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なぜセブン&アイ65%減益の独り負け?


敗因分析と今後のシナリオ

澤田聖陽

2025123

セブン&アイ・ホールディングスは2024311月期(第3Q)の連結決算を発表し、売上は前年同期比5.7%増と堅調な伸びを示した一方で、営業利益は23.1%減、純利益は65.1%減と大幅な減益となった。どうしてこのような結果になったのか。その要因と今後の見通しについて解説したい。


大幅減益となったセブン&アイ

19日、セブン&アイ・ホールディングス(セブン&アイ)は2024311月期(第3Q)連結決算を発表した。数値は以下に記載の通りとなった。

売上:9,069,591百万円(前年同期比5.7%増)
営業利益:315,401百万円(前年同期比▲23.1%減)
経常利益:281,633百万円(前年同期比▲27.5%減)
親会社株主に帰属する四半期純利益:63,630百万円(前年同期比▲65.1%減)

営業利益・純利益ともに大幅減益となったものの、昨年10月に修正した計画比ではそれぞれ102.3%、101.0%と上回ってはいる。

セブン&アイは事業セグメントを大きく国内コンビニエンスストア事業、海外コンビニエンスストア事業、スーパーストア事業、金融関連事業、その他事業の5つに分けている。

各事業セグメント別の第3Qの数値は、以下に記載の通りである。

<国内コンビニエンスストア事業>

売上:687,495百万円(前年同期比98.2%) 
営業利益:182,922百万円(前年同期比91.9%) 

<海外コンビニエンスストア事業>

売上:6,968,754百万円(前年同期比109.6%) 
営業利益:156,940百万円(前年同期比67.9%) 

<スーパーストア事業>

売上:1,065,401百万円(前年同期比98.1%) 
営業利益:2,063百万円(前年同期比85.8%) 

<金融関連事業>

売上:159,153百万円(前年同期比102.2%) 
営業利益:25,951百万円(前年同期比89.4%) 

<その他事業>

売上:239,088百万円(前年同期比73.2%) 
営業利益:4,389百万円(前年同期比175.8%)

国内コンビニ事業が売上、営業利益で前年対比マイナスになっており、海外コンビニ事業については売上が前年対比プラスになっているものの、営業利益は大幅なマイナスとなっている。

この主要2セグメントについて、現状での問題点と今後の見通しについて記載していく。

 

国内コンビニ事業の不振

国内コンビニ事業については、売上・営業利益ともに前期比マイナスである。

国内コンビニ事業はコロナ禍以降、20242月期までは好調を維持してきたが、今期は前年同期比割れの状態となっている。

国内のコンビニ市場はセブンイレブン、ファミリーマート、ローソンの3強が圧倒的なシェアを支配している状態であるが、店舗当たり平均日販額を見るとファミリーマートとローソンが57万円台なのに対して、セブンイレブンは70万円弱と20%程度高い水準にあり、他2社とは差がある(20252月期 第2四半期の実績)。

しかしながら足元では、セブンの「独り負け」の状態と言われている。

20246月以降、ファミマ、ローソンが既存店の売上が前年を上回っているのに対し、セブンだけが前年比が昨年を下回っているのである。

弁当の底上げ問題などのネガティブイメージがあったものの、主たる原因は物価高で消費者の財布の紐が締まっている時に、高いセブンというイメージを変えられなかったことにある。

ファミマ、ローソンが早く低価格商品を増やしたのに対して、セブンは対応が遅れた。

セブンも9月から「うれしい値」という名前で低価格諸品のラインナップを増やしており、9月以降はその効果で客数が増加しているようだ。

時流を読む対応が遅れた部分はあるが、他2社とは地力の差があるので、セブンの国内コンビニ事業は徐々に回復基調に戻ってくるとは考えている。

  

海外コンビニ事業は構造転換中

同社の海外コンビニ事業の中心は米国である。セブンイレブンはもともと米国企業のサウスランド・アイスカンパニーが始めたブランドであるが、今では米国でセブンイレブンを展開する7-Eleven,Incはセブン&アイの100%子会社となっており、米国でのセブンイレブン事業はセブン&アイの事業である。

またセブン&アイは2021年に油精製会社マラソン・ペトロリアムのコンビニエンスストア併設型ガソリンスタンド「スピードウェイ」部門を買収した。

子会社の7-Eleven,Incはコンビニエンス事業で全米トップ企業であり、セブン&アイの売上の中でも海外コンビニ事業は全体の売上の3/4を占める規模となっている(20242月期実績)。

しかしながら同社の海外コンビニ事業は過渡期にあり、構造転換中だ。

ガソリンの売上を除く米国での既存店売上は20249月まで13カ月連続で前年割れが続いている。インフレによる物価高で米国での低所得層を中心に買い控えが進んでいるのが主な原因である。

セブン&アイは米国の不採算店の整理(閉店)を進めており、今期567億円を費用として計上している。

米国のコンビニに行かれたことがある方ならわかると思うが、日本のコンビニとは商品構成などがかなり異なる。

日本のコンビニ大手3社は自社開発のプライベートブランド(PB)商品を多く投入しており、利益率はナショナルブランド(NB)商品よりもかなり高い。

米国でもPB商品の比率を高めようとしており、IR資料によると米国でのNB商品が33%であるのに対してPB商品は51%と18%の粗利率の差がある。

米国でもPB商品の比率が高まってこれば利益率も上がってくるだろうが、これがそう簡単ではない。

日本のコンビニ事業でPB商品の比率を上げるにも、サプライヤーの確保などかなりの時間を要している。

しかも日本での事業のようにセブン&アイグループのブランド力は強くなく、サプライヤーの確保は想定的に容易ではないだろう。

米国事業の利益率の良化にはある程度の時間が必要と判断している。

 

今までの経緯

セブン&アイについては、2023年にアクティビスト(物言う株主)である米投資ファンドのバリューアクト・キャピタル(バリューアクト)とプロキシーファイト(株主総会での委任状争奪戦)に至った。結局、同年5月の株主総会ではバリューアクトが株主提案したセブン&アイ井坂社長等を外す株主提案は否決されましたが、背景にはセブン&アイが収益力の高いコンビニ事業と収益力が低いスーパーストア事業(SST事業)や百貨店事業を抱えており、そのことによりマーケットで低く評価されている(コングロマリットディスカウントの状態にある)という点がある。(百貨店事業のそごう西武については20239月に売却している)

バリューアクトは202310月にはセブン&アイの一部の株式を売却し大株主からは外れたようだが、株主と経営の対立は燻り続けていた。

そんななかで20248月にカナダのコンビニエンスストア大手、アリマンタシォン・クシュタール(アリマンタシォン)からセブン&アイに対して非公式ながら買収提案が行われた。

セブン&アイは同年9月にアリマンタシォンからの買収提案について、「当社の本源的価値およびそれら価値を顕在化する機会を著しく過小評価している」として、取締役会は拒否する旨のプレスリリースを行っている。

しかしながらアリマンタシォンはその後も買収をあきらめておらず、そのような中で同年10月にはセブン&アイは祖業であるイトーヨーカ堂を含むSST事業の売却を進めているとの報道がなされる。すでにセブン&アイは一時入札を行い、同年12月には日本産業パートナーズ(JIP)、米ファンドのベインキャピタル、KKRのファンド3社が通過したと報道されている(20251月時点でまだ二次入札は行われていない)。また同年11月にはセブン&アイは、アリマンタシォンに対抗する形で創業家からのMBOによる買収提案受ける。

買収提案の規模は9兆円とも言われており、創業家以外に米系を中心とした大手買収ファンドが参加するスキームである(同社の時価総額は120日時点で約6.4兆円)。 

今後考えられるシナリオ

現状では、セブン&アイでは以下の3つの事案が並行している状態である。

1. アリマンタシォンによる買収の提案
2.
創業家によるMBOの提案
3.
イトーヨーカ堂を中心とするSST事業の売却
 

) 記事抜粋


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