質問力


質問力特集

1. 上司や顧客のあやふやな指示で消耗しない「聞き出す力」

インタビューのプロであるモデレーターたちの「聞き出す技術」は、実は交渉、商談、営業にも役立つスキルだった!

「具体的なアウトプットのイメージを共有できない上司」や、「ふわっとした、こんなことやりたいんだけどと言うクライアント」に困ったことはないだろうか。

質問をしても要領を得ず、上司には「自分で考えろ」と言われたり、クライアントにはあまりしつこく質問をできない場合もある。

その結果、アウトプットの質が下がり、低い評価をうけて消耗してしまっているかもしれない。

そんな「伝える力」がない相手に振り回されないためにも、相手から適切な情報を引き出す「聞き出す力」について考えてみたい。どれだけITが発達しても、まだまだビジネスの場ではヒトとヒトとのコミュニケーションが中心にある。

交渉、商談、営業、取材でも、相手が何を求めているのか「質問力」を身につけておく必要があるのだ。

 

ビッグデータでは、分からない情報

 今や、ビッグデータとしてあらゆる情報がデータ化される時代だ。

インターネット上では、過去の購買履歴を元に「あなたへのオススメ商品」とレコメンドされるのが当たり前。

自分の好みにあった商品にいち早く出会えるという購買側のメリットや、業務効率化につながるという販売側のメリットが一致し、今後の活用は一層広がっていくことだろう。

ただし、「こうした客観的データが万全かといえば、そうではありません」と語るのは、マーケティングリサーチ会社「株式会社シー・ユー」  代表取締役、早尾恭子さんだ。彼女は、グループインタビューなど定性調査を行う際のインタビュアーモデレーター)として長く活躍した後に独立。現在は、マーケティングリサーチ会社を営む傍ら、モデレーターを養成する講座も運営する。

 

モデレーターが質問する目的は、ただ一つ。

商品・サービス開発時の定性調査において、消費者の声を聞き出すことだ。

 特に、「消費者自身も気づいていない意識」を聞き出すことを得意とする。

商品やサービスの開発には、消費活動や購買意欲を促す潜在的な欲求のスイッチ、つまり「インサイト」を把握することが欠かせない。  そうした「インサイト」を、モデレーターは質問力を駆使して聞き出している。

こうした質問力は、実際のビジネスにおいては商品開発の際の消費者調査だけでなく、「具体的なアウトプットのイメージを共有できない上司」や、「ふわっとした、こんなことやりたいんだけどと言うクライアント」などの伝える力が足りていない相手から、本意を聞き出すことに使うことができる。

 

言語化できていないところに、ホンネが隠れている

では、この「質問力」を身につけられると、どのような「インサイト」が手に入れられるのか。

例えば、レトルト食品を利用する際、肉や野菜などの具を足してボリュームアップさせる、いわゆる“かさ増し”をすることへの意識調査を行ったとする。

一般的に定量調査(数値化できるデータを多数集める調査)の結果では、「栄養バランスを考えて」「2人前が3人前になり節約できる」など実用的な発言が出てくる場合が多いもの。

 一方、モデレーターが定性調査を行い、その理由を深堀りしていくと「レトルトを使っている罪悪感が減る」「わざわざ手間をかけている私は偉い!」という、普段言葉にしないようなリアルな声が出てくるのだ。

このような「相手も気づいていない意識(=インサイト)」を引き出す質問力が身につけられれば、「具体的なアウトプットのイメージを共有できない上司」や、「ふわっとした、こんなことやりたいんだけどと言うクライアント」の意図を汲み取ることができるようになり、上辺の言葉に惑わされて疲弊することもなくなるだろう。


2. 聞き出すプロの質問力トレーニング。いい質問は普段の準備が生む

 

いい質問をするためには事前準備が大事!

 いい質問というのは、求められる場所によって意味合いが変わってくるものだ。

例えば、激しい議論の場では、相手を黙らせるような鋭い質問が求められる。

ただし、前に解説したように、聞き出したいのが「顕在化されていない情報」の場合は、鋭い質問はむしろNG。 

相手に気持ちよく話してもらうための質問が「いい質問」になる。

相手の懐に入り、リラックスしてもらうことで、本音を話してもらいやすくなる

とはいえ、リラックスしてくれたものの雑談で終始してしまっては意味がない。

雑談にしないためには、事前に質問しなければならない

 

 テーマについて全体像をとらえておこう。

さらに考えられる質問をできるかぎり用意し、想定される返答(仮説)を考え、目的に向かって話を引き出せるような準備が必要となる。  もちろん、誰でも最初から100200の質問を出せるわけではない。

早尾さんによると、質問力を鍛えるには、自己分析いろんな情報に触れることが大切だと言う。

 

自分の行動を「なぜ?なぜ?」と分析する

 質問の幅を広げるには、「もし私だったら?」と想像すること。そのためには、自分の日々の行動を分析するといい。

  例えば、コンビニで朝に何気なく買った「ナッツと乾燥フルーツのお菓子」。

    なぜこの商品を買ったのだろう?と自分に質問をしていく。

       「シュークリーム食べるよりもカロリーが少ない」

      「ダイエット中の身にはちょうどいい」 

       「乾燥フルーツとアーモンドなら、栄養も取れる」 

       「乾燥フルーツだけではなく、アーモンドが入っているのが良い」 

       「アーモンド入りの良さは食感」 

       「仕事中に、ポリポリという食感は心地よくストレス解消になる」

 こんなふうに、理由を洗い出していく。

これを習慣化すると、質問を考える時に、「きっとこのジュースを購入する理由は〇〇だな」と、今までの自己分析の結果から、いろんなパターンを想像できるようになる。

また、一つの思考パターンをなぞって経験値をためるだけでなく、物事を深く掘り下げる訓練となる。

 

ピンからキリまで体験する

 自己分析の次は、あらゆる体験をすることをおすすめする。

なぜなら、普段通りの生活を続けていては「なぜ?」の問いの幅が広がらない上に、インタビュー中に直面するさまざまなシチュエーションに対応できなくなるからだ。特に「ピンからキリまで体験すること」と、早尾さんが説くには理由がある。

 「相手の返答に対して、どこぐらいのレベルのことを話しているかを把握できるようになる」からだ。

例えば、ホテルの場合、超高級ホテルに泊まる予算がないなら、せめてロビーでお茶をしてみる。

反対に、あえてお金を払ってカプセルホテルに宿泊してみるのも良いだろう。

 また、なるべくなら、トレンドと言われている場所へ行ったり、体験したりするのもいい。

自分の五感を使って経験したことは、ただ単に写真を見ただけの質問と違ってくる

そういうリアルな質問ができるかで、相手の懐に入っていけるかが決まるのだ。

 また、トレンドなど世の中の動きを知っていれば、老若男女と会話を広げる糸口が増える。

特に若者は、同じ言語を共有することを好む。

流行りのアイドルの名前を知っているだけで、一気に心を開いてくれることもある。

このように、日々の生活の中でも、思考パターンの種類を増やすこと、物事を深く掘り下げること、話題の幅を広げることを意識して鍛えておく。

また、これを応用してビジネスの現場でもさまざまな事例を検討してみたり、顧客との立場で考えてみることで、「質問力」を磨き上げることができるだろう。


3. 聞き出すプロが伝授! 相手が話したくなる聞き方のコツとは?

 

出会って5秒が勝負!初対面の相手に好印象を持ってもらうためのコツとは?

 取引関係がない企業から新しく引き合いがあったとする。

当然、初対面なわけだが、上手く相手の要望を引き出す必要がある。

 そんな時に役に立つのが、モデレーターが消費者調査などで使っているテクニックである。

モデレーターは、初対面かつ、質問慣れしていない人たちから、限られた時間内で話を聞き出さねばならない。 

そのためには、第一印象で「この人だったら話してもいいな」「これから、楽しい話し合いができそうだ」とワクワクしてもらう必要がある。

 

 人は誰でも「自分の話をしたい、理解して欲しい、知って欲しい」と潜在的に思っている。 

 「自分の話をしてもらう場ですよ」と思ってもらえる雰囲気さえ作れれば、多くの人は自ら話し始めてくれる。 

 これを意図的に作れるようになると「話させる力」をアップさせることができる。そして、雰囲気作りには、空間演出も欠かせないが、モデレーター自身の演出も大事だ。 

 「相手を全身で受け止めている」とアピールするために、下記の3点を意識するといいと言う。 

1. 洋服に気を使わないのは相手への敬意がない証拠。髪型、爪など細部まで整えること。 

2. 一番最初の挨拶では、目と目を必ず合わせて、口角を上げる。顔全体で相手を受け止めていると表すこと。 

3. 初めの挨拶ははっきりと。特に「はじめまして」の「」は大事。 

母音の「あ」の口をしてから「は」と言うと、気持ち良く聞こえる。つまり、相手に心地よく受け取ってもらえる。 

 アタリマエのことばかりだと思うかもしれないが、案外できていない人は多い。 

 もし初めての人に合う機会があれば「身だしなみ、笑顔、はじめまして」の3つができているかチェックして欲しい。

 

「聞き出す」ための5つの基本テクニックとは?  

では次に、聞き出すための5つの基本テクニックを紹介しよう。 

1.話題を限定せず、「バクッ」と聞く 

例えば、食品の調査の際にモデレーターは、「味はどうですか?」ではなく「どうですか?」と聞く。 

「味は」と限定してしまうと、それ以外の商品の感想を聞き出せなくなる。 

ビジネスにおいても、自社の商品やサービスに閉じた質問をするのではなく、相手のビジネス全般の話などを聞く ことで、顧客が本当に必要としているものの外観が見えてくる。 そこを掘り下げていくことで、クライアントの課題を解決できる提案を考えることができる。 

2.話し始めは、ちょっとガマン 

消費者調査などでは、誰でもいきなり、話はスラスラ出てこないことが多い。 

慌てずに、相手の話がひと区切りするまで待つことで、本音につながる大事なキーワードが出てくる。 

ビジネスの場でも、建前や初見の相手に対して警戒心を持ってしまうもの。いきなり核心を話せるひとも少ない。 

上司であっても、ちゃんとまとめてから話をすることができない人もいる。 

話をしながら思考をまとめていくタイプの人もいるので、「ちょっとガマン」が大事になる。 

3.キーワードが出てきたら、オウム返し 

モデレーターは、本音につながる大事なキーワードが出てきたらオウム返しをする。 

オウム返しをすると、相手は「受け入れられた」と思うもの。リラックスして、どんどん話し始めるはず。 

「オウム返し」については、ビジネス書などでも見かけることが多いだろう。 

ただ、意外と活用できているビジネスパーソンは多くない。 

ついつい忘れてしまう」「わざとらしく聞こえそうでやりたくない」などの理由があると考えられるが、その効果は大きいのでぜひ使ってみて欲しい。 

4.関係ない話でもNGを出さない 

聞き出したいこととズレていても、大らかに構えるぐらいがベスト。 

話があちこちしたら、材料探しと思って、決してNGは出さないように。 

モデレーターであれば、むしろ質問の素材を見つけて、引き出したい方向へ繋がる質問をしていく。 

ビジネスの場でも、話があちこちに行く人がいる。しかし、多くの場合、自分の話に触発されて次の話題に移っていくので、そこにはなんらかの関係性が隠されている場合がある。そこを意識すると全体像が見えたり、本質がうかがえたりすることがある。

      5.「そうなんだ!」は魔法の言葉 

定性調査のときは、たとえ聞いたことがある話でも「そうなんだ!」と、大げさに明るく返答する。 

リアクション大きめに演技することで、自分を騙せるメリットも。 

テンションを上げてヒアリングを続けた方が、場も盛り上がる。 

ビジネスの場では、「そうなんですね!」「なるほど!」などシチュエーションにあわせて言い方を変えるといい。 

聞いたことがある話だと、つい何か意見をはさみたくなるが、自分の知識を披露するのは別のときに任せて、まずは相手がもっと話したくなるように、仕向けるのが優先だ。

 

以上が、モデレーターのプロが日々実践している「聞き出す」ためのノウハウと、それをビジネスの場でどうすれば良いのかをまとめてみたものだ。 「聞き出す技術」があれば、クライアントが抱える顕在化されていない課題を引き出せる。

それは、間違いなく営業や交渉といった仕事のシーンで活用できるはずだ。

 



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