なぜ日本「劣化」止まらぬ?
東証インサイダー疑惑、行政の情報隠蔽、司法の捏造ほか先進国とは言えないレベルに
原彰宏
2024年10月30日
日本の国家機能「劣化」が浮き彫りになっています。
東京証券取引所のインサイダー取引疑惑、行政の杜撰な記録管理、そして司法の捏造問題など、経済・行政・司法の各分野での信頼低下が加速。 このままでは日本の民主主義と法治国家としての信頼が地に落ちてしまいます。
日本の国家機能「劣化」がよくわかる2つの出来事
「日本」という国家機能が大劣化しています。
東京証券取引所の職員が業務で把握した未公開の情報を親族に伝え、インサイダー取引に関わった疑いがあるとして、証券取引等監視委員会から強制調査を受けていたことが分かりました。東京証券取引所の20代の男性職員が、今年、株式公開買い付け(TOB)の上場企業の未公開情報を業務で把握し、複数回にわたって親族に伝えた疑いがあるということです。職員の親族は、情報が公開される前に株の取引を行い、一連の取引で少なくとも数十万円の利益を得たとみられています。
証券取引等監視委員会は先月、職員の自宅などに強制調査を行っていて、東京地検特捜部への告発も視野に取引の状況を詳しく調べています。
日本取引所のホームページの引用になりますが、「インサイダー取引」とは、上場会社の関係者等が、その職務や地位により知り得た、投資者の投資判断に重大な影響を与える未公表の会社情報を利用して、自社株等を売買することで、自己の利益を図ろうとするものです。
「関係者等」とは、当然、業務上知り得る事ができる立場の者も含まれます。
売買動向等で日々分析して、インサイダー取引が行われていないかどうかをチェックしているそうです。
「売買審査」というらしいです。 ※参考:インサイダー取引 – 日本取引所グループ
インサイダー取引が問題になった有名な事例としては、「村上ファンド事件」が挙げられます。
「村上ファンド」とは、多額の資産を運用し、多数の企業に対して投資を行っていた企業グループで、2004年11月から2005年1月にかけて、AMラジオ放送事業を行う「株式会社ニッポン放送」の上場株式を売買しました。「ライブドア vs フジテレビ」の騒動は、連日ワイドショーを賑わせていましたね。
こんなことが、日本の経済の中心である東京証券取引所で行われていたなんて、前代未聞です。いやはや、もはや世も末ですね…。
もう1つ、情けない出来事を紹介します。
朝日新聞の記事です。
大量の在庫が問題になった新型コロナ対策の布マスクを巡り、業者との契約過程を示す文書を開示するよう上脇博之神戸学院大教授が国に求めた訴訟で、複数省庁による「合同マスクチーム」のうち業者と直接やりとりした職員ら3人が15日、大阪地裁に証人出廷した。「やりとりは口頭が基本で、文書は残していない」と口をそろえた。
出典:アベノマスク契約めぐる訴訟 裁判長も「全て口頭で?」と突っ込み – 朝日新聞デジタル(2024年10月15日配信)
裁判長も「全て口頭で?」と、突っ込みがあったとあります。
マスクは2020年4月に安倍晋三首相(当時)が各戸配布を表明し、政府が400億円超をかけて約3億枚を調達したもので、「アベノマスク」と呼ばれたものです。
税金400億円が、使われたのですよ。需要の乏しさから約8,300万枚が残り、国会などで税金の無駄遣いが指摘されたもので、税金を多額に使った発注を、文書も残さないで「口頭」で行われていたなんて信じられますかね…。
文書を作っている余裕はなかった、容量が限られているために(メールは)2~3回に1度に消去して保存していない……子どもみたいな言い訳ですね。
すべて対応が終わったあとからでも文章は残せますし、これだけの多額の税金を使ったのなら残すべきです。
行政の業務において、文書を残さない先進国は、地球上には存在しません。
官公庁のサーバーの容量が足らないのなら、自分のところから先にデジタル改革を進めるべきです。そんなことはすぐにでもできます。
デジタル大臣は、健康保険証とマイナンバーカードをどうこうと言う前に、足元のデジタル環境をしっかりと整えるべきです。ねぇ河野さん…。
「劣化」は司法の現場にも…
司法の現場にも一言。
2024年9月26日、静岡県清水市内で一家4人が惨殺された事件の再審で「無罪」が言い渡されました。再審請求のあり方など、“今の”司法手続きの大不備が指摘されました。
検察による証拠捏造により、袴田さんは「48年」もの長い人生を奪われたのです。「証拠捏造」による無実の罪で…。
しかも検事総長のコメントは「袴田さんは犯人に等しい」と表現しています。
はぁ、なんのプライド?検察は何を守りたいの?
この判決の影響なのか、福井市で昭和61年、中学3年の女子生徒(当時15)が殺害された事件で懲役7年の判決が確定し、服役した前川彰司さん(59)が裁判のやり直しを求めた第2次再審請求審で、名古屋高裁金沢支部は23日、再審開始の決定をしました。
前川さんは一貫して否認しています。前川さんが犯人だと示す直接的な物証はなく、「事件直後に血の付いた服を着た前川さんを見た」「犯行を打ち明けられた」といった複数の知人の証言が有罪の根拠とされたのですが、これらの証言の信用性が、非常に重要な鍵になっています。
覚醒剤事件などで逮捕、勾留中で前川さんとは知人だった当時暴力団組員の男性が、「事件直後の前川さんを見た」と証言したことが犯人確定の根拠となったのです。
通常審の1審福井地裁で無罪判決、第1次再審請求審の高裁金沢支部で再審開始決定が出ましたが、いずれもその後に覆っています。
今回の再審請求審では、知人の1人が有罪の根拠となった証言を翻し、「事件の日に前川さんを見ていない」と証言しました。なんか、この段階でもう“ぐちゃぐちゃ”ですね。
この内容は初期の供述調書とも同じで、「福井県警の捜査員に自身の覚醒剤事件を見逃してもらう見返りに記憶と異なる証言をした」と説明したとのことです。
またまた官憲の捏造ですか。
日本の裁判においては、相手方から求められる場合や裁判所から文書提出命令が出された場合を除いては、不利な証拠の開示義務はありません。
不利な証拠がある時裁判で不利になる証拠を持っていても提出義務はありません。
“求めなければ”、官憲側にとって不利な証拠は(言い換えれば裁かれる側にとって有利な証拠は)開示されないのです。
検察官は、弁護人から請求があれば、原則として証拠調請求した証拠以外の証拠であっても開示する義務があります。
この2つのニュースから言えることは、検察は、国は、何十年もの長い間、“真犯人”を世の中に放置していたということになります。
真犯人を国家ぐるみで守ったのです。真犯人を捕まえてよ、真犯人の国家ぐるみの隠匿かよ、国や検察はいったい何を守りたかったのよ…という声が聞こえてきます。
もはや日本は先進国とは言えない…
経済の中心で起こったこと、行政の劣化、司法の劣悪さ、国民との信用の上に成り立つはずの、国家として根幹の部分が大崩壊しています。
今回は触れませんでしたが、入管における人権無視の対応もとても先進国で起こっていることとは思えないですね。
もはや日本は先進国ではない。いや民主主義をかかげる近代法治国家とは到底、言えなくなってしまいました…。
※) 記事一部抜粋
今こそ言いたい「日本経済を衰退させた真犯人」
選挙で日本経済の未来が議論されない異常事態
野口 悠紀雄 : 一橋大学名誉教授
2024年10月27日
総選挙において、日本経済の衰退という本当に重要な経済問題は、論議の対象にならなかった。
この背後にある政策の貧困こそが、日本の経済を30年間にわたって弱めてきた基本的な原因だ。
昨今の経済現象を鮮やかに斬り、矛盾を指摘し、人々が信じて疑わない「通説」を粉砕する──。
総選挙で論議されなかったこと
衆議院選で、経済問題についてさまざまな論議が行われた。
自民党は地方創成プランを掲げた。野党からは、消費税の減税や見直しに関する提案が出された。また、さまざまな給付金などの提案があった。
ただし、日本経済を長期的な観点で捉え、現在の衰退過程を変える政策は何か、といった議論はほとんどまったく行われなかった。
そもそも、日本経済が長期的な衰退過程にあり、このまま放置すれば、将来に大きな問題が生じるということさえ、論議の対象にはならなかった。
日本経済に関する最も重要な問題が、総選挙では議論の対象にならなかったということになる。
言うまでもないことであるが、これは今回の選挙の特殊事情ではない。どの選挙においても似たような状況であった。
そして、選挙においての問題だけでなく、実際の政策で行われるのが人気取りのバラマキ政策ばかりであり、日本経済を強くするための政策がなおざりにされることの反映である。こうした「政策の貧困」が、日本の経済を衰退させてきたのだ。
選挙で経済の長期的問題が論議されないのは、そもそも、日本経済の劣化がどれほど重大で深刻な問題であるかが、理解されていないからではないだろうか?
そこで、日本経済の長期的な動向を理解するために、図表に、ここでは、1人当たりGDPの日米比の長期的な推移を示そう。
これを見ると、日本経済の長期的な衰退が明らかだ。
このグラフは、1990年代以降に、日本経済が長期的衰退に陥ったことを示している。
そして他方において、1980年代には不調に陥っていたアメリカ経済が、その後IT革命という新しい技術を生み出したことによって力強い成長を続けたことを、雄弁に物語っている。
アメリカと比べて5割も豊かだった日本
1980年代の後半には、日本の1人当たりGDPは、実にアメリカの1.5倍になっていた。
これは、「ジャパン・アズ・ナンバーワン」と言われていた時代のことだ。
だが、2023年における日本の1人当たりGDPは、アメリカの約7割程度でしかない。
いまとなっては、日本がアメリカより豊かであり、しかも5割も豊かであった時代があったことが信じられない。
しかし、このような時代は、実際にあったのである。
その後、中国の工業化とIT革命という世界経済の大きな変化によって、日本の相対的優位性が崩され、日本とアメリカの1人当たりGDPの比率は低下した。それでも、2000年における値は1を超えていた。
2000年は、沖縄でサミットが行われた年だ。日本は、この時、参加国中で最も豊かな国だったのである。
ところが、2023年に広島で行われたサミットにおいては、日本の1人当たりGDPは参加国中で最低になってしまった。
この20数年の間に、極めて大きな変化があったのだ。しかも、日本の地位の低下は、その後も止まらずに続いている。この状況が続けば、未来の日本は、さまざまな面において、大きな困難に直面せざるをえないだろう。
1980年代に「ジャパン・アズ・ナンバーワン」と称された日本が、その後、世界における地位を下げたのは、1980年代、1990年代に生じた大きな世界経済の構造変化による。
なかでも重要なのは、中国が工業化に成功したことだ。そして、情報関連技術において、IT革命と呼ばれる大きな変化が生じたことだ。
このいずれに対しても、日本は適切に対応することができなかった。それに加えて、政府の政策や企業が対応を誤ったのだ。
つまり、やりようによっては、中国工業化やIT革命に対して、対応が可能だったはずなのである。
それだけでなく、こうした条件変化を利用して、新しい経済成長を実現することができたはずだ。
そうした対応に実際に成功した国・地域を、いくつも挙げることができる。アジアにおいては、韓国、台湾、香港、シンガポールがその例だ。
これらの国・地域は、1990年代頃には1人当たりGDPで日本とは比較にならないほど低かった。しかし、いまでは日本よりも高い。
香港、シンガポールは世界のトップクラスになっており、日本はとても追いつかない。韓国や台湾も、最近時点で日本を抜いた。
これらの国・地域に共通しているのは、新しい技術やビジネスモデルを導入して、新しい経済活動を展開していることである。
これがとくに顕著なのが台湾だ。半導体の受託製造会社TSMCの躍進ぶりは、よく知られている。
アベノミクスが日本の劣化を加速した
それに対して、日本の地位は、この間に低下を続けた。新しい技術も、革新的なビジネスモデルも現れなかった。
こうなってしまったのは、円安や金融緩和といった目先の政策に終始して、新しい技術の開発やビジネスモデルの導入、あるいは人材の育成といった問題をなおざりにしたからだ。本稿の最初で、経済問題に対する最も重要な論点が、総選挙で議論されなかったと述べた。
これは選挙においてだけの問題ではない。実際の政策面においても、最も重要な政策がなおざりにされ、円安や低金利などの政策が続けられたからだ。
図表1で注意すべきは、アベノミクスが導入されても、日本の劣化は止まらなかったことだ。
むしろ、最近の数年間では、日本の低下がより顕著になっている。つまり、アベノミクスは、日本の劣化を加速したのだ。
アベノミクスは大規模金融緩和を中心とした政策であったが、それが日本を再生させることなく、かえって衰退を加速したことに注意が必要である。
新技術の開発や人材の能力向上といった課題は無視し、ひたすら安い金利で資金を利用可能とし、かつ円安を追求した。
それに応じて、日本経済が衰退していったのは、必然であった。
アベノミクス見直しを見送った石破首相
したがって、本来であれば、今回の総選挙においても、アベノミクスの見直しが主要な争点になってしかるべきだった。
実際、石破首相は、かねてアベノミクスの再点検が必要だとしていた。しかし、総選挙ではこの問題を封印してしまった。
また、不思議なことに、野党からも、この点についての突っ込んだ議論はなされなかった。
金融正常化とは金利を引き上げることであり、それは金利負担を重くすることであり、借入人の負担を重くするから望ましくないという考えが支配的だからだ。実は、低い金利を続けることこそが、日本経済にとっての大きな問題なのだ。しかし、そうした議論はまったく行われなかった。
つまり、日本経済にとっての最も重要な論点が、今回の総選挙においては論議されなかったことになる。
事態はすでに深刻なレベルにまで達している。それにもかかわらず、政治は、この問題から目をそらしている。国民も目を覚まさない。
この状態を打破するには、いったいどうしたらいいのだろうか?
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