「10年後は人工知能が“子どもを育てる”時代になる」と確信させた一本の動画
2024.05.29
by 中島聡
日本時間5月14日の未明にOpenAIが発表した最新のAIモデル「GPT-4o」。その著しい進化が大きな話題となっています。世界的エンジニアとして知られる中島聡さんが、GPT-4oのデモを見て「10年後の教育が全く異なるものになっている」と確信した理由を解説。さらに現代という激動の時代に身につけるべきスキルについて、自身の思うところを綴っています。
勉強以外の相談にも乗ることも可能。GPT4oの登場が変える10年後の教育
OpenAIによるGPT4oの発表を見て、一番心に残ったのは、GPT4oを使って子供が学ぶ場面です(GPT-4o (Omni) math tutoring demo on Khan Academy)。
この件には、少し前から気がついていましたが、今回のデモを見て確信に変わりました。10年後の教育は、今とは全く異なるものになっています。
子供の教育には、手間もコストもかかります。
勉強が嫌いな子、一つのことに集中できない子、数学や科学は大好きだけど漢文や古文は大嫌いな子、頭は良いけど飽きっぽい子、親や先生の言うとおりにすることが格好悪いと思っている子、自分がなんでも分かっていると勘違いしている子、そんな様々な子供たちを、30人、40人集めて、「教室」という箱の中に入れて画一的な授業をすることは簡単ではありません。
どんなに優秀で熱心な先生でも、様々な性格の生徒全員を把握し、それぞれに適切な指導をすることなど絶対にできません。
先生にも生活があるので、24時間子供達のことを考えていることは出来ないし、彼らの質問に答えることなど出来ません。
AIならばそれが可能です。
AIならば、子供達の異なる性格・能力を把握し、それぞれの性格や進み具合に応じて、個別指導をすることも可能です。
褒めると伸びる子は褒め、勉強が嫌いな子には遊びを通じていろいろなことを学んでもらいます。
24時間、いつでもどこでも子供達と対話ができるし、勉強以外の相談にも乗ることが出来ます。
子供が夢中になって遊んでいるオンライン・ゲームに、パートナーとなって参加することも可能だし、TikTokでいいねがいっぱい付く映像作りにも協力してくれます。
楽しい時には一緒に笑ってくれるし、辛い時、悲しい時には、寄り添って慰めてくれます。AIがいれば退屈なんてなくなるし、遊びと勉強の境がなくなります。
大昔の映画に『メリー・ポピンズ』という、子供達にとって理想的なナニー(ベビーシッター)を描く映画がありましたが、まさにそんな存在にAIがなってくれるのです。
人類の長い歴史の中で、犬や猫は私たちのコンパニオンとして、重要な役割を果たしてくれましたが、そこにAIが人類の新たなコンパニオンとして参加する時代が来ようとしているのです。
私がこんなことを言うと、あまりにも現実離れしていて、「そんな世界が来るはずがない」と感じる人が多いと思いますが、それは大きな間違いです。
この先、AIがどんな進化を遂げるのか、遂げるべきなのかが、私には、そして当然ですが、OpenAIの研究者・エンジニアたちには、はっきりと見えているのです。
それを「AGI」と呼ぶかどうかなんてどうでも良いのです。GPT3から、GPT3.5、GPT4、GPT4oと進化して来たその延長上に、そんな人生のコンパニオンになりうるAIを作ることは、決して不可能ではないことを、今回のGPT4oのデモは見せてくれたのです。
学びのプロセスを楽しむ気持ち。激動の時代に必要とされるスキル
このメルマガには、しばしば、・・・
「プログラミングを学びたいけど、どの言語から始めたら良いですか?」
「人工知能により社会が大きく変わろうとしている今、大学では何を専攻するのが良いのでしょう」などの質問が来ます。
どちらの質問も簡単に答えられる話ではありませんが、一つだけはっきりと言えることがあります。
「新しいことを学ぶ力」を身に付けることの大切さです。
私は、この業界で40年以上働いています。最初に触ったコンピュータTK80のCPUは、2MHzで動く8bitのプロセッサで、メインメモリは2KByteしか搭載していませんでした。
今、私がこのメルマガを書いているMacBookのCPUは、4GHzで動く64bitのプロセッサ・コアを8つ搭載しており、メインメモリは96GByteです。CPUの能力は64,000倍、メインメモリのサイズは48,000,000倍になっています。これだけ違うと、ソフトウェアの開発環境にも大きな違いがあります。
TK80上では、全てのソフトウェアをアセンブラ(CPUが理解できる16進のコード)で書いていましたが、今は、PythonやらTypeScriptを使って、人工知能を活用したアプリを開発しています。
少し前まで、ソフトウェア・エンジニアには「30歳引退説」というものがあると言われていました。
あまりにも時代の流れが早いため、せっかく学んだ技術がすぐに陳腐化してしまうため、若い頃に取得したスキルで勝負し続けることができなくなって、エンジニアとして通用しなくなってしまう、という説です。確かに、この業界では、持っているスキルが陳腐化してしまい、時代遅れになってしまうソフトウェア・エンジニアが沢山います。
メインフレーム向けの、CobolやFortranが良い例ですが、今では、Javaがそんな立場にあります。
一時は、エンタープライズ向けのソフトウェアの開発に、Java言語や、そのフレームワークであるJ2EEがもてはやされましたが、いまだにそこで勝負をしているエンジニアたちは、既に時代に乗り遅れてしまっているのです。
一方、いつまでも一線で活躍できるエンジニアには、一つの共通点があります。
新しい言語や開発環境を学ぶのが楽しくて仕方がない、新しいものを学び続けて、それらを使いこなすことこそが生き甲斐、のような人たちです。
重要なのは、「時代遅れになるのが嫌だから勉強する」のではない点です。
何事にも共通する話ですが、他の人から「努力」「苦行」と感じるようなことを楽しいと感じることが出来る人は強いのです。
これは、エンジニアの世界に限った話ではありません。
時代は変化し続けています。その時々で、必要とされるスキルは変わるのです。
そんな世界で、最も重要なスキルは、「必要とされるスキルを素早く身につけるスキル」であり、もっと重要なのは、そんな学びのプロセスを楽しむ気持ちです。
なので、「どの言語から学び時めるか」なんてどうでも良いのです。
とりあえず、自分が作りたいものに適した言語を選び、それを「新しものを学ぶ」練習台にしてください。
そこで学んだ言語そのものは、将来役に立たないかも知れませんが、気にする必要はないのです。
そうやって学び続けていれば、必ず「新しいものを学ぶ力」が上がります。
その「学ぶ力」そのものが、あなたにキャリアにとって、かけがえのない価値を持つ宝になるのです。
大学も同じです。大学で学べることなんて、一生を通じて学べることと比べたら小さい話です。
大学で学んだスキルで一生勝負出来るなんてことはありません。
とにかく大学では、「新しいことを素早く学ぶ」スキルを身につけてください、「学ぶ楽しみ」を覚え、「新しいことを学ぶことが楽しくて仕方がない」人になってください。そして、大学を卒業した後も、常に学び続けてください。
「仕事が忙しい」なんて言い訳です。
仕事が忙しいからこそ、新しいスキルを身につけて、より良い仕事を効率良くする必要があるのです。
最後までお読みいただき、有り難うございました。 ☚ LINK
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