がんのCT画像、なぜ見落とす?


 地域のがん治療の拠点病院でがんの疑いが見つかりながら、治療を受けられずに患者が死亡する例が相次いでいる。生死にかかわる情報はなぜ埋もれてしまうのか。
 横浜市立大付属病院は6月下旬、心臓の治療で6年前に受けたコンピューター断層撮影(CT)検査で腎臓がんの疑いが見つかった60代男性が、診断が遅れて今年4月に亡くなったと発表した。放射線科の診断医はCT画像の異常に気付き、画像診断報告書に腎臓がんの疑いについて記した。だが、男性の主治医の循環器内科医は報告書を見ておらず、男性は腎臓がん治療の機会を逸した。6月には、同様の確認不足でがんの治療が遅れた例が、千葉大病院、兵庫県立がんセンターでも相次いで発覚。いずれも、地域のがん治療の中核となるがん診療連携拠点病院だ。医療事故の分析にあたる日本医療機能評価機構によると、報告書の確認不足は2015年1月~18年3月に37件あったという。ある大学病院幹部は「氷山の一角に過ぎない」と話す。

 

医療の細分化影響
 30年前はCT画像を1枚撮るのに3分かかった。現在は数秒で数百枚撮れる。昔は主治医の診療に必要と判断した体の部位だけを撮影したが、今は広範囲に撮るのが一般的という。画像はまず、検査を依頼した患者の主治医に送られる。早く患者に説明したり、治療の方針を決めたりするためだ。その後、放射線科の診断医がCT画像を詳細に見て報告書を作成がんなどの異常はその際、診断に必要なかった部位で見つかることが多い。後で報告書は送っても、必要な情報をすでに得た主治医は読まずに異常に気づかない
 専門化、細分化された現代の医療現場では、専門外の異常に気を配るのは難しい。関東地方の拠点病院のベテラン外科医は「患者1人にかけられるのは15分が精いっぱい。限られた時間とリソースは自分の専門につぎ込みたいし、その方が患者のためになる。他分野までカバーしろというのは正直無理だ」と話す。
 脳出血などに比べれば、がんの治療は一刻を争うことはそう多くない。日本放射線科専門医会・医会の井田正博理事長は「緊急の事案は主治医にすぐ連絡するが、がんの疑いを急いで伝えても、忙しい主治医は検査が必要な数カ月先には忘れる。人的努力だけでは、情報が埋もれるのは防げない」と話す。
対策とる病院も
 対策をとる病院もある。17年に情報共有不足によるがん患者の死亡事案を公表した、東京慈恵会医大病院は報告書の要旨を患者に渡すようにした。主治医が報告書を見て必要な検査を予約しているかを確認する専門の部署も作った。
 日本医学放射線学会は7月19日、見解を発表。報告書を主治医が読んでいるかをチェックする仕組みを電子カルテ上で作ることなどを提言した。ただ、チェックすること自体が目的になり、重要な情報が見過ごされるおそれもある。
 大阪大病院は主治医が予期しなかったがんなどの異常のうち、月単位の確認の遅れが患者に重大な影響を及ぼすもののみ電子カルテ上で他と異なるアラートで主治医に通知している。対象を絞ることでアラート確認の形骸化を防止。診療科ごとに報告書の見忘れがないか毎月確認している。
 医療過誤原告の会の宮脇正和会長は「患者には一つひとつが命に関わる大切な情報。医療者は患者と共有する視点で、医療安全を考えてほしい」と訴える。(水戸部六美、小坪遊)
  2018.8.16 @ 朝日新聞記事


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