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5業種で比べてみた同売上同利益の収益構造

2024.10.23

 by 吉田猫次郎

年間売上高が1億円、営業利益は500万円。この数字は共通しているけれど、業種によって「収益構造」はまったく違うものとなります。 

事業再生コンサルタントの吉田さんは、それをわかりやすく示して、解説とともにその中身を紹介しています。



業種によってこんなに違う収益構造 ~ だけどここだけは共通している!

仮に年間売上高が1億円、営業利益500万円の会社が5社あるとします。

業種は、製造業(金属加工)、製造業(化粧品)、卸売業、小売業、飲食業、の5業種だとしましょう。

それぞれの収益構造は、こんなに違うという比較をしてみたいと思います。

 

1.製造業(金属加工)

売上高   ─ 1億円

製造原価  7千万円(職人の労務費4千、工場経費2千、減価償却費1千)

売上総利益  3千万円(一見すると粗利が低いように見える)

販売費一般管理費  2500万円(事務員給与500万、役員報酬800万、広告費ゼロ、あと事務所経費)

営業利益  500万円

解説: 

この会社は原材料の仕入がかかっていません。金属部品が客先から持ち込まれて、それを加工するのが仕事です。

最もコストをかけているのは、職人さんの労務費と、工場や機械の維持費です。

逆に、事務方の経費はあまりかかっていません。事務はパートさん2名のみ。広告費はゼロ。

この会社の場合、利益の源となっているのは職人さんの技術と製造設備です。

宣伝や営業で業績を伸ばすタイプではありません。

それでも利益が出ているのは、職人さんと製造設備に社運をかけて、そこから全くブレていないからでしょう。

2.製造業(化粧品)

売上高   ─ 1億円

製造原価  4千万円(自社工場なし。全て外注費

売上総利益  6千万円(一見すると非常に粗利率が高いように見える)

販売費一般管理費  5500万円(営業マン2000万、広告費1500万、その他)

営業利益  500万円

解説: 

この会社は製造原価にあまり費用をかけないどころか、製造業なのに自社工場すら持っていません。

で、何に最もカネをかけているかというと、営業と広告です。

よく、化粧品業界は「夢を売るのが仕事」と言われていますが、この会社もまた、原価の低い商品を、巧みなイメージ戦略で高付加価値化して稼いでいるのです。

これは決して悪い事ではありません。大手の化粧品メーカーのIR情報を見てみてください。

製造原価はもっと低く、販売費はもっとかけている場合もありますよ。そういうビジネスモデルなのです。

3.卸売業

売上高   ─ 1億円

売上原価 ─ 8千万円 (大部分は仕入原価

売上総利益 ─ 2千万円 (低い粗利率

販売費一般管理費 ─ 1500万円 (最少人数、広告費なし、安い家賃)

営業利益 ─ 500万円

解説: 
これはあまりリアルな事例ではありません。作り話としましょう。

実際には卸売業は薄利多売で、たった1億円の売上では成り立たない会社がほとんどだと思います。

損益分岐点売上高が3億を超えるほう会社のほうが多いと思います(地方で食品卸売業を営む顧客がいますが、その会社も年商3億以上ないと成り立ちません)。

粗利率はどうしても落ちてしまう卸売業ですが(業種等によって10%以下から30%以上まで)、販売費一般管理費は、広告費はさほどかからず、かかるのは営業にかかる人件費、荷造運賃、保管料、車両費などが比較的目立つところでしょうか。

ちなみに私はかつて商社に務めていましたが、商社もまた、広い意味では卸売業です。

うちの場合、年間8000億円の売上をあげても、粗利率3%以下つまり240億円以下、従業員は1000人近くいましたから人件費は何やかんやで100億前後・・・、その他、世界各国にある事務所経費や、一等地にある本社の家賃、営業にかかる経費いろいろ締めて、営業利益率5%前後だったようです。(ソースは会社四季報)

営業利益率5%の大台を超えるためには、相当な規模で薄利多売をしなければならない業種ですね。

4.小売業(アパレル)

売上高   ─ 1億円

売上原価 ─ 6千万円(大部分が仕入原価

売上総利益 ─ 4千万円 (粗利40%前後がこの業界は多い)

販売費一般管理費 ─ 3500万円(販売員給与、高い家賃、広告費、販促費など)

営業利益 ─ 500万円

解説: 

小売業の粗利は、アパレルでだいたい4割、書店で2割、古本屋で8など、だいぶ開きがあります。

ですが、ここまで読んでいただいてもうお気付きの方も多いことでしょう、粗利が高ければ高いなりに、低ければ低いなりに、ビジネスモデルは構築できるものです。

大切なのはバランスです。最終的に「営業利益」が出ればいいのです。

アパレル小売業の場合、比較的良い場所に出店するため家賃がかかります。

人件費も、多くの場合は安い賃金なのですが、人数が必要になるので総額としては結構な負担になります。

よって、たった1億円の売上で500万円もの営業利益を出そうとしたら、役員報酬や販促費などを低く抑えないと難しいでしょう。
逆に言えば、人を雇わず、夫婦2人だけで自宅兼店舗で切り盛りしている小売業などは、たとえ売上が低くても利益が出ると思います。

ちなみに、私は商社勤務時代、アパレルの海外生産を担当していましたが、得意先のひとつが、メンズカジュアルの小売店でした。

ここは年商100億を超えていましたが、低い単価設定やバーゲンセールの繰り返しで粗利は低く、その割には販管費をものすごくかけていましたので、最後には破綻寸前になってしまいました。今でもよく憶えています。やはり、大事なのはバランス、大事な指標は営業利益なのだと思います。

5. 飲食業

売上高   ─ 1億円

売上原価 ─ 2500万円

売上総利益 ─ 7500万円 (他業種より圧倒的に高い粗利

販売費一般管理費 ─ 7000万円(高い家賃、たくさんの人件費、ほか)

営業利益 ─ 500万円

解説: 

よく飲食業はFLRコストという指標が大切であると言われます。Fは原材料費、Lは労務費、Rは家賃です。

FLRの3つを合わせたコストが、売上高の70%を超えてはいけない、など。

だから原材料費にあまりお金をかけられないとも言えるし、どうしても良い食材を、一等地で、最高のサービスで提供しようとしたら、そこから逆算して、非常に高い価格設定にしなければならないという結論になります。

数字の感覚が鈍いまま飲食店を開業してしまうと、少しでも安い価格で、少しでも良い品物を提供しようとしてまい、結果、FLRコストが80%を超えたりして、うちに相談に来るような結末になってしまいます。
  
最後に。

決算書の読み方を勉強したいと考えている皆さんや、これから起業しようと考えている皆さん、あるいはどこかの会社に投資しようとしている皆さんに是非覚えていただきたいのは、営業利益 が非常に大切だ、ということです。粗利は本文に書いたように、業種やビジネスモデルによってさまざまいいのです。

だけど営業利益だけは、業種は関係ありません。全業種共通なのです。

辛口意見の人の中には、「営業利益が出せない会社は、もはや事業として成り立っていない!」と言う人もいます。

私も(もうちょっと甘いですが)、同意見に近いです。

それも、役員報酬や減価償却費などを計上せずにムリヤリ営業利益を出すのではいけません 

ちゃんと人並みに役員報酬を取って、固定資産があればしかるべき減価償却費を計上して、そのうえで営業利益がプラスに転じるよう、価格設定や全体のバランスなどを考えてほしいものです。




 

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