迫る日本「自動車再編」
日産・ホンダ合併?世界2位を目指せるポテンシャルと課題
勝又壽良
2024年12月6日
日本の自動車業界に再編の波が押し寄せている。かつての栄光を誇った日産は、EV市場の低迷や売上減少に直面し、企業の存続に危機感が漂う状況だ。
一方のホンダも、アメリカのGMとの提携解消を経て、日産との新たな提携に踏み出している。
この両者が合併すれば、約1兆8,000億円ものコスト削減効果が期待される一方、日本国内外の産業地図にも大きな変化をもたらす可能性がある。果たして、この動きは両社にとって「救世主」となるのだろうか?
海外でささやかれる「日産・ホンダ」合併論
日本の自動車業界は、長いこと「トヨタ・日産」2強時代で過ごしてきた。電機業界は、「日立・東芝」が2枚看板であった。
いずれも、もはや昔話になった。
東芝は、非上場企業になって再起を期す境遇になっている。日産も、今年上半期の営業利益は前年同期比90.2%の大幅減益という緊急事態に落込んだ。
EV(電気自動車)の世界的な不振の煽りを受けて、米中の両巨大市場で「売る商品がなくなった」という信じがたい事態だ。まさに、SOSの局面である。
海外報道では、しきりと「日産・ホンダ」合併論を報じている。営業データを詳細にみると、日産がこれから生き延びる可能性は、かなり低くなっている。
ただ、「技術の日産」と言われていたように、世界初のEVを送り出した技術力は光っている。この貴重な財産を生かして行くにはどうするか。
戦後創業のホンダと合併することでしか、危機を乗り越える道はなさそうである。肝心のホンダの意向は、まったく不明である。しかし、日産とEV開発などで業務提携を結んでいる。これが、合併への足がかりになるか、だ。
日産は、フランスのルノーと資本関係にある。従来は、日産の45%の大株主であったが、相互に15%の出資比率へ引き下げて「対等関係」になった。
日産はこの点で、ホンダと合併する障害が低くなっている。
ルノーは、日産株を30%ポイント分売却する。売却先は、日産が指定できる契約だ。ホンダが、この売却分を引き受ければ、合併への足がかりができたのも同然であろう。両社が合併すれば、コスト削減効果として約120億ドル(約1兆8,000億円)も見込めるという。
これは、両社の売上高合計の7.5%にも相当する。こうして、営業利益率は7%へ跳ね上がるという予測が飛び出している。『ロイター』(11月29日付)が報じたものだ。
日産・ホンダ「EV」で協業
日産・ホンダは今年8月1日、5つの領域で協業すると発表した。新たに、三菱自動車が合流し3社で戦略提携の検討を進めていくことを明らかにしている。
協業領域は、次の5部門である。いずれも、EV(電気自動車)関連である。
1)車載ソフトウェア
2)バッテリー
3)eアクスル
4)車両の相互補完
5)国内の充電サービスと資源循環
次世代車載ソフトウェアのプラットフォームについて、基礎的要素技術の共同研究契約を締結した。
ホンダは23年10月、米国GMとのEVに関する提携を解消した経緯がある。理由は、開発方式の食い違いとされている。
内部的には、EVを巡って「GMはつねに金の話ばかりする」「開発の話がなかなかうまくいかない」などの苦労話が漏れ伝わって来た。
「実際に一緒にやって、考え方、開発の仕方を互いに知る中で、(一緒に)できないというのがわかってきた」とも伝わっている。
GMは、新たに韓国の現代自をパートナーに選んだ。ホンダはEVで先発企業の日産と組む。GMよりも「ましな相手」なのだろう。
ホンダは、GMと組んで失敗しただけに、日産との提携は何が何でも成功させなければならない立場だ。
一方の日産は、売上不振で屋台骨を揺るがせている。両社とも、引くに引けない事情を抱えている。
それだけに、「合併」という真剣勝負の舞台が整ってきた。提携の狙いは、生産規模のメリット追求にある。
自動車の電動化・知能化には莫大な資金がかかる。
バッテリーやeアクスルの開発・生産投資はもちろん、車載ソフトの開発だけでも「数千億円規模」とされる。
別々に開発している部品やソフトを共通化できれば、それぞれの投資負担が減るうえに、部品調達面で量産化の利益を享受できる。
不足しているソフトウェア人材を両社で活用できることも大きい。以上は、『東洋経済オンライン』(8月7日)が報じた。
こうした両社の合理化により、前述の約1兆8,000億円ものコスト削減効果が期待できるのであろう。
8月1日の日産・ホンダの首脳記者会見で、ホンダの三部社長は「現時点で資本関係という話はしておりません。
ただ、可能性としては否定するものではない」と含みを持たせている。これは、今後の「合併含み」とみられるが、その可能性をデータ面でみておきたい。
両社合併で利益率7%へ
日産・ホンダが合併すれば、営業利益率が上述のように7%へ上がると指摘されている。なぜ、この指標が重視されるのか。営業利益率は、企業がどれだけ効率的に経営資源を活用しているかを示すものだ。自動車企業の場合、営業利益率は最低で5%を維持しなければ、十分な新車開発費用を賄えないとされる。
次に、日産・ホンダの営業利益率の推移をみておこう。
営業利益率は、正式には売上高営業利益率という。売上総利益から販売費及び一般管理費を差し引いた営業利益を売上高で割ったものだ。
営業利益率推移(年度)
日 産 ホンダ トヨタ
2014年: 5.2% 5.5% 8.4%
2015年: 6.5% 6.0% 10.1%
2016年: 6.3% 6.1% 10.0%
2017年: 4.8% 6.0% 7.2%
2018年: 2.7% 6.2% 8.2%
2019年:-0.4% 5.5% 8.1%
2020年:-0.2% 4.2% 8.0%
2021年: 2.9% 5.5% 8.1%
2022年: 3.6% 6.0% 9.5%
2023年: 4.5% 6.5% 7.3% (出所:各社財務諸表)
参考までに、トヨタ自動車も加えて3社比較をすると、日産の劣勢が明らかである。
とくに、2019~20年にかけては、営業利益率がマイナスへ落ち込んでいる。
それだけでない。2017年以降の営業利益率が限界点の「5%ライン」を割り込んでいる点だ。
これは、日産の新車開発余力がなくなっていたことを示唆している。
日産が、HV(ハイブリッド車)を開発せず、今になって「売る車がない」という惨状は、新車開発方針を誤ったか、資金的にそこまで開発する経済的なゆとりがなかったのかのいずれかだ。ハッキリ言えば、ゴーン元会長が在籍した17年当時から、すでに経営はふらついていたのである。
ホンダとトヨタの営業利益率もみておこう。
ホンダは、2020年に4.2%へ落ち込んだが、それ以外は5%ラインをクリアしている。トヨタは、販売台数で2020年以来「世界トップ」の座にある。
それ以来、営業利益率は23年を除くと、コンスタントに8%以上を上回っている。経営に余裕を持っていることが分かる。
営業利益率に焦点を合わせてきた理由は、経済的な新車開発力を判定する上で重要な指標になるからだ。
ここで、日産・ホンダとトヨタが年間で研究開発費へどれだけ投入しているかをみておきたい。
研究開発費推移(単位:億円 年度)
日産 ホンダ トヨタ
2014年 3,368 5,516 9,460
2015年 3,422 5,449 10,110
2016年 3,134 6,430 10,738
2017年 3,043 6,767 12,050
2018年 3,025 7,262 12,420
2019年 2,808 7,398 12,416
2020年 2,325 6,941 12,030
2021年 2,476 7,005 12,420
2022年 2,878 6,519 14,160
2023年 3,218 6,373 15,350
(出所:各社財務諸表)
日産、ホンダ、トヨタ3社の研究開発費をみると各社の「実力」が一目瞭然である。
23年度を基準にすると、日産はホンダのほぼ半分に過ぎないのだ。ホンダは、トヨタの4割見当である。
これだけ研究開発費で格差がつくと、日産は自力で生き延びることは困難であることが分る。
仮に、日産とホンダが合併しても、研究開発費は23年度で9,591億円であり、トヨタの6割である。「世界のトヨタ」に、大きく水を開けられたままである。
産業界再編は歴史の必然
ここで、久しぶりに「業界再編」という言葉が登場する。
日本では、鉄鋼産業が再編を終えて安定した経営基盤を築き上げた。日本製鉄は、米国USスチールを吸収合併すべく交渉中という前向き経営に転じている。
こうした日本鉄鋼業の再編の歴史は、自動車業界にも当てはまるはずだ。
まず、日本鉄鋼業再編の歴史を追ってみたい。
戦後の日本鉄鋼業は、八幡製鉄・富士製鉄、日本鋼管、住友金属工業、川崎製鉄の「5社体制」であった。
八幡・富士は、戦後の過度経済力集中排除法によって日本製鉄が分割されたもの。この5社は、不況時に減産の足並みが揃わず、住金が自由競争論を唱えるなど混乱の歴史であった。それが、しだいに集約化された。八幡・富士が新日本製鉄となり、後に住金が合併し日本製鉄となった。
一方、日本鋼管と川崎製鉄は合併し、JFEと横文字社名へ。こうして、高度経済成長をリードした日本鉄鋼業は現在、2社体制である。
鉄鋼業は、戦後の高度経済成長時代は5社が競い合った。低成長時代には、集約化して経営基盤を安定させた。
自動車業界も事情は同じだ。自動車は、中国というニューフェースが登場し、EVという新たな車種をめぐって国境を越えた競争が展開されている。
競争力は、技術開発が左右する時代である。今、まさにその黎明期にある。こうした環境下では、過去の行きがかりを捨てて、新しい「船」へ乗り込む勇気が必要だ。JFEのように。
「技術の日産」と言われていた。これまでの分析によれば、完全に過去の話であって、現状は戦後企業のホンダの足下にも及ばない零落ぶりをみせている。
これが現実である以上、昔の「栄光」にしがみ付くのは社運を縮めるだけであろう。
戦前からの歴史を持つ日本鋼管が、戦後誕生の川崎製鉄と合併したように、「メンツ」を捨てる覚悟が必要だ。
日産・ホンダが「合併」するとなれば、国内では日産と関係の深い三菱自動車やフランスのルノーとの関係を再構築する必要があろう。
同時に、日産・ホンダ・ルノー・三菱というグループを再編すれば、大きなグループが生まれて、世界2~3位を狙える希望が生まれる。
500万台が世界標準に
自動車産業は、規模の経済の典型例とされる。規模の経済とは、生産量が増えることで一単位あたりのコストが低下する現象を指す。
自動車産業では、大量生産によって部品の調達コストや製造コストを削減できるため、規模の経済が顕著に現れるからだ。
トヨタ自動車は、「トヨタ生産方式」と呼ばれる効率的な生産システムを導入し、大量生産によるコスト削減を実現している。
自動車産業は、規模のメリットを生かして競争力を高め、コストを削減できる産業なのだ。
こういう理屈から言えば、日産とホンダがそれぞれの殻に閉じこもっていることは賢明でないことが分かる。
ましてや、両社ともに販売台数にハッキリと陰りが出ているのだ。
世界で主要な自動車メーカーは、年間500万台以上の販売を目指している。日産もホンダも単独では、この「500万台ライン」へ達していないのだ。
次に、両社の過去10年の販売台数をみておきたい。
日産・ホンダの販売台数推移(単位:万台)
日産
ホンダ 合計
2014年 531 436 967
2015年 542 474 1,016
2016年 562 502 1,064
2017年 577 519 1,096
2018年 551 532 1,083
2019年 493 479 972
2020年 405 454 859
2021年 388 407 795
2022年 331 369 700
2023年 344 411 755
上記データから分かることは、次の3点だ。
1)日産は、2019年以降に500万台を割り込み、その後の落ち込みも顕著である。中国市場の衰退が大きく影響したとみられる。
2)ホンダも、2019年以降に500万台を割り込んだままで、回復できずに推移している。中国市場でEV競争に遅れをとった結果とみられる。
3)両社を合計すると、23年でも755万台を維持しており、世界標準とされる「500万台ライン」にある。
これは、世界市場で生き残る最低条件を保っている証拠だ。
2023年の「世界3強」自動車メーカーの販売台数は次のようになっている。
1位:トヨタ(1,016万台)
2位:VW(924万台)
3位:現代自(730万台)
3位には、韓国の現代自動車(起亜を含む)が入った。これは、EVが寄与したことと、自動車半導体入手でうまく立ち回れたという「僥倖」が寄与している。
それだけに、日産・ホンダが合併すれば、世界3位は確実である。
さらに、VWが創業以来の不況の波にのまれて、2~3の国内工場閉鎖を検討中という大荒れ状態にある。VWの地盤沈下は確実だ。日産・ホンダが、「大同小異」で大局観に立てれば、日本経済躍進への足がかりをさらに確実なものにするであろう。
※) 記事抜粋
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