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狙われた日本のコンビニ文化

セブンイレブン買収提案は日本企業への「警鐘」だ

勝又壽良

2024827

今年、日本のコンビニ誕生50年を迎える中、セブン&アイ・ホールディングスがカナダの大手コンビニチェーン、アリマンタシォン・クシュタールからM&Aの提案を受けた。

ただし、非公式かつ友好的な条件での打診である。これにより、日本企業にとって新たな時代の幕開けが迫るのか。

事業再編を進めるセブン&アイの今後の動向と、日本の流通業界に及ぼす影響に注目が集まっている。



日本企業への「警鐘」となったセブンイレブン買収提案

今年は、日本へコンビニという新しい流通形態が登場して50年になる。その節目の年に、コンビニ1号店を開いたセブンイレブン(現在はセブン&アイ・ホールディングス)へ、カナダのコンビニ大手アリマンタシォン・クシュタールがMA(合併・買収)を申し入れてきた。ただし、非公式・友好的という極めて緩い条件である。

セブン&アイ・ホールディングスは、経産省のガイドラインもあり正式に検討している。

クシュタールは、2005年ごろセブン&アイへ最初に買収を持ちかけたが、即座に拒否されている。クシュタールにとって、セブンとの合併が宿願であったのだ。

これが、今回の合併申し入れの背景にある。ただ、なぜ現時点で再び合併を申し入れてきたのか。理由は次の点であろう。

1)セブン&アイ・ホールディングスが、ようやく事業再編に取り組み始めたこと
2
同社株価が割安に放置されていることで、合併資金が少なくて済むこと

上記の2点は、セブン&アイだけに適用されることでなく、日本の上場企業で構造改善が遅れ株価が低位にある場合、MAの対象になる可能性を示している。

今回のセブンの例は、日本企業への「警鐘」となった。

 

コンビニ50年目の異変

セブン&アイ・ホールディングスの原点は、スーパーのイトーヨーカ堂である。戦後の流通革命の波に乗って急成長した企業である。

同業のダイエーは、店舗開設の際に付近の土地を手広く買収して地価値上がり益で店舗建設費を賄った。

イトーヨーカ堂は、逆に店舗の建物を借りる手堅い経営手法をとってきた。この差が、後に大きく表れた。ダイエーが失速しイトーヨーカ堂が発展した理由である。

このヨーカ堂は、日本で初めてのコンビニへ進出し、セブンイレブンを開業した。ここまでは大成功でその後、勢いに乗ってさらなる拡大路線へ転じた。

百貨店のそごうや西武を買収して傘下に収めたのだ。こうして、社名は「セブン&アイ・ホールディングス」となり、セブンイレブンはその一部門を構成した。

だが、百貨店やスーパーは通販という新たな流通革新の波に沈む結果となった。

セブン&アイ・ホールディングスにとっては、新参の百貨店は売却可能でも、祖業であるスーパーのイトーヨーカ堂の分離は心理的に極めて困難を極めた。

セブン&アイ・ホールディングスの株主は、同社の株価低迷理由として、コンビニ事業が他の不振部門に埋没しているとみてきた。

そこで、コンビニ事業以外の部門を独立させるように圧力をかけたのである。

これが長いこと、「物言う株主」とセブン&アイ・ホールディングスの間で主たる対立点になってきた。

セブン&アイ・ホールディングスと業態がまったく異なる日立製作所の場合、「失われた30年」の間に本業と直接の関わりのない部門は、ことごとく売却する英断を行った。

日立御三家」とされ、高度経済成長時代に発展した日立金属・日立電線・日立化成は、すべて日立の資本系列から離された

セブン&アイ・ホールディングスが、日立製作所と同じことを行えば、株価も上昇しただろう。

だが、セブン&アイ・ホールディングスの株式の8%は、ヨーカ堂創業家の伊藤家所有である。

こうなると、伊藤家の承認がなければセブン&アイ・ホールディングスの改革行動は取れないのだ。

特に、創業社長であった伊藤雅俊氏 存命中は、一代で築いた事業だけに荒療治は不可能である。

これは、感情面から言えば難しい問題であろう。井阪隆一社長は、物言う株主と伊藤家に挟まれて大ナタを振るえなかったのだ。

 

事業再編が決まった矢先に

昨年のセブン&アイ・ホールディングスの株主総会では、物言う株主である投資ファンドの米バリューアクト・キャピタルから株主提案がされて緊張する場面となった。

井阪社長ら4人の役員退任を求めるバリューアクト提案と会社提案が、株主採決を仰ぐ場面を迎えたのだ。

結果は、会社提案通りとなったが、セブン&アイ・ホールディングスとして、もはや事業再編は不可避になっていた。

今年5月の株主総会は、昨年のような事態にならなかった。今年4月、ヨーカ堂などの新規株式公開(IPO)検討方針が公表されていたからだ。

こうした事情から、バリューアクトは会社側の対応に賛同を表明して、これまでの対立構図が収まった。

カナダのコンビニ大手であるクシュタールは、この一件落着後を見透かしたように、最も緩い形でMAを申し入れてきた。

セブン&アイ・ホールディングスは、ガイダンスに従い迅速に社外取締役による検討会議を立ち上げた。

セブンイレブンが築き上げた「コンビニ事業コンテンツ」は、世界のコンビニ業界にない独特のスタイルである。

鮮度の高いおにぎりや弁当、パンなどを作り、店に供給するセブンイレブン独特のサプライチェーン(供給網)をつくりあげ、実にきめ細かいプロセスで成り立っている。

セブンイレブンは、看板やフランチャイズチェーン(FC)など米社が運営するセブンイレブンの基本モデルを導入した。

だが、経営手法はセブンイレブン独特の工夫によって磨き上げたものである。具体的には、次のような内容だ。

コンビニが、日本社会で成功し海外まで発展できたのは、セブンイレブンの経営努力の成果である。

ものづくり手法や単品管理、出店方法など日本スタイルをつくり上げた。

カリフォルニア大学のウリケ・シェーデ教授は、日本企業の隠れた実力を分析した近著『シン・日本の経営』で、日本の製造業が共通する特徴を7つの「P」を内包していると指摘する。その一つがパラノイア(偏執症)だという。とことんこだわりの「ものづくり」を追求する姿勢である。

セブイレブンの店頭に並ぶ多くの食品が、セブンイレブンのPBブランドである。特に、食べ物に「オリジナル」が詰め込まれている。

セブンイレブンに刺激された日本のコンビニは、アニメや漫画に並ぶ日本の「ソフトカルチャー」の代表と指摘されるほどまでになっている。

セブイレブンの人気商品の食べ物が、日本製造業の特色であるパラノイアの結晶とすれば、MAによって消失するであろう。

クシュタールは、こういう独特のコンテンツを抱えるセブンイレブンの中身を詳細に把握しているとは思えないのだ。

ただ、セブン&アイ・ホールディングスの株価が安いから、MAを仕掛けてみるかという軽い気持ちとすれば「大火傷」するに違いない。中身を失うからだ

 

買収資金は5兆円以上も

クシュタールのブラアン・ハナッシュ最高経営責任者(CEO)ら経営首脳は昨年、投資家やアナリストへのプレゼンテーションで、買収を通じた成長戦略計画を明らかにしていた。

米国や欧州、中南米、東南アジアにターゲットを求める広範な内容である。

経営首脳は投資家向け文書で、「当社は世界中で企業の合併・買収(MA)を完了し、統合してきたエキスパートだ」としていた。

以上は、『ブルームバーグ』(820付)が報じた。

クシュタールはセブン&アイ・ホールディングスに対して、「拘束力のない友好的な提案」を行ったことを明らかにする一方、「合意に達するかどうかは定かではない」とも説明している。セブン&アイ・ホールディングスの時価総額は、819日の東京市場終了時点で約380億ドル(約56,000億円)となる。

クシュタールが、こうした大型買収を実現する上で大きなハードルが指摘されている。資金調達が、困難という意味だ。

アナリストによれば、クシュタールが買収を実現するには、大規模なコスト削減や増資、米国市場への上場を含め、原資確保に向けた大がかりな取り組みが必要になるとみられている。買収価格はまだ明らかになっていない。だが、クシュタールは120億~180億ドル(約17,500億~26,200億円)規模の増資を行う必要があると『ブルームバーグ』(819日付)が伝えている。

クシュタールは、こういう困難な事情を抱えているから「拘束力のない友好的な提案」というごく控えめな「打診」にとどまっているのであろう。

問題は、買収資金調達だけでないことだ。合併自体が、当局から認められるかどうかという法的な面も抱えている。

日本では、「外国為替及び外国貿易法」(外為法)で障害がある

財務省が公開しているリストによると、セブン&アイ・ホールディングスは外為法上、投資に際して事前届け出が必要な企業に分類されている。

これは、海外資本による日本企業への出資や買収は、安全保障上の問題につながる恐れなどがあるからだ。

セブンイレブンは、物販以外に店頭で簡単な銀行業務や行政の一端を担った個人情報を扱っている。

クシュタールが、考えている単純な「コンビニ」の域を超えて発展しているのだ。

セブンイレブンは、高齢化が急速に進む日本で毎日の食事、公共料金の支払い、銀行サービスの利用など、多くの人が利用する「社会インフラ」である。

末端の郵便局のような役割を果しているのだ。

国内で、1日あたり約2,200万人へサービスを提供し、台風や地震などの災害時も営業を続けるなど、信頼性が極めて高い存在だ。つまり、セブンイレブンは「国家資産的な存在」となった地域密着型店舗布陣である。

今回のMAは、日本の外為法に抵触する恐れが出てくるのだ。

このほか、米国では独占禁止法に抵触する可能性も指摘されている。

このように、法的条件を見渡しただけでも、実現の可能性が極めて低くなっている。

クシュタールは、こういう面での検討を十分にせず、「とりあえず打診してみるか」という軽い気持ちとすれば、まことに遺憾と言うほかない。

 

合併断っても問題はゼロ

セブン&アイ・ホールディングスは、MA騒ぎが対外的な評価を落としたという指摘が出ている。

米格付け大手SPグローバル・レーティングは820日、セブン&アイ・ホールディングスがアリマンタシォン・クシュタールから買収提案を受けていることについて、「提案が実現するかどうかに関わらず、セブン&アイの信用力への下方圧力になる」との声明を発表した。

SPは現在、セブン&アイに「シングルA」の格付けを付与している。

これは、上から6番目で「強い保険財務力を有するが、上位に比べ、環境が悪化した場合、その影響を幾分受けやすい」という内容だ。

SPは、今回の一件についてセブン&アイが、仮にアリマンタシォンからの買収提案を受け入れない場合でも株主から企業価値向上に向けた要請が強まるとみている。

「成長投資や資本効率改善、株主還元圧力が高まり、信用力への下方圧力が強まる可能性が高い」(SP)指摘しているのだ。

このSPの格付けに従えば、セブン&アイ・ホールディングスの経営内容からみて、この提案を受入れなくても問題なかったことになる。

ならば、なぜ「検討する」ことになったのか。狙いは2つあるだろう。

1)国内対策で、ヨーカ堂の分離がもはや不可能になっているという雰囲気づくりに利用
2
)海外進出では、クシュタールと合弁で一挙に店舗展開を進める意図

セブン&アイ・ホールディングスの株主総会の雰囲気でも、ヨーカ堂の分離論には賛否が分かれている。

それだけに、「やむを得ず分離した」という雰囲気づくりをしたいのだろう。ヨーカ堂が、祖業だけに曰く言いがたいほど感情的に配慮すべき面があるのだ。

セブン&アイ・ホールディングス傘下で海外展開を担うのは、セブンイレブン・インターナショナルLLCだ。

阿部真治会長は、次のように語っている。

30年までに30の国・地域に10万店を出す方針である。特に、欧州1つのターゲットに据えている。歴史は古く成熟した国々だが、カフェがコンビニの役割を果たしている面がある。オフィスや学校、駅近くにコンビニがあれば便利だ。すでに出店した英国を含め、事業環境を見ながら店舗展開を検討したい。中南米も視野に入る」(『日経MJ』(513日付)。

30年までに30の国・地域に10万店を出展するという計画を達成するには、クシュタールと合弁事業も1つの構想に上がってくるであろう。

前記のような海外出店構想で、クシュタールを味方につけるという方法もあり得る。

セブン&アイ・ホールディングスは、「転んでもただでは起きない」という逞しさを身につけることだ。 

SPからは、厳しい見方をされている以上、ここは奮起して挽回しなければならない局面にある。




 

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