自民石破政権が「始まる前から国民を舐めている」ワケ
2024.06.28
by 『国家権力&メディア一刀両断』
衆院解散をあきらめた岸田首相が自民党総裁選への出馬に意欲を燃やす中、ポスト岸田をめぐる党内の動きが活発化している。
「自民党の刷新」を有権者にアピールでき、選挙に勝てるリーダーならこのさい誰だって構わない。そこで急浮上してきたのが、菅義偉前首相が推す石破茂氏。自民党の面々はいまだに「トップのすげ替え」で国民を騙しおおせると勘違いしているのだ。元全国紙社会部記者の新 恭氏が解説。
自民党内からも退陣要求、岸田首相の「異常な感覚」
これといった波乱もなく閉幕した通常国会。
「政治とカネ」問題の再発を防ぐためというふれこみの改正政治資金規正法も、日本維新の会との間でひと悶着あったとはいえ、岸田首相の望み通りに成立した。
しかし、その中身といえばお寒い限り。企業・団体献金、政治資金パーティーの開催、使途を公開しない政策活動費、そのいずれもが温存された。
政治資金パーティーの購入者の公開基準額を20万円超から5万円超に引き下げたところで、回数の制限はないなど抜け穴はいくつもある。
政治屋たちの手にかかれば、それを利用して稼ぐ方法を編み出すくらい簡単なことだろう。
にもかかわらず、岸田首相は「実効性のある具体的な制度ができた」と大真面目な顔をして言う。冗談じゃない。なにが「実効性」だ。実効性のある法改正ができなかったことを恥じて退陣するくらいの矜持があれば、まだしも救いはあろう。
それどころか、岸田首相は、自民党総裁選への出馬に意欲を燃やしていると各メディアは報じている。
5月に終了した電気・ガス料金の補助金を8月から3か月間限定で復活させるなど、見え見えの人気取り政策を打ち出したことからも、総裁選に向けての思惑がうかがえる。
なぜ、岸田首相は能天気でいられるのか。退陣要求の声が党内から湧き上がるなか、再び自分がトップに選ばれると思えるのは、常人の感覚ではない。
選ばれるかどうかの冷静な判断より、なぜ自分が退かねばならないのかという気分がまさっているからではないか。
防衛も原発も安倍政権の路線を踏襲してきた。
裏金問題は安倍派や二階派のせいだ。派閥解消を先導し、政治資金規正法を改正した。功績こそあれ、失政らしいことはしていないではないか、と。
麻生副総裁と会食、総裁選出馬への協力を要請か
岸田首相は6月18日夜、麻生副総裁と東京都内のホテルで会食した。
おそらくこの席で、総裁選出馬への協力を要請したはずだ。しかし、麻生氏の機嫌はよろしくない。
そもそも岸田首相が派閥解消を進めたおかげで、派閥を存続させている自分が悪いように言われている。
そのうえ岸田首相は、麻生氏の反対を振り切り、政治資金パーティーの公開基準額引き下げで公明党に妥協した。そんな不満が麻生氏とその周辺に渦巻いている。
麻生氏は「自分で潔く引き際を決めれば、後継者を選ぶことだってできる」と岸田首相に“院政”を勧めたこともあった。
麻生氏としては、総理続投を諦めさせるつもりで言ったのだろうし、多分、その考えはいまも変わっていないにちがいない。
麻生氏が重視する「岸田首相では選挙を戦えない」の声
むろん会食の席では、総裁選への協力について態度をはっきりさせず、激励の言葉くらいはかけたかもしれない。
だが、麻生氏の本音らしきものは、配下の議員の口からすでに表に出ていた。
自民党の斎藤洋明・元総務政務官(麻生派)は16日、新潟県新発田市で開いた自身の政治資金パーティーで、裏金事件と岸田文雄政権の対応が批判を浴びていることについて、「こういう状況に至った責任は、最終的に誰かが取らなければいけない」と述べた。斎藤氏は講演後、朝日新聞の取材に、岸田首相を念頭にした発言であることを認めた。(6月16日 朝日新聞デジタル)
事実上の退陣要求だと受け取れる。岸田政権を支えてきた麻生派の中堅議員が、麻生氏の意向を無視してできる発言ではない。
麻生氏も「岸田首相では選挙を戦えない」という派内の声を重く見ているはずだ。では、麻生氏は誰を選ぶのか。
党内をまとめる「人望」がない茂木幹事長
実は、岸田首相よりまえに麻生氏に総裁選出馬を相談していたと思われる人物がいる。茂木幹事長だ。
岸田首相がG7サミットでイタリアを訪問中の6月14日、茂木氏と麻生氏は東京都内で3時間半にわたって会談した。
茂木氏は総裁選への意欲を示し、麻生氏の反応をうかがったのではないだろうか。
もちろんキングメーカーとして、勝ち馬を見極めたい麻生氏がやすやすと支援を約束するとは思えない。
茂木氏に党の顔が替わっても、自民党が生まれ変わったと見られるかは大いに疑問だ。なにより、茂木氏には党をまとめるだけの人望がない。
むろん、茂木派からは「首相はゆめゆめ再選などと軽々しく口にするべきではない」と援護射撃めいた発言も出ているが、茂木氏自身は総裁選への出馬について「夏の間、よく考えたい」と語るにとどめている。麻生氏の態度がまだ決まっていないからではないだろうか。
菅義偉前首相が「石破茂・新総理総裁」を推す理由
岸田首相が衆院解散をあきらめ、総裁選にターゲットを絞ったのを察知して目立った動きをしはじめたのが菅義偉前首相だ。
自民党の菅前総理は千葉県で行われた党の会合に出席し、「野党に政権を渡すようなことは絶対にしてはならない」と繰り返し述べ、自民党政権の継続を訴えました。(6月22日「TBS NEWS DIG」)
この発言の真意は、翌6月23日、文藝春秋のオンライン番組における新谷学氏との対談のなかで明かされた。
「自民党が復活するには何が必要か」という新谷氏の問いに対して。
「自民党は危機的な状況にある。与党で過半数を割るような雰囲気がある。総理自身、派閥の問題を抱えながら責任を取ってなかった。もう一度自民党に期待したいという雰囲気づくりが大事だ。幸いなことに総裁選がある。そこに向けて、刷新感を持ってもらえるリーダーが出てくるべきだ」
つまり菅氏は、責任を取らない岸田首相を批判したうえで、政権を野党に渡さないために、党の刷新をアピールできる新しいリーダーを担ぎ出したいと言っているのだ。
岸田氏の再選を許せば、政権交代につながる。そうはさせないという決意が読み取れる。
そのため、すでに菅氏は布石を打っている。
6月6日夜のことだ。菅氏が呼びかけて都内の寿司店に集まったのは、菅氏のほか、菅政権時代の官房長官・加藤勝信氏、総務大臣・武田良太氏、文科大臣・萩生田光一氏、それに環境大臣だった小泉進次郎氏だ。
萩生田、加藤、武田の3氏は永田町で「HKT」と呼ばれる次世代リーダーたちで、しばしば会食をする間柄だ。そこに菅氏が小泉氏を連れて加わった形だ。
言うまでもなく、武田氏は二階派、萩生田氏は安倍派、加藤氏は茂木派の実力者だが、もはや解散が決まった派閥に拘束される必要はない。
そこで、この会合が「ポスト岸田」に関する話し合いなのはおよそ察しがつく。
むろんこの場で何かが決まったということではないだろうが、菅氏が総理候補として世間的人気の高い石破茂氏を本命視しているという説が浮上してきた。
小泉氏を菅氏が買っているのは事実だが、43歳と若く、あえて「火中の栗」を拾うことはないという判断のようだ。
自民「石破政権」は始まる前から国民を舐めている
菅氏は、23日の文藝春秋オンライン番組でも、総裁候補としての石破氏について「期待できる方だ。いろんなことがあっても主張を変えないところがいい」と述べている。
問題は、石破氏の面倒見が悪いこともあり、党内での人気がパッとしないことだ。
「HKT」が納得するかというと、疑問が残る。だが面倒見が悪い分、裏金をつくりそうにもないイメージはある。
なにより政権政党であり続けることを優先する自民党のことだ。「勝てる」と見込めば、案外簡単に「石破総裁」への流れができるかもしれない。
岸田首相は形勢逆転のための最終手段として、内閣改造・党役員人事を断行し、石破氏を幹事長にしようとしているとも囁かれているが、菅氏の動きからみて、石破氏があえて岸田首相とともに“泥船”に乗り込むようなことは考えにくい。かりにそんな人事が実現したとしても、国民に意図が見透かされて、思い通りの展開にはならないだろう。
それにしても、総裁選で党の“顔”をすげ替えれば、党への信頼が回復するかのように思っているところが、自民党の大きな勘違いだ。
誰が総裁になろうと、金権体質の病根を断たなければどうにもならない。
そこから目を背け、トップの入れ替えで世間の空気を変えようとする。国民をバカにした話だ。
政治屋が跋扈する集団としての自民党を自ら解体し、再出発する。
つまり利権も世襲も私欲もなにもかも捨てて、“しがらみ”なき政治に取り組んでゆく。 そうなった時にはじめて、国民からの信頼が戻ってくる。
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