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日本で報道されないトランプ新政権の本質とは何か

基盤となる「アジェンダ47」「プロジェクト2025」の中身

高島康司

2025126 

トランプ大統領が就任した。日本でもトランプ政権に関しては多くの報道がされているものの、結局トランプ政権が本質的にどのような政権になるのか、まともに報道されていないようだ。そこで今回は、トランプ政権の基本的な性格について述べる。



トランプ政権の本質的な性格

120日、ワシントンでアメリカ大統領と副大統領の就任式が行われた。

連邦議会議事堂の円形大広間で、先にJD・ヴァンスが副大統領として、続いてドナルド・トランプが第47代大統領として、それぞれ宣誓し、就任した。通算2期目のトランプ政権が始動した。30分ほど続いたトランプの就任演説は、トランプの独自性を全面に出したユニークなものであった。通常就任式の演説は、自由と民主主義という国家の理念を高らかに宣言し、国民の結束を促す内容になることが多い。具体的な政策に言及することはない。ところがトランプは、「常識の革命」を主張し、停戦と戦争の回避、そして取り組む具体的な政策について述べた。

それらは以下のものである。

・不法移民政策(南部国境に非常事態宣言)
・高関税の適用(外国歳入庁の設置)
・パナマ運河の米国所有
・国家エネルギー緊急事態宣言
・政府効率化省の設置
・電気自動車の義務化の撤廃

そしてトランプは、「アメリカの黄金期は今から始まる」「今日のこの日から、我々のこの国は繁栄し、尊敬される」と就任演説を開始し、「私はただひたすら、アメリカを第一にする」と約束した。選挙結果をもって自分は国民への「ひどい裏切りを完全に逆転させる」よう信任を得たのだとトランプは述べ、「信仰と富と民主主義と、まさに自由」を国民に返すと主張。

「この瞬間から、アメリカの衰退は終わった」とも強調した。

就任式の後、トランプ大統領は2万人の支持者が待つ屋内アリーナに移動し、支持者の前でパリ協定離脱など8つの大統領令を即座に署名した。

サイン用の万年筆は複数用意されており、サインした後は集まっている支持者に投げ与えた。

そして、その後はホワイトハウスの執務室で集まった記者の質問に答えながら、残りの大統領令に署名した。

以下がホワイトハウスが発表した47の大統領令だ。

   1.    トランプ大統領、閣僚・閣僚級人事を発表
2.
トランプ大統領、サブキャビネット人事を発表
3.
トランプ大統領、閣僚代行および閣僚級役職を発表
4.
トランプ大統領、議長および議長代行を指名
5.
就任式当日の米国国旗掲揚について
6.
有害な大統領令や行政処分の最初の取消し
7.
言論の自由を回復し、連邦政府の検閲を終わらせる
8.
連邦政府の兵器化に終止符を打つ
9.
対面業務への復帰
10.
審査待ちの規制凍結
11.
雇用凍結
12.
米国家庭への緊急物価緩和と生活費危機の打開
13.
国際環境協定でアメリカを第一に(パリ協定離脱
14. 2021
16日の米国議会議事堂周辺での出来事に関連する特定の犯罪に対する恩赦と減刑の付与
15. Tiktok
への外国敵対勢力管理アプリケーションからの米国人保護法の適用
16.
世界保健機関(WHO)からの米国の脱退
17.
連邦職員内の政策に影響を与える役職の説明責任を回復すること
18.
選挙妨害および政府機密情報の不適切な開示に対する元政府高官の責任追及
19.
米国南部国境における国家非常事態の宣言
20.
大統領府職員のセキュリティ・クリアランスの滞留を解消するための覚書
21.
アメリカ第一の貿易政策
22.
米国の領土保全における軍の役割の明確化
23.
アメリカのエネルギーを解き放つ
24.
米国の難民受け入れプログラムの再編成
25.
アメリカ市民権の意味と価値を守る
26.
国境を守る
27.
魚よりも人間を優先:南カリフォルニアに水を供給するために急進的な環境主義を阻止する
28.
死刑を復活させ、治安を守る
29.
美しい連邦市民建築の推進
30.
キャリア上級幹部の説明責任を回復する
31.
国家エネルギー緊急事態宣言
32.
外大陸棚のすべての地域を洋上風力発電のリースから一時的に撤退させ、風力発電プロジェクトに対する連邦政府のリースと許可の慣行を見直す
33.
米国の対外援助の再評価と再編成
34.
国家安全保障会議と小委員会の組織
35.
経済協力開発機構(OECD)グローバル・タックス・ディール
36.
アメリカ国民を侵略から守る
37.
アラスカの並外れた資源ポテンシャルを解き放つ
38.
外国人テロリストの脅威から米国を守る

39. その他の国家安全保障と治安から米国を守る
40.
国務長官へのアメリカ第一政策指令
41.
大統領の「政府効率化省」の設立と実施
42.
ジェンダー・イデオロギーの過激主義から女性を守り、連邦政府に生物学的真実を取り戻す
43.
過激で無駄の多い政府プログラムと優遇措置の廃止
44.
連邦政府の雇用プロセスを改革し、政府サービスに実力を取り戻す
45.
カルテルおよびその他の組織を外国テロ組織および特別指定グローバル・テロリストとして指定する
46.
アメリカの偉大さを称える名称の回復
47.
侵略に対する州の保護を保証する

 

戦々恐々とする各国

このような大統領令だったが、日本の主要メディアの報道を見ると、日本をはじめ各国は戦々恐々としているのが分かる。

日本では、トランプ政権が約束している高関税がどの程度のものになり、それが日本経済にどの程度の影響を与えるのか議論が集中している。

また、トランプ政権のプライオリティーは、中国の発展と拡大を抑止することなので、東アジアでは中国を押さえ込むために日本などの同盟国との関係を強化するはずだという観測も多い。

トランプ政権は、日本との軍事同盟を強化しつつ、牛肉・オレンジ問題など日本に貿易の自由化を強く迫った1980年代のレーガン政権と類似しているという。トランプ政権は、同盟を強化しつつ、経済的には厳しく対応するということだ。

 

キリスト教ナショナリストの政権

しかし、日本でも流通しているこのような見方は一面的かもしれない。トランプ政権の本質的な性格を十分にとらえているとは言えない。

今回のトランプ政権は、2017年に発足した前回のトランプ政権と大きく異なる特徴を持つ。ちなみにトランプは、就任式の演説で次のように発言した。

「ほんの数カ月前、美しいペンシルベニアの地で、暗殺者の弾丸が私の耳を貫通した。しかし、私の命が救われたのには理由があったのだとその時感じた。

今ではその確信を強めている。私はアメリカを再び偉大にするために神に救われた。だからこそ、愛国者による政権の下、尊厳と権力、強さをもってあらゆる危機に対処するために日々働く。

あらゆる人種、宗教、肌の色、信条の市民に再び希望と繁栄、安全、平和をもたらすために目的意識とスピードをもって行動する」。

このスピーチが示すように、トランプの意識は第一期目の政権のときとは大きく異なっている。

2016年の大統領選挙では本人が勝利に驚いたのとは異なり、今回は自分が神から選ばれた大統領であり、アメリカを偉大にするという神託を受けたのだとする意識が非常に強いのだ。

これは大きな意識の変化だ。

この意識変化はすでに第一期目から徐々に起こっていたようだ。

トランプ家は職業と労働への専念を神から与えられた使命の実現と見るカルバン派の「長老派」に属しているが、202010月に神の存在を直接体験し、神から啓示を受けることに重点を置く「福音派」にトランプは転向している。トランプの支持母体が「ナトコン(National Conservative)」と呼ばれる白人労働者層であり、その一定の割合がアメリカに8,000万人もいる「福音派」に属している。そして、「福音派」の政治運動が「キリスト教ナショナリズム」である。

以前の記事に書いたが、「ナトコン」の思想をここで再度確認しておこう。

「ナトコン」は、アメリカ社会の基本的な単位は、キリスト教の倫理にしたがって生きる家族だと考える。家族は集合して地域社会を構成し、さらにそれらは集まり州を形成する。

アメリカ社会は州までを最大の単位とする地域共同体によってすべて運営されなければならない。キリスト教の倫理を元に生きる共同体が、アメリカの伝統的な社会の姿であり、建国の父の時代から続く、アメリカの伝統なのだ。

結局、現代のアメリカが抱えるほとんどの問題、例えば、激増する犯罪率、コントロール不能な暴力、人種間対立、格差と貧困、そして社会の分断などの原因は、社会の基本的な構成単位であるキリスト教の倫理に基づいた家族と地域共同体が、支配エリートが自らの利害を実現するために連邦政府を使って課したさまざまな規制によって、崩壊の縁に追い込まれたことにある。

アメリカを再生するためには、連邦政府の官僚機構を解体して、家族と地域共同体を抑圧から解放し、これを強化しなければならない

 

「アジェンダ47」と「プロジェクト2025

このような「ナトコン」の政治運動が「キリスト教ナショナリズム」である。

この運動に強く支持された政治家がトランプである。

そして、「キリスト教ナショナリズム」の理想と世界観を反映したトランプの政治綱領とその実践マニュアルが、「アジェンダ47」と「プロジェクト2025」である。

これも以前の記事で紹介済みだが、内容を確認しておこう。

それは、連邦政府を支配エリートの単なる道具として見る「ナトコン」から「Qアノン」主義者、そして白人至上主義者や武装民兵組織など保守系の幅広い層が賛同できる内容になっている。

「プロジェクト2025」の本文を少しでも見ると、これは明らかである。

「プロジェクト2025」の序章、「アメリカへの約束」はアメリカ国民に向けて次の4つの約束を掲げる。

1. アメリカ生活の中心としての家族を取り戻し、子供たちを守る
2.
行政国家を解体し、アメリカ国民に自治を取り戻す
3.
グローバルな脅威から、わが国の主権、国境、恵みを守る
4.
自由に生きるために神から与えられた個人の権利、すなわち憲法で言うところの自由の祝福を確保する

この4つの約束だ。上に列挙した大統領令を見ると、この4点の理想の実現を意図したものであることがよく分かる。

肥大化した連邦政府を縮小し、国民の共同体が管理する等身大のアメリカにするというコンセプトだ。トランプ政権は、アメリカを根本的に変革するつもりである。

713日にペンシルバニアで起こった暗殺未遂事件の後、トランプは自分は大統領になる使命を神から与えられた人物だと思っている。

そしてトランプに使命は、偉大なキリスト教国としてのアメリカの回復である。

これを自らに与えられた使命として感じているトランプは、上の4つの理想の実現に全力を注ぐことだろう。

 

「生存圏の維持」とトランプの外交政策

では、そのようなトランプ政権の外交政策はどのようなものになるのだろうか?

一般的にはアメリカの国益を最優先に考える「一国主義」だと言われている。たしかにそれは間違いない。

アメリカの覇権を維持するために同盟国との結束を強め、中国やロシア、そしてイランの拡大を抑止するバイデン政権の外交政策とは顕著に異なる。

バイデン政権では、同盟国との結束を図るための基盤として民主主義対専制主義という価値観の対立を全面に出し、同盟国との結束を強化するためには、譲歩と妥協をする用意があったのに対し、

トランプ政権は、アメリカの国益を最優先し、同盟国との関係強化には無関心である。

同盟国と言えどもアメリカの国益にならないと判断すると、容赦のない厳しい態度で接する。

これは間違いないにしても「一国主義」というだけでは、国益を最優先するというだけで、どのような世界秩序を構想しているのか、この政権の外交政策の基本理念は十分に捉えることはできない。それはどのような理念なのだろうか?

実はトランプ政権が追求しているのは、アメリカが政治経済的な強国として持続的に繁栄できる「生存圏の確保」である。

トランプが所有権を主張しているグリーンランド、合併を提案しているカナダ、そしてメキシコ、パナマ運河などの地域と国々は、アメリカの「生存圏」の範囲である。

これらの「生存圏」はアメリカ固有のものであり、そこに中国などが経済的に進出することは断固として拒否し、排除する。

そのためには、グリーンランドやパナマ運河のように、アメリカが領有することもあり得る。

このように見ると、トランプ政権の外交政策の目標がより鮮明になる。それは、中国の拡大と成長を単に抑止することではない。

トランプ政権が定めるアメリカの「生存圏」から中国などの国の排除なのである。

 

「生存圏」確保戦略と具体的な外交政策

ここで重要な点は、もしトランプ政権の外交政策の目標はアメリカが繁栄するための「生存圏の確保」ということであれば、この目標さえ達成されるなら、同盟国の利害を考慮しない可能性が高い。また、中国やロシアなどの大国に対して、アメリカの「生存圏」を確保する取引が成立するのであれば、同盟国の利害を犠牲にしても、中国やロシアの国益を尊重する方向に進む可能性もあるだろう。

いま日本の主要メディアでは、トランプ政権は中国の台湾進出を抑止するために、日本や韓国との軍事同盟を強化するはずだという論調が目立つが、必しもそのようにはならない可能性もある。

中国に対してアメリカの「生存圏確保」の取引が成立してしまうと、トランプ政権は、台湾に対する中国の主張も一定程度容認するかもしれない。

ところで、このような「生存圏確保」を理念とするトランプ政権の外交政策をまとめているのが、エルブルッジ・コルビーだ。

コルビーは前トランプ政権の国防副次官補で、今回のトランプ政権では国防次官に任命された。安全保障のエキスパートとして、複数の政権で政策立案を担当。

国防長官に任命されるピート・ヘグセスが国防分野でまったく経験がないことから、トランプ政権の外交政策立案のキーパーソンになると見られている。

先頃コルビーはトランプ支持の有名なキャスター、タッカー・カールソンとのインタビューでトランプ政権の外交政策を語った。それは、次のようなものだった。要約する。

2001年から2003年にかけてアメリカの安全保障政策と外交政策を担当したのは、まさに軍産複合体系のネオコンであった。

彼らは、強大なアメリカの軍事力で脅せば敵は従うと信じていた。イラク戦争はそのような観念のもとで起こされた。

・しかしその結果は惨憺たるものだった。イラクは内戦になり、中東全域が流動化した。これは大失敗だった。しかしながら、いまでもネオコンは考えを変えていない。

ウクライナ戦争や、イスラエルやアメリカによるイラン攻撃を声高に叫んでいる。

このグループは次期トランプ政権に入り込み、ウクライナ戦争の継続とイラン攻撃を実現しようとしている。また、中国との戦争にも積極的だ。

・しかし、いまは2003年当時とは状況が根本的に異なる。イランの軍事力は強大で、イスラエルがイランを攻撃すると、おそらく壊滅するのはイスラエルだろう。

また、ロシア、そして中国の軍事力は巨大になっている。

一方アメリカの軍事力は、2003年当時と比べても、兵員の数や兵器ともどもかなり劣化している。敵を脅して従わせるような、強大な軍事力を有していない。

・軍産複合体系のネオコンはこの事実を認識していない。いまだに彼らは、アメリカ一強の考えに固執している。

彼らがトランプ政権に入り、安全保障政策を担当すると、核戦争は避けられなくなる。第三次世界大戦だ。なんとしてでもこれは回避しなければならない。平和の実現こそ重要だ。

中国やロシア、そしてイランと戦争することは絶対にできない。彼らとは交渉する道しかないのだ。

これらの国々の国益に配慮しながら対等のパートナーとして扱い、アメリカの国益も維持される均衡点を探る以外にないのだ。

これは平和の基盤になる。トランプはビッグ・ディールが得意なので、彼であればこの交渉ができるはずだ。

・このような方向で交渉を進めるためには、アメリカは中国、ロシア、イランに十分に対抗できる軍事力を確保しなければならない。

・私は、トランプとイランの最高指導者、ハメネイ師が握手する光景を夢見ている。

以上である。「これらの国々の国益に配慮しながら対等のパートナーとして扱い、アメリカの国益も維持される均衡点を探る」とは、まさにアメリカの「生存圏確保」のためなら、中国やロシアの国益も尊重するということだ。

「生存圏の確保」は単なる「一国主義」ではない。ビッグ・ディールによる大幅な妥協の余地を残している可能性が高いトランプ政権はこれを確実に実行することだろう。注目だ。

 

) 記事抜粋




 

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