3D CADの“ChatGPT”?
AIの設計支援がものづくりの常識を変える
SB C&S/アシストエンジニア
設計時間を大幅に短縮、多様な製品をすばやく製造
機械設計の業務を人工知能(AI)が支援する「ジェネレーティブデザイン」の活用が本格化している。
設計者が目的の機能や性能、強度などの条件を入力すると、AIが最適な3D形状を生成してくれる。設計の試行錯誤を大きく減らし、生産性を飛躍的に向上させるツールとして需要が高まっている。あるユーザーは、「人間では思いつけない形状をAIが生み出し、要求性能と強度を見事にクリアできる場合も多い」と語る。
これに業務用の3Dプリンタを組み合わせ、設計から製品化までのリードタイムをさらに短縮する企業も増えている。
金型や切削では造形できない形状を、3Dプリンタなら実現できる場合がある。
例えば、複数の部品で構成していたモジュールを、ジェネレーティブデザインで一体化し、3Dプリンタで造形する。
部品点数を減らし、強度を維持したまま大幅な軽量化を実現できる。組み立て工程の負荷を軽減し、ユーザー使用時の故障の原因を減らし、メンテナンスのコストを削減できる。
エフ・アイ・ティは、産業用ロボットのエンドエフェクターや協働ロボット用のグリッパーの製造に、これを導入した。
設計スピードを大幅に短縮し、ユーザーのニーズに合わせて多種多様な製品を低コストで生産している。
同社の事例を紹介し、ジェネレーティブデザインと3Dプリンタを組み合わせたものづくりの変革について、以下に解説する。
3Dプリンタと「ジェネレーティブデザイン」を組み合わせる
エフ・アイ・ティは、産業機械の設計製作とFA機器のリユース事業を手掛けている。
2001年の創業当初から、他社が容易に真似できない技術の確立を志向し、ロボットによる自動化や省力化に独自のアイデアを取り入れてきた。2016年頃に積層方式の3Dプリンタが出始めると、すぐに購入。テストしてみたが、実務への導入には至らなかった。
「積層方式の3Dプリンタは、積層方向への強度が出せないことが欠点の1つでした」と、代表取締役の古田 貴士氏は振り返る。
エフ・アイ・ティが3Dプリンタとジェネレーティブデザインを組み合わせて製造しているロボットハンドの一例
事情が変わったのは、2021年のことだ。協働ロボット(安全柵で隔離せず、人と同じ空間で使えるロボット)のハンド部分を製作することになった。協働ロボットで把持したいものがユーザーによって異なるため、機能や形状の異なる専用のハンドを多数作る必要がある。この仕事に、金型が不要で一品生産が可能な3Dプリンタを生かせると考えた。
同社は今回、粉末造形方式の3Dプリンタを導入した。
粉末樹脂に高出力のレーザーを照射し、焼結させて造形する。強度と耐熱性に優れるため、試作だけでなく最終製品の造形も可能になる。
「3Dプリンタで製造することで、量産品では不可能なカスタムオーダーが可能になります。材質には、耐摩耗性と耐衝撃性に優れた『PA12(ポリアミド12)』を使用します。プリント後にスチームスムージング処理を施すことで、外観の美しさと強度を向上させました」(古田氏)。成型品のような美しい仕上がりになるという。
それだけではない。同社は今回、そこに「ジェネレーティブデザイン」を組み合わせた。
3次元CADの「Creo」(旧「Pro/ENGINEER」)を20年ほど前から使ってきたが、これに実装されている「ジェネレーティブデザイン機能」を活用する。
若手エンジニアでも熟練者以上の設計が可能に
ジェネレーティブデザインとは、AI を駆使して一連のシステム要件から最適な設計を自律的に作成する機能をいう。
設計に関わる様々な機能や制約、優先使用材料、製造プロセスなどの要件を与えると、すべての要件をクリアする最終形状を自動的に生成してくれる。
多数のメーカーにCADシステムを導入しているアシストエンジニア 営業部 部長代理の岩田 好弘氏は、「これまでの設計は、エンジニアの経験とノウハウがものを言う世界でした。材料の厚みや強度も、設計者の感覚によるところが大きかったと思います。ジェネレーティブデザインの支援を得ることで、経験の少ない若手エンジニアでも、熟練者以上の設計が可能になります」と語る。
3Dプリンタでしか作れない部品の例。従来なら複数の部品を組み合わせて実現していた形状を、一体化したものとして造形できる
古田氏は「特に3Dプリンタでしか作れないような形状において、ジェネレーティブデザインは大きな効果を発揮します」と述べる。
3Dプリンタでしか作れない形状とは、例えば従来なら複数の部品を組み合わせて実現していたような複雑なものだ。
3Dプリンタなら部品を分けず、一体化したものとして造形できる。計算で生み出した最適な形状を、CADが提案してくる。
「人間には発想できないような、ある意味、不思議なものが出てきます。強度を維持して圧倒的に軽量化した、必要最小限の形状です」(古田氏)。
ジェネレーティブデザインは、こうした形状をわずか数分で生み出す。
「ハンドの爪の部分を少し大きくしたいとか、重いものを持ちたいから強度を高めたいなど、ユーザーごとのニーズに応じたカスタマイズにも、すばやく簡単に対応できます」(古田氏)。
無人で24時間365日稼働、大量生産の常識が変わる
開発と製造にかかるリードタイム短縮への圧力は、ますます高まるだろう。
「トライ&エラーで設計するような時間的余裕が、持てなくなっていきます。製品をすばやく市場に出すシステムとして、ジェネレーティブデザインと3Dプリンタの組み合わせは、1つの有力な選択肢になるでしょう」(古田氏)。
金型でしか大量生産できないという、かつての常識も変わる。3Dプリンタを多数並べ、仕様の異なる製品を大量に作ることも可能になるからだ。
「ひと昔前の3Dプリンタは、会社に1台か2台導入して試作工程に使うというイメージでした。しかし、今は製品として出せる品質のものを作れます。金型による製造と異なり、データを流しておけば、無人で24時間365日生産し続けられます」(岩田氏)。
昔は大企業にしかできなかったようなことが、中小企業にもローコストで実現可能になったと語る。
エフ・アイ・ティは、ジェネレーティブデザインを導入したことで生産性を著しく向上させた。
「設計の検討にかかる時間が、圧倒的に短縮しました。あくまで感覚的な話ですが、設計時間の70~80%は削減できているイメージです。それを3Dプリンタですぐに実現できるので、全体としての効率は5倍、10倍に上がっていると考えます」(古田氏)。
ただし、ジェネレーティブデザインを使いこなすには、設計者側にもある程度の慣れが必要になるという。
「AIはどんな条件でも形にしますから、機能だけを実現する不格好なデザインを提案してくる場合もあります。美しいデザインを求めるには、設計者がしっかりと意図を伝え、目指したい方向にAIを誘導する必要があります」(古田氏)。
面倒な強度計算はCADに任せても、設計者がしっかりと手綱を握らなければ、理想的な設計はできない。
リードタイム短縮、品質の向上、コスト削減などを同時に実現できるジェネレーティブデザインと3Dプリンタの活用は、今後さらに広がるだろう。他社に先駆けて導入し、自分のものとして使いこなすことで、大きな市場競争力を得られるに違いない。
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