自治体に眠るデータ、活用できれば宝の山に


近年、自治体に求められるデータ活用のニーズは加速度を増している。例えば、2016年には「官民データ活用推進基本法」が施行されたほか、国連で採択された「SDGs(Sustainable Development Goals)」へ呼応する「Society 5.0*1」への対応も迫られている。 

自治体ではこれまでも様々な領域でIT化を進めてきたものの、実際に蓄積しているデータをどう活用すべきか新たな課題に直面しているのも事実だ。長年自治体のIT化のサポートを行ってきた日立製作所(以下、日立)では、実績をベースに新たなアイデアを加え、自治体に眠るデータや仕組みを利活用し、地域社会の課題を解決する。 

*1 :日本政府が掲げる新たな社会像であり、その実現に向けた取り組みのこと。AIやIoT、ロボットなどの革新的な科学技術を用いて、社会の様々なデータを活用することで、経済の発展と社会課題の解決を両立し、人間中心の豊かな社会をめざす。狩猟社会、農耕社会、工業社会、情報社会に続く5番目の新たな社会として位置づけられている。 


  未活用のデータに価値を与える

日立ではかねてより、社会イノベーション事業をグローバルに展開し、様々な社会課題の解決に取り組んできた。

その一環として、特に自治体における取り組みを支援すべく現在注力しているのが「地域デジタルソリューション」の提供だ。

「2016年12月には、官民データ活用推進基本法が施行されたことも1つの大きな契機となり、今日の自治体様においては、データに基づく施策立案や行政運営の効率化などが強く求められている状況です。

一方で、これまで蓄積したデータにどのような価値を持たせられるか、悩んでいらっしゃる自治体様も少なくありません。

当社の地域デジタルソリューションは、SDGsの対応も含め、まさにそうしたお悩みに応えるものとなっています」と語るのは日立の馬場宗之氏だ。日立が地域デジタルソリューションにおいて、現在扱っている領域は大きく3つ。

インフラ・防災・環境分野」「健康・医療・介護分野」、そして「移動分野」である。

それぞれの領域において日立のソリューションの活用によってどのような展開が可能となるのだろうか。

またその結果、いかなる価値がもたらされるのかを具体的に見ていきたい。

  •   エネルギーの見える化を建物単位から地域全体に

インフラ・防災・環境分野、その中でも環境領域では、2016年5月に閣議決定された「地球温暖化対策計画」において、自治体の公共施設にかかわる温室効果ガスの排出量を、2030年度までに2013年度比で約40%削減することを目標に据えている。
 「これまでも自治体では、『地球温暖化対策推進法』や、いわゆる『省エネ法』に対応するため、庁舎や学校、公共のホールなど、運営する施設についての電力使用量等、エネルギー使用にかかわるデータを月次で集計し、年に一度、国に報告するという義務を負ってきました。つまり、エネルギーデータ自体は蓄積されてきています。

そこで、この蓄積されて眠っているデータをいかに活用していくかに我々は着目しました」と日立の加藤裕康氏は指摘する。
 そこで日立が提供したのが、地域デジタルソリューションの一環として、エネルギーデータの収集・可視化・分析を支援するサービス「EcoAssist-Enterprise-Light」である。

ポイントは施設単体のエネルギー量だけでなく、独自の分析手法を使い地域全体の見える化を実現できることだ。その導入によって、保有施設全体の電力使用量などを一元管理し、見える化する仕組みを整備している。省エネ効果が高い施設とそうでない施設との違いを分析して、効果が期待できる施設に対する省エネ施策を優先的に実施。その効果を測って、さらなる改善を図るといったPDCAサイクルを回していける体制を整えるとともに、効果が認められた施策にかかわるノウハウを整理して、施設間におけるその共有化を実現している。

例えば札幌市では、あるコンサートホールにおいて、新たな設備投資をすることなく、年間約150万円のエネルギーコスト改善が見込める施策を見出した。一方で施設管理者など職員の省エネ意識が向上するといった効果も得られているという。
 「今後、SDGsにおける環境対策の取り組みについても、各自治体様では然るべきKPIを設定し、目標値を定めて取り組みを進めていくことになるはずです。それには、こうした『EcoAssist-Enterprise-Light』のような、蓄積されたデータをつぶさに可視化し、分析、検証するための仕組みこそが不可欠だといえるでしょう」と加藤氏は強調する。

  •    官民を横断したデータ集約で地域包括ケアを加速

また健康・医療・介護の分野について日立では、高齢化社会を支える地域包括ケアにかかわるデータ活用を支援する仕組みを提供している。「地域包括ケアでは、高齢者が住み慣れた地域で介護や医療、生活支援などを受けられる、文字通り“包括的”な体制を、市区町村を中心に整備していくことが求められていますが、そこではこれまで自治体や医療機関、介護事業者などが個別に管理していたデータの集約・統合が不可欠です。日立ではそうした要請に応える仕組みを提供しています」と日立の笹森照代氏は語る。
 例えば福岡市では日立との協創により、庁内外で管理されていた医療・介護関連の膨大なデータを集約し、そのデータを分析して医療・介護に関して地域が抱えるニーズや課題を抽出するための仕組みを構築。併せて、要介護者の情報を家族や医療・介護関係者などの間で共有できる「在宅連携支援システム」なども立ち上げた。これにより福岡市では、科学的エビデンスに基づく適切な関連施策の立案と業務効率化を実現し、地域包括ケアの取り組みを加速させている。
 また茨城県の笠間市では同様に、医療・介護関連の情報、要介護者の情報、さらには服薬情報などを含めてクラウド上で管理する「介護健診ネットワーク」を構築。ケアマネジャーが、その付与された権限に応じて、担当する要介護者の情報をPCやタブレット上で参照することで業務の効率化を実現したり、あるいは救急車の出動に際して、救急隊員が対象者の健康状態や介護状況などの情報を車載のタブレットで確認することで、病院や医師とのスムーズな連携を図れるようになり、救急医療の品質向上につながるといった成果ももたらされている。 

  •   公共機関の経営戦略を支援

  そして、地域デジタルソリューションが扱う3つめの領域である移動分野については、日立が提供する「交通データ利活用サービス」を一例に挙げる。急速に進行する少子高齢化に伴い、バスなどの交通機関を運営する自治体にとっては、今後の利用者の減少が大きな懸念材料となっている。「交通データ利活用サービスでは、車両のプローブ情報*2やバスなどの乗降にかかわるデータを集約して、交通量や輸送需要などの分析・可視化を行い、渋滞対策の立案や運行計画の最適化、さらには利用者に向けたサービス向上などの局面で生かしていただくことができます」と笹森氏は説明する。この移動分野のソリューションについては、現在、自治体への提案が鋭意進められており、今後、様々な事例の登場が期待されているところである。

「日立では長きにわたって、自治体様におけるIT活用に広範な領域で携わってきました。そこで培われた経験と技術に、ITとOT(Operational Technology、制御技術)の双方を事業領域に持つ日立ならではの強みを融合し、自治体様と新たな価値を協創することで、今日の社会が抱える課題の解消に貢献していきたいと考えています」と馬場氏は力強く語る。  

*2:GPSを搭載した自動車から得られる移動軌跡情報(緯度経度・時刻など)のこと 


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