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ポスト岸田で日本円の価値はどう変わるのか

日米新政権で円安局面は終焉へ

斎藤満

2024820

 いまアメリカ経済で本当に起こっていることを紹介する。

日本ではほとんど知られていない米経済の現状についてだ。



米国「景気後退」は避けられる?

85日の日本を中心とした世界同時株安も収まり、相場は元の状態に戻っている。

この暴落の引き金となった米経済の悪化懸念も落ち着きつつある

依然として米国の失業率は上昇し、株価は下落し、債券利回りは短期金利を大きく下回っている。

これらは、いずれもリセッション(景気後退)の兆候だ。

だが、アメリカはそのリスクが高まっているとはいえ、まだ景気後退入りはしていない。景気後退を回避できる可能性のほうが高いと見られているからだ。ソフトランディングや米大型成長株への楽観はまだまだ根強い。ただ投資家は、リセッション(景気後退)を確実に回避するために、米金融当局はより積極的な利下げが必要だと考えている。

この9月に「FRB」が利下げを実施すると、米経済は景気後退をなんなく回避して成長するだろうという楽観論が支配的だ。

これは日本の市場や主要メディアも同じで、9月の利下げ後には、米経済は成長すると見ている。

 

トランプの発言

しかし、本当にこれが米経済の現状なのだろうか?こんなに楽観的になっていていいのだろうか?

筆者のアメリカの友人や、現地に滞在している日本人のビジネスマンの話を聞くと、まったく異なった状況が見えてくる。

最近ニューヨークやシアトル、サンフランシスコ、ロサンゼルスなどを仕事で訪問した友人のビジネスマンたちは、大都市の中心部がホームレスと麻薬中毒者であふれ、強盗が日常茶飯事なので、ほとんど店舗が閉店してもぬけのからとなったメインストリートの光景や、IT産業の不況からのリストラで、住宅ローンが払えず破産した年収の高い高学歴のITエンジニア、客が入らずガラガラの高級レストラン、物価の高騰について行けず、現地のビジネスをたたんで日本に撤退した日本人経営者など、筆者の周囲で聞こえてくる話からすると、米経済が景気後退を回避して成長するなどとは到底思えない

米経済の現状は、むしろトランプが最近行った投稿のほうが、はるかに近いのではないかという印象を受ける。

市場の暴落後の86日、トランプは自らのSNSの「トゥルース・ソーシャル」に次のように投稿した。

「もちろん、大規模な市場の低迷はある。カマラはペテン師ジョーよりもっと悪い。サンフランシスコとカリフォルニア全体を破壊した急進左翼の狂人を、市場は決して受け入れないだろう。次は2024年の大恐慌だ!市場を相手にゲームはできない。カマラ・クラッシュ!!」

もちろんこれは、選挙キャンペーン用の発言だ。カマラ・ハリスを悪者に仕立て上げるキャンペーンの一環である。

しかし、共和党のトランプ支持者を中心にしてだが、この投稿こそ米経済の現状を正しく反映した発言だとする意見が多い

事実、89日、アメリカの失業率が再び上昇し、「サーム・ルール・リセッション・インジケーター」が発動された。

元連邦準備制度理事会(FRB)高官クラウディア・サームによって作られた「サーム・ルール・リセッション・インジケーター」は、失業率の3ヶ月移動平均が12ヶ月の低水準を50ベーシスポイント上回ったときに発動される警報だ。

これは、「セントルイス連邦準備制度理事会(FRB)」がリアルタイムで発表しているもので、今回移動平均は1年間の谷を53ベーシスポイント上回った。

「サーム・ルール・リセッション・インジケーター」は、1970年以来、すべての景気後退を予測してきた

今回これの警報が出たということは、アメリカの景気後退が間近であることを示すひとつの指標だ。

 

消費の減退

「サーム・ルール・リセッション・インジケーター」もそうだが、少し調べれる米経済の悪化を示すデータや事実が多いことに気づく。その一つは、アメリカの消費者が急速に購買力を失いつつある事実だ。

クレジットカードの負債が膨らみ、パンデミックで蓄積された貯蓄を使い果たしたアメリカの消費者は、食料や燃料など、必要不可欠な購入以外には財布の紐を固くし始めている。

住宅、自動車、大型家電製品などの高額商品の購入に前向きな意向を示しているアメリカ人の割合は、5月以来大幅に減少している。高額商品であるほど、減少幅が大きい

例えば、最近実施されたある市場調査では、住宅購入の意向を示した回答者の割合は、ロックダウン解除後の時代で最低水準にまで落ち込んでいる。これは、インフレと、それを抑制するための金利上昇が原因のひとつである。

食料品、エネルギー、住居費が3年前から20%以上も上昇している一方で、実質賃金は伸び悩んでいるため、アメリカ人は難しい選択を迫られている。住宅ローンが4%ほど上昇し、住宅在庫はかつてないほど高騰しているため、多くの人々にとって新築住宅の購入はもはや問題外だ。

しかし、苦境はさらに広がっている。

消費者が購買力の低下を実感しているため、ほとんどの消費支出のカテゴリーが横ばいか減少傾向にある。

この傾向は、アメリカの小売チェーンの業績に顕著に表れている。 

小売大手の縮小と倒産の拡大

大型小売業者にとっては、この傾向はしばらく前から明らかであった。ホームセンターの「ホーム・デポ」や「ロウズ」などのホームセンター大手の場合、少なくとも1年以上営業している店舗の売上を前期と比較する全社ベースの既存店売上高は、6四半期連続で減少している。

家電業界でも同様の傾向が見られ、「ベスト・バイ」では10四半期連続で2桁のマイナス成長を記録している。

中流消費者層に長年愛されてきた老舗の「ベスト・バイ」だが、1年間にわたって既存店売上高はマイナスとなっている。

ディスカウントストアの業績は、ややマシな程度だ。低所得者層の家庭を支える柱となっている「ドル・ジェネラル」は、売上高が横ばいとなっており、苦戦を強いられている。

一方、「ウォルマート」の既存店売上高は、直近の四半期では4%未満にまで落ち込んでいる「コストコ」も同様の傾向を示している。消費者を惹きつけるために大幅な値引きを余儀なくされているため、利益率が圧縮されている。

小売業の第2層、特に家庭用品を扱う企業にとっては、そのプレッシャーはあまりにも大きい。

家具チェーンの「コンズ」は、134年の歴史を経て、70以上の店舗を清算し、破産を申請した。

ディスカウントの家庭用品小売業者である「ビッグ・ロッツ」は、150店舗を閉鎖し、破産を回避するための救済資金を調達しようとしている。

「コンズ」と「ビッグ・ロッツ」だけではない。

この1年で、企業倒産の申請件数は40.3%増加し、現在ではロックダウンがピークに達した2020年第2四半期以来の件数に達している。アメリカの家庭もこれに追随しており、この1年で自己破産の申請件数は16.2%増加し、2024年第2四半期だけでも132,710件の新規申請があった。

世界的な象徴的なブランドも、消費者の景気後退の影響を受けている。

「スターバックス」は、既存店売上高、注文数、収益、営業利益の減少を発表したばかりだ。「スターバックス」の株価は過去12か月で25%下落しており、株主は変化を強く求めている。新たに就任したCEOは、事業の大幅な再編を命じられ、「複雑としか言いようのない消費者環境において、我々がコントロールできることに焦点を当てている」と述べた。

複雑な状況だ。

この環境下では、「マクドナルド」のような定番の商品を提供する企業でさえも安全ではない。

「マクドナルド」が、第2四半期の収益を発表した。同社は、既存店売上高が1%減少し、収益も減少した。これは、ロックダウン以来初の収益減少となった。

「マクドナルド」のCEOは、消費者が「市場から離れ、自宅で食事をし、他の節約方法を見つけ、外出を控えている」とコメントしている。また、新たに導入した5ドルのバリューミールについては、「低所得層消費者に見られる圧力を相殺するには不十分だ」とも指摘した。

 

銀行破綻を警告する声

このように、個人消費の落ち込みによって、小売業全体が落ち込んでいるのが分かる。

しかし数値だけを見ると米経済は悪くはない

2四半期のGDPの先行推計は最近、2.8%となった。1.4%と低調だった第1四半期とは対照的だ。

これは、南部やロッキー山脈西部など、経済が活況な地域が存在し、これが北東部、西海岸、中西部の落ち込みを相殺している結果だとする意見が多い。ただ、小売業のような縮小の波は早晩他の産業分野にも波及し、アメリカは結果的に深刻な不況に突入するはずだとする分析も多い。

破綻の可能性が大きくなっている分野のひとつが商業用不動産である。

パンデミックを契機に始まった在宅勤務の増加により、企業はオフィスビルから撤退し、その商業用不動産の価値大きく下落している。

これは全米の大都市で共通に見られる状況だ。銀行からのローンが支払えなくなった商業用不動産会社の連鎖的な破綻も近いのではないかと見られている。

しかしこれは、銀行の連鎖的な破綻の引き金になる可能性が高いと予測する専門家が増えている。

「スターウッド・キャピタル・グループ」のバリー・スターンリヒトは、地方銀行の破綻がこれから「毎日、あるいは毎週のように」起こると予測した。

また、不動産大手の「ニューマーク」会長のハワード・ルトニックは、「地方銀行は毎週末に破綻していくことになるだろう」と警告し、2025年と2026年には500から1,000行が破綻するだろうと予測している。

資産運用大手の「ピムコ」のグローバル商業用不動産部門のトップもこの予測に同意している。

彼らの見解は、オフィスを中心に商業用不動産を揺るがしている苦境が、この業界への貸付を主な業務としてきた中小規模の銀行を破綻に追い込むというものだった。

ほとんどのエコノミストは、金利上昇、資産価値の下落、銀行が貸付を時価評価することへのためらいなどにより、このような破綻は確実であるとの意見である。

しかし、大手銀行と「連邦預金保険公社」が、崩壊が危機に発展するのを食い止められるかどうかで予測が分かれている。

銀行破綻の危機は、これらの機関が銀行に対して早期に大規模な資金注入を実施することで回避されるとする楽観的な予測もあれば、そうではなく、資金注入は銀行破綻が連鎖するスピードには結果的に追いつけず、銀行破綻は回避できないとする悲観論もある。

筆者はかなりの数のエコノミストによる分析と予測を読んだが、いまは銀行の連鎖的な破綻を警告する悲観論のほうが多いように思う。米経済は深刻な不況の瀬戸際にあるとの認識が実は多いのだ。

 

可能性としては否定できない不況と相場の暴落

このように見ると、米経済の比較的な好調さを示す表面の数値に惑わされないことは重要だ。

個人消費の落ち込み、小売業の悪化、商業用不動産の破綻、そして中小を中心とした地方銀行の連鎖的な破綻のようなことが相次いで起こると、不況に入るリスクはかなり高くなるそのとき、「FRB」や「財務省」、そして「連邦預金保険公社」などによる対応が早ければ危機の拡大が阻止できるだろうが、他のブラックスワンのような出来事が同時に発生すると、対応のスピードが間に合わなくなることも十分にあり得る。すると、株式市場の暴落と深刻な不況が同時にやってくる可能性も決して否定できないだろう。 

だから、米経済の成り行きを過度に楽観することなく、注意深く状況を見る必要があるだろう。




 

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