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NEXCO中日本が取り組むDX(老朽化と人手不足に挑む次世代技術の活用)

NEXCO中日本の次世代技術を活用したプロジェクト( i-MOVEMENT )とは!? 

2024.07.29.

東名高速道路や名神高速道路はすでに50年以上が経過。お客様ニーズが多様化する中、老朽化が加速する高速道路において、不足する人材でいかに効率よく構造物を維持管理し、利用者に安全・安心・快適なドライブを提供するか?

中日本高速道路が挑んだ高速道路の保全・サービス事業DXについて、同社の吉谷直人氏とプロジェクトを支援したデロイト トーマツ コンサルティング(DTC) の藤田泰嗣氏、南 朋子氏に聞いた。



「技術ありき」ではなく「業務ありき」で変革を進める

――NEXCO中日本は、東名高速道路や名神高速道路をはじめとする、高速道路網を管理運営しておられます。

高速道路の保全・サービス事業において、どのような課題を抱えていたのでしょうか?

吉谷 当社が管理する高速道路の総延長は2,183km20244月時点)に達しますが、そのうち、供用後30年を経過する道路は全体の約6を占めています。

高度経済成長期に開通した東名高速道路や名神高速道路などは、すでに50年以上が経過しています。

当然ながら、老朽化する高速道路をいかに効率よく保全点検し、維持・修繕を行っていくかが重要な課題となっています。

 一方で、労働生産人口減少に伴い、保全点検業務や維持修繕業務を担う人材の確保は困難になっています。

何とか少しずつ増員を図っていますが、道路の老朽化による業務量の増加ペースはそれを上回っており、限られた人員でどのように業務を回していくのかということも、

大きな課題でした。

――そうした課題を解決するため、デジタル技術などを活用した業務高度化のためのプロジェクトが動き出したのですね。

吉谷 i-MOVEMENT(アイムーブメント、次世代技術を活用した革新的な高速道路保全マネジメント)というプロジェクト。

私を含め、保全・サービス事業を担当する社内の有志数名が、2019年に立ち上げました。まさに草の根からのスタートでした。プロジェクトの目的は、人手を要する高速道路の保全・サービス事業をデジタルの力で高度化することでした。

当時、まだ世の中ではDX(デジタルトランスフォーメーション)という言葉は浸透しておらず、我々もテクノロジーの専門家ではなかったので、どのようにDXを推進するか未知の世界でした。そこで、業務変革やデジタル化の知見が豊富なプロフェッショナルの支援を仰ぐことにしたのです。

 

――DTC側ではNEXCO中日本に対してどのような提案をされたのでしょうか?

南 一般に、業務をデジタル化する取り組みは、「技術ありき」で考える傾向がありますが、NEXCO中日本は、「仕事のやり方をこんなふうに変えていきたい」という業務ありき」のアプローチを重視されています。

技術にこだわりすぎると、「テクノロジーの導入」という手段が目的になってしまいがちなので、あくまでも「業務変革」を主題とし、その目的を果たすためにテクノロジーを取り入れることを提案させていただきました。 

i-MOVEMENT プロジェクトのビジョン

NEXCO中日本のi-MOVEMENTは、「次世代技術を活用した革新的な高速道路保全マネジメント」を実現するためのプロジェクト。道路の老朽化や人手不足に対処すべく立ち上がった

吉谷 DTCにはプロジェクト発足の1年前に当たる2018年から参画してもらい、保全・サービス事業の現場で、どんな業務が行われているのかを徹底的に洗い出してもらいました。

南  実現性を高めたく、橋梁点検の現場で検査路に上がり点検員さんの業務を体感させていただいたり、日常車上点検の車両に同乗させていただいたこともあります。体験した結果、目視による点検や、報告書への記録など、アナログな作業が多く、どの部分をデジタルに置き換えれば高度化が実現するのかというイメージをつかむことができました。

吉谷 第三者の視点で現場の業務を見てもらったのは、我々が気づきを得る意味でも非常に重要なことだったと思います。長年、「当たり前」だと思ってやっている業務ばかりなので、何が無駄で、どうすればもっと効率化できるのかという発想にはなりにくいこともあります。まずは、業務全体を業務プロセスとして可視化し課題を洗い出してもらい、高度化するレベルを決めた上で、そこにテクノロジーを当てはめるというアプローチを取ってもらったことは、正解だったと思っています。


すべての業務を高度化するにはシステムの刷新が不可欠と判断

――どんなテクノロジーを取り入れるのかを検討する場面でも、DTCが積極的に支援されたそうですね。

南  業務プロセスの検証を行う一方、それらの変革に役立つ新技術を取り入れるため、ベンダーやスタートアップ、大学、研究機関などのメンバーによるコンソーシアムイノベーション交流会を組成しました。業務課題(ニーズ)を解決するために、会員様がお持ちの技術(シーズ)を提案いただくオープンイノベーション組織です。

 

――そうした座組ができるのも、テクノロジーを活用した課題解決の実績が豊富で、数多くのテック企業や学術機関とのつながりがあるDTCならではだと言えそうですね。i-MOVEMENT2019年に正式始動したとのことですが、具体的にどのようにしてプロジェクトを進められたのでしょうか?

吉谷 例えば、目視や足場を組んで行っていた点検作業を、ドローンやロボット、AIを使った作業に変更し、紙による保全点検の記録をデジタルに置き換えるといったように、ICTの積極的な活用を推し進めました。

しかし、プロジェクトを進めていくうちに、個別の業務単位にデジタル化するだけでは、高速道路の保全・サービス事業全体の高度化は実現できないという現実に直面したのです。例えば、道路の保全点検を行って問題が発見された場合、その情報を基に補修工事部門が補修を行います。

ところが、保全点検部門と補修工事部門は、それぞれ異なるシステムを利用し、データも分散して保有しているので、情報をやり取りする際には電話やメールなどで行わなければなりません。こうしたシステムやデータのサイロ化が、保全・サービス事業全体の最適化を妨げる要因になっていることに気づきました。

 

――社内システムの抜本的な見直しが不可欠だと判断したわけですね。

吉谷 はい。サイロ化されている業務システムでは、データの共有が困難でありましたが、データを横串で共有できるようになれば、現場で取った点検データをシステムが自動診断し、補修の指示を出すといったように、部門間の業務連携がスムーズになります。こうした環境を実現するには、まず保全・サービス事業全体の業務システムそのものを再構築しなければならないという結論に至り、DTCに支援を要請したのです。 

i-MOVEMENT におけるシステム開発方針

NEXCO中日本は、すべての業務を効率化するにはシステムそのものの刷新が不可欠だと判断。それを受けて、DTCi-MOVEMENTにおける5つのシステム開発方針を掲げた

――具体的には、どのようなシステムに変えたいと思ったのでしょうか?

吉谷 現状の業務システムは、開発期間が長く高額であり、改修性も低いという課題がありました。

 現場の業務を効率化するには、新しい技術を次々と取り入れていく必要がありますが、ウォーターフォール型で開発されるシステムだと、新規開発または改修(カスタマイズ)するのに時間とコストがかかります。また、カスタマイズをする場合、必ずそのシステムを開発したベンダーに依頼しなければならず、時間やコストを抑えるコントロールが利きにくい点にも課題を感じました。いわゆるベンダーロックイン(特定ベンダーへの過度依存)の弊害です。これらの課題を解決するために、i-MOVEMENTにおける業務システム開発の方針を5つにまとめました (図)。


――プロジェクトのパートナーとしてDTCを選定した決め手は何だったのでしょうか?

吉谷 我々が「実現したい」と思っていることのポイントをしっかりと捉え、具体的なアプローチの仕方を提示いただいたことと、方向性に共感してもらえた点です。課題の本質を最も深く理解し、実践的な解決策に結びつけてくれるのではないかと期待して協力を要請しました。

 

マイクロサービスとモノリスの利点を兼ね備えたアーキテクチャ

――5つの業務システム開発の方針に基づいてi-MOVEMENTにおけるシステムのアーキテクチャを検討されたとのことですが、どのような点に留意されたのでしょうか?

藤田 まず、i-MOVEMENTは、デジタル技術を積極的に取り入れ、業務の効率化、高度化を図っていこうとしている

         プロジェクトです。業務の変化に、システムとしていち早く対応できるアーキテクチャを目指しました。

 i-MOVEMENTにおける新技術利用は、業務に適合する技術を取り込むアプローチです。

また、昨今の多様化されたニーズによって業務改革の速度は技術革新の速度を上回ります。そこで、業務変革の速度に対応できるアーキテクチャとしました。そのため、吉谷さんたちi-MOVEMENTのメンバーが「業務のこの部分を変えたいので、あの技術を取り入れたい」と考えたら、すぐにでも実現できます。

 次に留意したのは、データをどのように使うのか?という点です。

対話の中で、NEXCO中日本は、自分たちが能動的に道路を管理するためにデータを活用したいという強い想いを持っていることを実感しました。

 現状の保全・サービス事業では、例えば落下物や事故が発生した際、お客様からの通報により、その事象に気づくことが多く、通報を受けて対応する流れだそうです。

 NEXCO中日本としては、できる限り能動的な管理を実現したいそのために、新しい技術によってデータ収集することにより、解析・分析技術が導入され、通報よりも早く事象のチェックを可能にするアーキテクチャを目指したいという想いを強く感じたので、それをかなえられるような設計を行いました。

i-MOVEMENT システム構成の方向性(実現方式のイメージ)

DTCが描いたi-MOVEMENTにおけるシステムの

アーキテクチャ。業務ごとのアプリはマイクロサービスで開発し、データは一元管理する。APIで疎結合させ、相互に干渉し合わないように構成している

吉谷 藤田さんがおっしゃるように、我々が目指しているのは能動的な保全・サービス事業です。究極の目標は、2,183kmに及ぶすべての道路の状況を常時リアルタイムに把握する常時全線監視です。理論的に不可能だと言われてきましたが、監視カメラやセンシング技術などの急速な進歩によって、実現可能な状況になりつつあります。そうした先端技術を自由に組み込めるアーキテクチャを描いてもらったことは、非常にありがたいと感じています。


 ――アーキテクチャを検討される際に、工夫した点は何でしょうか?

藤田 新しい技術を取り入れたアプリケーションが素早くリリースできるようにするには、一つひとつのアプリをマイクロサービス化するのが理想的だと考えられています。すべてのシステムに一貫性を持たせて開発するモノリスと比べ、開発コストが低く、開発スピードも圧倒的に速いからです。

しかし、マイクロサービス化されたアプリは、それぞれが独自にデータを持つことになるので、NEXCO中日本が求めているような部門間、システム間のデータ共有は困難となります。その上、新しいアプリが増えれば増えるほど、データのサイロ化が進むという矛盾が生じてしまいます。

 この矛盾を解決するため、i-MOVEMENTにおけるシステムのアーキテクチャでは、全アプリケーションが利用するデータベースそのものをアプリケーションとして切り出し、マイクロサービス化することにしました。

これによって、マイクロサービスならではの柔軟性と、モノリスに近いデータの一貫性を兼ね備えた理想のアーキテクチャが実現したのではないかと思います。

全アプリケーションのデータベースを1つに集約したことで、データの標準化、マスタコントロールをはじめとする、データガバナンス実装を進めることができます。信頼できるデータがそこにあることが保障されるので、今後AIを効率よく活用できる環境も同時に整備されたと言えます。

 

――現在、i-MOVEMENTプロジェクトは、どこまで進んでいるのでしょうか?

吉谷 システムについては現在、アーキテクチャに基づいて開発を進めているところです。

 また、ドローンやロボット、AIなどの技術導入については、管内24カ所のマザー現場を指定し、それぞれのテーマに沿った実証実験を行っています。

   成果は着実に上がっており、現場の社員たちも手応えを感じているようです。 

――最後に、同じようにDXに取り組んでいる読者の皆さんにメッセージをお願いします。

吉谷 私は、i-MOVEMENTの準備段階からプロジェクトに携わり続けていますが、「現状の業務に満足している」「正解が分からないことへの不安」「変革することは余計な仕事」など新しいことにチャレンジすることには、かなりの抵抗がありました。

しかし、現場の生産性を上げて従事者の負担軽減や社会からの要請への対応など「高速道路会社への期待」に応えなければなりません。どんなに時間がたとうと「絶対に改革をやり遂げるんだ」という信念を持ち続けることが、プロジェクトを前進させるカギだと思います。あらゆる逆風にも立ち向かわなければならないこともあると思いますが、諦めずに取り組むことで、社内での理解が広がり、一緒にプロジェクトを推進してくれる仲間も集まるはずです。ぜひ強い信念を持って突き進んでほしいですね。




 

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