能登半島地震「震度7」で露呈した原発の無理筋
避難計画は絵に描いた餅
2024.01.16
by 中島聡
1月1日に発生し、最大震度7を観測した能登半島地震。
200名以上の命が奪われ、多くの方が避難生活を余儀なくされています。
Windows95を設計した日本人として知られる中島聡さんが、地震の「震度」について詳しく解説。
さらに「震度7」は決して想定外の地震ではないとした上で、その揺れが計測された際に即時に取るべき3つの動きを提案しています。
地震の震度について
先週、地震の三つの尺度(マグニチュード、震度、最大加速度)について書きましたが、震度について、深掘りをして勉強したので、ここで解説します。
☞ 原子力発電所の基礎知識「大地震で簡単に壊れます」
● 能登半島地震の揺れ、東日本大震災に匹敵1月1日に石川県能登地方で発生したマグニチュード7.6の地震で、揺れの目安となる「最大加速度」が2828ガルだったことを報告する記事です。
場所は、志賀原発のある志賀町です。震度は、正式名は気象庁震度階級で、日本だけで使用されている、独自の「地震の激しさ」を表す階級です。
原発の耐震基準は、600~1,000ガルと定められており、この手の大きな地震が直撃すると壊れてしまうのです(「想定外」の地震多発、見直し必須の原発の耐震基準)。
2,000ガルを超えるような地震が実際に観測されているにも関わらず、なぜ、原発の耐震基準がそんなに低いのかが不思議ですが、理由としては、
1. そんな地震は滅多にない(事実)
2. 活断層を避けて原発を作れば、そんな地震には遭わないだろう(仮説)
3. 耐震基準を高くすると、コストが跳ね上がって、原発が割の合わない発電方法になってしまう(事実)
の三つがあります。
☞ 「第二の福島原発事故」回避は単なる幸運だった
日本には活断層があらゆるところにあり、かつ、地震は活断層だけで起こるのではないことを考えれば、2番目の理由は、かなり科学的根拠に乏しいものと言えますが、実際のところは3番目の理由で、耐震基準を抑えざるを得ないのが実情です。
つまり、地震国である日本で原発を使うのであれば、ある程度のリスクは覚悟して使うしかないのです。
これが原発が東京のど真ん中ではなく、僻地に作られている理由です。
今回、志賀原発においても、外部電源の変圧装置が地震で壊れたり、使用済み燃料プールの水が溢れたりしています。
志賀原発は福島第一原発での過酷事故以来、稼働していないので、原子炉には燃料棒は入っていなかったし、プールの中の使用済み燃料は十分に冷えていましたが、もし稼働中であったなら、福島と同じような過酷事故を起こしていた可能性は十分にあります。
マグニチュードが地震の総エネルギー、最大加速度が地震計で測定される加速度を表すのに対して、震度は人や建物への影響を考慮した数字になっている点が特徴です。
以前は、人の体験や被害状況による判定を(人が)行っていましたが、それだと主観が入ってしまうし、迅速な救助活動の必要性の判断が出来ないため、1996年4月からは、計測震度計という自動計測器により自動測定されています。
計測震度は、基本的には加速度計に記録された波に地震波の周期による補正を加えた上で、(東西、南北・上下の)3成分の波形をベクトル的に合成した上で、ベクトル波形の絶対値がある値 a 以上となる時間の合計を計算した時、これがちょうど0.3秒となるような aを求めた上で、
I = 2 log a + 0.94
の計算で求めます。
建物などにかかる力は、加速度と時間の積で決まるため、0.3秒という時間の要素を加えているのです。
そして、気象庁が発表する際には、この計測震度を以下のように震度階級として発表することになっています。
- 震度5弱: 4.5 <= I < 5.0
- 震度5強: 5.0 <= I < 5.5
- 震度6弱: 5.5 <= I < 6.0
- 震度6強: 6.0 <= I < 6.5
- 震度7: 6.5 <= I
例えば、a が125ガル(ガルは加速度の単位)だった場合、Iは5.13になり、震度は5強として発表されます。
計算式に log が出てくる点がとても重要で、これは震度が対数表示であり、震度が1上がるたびに、加速度は10の2分の1乗、約3.16倍になります。
つまり、震度6弱と震度7の間には、建物などにかかる力で3倍以上の差があることになります。
先週、原発の耐震基準は、福島原発事故以前は600ガルだったと書きましたが、上の式に a=600 を代入すると、I=6.49となり、震度6強まで耐える設計になっていたことが分かります。
【関連】原発のキホン「大地震で簡単に壊れる」が理解できぬ非科学的な輩たち【令和6年能登半島地震】
事故後は、この値が1,000に修正されましたが、同じく計測震度を計算すると I=6.94となり、震度7のことを意識した基準になっていることが分かります。
1ガルは、0.01メートル毎秒毎秒ですが、重力加速度をガルで表すと980ガルになります。
つまり、震度7の地震においては、1Gに近い力が建物などにかかることを意味しており、原発や発電機の配管などが壊れても当然です。
今回の地震では、最大加速度として2,828ガルが記録されていますが、それは瞬間的なものなので、計測震度の計算の際にはもっと低い数字を使うことになります。
資料3には、過去に記録された震度7(計測震度6.5以上)を記録した地震が計測震度とともにリストアップされています。
・ 1995年1月17日: 兵庫県南部地震 I=6.6
・ 2004年10月23日: 新潟県中越地震 I=6.5
・ 2011年3月11日: 東北地方太平洋沖地震 I=6.6
・ 2016年4月14日: 熊本地震 I=6.6
・ 2016年4月16日: 熊本地震 I=6.7
・ 2018年9月6日: 北海道胆振東部地震 I=6.5
・ 2024年1月1日: 能登半島地震 I=6.6
過去30年間に7回(熊本地震を1回と数えれば6回)も起こっていることを考えれば、震度7の地震は全く「想定外の地震」ではなく、それに備えた社会作りが大切です。
とは言え、全ての道路、建物を震度7に耐えられるように作り変えるには莫大なコストがかかるため、全く現実的ではなく、実際のところは、「震度7の地震が起こっても、被害が最小に抑えられる社会」を作ることが必要になります。
震度7の概要(気象庁による)
今回の地震からの教訓としては、震度7の地震が計測されたら、
・ 自動的に、緊急事態宣言を発令(知事が宣言をしたのは5日後の1月6日)
・ 自動的に、自衛隊を派遣(知事からの要請が必要)
・ 道路が寸断されていることを考慮し、自衛隊による空からの迅速な救援活動を実施
することが大切だし、数万人分のテント、毛布、数日分の水・食料、などを常備しておき、それを自衛隊が空や海から迅速に配布する訓練を普段からしておく、ことが必要だと思います。
原発に関しては、先週も書きましたが、地震国である日本と原発の相性は非常に悪いことは明らかです。
今回の地震で、道路の寸断により、住民の避難が不可能になることが明確になり、福島第一での事故後に作られた避難計画が、単なる「絵に描いた餅」だったことが証明されたことになります。それでもどうしても日本に原発が必要だと言うのであれば、原発の根本設計から見直す必要がありますが、それには長い年月がかかります。
さらに、その必要性を認めてしまうと、既存の原発を動かせなくなってしまう、というジレンマを日本は抱えています。
政治家は、従来型の原発を再稼働させることでその場しのぎをしようと考えていますが、実際には、人の命や生活がかかった大きなギャンブルであり、そのリスクを負うのは、電力を使う首都圏の人々ではなく、原発が作られた過疎地の住民なのです。
【参考文献】
※) 本記事は、2024年1月9日号の一部抜粋です。
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