌い」だけでは片づけられない根本的な原因がある。 それはアドリブに弱いことだ。

雑談とはライブであり、次に何が起こるか、どういう展開になるかは予測がつかない。目の前の相手とうまく雑談するためには、当意即妙、かつ融通無碍に対応していくしかなく、そういうアドリブ能力のある人が、雑談の達人であり、同時に、仕事ができる人なのだ。

 

ドーパミンの力を借りる

  もしあなたが雑談することを苦手と思っているならば、「場数を踏む」ことだ。 

「苦手なんだから、場数なんか踏めるわけがない」と思うかもしれないが、これは、脳科学的なアプローチだ。 

場数を踏むことが、あなたの脳を知らず知らずのうちに活性化する 

 嬉しいことがあると、脳内に「ドーパミン」という報酬物質が放出され、もっと求めたくなることが分かっている。 

たとえば、初めて自転車に乗れたときや逆上がりができたとき、子どもの脳内にはドーパミンが放出されている。 

 この報酬物質であるドーパミンは、やる気を生み出す脳のシステムだが、特に新しいことに反応しやすい性質を持っている。

初対面の人と雑談してうまくいくと、ドーパミンが出る。そうすると、「もっと話をしよう」という気持ちになり、雑談に対するやる気が出てくる。逆説的だが、このドーパミンをうまく活用するには、やはり場数を踏んでいくしかないのだ。 

 また、「楽しかった。また来月この会に参加しよう」と放置してしまうと、せっかくのドーパミンが出なくなってしまう。 

ドーパミンは常に新しいものを求めている。ただたんに場数を踏むだけでなく、そこにすぐやるという工夫を加えていくと、確実にうまくなる。まずはハードルが低い目標を設定して、それをクリアすることから始めていこう。

 

話し上手が聞き上手である理由

 仕事ができる人は、話し上手だ。 同時に、仕事ができる人は、聞き上手である。

つまり、仕事ができる人は、話し上手であり聞き上手なのだが、どちらが先なのだろうか。

「鶏と卵」のようだが、これには明確に順番がある。 聞き上手だから、結果として話がうまくなっていくのだ。

 仕事ができる人が聞き上手なのは、まずは相手の話をしっかり理解して、何を求めているかを把握できるからである。

そのうえで要望や期待を上回る発言をして、話し上手だと認識されてくのだ。 

相手の話を聞くことは雑談の原点だが、人は意外と相手の話を聞いていない

 たとえば、会議でも誰かが話をしているときに、つい考えごとをしてしまうのは、よくあることだ。 

一方聞き上手の人は、相手の発言の文脈を理解して、「こういうことを言いたいんだな」とポイントをしっかりつかんでいる。

  聞くとは、相手の話の文脈を押さえることだ。

「文脈を理解する=ポイントを押さえている」を脳科学的に言えば、相手に共感しているということになる。

前頭葉には、相手に対して共感する働きがあります。 

「相手はこう思っているのかもしれない」あるいは「これをしたら、相手がどんなふうに思うだろうか」という他人の気持ちを推し量ったり気遣ったりするのは、前頭葉マインドリーディングという働きによるものなのだ。 

 この共感の回路が正常に働いていると、相手に先回りして行動したり、相手が思っていることを先にしてあげたりする行動ができるようになる。流行りの言葉で言えば、「忖度」だが、この回路は一朝一夕につくられるわけではない。 

試行錯誤の積み重ねや、ときには相手を怒らせたりする大失敗を繰り返して、共感の回路が発達していくのだ。

 

いい雑談をする環境をつくる

 

 私が留学したイギリスのケンブリッジ大学には、何百年と続く独特の習慣がある。 

午前と午後の2回、大学内の一室に集まって、教授たちがお茶をするのである。 

私も指導教官から時間の許す限り参加するように言われていた。

錚々たる教授たちが1カ所に集まって何をするのかと言えば「雑談」だ。

  そこには学部の垣根を超えて、多くの教授たちが集まり、たまたま隣にいる人らと、仕事を忘れてしばし雑談をする。

「最近はこんなこと研究しています」「○○についてはどう思いますか?」、そうして30分くらい雑談したあとに、それぞれの研究室に戻っていく。どんなに忙しくても、いや、忙しいからこそ、お茶を飲んでいたのだ。 

 ゆったりと雑談をすると、脳内にあるデフォルトモードネットワークが作動する。 

デフォルトモードネットワークは、「ネットワーク」という言葉どおり、ふだん使わない回路をつくったり、つなげるもので、新しい回路がつくられれば、アイデアがひらめいたりする。

 デフォルトモードネットワークは目的もテーマも与えられない、かつリラックスしているときに作動するが、それはまさに雑談しているときなのだ。 

このデフォルトモードネットワークは近年の研究で明らかになったが、ケンブリッジの人たちは、先験的に知っていたとしか思えない。

オフィスでも、デフォルトモードネットワークが働く環境をつくれば、アイデアや発想が生まれるようになる。

その代表例がグーグルだ。 私がグーグルの本社を訪れたとき、カフェのような、社員が自由に集まれる場所があった。

 そこでは、社員に無料で食事が提供されていて、さまざまな部署の人たちが集まって、仕事のことから興味のあることまで雑談をしていた。  社員食堂だと、お昼どきしか集まれないが、カフェだと休憩するときに気軽に話ができる 

もしあなたがマネジメントや福利厚生を担当する立場ならば会社の中に誰もが気軽に立ち寄れるカフェのようなスペースをつくることを真剣に考えてみてほしい。


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