本当に怖い円安
…なぜ日本はこんなに貧しくなったのか?
円の価値が下がり続ける理由と私たちの末路
2024年6月28日
岩崎博充
相変わらず「日本円」が弱い。ついには直近で、およそ38年ぶりに1ドル=161円台前半まで値下がりした。2年半前の2022年1月年初のドル円のレートは「1ドル=115円」だった。1ドル当たり45円も上昇したことになる。自国の為替レートが下落したことで受ける影響は、実は我々の考えるよりもずっと大きい。例えば、日本のGDP(国内総生産)は2023年にはドイツに抜かれて世界第4位になったが、これも為替レートの下落によるところが大きい。円安は、物価高をもたらすだけではなく、企業活動や金融の世界にも暗い影を落とし始めている。マクドナルドのハンバーガーの価格を国際比較した「ビッグマック指数」を見ても、日本は世界で44位。 450円のビッグマックが米国(793円)や英国(766円)に比べて激安になっている。円安の影響をストレートに反映している。
なぜ、円はここまで安くなっているのか……。その背景には何があるのか……。円安の原因を考えながら、その影響について検証してみたい。
日米金利差だけでは説明できない円安
為替レートが変動する要因には様々な要素がある。
長期的に見るのか、短期的に判断するのかによっても、大きくその意味は違ってくる。
たとえば、今回の円安を説明する言葉として指摘されているのが「日米金利差」だが、金利の違いによって為替レートが動くのは、短期的な変動に限られることが多い。
新型コロナウィルスやロシアによるウクライナ侵攻などが原因で、世界中の物価が上昇したことはよく知られている。
物価高=インフレに対応するために、米国の中央銀行である「FRB(連邦制度準備理事会)」は、一気に5.5%まで政策金利を上昇させ、他の国々も金利を一斉に上昇させた。
日本だけがマイナス金利政策にこだわり、最近になってやっとマイナス金利から脱却したものの、依然としてゼロ金利政策からは抜け出ていない。
アメリカを始めとする他の国々とも大きな金利差が発生してしまい、その影響で円だけが「独歩安」になった。
とは言え、今回の円安はそれだけでは説明できないものがある。
なぜ日本はいつまでもマイナス金利にこだわったのか……。
その背景には莫大な財政赤字を抱え、日本政府が発行する国債を中央銀行が購入しなければならなかった、日本独特のリスクがあったからだ。
☞ 国債は安全性が高い反面、収益性は高くない金融商品。
個人向け国債は預金とは異なり元本の保証はない。預金保険制度ならびに投資者保護基金の対象ではない。
固定5年・固定3年は固定金利、変動10年は6カ月ごとの変動金利。
個人向け国債の取引においては、振替決済口座(保護預り口座)の開設が必要。
2024年5月15日時点での個人向け国債の利率は固定3年が0.29%、固定5年が0.45%、変動10年が0.57%となっている。
もし国債の保有期間中にインフレが起こり、物価が上昇した場合は資産が目減りしてしまうリスクが想定される点がデメリット。
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世界中の投資家はその状況を見抜いており、市場は一斉に円安に動いたと考えるのが自然だ。
そういう意味で言えば、本当の円安の原因は日本政府が作った財政赤字であり、現在でもいまだに日銀は、金利の上昇を防ぐために、毎月6兆円の国債を政府から購入しなければならない状況に陥っている。加えて、日本経済全体の地盤沈下も円安に拍車をかけたと言っていい。
日本経済の生産性の低さは世界的にも有名だが、その背景には様々な要因があり、簡単に解決できるものではない。
とりわけ最近目立つのが、社会全体のデジタル化への転換の後れだ。日本に先駆けてデジタル化を推進するアジア諸国にさえも、日本は経済全体で負けつつあるとも言える。
政治資金ひとつデジタル化できない政治家には失望感が広がっているし、行政や裁判も一向にデジタル化ができない。
マイナンバーカードの有効期限更新にわざわざ役所に行く必要があるのは仕方がないにしても、そこで行われる手続きは、ペーパーへの記入と署名が必要になる。何のためのデジタル化なのか、理解しがたい。
さらに、中小企業を中心とする産業構造にも大きな問題があり、デジタル化を進めるだけの体力や人材が不足しているために、日本企業はますます遅れをとっている。
最近になって、やっと日経平均株価が34年ぶりに最高値を更新したものの、その後、海外からの投資家が日本株を積極的に買おうと言う姿勢はあまり見られない。
日本株を買っても、円安で損失が出てしまうからだ。
日本経済が抱える複合的な要因が、円安になって現れていると言っていいのかもしれない。
金利差、財政赤字、景気の長期低迷……「+α」があるのか?
日本円が安い理由は、単純な金利差や日本経済の低迷以外にもいろいろとありそうな予感がする。
例えば、現在指摘されている円安の要因には、次のようなものがある。
1. 米金利差の長期化
2. 日本政府の財政赤字
3. 日本経済の長期低迷
4. 日本の経常収支の構造的変化
5. 投機的な円売り圧力の高まり
これらの要因は、様々な形で取り上げられているのだが、日米金利差は米国の景気動向に左右されることが多く、米国経済が依然として強く、インフレが続いているために金利差が縮まらず、円安に加速がかかったことは確かだ。
財政赤字は、日銀が日本政府の発行する国債を買い支えなければ、政府が発行する国債を市場が消化しきれずに、金利があっという間に上昇する事態を生み出してしまう。
最悪、国債の発行に伴うコストを上昇させ、政府は資金繰りに直面して債務不履行に陥るかもしれない。
にもかかわらず、現在の政権には財政危機に対する危機感が欠如しており、財源のない国民に受けそうな政策ばかりを乱発している。
選挙対策用のポピュリズム政策を繰り返しており、財政赤字を解消しようという気はさらさらないようだ。
これは政権与党の一部に財政赤字による間違った考えが長期に渡って続いたためだが、少なくとも、日本の政治家は「財政赤字=日本の破綻」というリスクを、まったく無視してきた結果と言っても良い。
円安はそうした政府の財政に対するツケであり、副産物と言える。
この負の悪循環を食い止められなければ、日本は本当に破綻するかもしれない。そういう意味では政権交代ぐらいしか、今の日本を救う道は無いのかもしれない。
一方、日本企業も新しい事業を展開するにしても、政府の補助金を頼りにスタートさせると言った姿勢が強く、政府べったりの日本的経営を繰り返してきた。
その結果が国際競争力を失った企業の状況と言っていい。
スイスの「IMD(国際経営開発研究所)」が発表している「世界競争力ランキング」でも、2023年に日本はついに64か国中35位にまで下落した。
これは、台湾(6位)や香港(7位)、中国(21位)、韓国(28位)、インドネシア(34位)など、アジアの周辺国にも大きく後れを取っている。
さらに、無視できないのは円安の要因(5)として挙げた「投機的な円売り圧力の高まり」だ。
投機筋の先物建玉がわかるCME(シカゴ・マーカンタイル取引所)の「IMM通貨先物ポジション」を見ても、ここ1年ほどは、10万枚以上の円売り(ショート)ポジションが大半を占めている。投資家が円を売ろうとしている証と言っていい。
この背景には、日本政府と日銀が急激な円安に対応する手段を持っていないことを投資家が見抜いているからともいえる。
日銀は、国際的には極めて特異でいびつな状態で、日本国債を月額6兆円も購入しなければならない状態に陥っている。
そんな状態なのに、いまだに政治家や有識者の一部が日本の財政拡大論を声高に叫び続けている。
極端な言い方をすれば、現在の円安は日本政府のデフォルト(債務不履行)や日銀の債務超過リスク (☜ LINK)を見越した動きであり、これを止める術はそう簡単に見つかりそうもない。
改革できない社会はやがて崩壊する?
これまで通貨の下落によって衰退していった国家のケースは数多くある。
近年で最も有名なのは「アジア通貨危機」(☜ LINK )だが、その影響でロシアのルーブル暴落が起こり、ヘッジファンドの「LTCM」の破綻が起きた。
結局、米国のFRBが救済するほどの大きな金融危機になったわけだが、その後ロシアは権力主義国家へと変貌を遂げて、プーチン独裁国家となってしまった。
現在の日本の円安は通貨危機と言えるほどのものではないが、かつて米国を救うためにG5(先進5か国蔵相会議)が合意して米ドルを切り下げた「プラザ合意」以前の1ドル=250円台あたりにまで円安が進めば、日本は先進国の座から転落したことを意味する。
さらに、注目すべきは通貨危機は連鎖する傾向が強いことだ。90年代の通貨危機の時代には、以下のように通貨危機が増幅して連鎖しているのがわかる。
§ 英国ポンド危機(1992年)
§ メキシコペソ通貨危機(1994年)
§ アジア通貨危機(1997年)
§ ロシアルーブル危機(1998年)
2020年代もまた、こんな時代の幕開けになるかもしれない。
90年代の通貨危機の端緒となったのがポンド危機だが、2020年代には「円」がその端緒を切る役割になるかもしれない。そんな懸念を抱かせるほど、現在の「円」は売られる環境が整っていると言える。
どんな時代でも、通貨価値の下落は国家の衰退を示唆することが多い。
江戸幕府も300年の歴史の中で、末期には財政に行き詰まり、通貨(小判)の金の含有量を減らして対応していた。
ここ数年金の価格が大きく上昇しているが、こうした傾向は国家の「信用」で成立してきた「紙幣」が、基軸通貨であるドルを含めて、その信用を失いつつある兆候かもしれない。言い換えれば、世界は紙の通貨を信用する人が少なくなっており、投資先が金に流れていると言ってもいい。
いずれにしても、戦後70年の歴史の中で、政治や経済など様々な面で改革してこなかった日本が、ここに来て時代の転換点に差し掛かっているのは間違いない。
ドルを含めて「紙」のマネーが信用を失いつつあり、その最初の標的になるのが円かもしれない……。
そんなリスクを日本人の何割が理解しているのか。円安は大きなリスクであることを再認識すべきだ。
円安になればなるほど引き起こされる深刻な問題
・円安になればなるほど、日本の優良資産は外国人に買われるようになる。安く買えるからである。
大企業も大株主は軒並み外国人になる。
結果的に、円安で儲けている大企業は、外国人の大株主に配当を出すようになる。
途上国の優良企業はだいたいそうなっている。
・円安になればなるほど、外国からの経済侵略が進む。なぜなら日本の資産が安く買えるようになるからである。
大都市の優良な土地建物だけでなく、水資源も、山林資源も、外国資本になる。
円安で外国勢力が安く買い叩けるからだ。途上国では、だいたいどこも外国資本に乗っ取られている。
その後、円高になっても、買われた土地建物は戻って来ない。
・円安になればなるほど、その円を稼ぐ日本人はますます貧しくなることになる。
安い通貨しか稼げないので、低賃金で労働しているのと同じになってしまうからだ。
途上国の国民はそうやって貧しくなっている。
・円安になればなるほど、日本人も日本の通貨がゴミのように思うようになる。
そして日本円は日本人からも信頼を失うようになる。
日本の通貨を持っていたら、外国のちゃんとした通貨に入れ替えようと思うようになる。
誰でも価値のある通貨で安全を担保したいからだ。途上国の国民はみんな、そうしている。
・円安になればなるほど物価が上がっていく。
賃金の上昇はすぐに物価に追いつかず、貧困層が円安で大きなダメージを受ける。
さらに、これまでギリギリで生活をしていた層も貧困層に落ちていく。
円安は輸出企業やドル資産を持つ富裕層には快適だが、底辺層はますます増えていく。
・円安になればなるほど、不良外国人が大量に入ってくる。
なぜなら、物価は安いし、「現地の女性も安く買える」からである。
途上国では、だいたい多くの不良外国人が入り込む。
途上国のアンダーグラウンドは、だいたい不良外国人の巣窟になっている。
・円安になればなるほど、優秀な若者、バイタリティのある若者、大きく稼ぎたい若者は外国に出ていく。
なぜなら、外国の通貨で稼いだほうが同じ働くにしても有利になるからだ。
途上国では、それで出稼ぎ経済となっている。
・円安になればなるほど、資産を持った富裕層は資産を外国にキャピタルフライトさせる。
なぜなら、円で持っていたら資産が毀損していく一方だからだ。
資産を価値のある通貨で保全したいと思うのは当然の話である。途上国の富裕層はみんなそうしている。
・円安になれば材料もエネルギーも上昇していくが、中小企業の大半はコストを商品に転嫁できないので追いつめられて弱っていく。
日本の99.7%は中小企業であり、過度な円安は日本の99.7%に大きな悪影響を与えることになる。
・円安になればなるほど外国人経営者が日本に進出して、日本人を安く雇って働かせるようになる。
日本人が外国人の経営者に搾取されていく構図が作られていく。
途上国の国民はそうなっているのだから、日本もまたそうなっていく。
最後までお読みいただき、有り難うございました。 ☚ LINK
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