「米国覇権凋落」ガザ戦争・ウクライナ戦争で浮き彫りに
一極集中の秩序が終わると何が起こるのか?
高島康司
2023年11月18日
ガザ戦争とウクライナ戦争を契機にして、世界中で市民の認識が根本的に変化しつつある。
これは、アメリカの覇権の凋落が急速に進んでいることの反映である。
アメリカが提供するナラティブ(語り口、世界観)を信用する人々が大きく減少しているのだ。
それに代わり、ロシアのアレキサンドル・ドゥーギンの多極的世界観が注目されている。
☞ アメリカ覇権の凋落と世界認識の変化
ガザ戦争を契機として、多くの人々が欧米が提供する説明の枠組みを拒否し、新しい世界認識を受け入れ始めた。
この動きは、明らかにアメリカの覇権が凋落していることの反映である。
この動きを見るためにも、いま我々の目の前で起こっていることを確認する。
アメリカの影響力の低下が顕著になっていることが分かる。
まずは、ウクライナ戦争だ。ウクライナの敗北が決定しつつあり、欧米諸国もこれを認める方向に動き始めた。
CIA長官のウィリアム・バーンズは、ゼレンスキーとの緊急の秘密会談のためにキエフに到着する。
ウクライナの敗北が避けられなくなっているので、ロシアとの和平交渉の可能性を探る意図がある。
そうしなければ、ゼレンスキー政権は国内の反乱に直面する可能性が高いという認識をパーンズ長官は持っているからだとされている。
すでにウクライナ軍は疲弊している。現在の軍隊の大半は年配の男性、一部の女性、そして訓練を受けていない少年で構成されている。
彼らは、ロシア軍を食い止めようとする狐穴や護岸を埋めるための肉弾となるだけだ。
一方、ロシアは特に急いではいない。ロシアの戦略は、ウクライナの軍隊を疲弊させ、ウクライナに政治的危機をもたらすことだ。
ロシアの作戦は予定より早く進んでおり、ワシントンと同様にモスクワも驚いている。
そしてキエフでは、ゼレンスキーらのチームとウクライナ軍指導部との間で内部抗争が勃発している。
ゼレンスキーは、ウクライナ軍最高司令官のヴァレリー・ザルジニー将軍を逮捕し、粛清するための舞台を整えようとしている。
彼はザルジニーに連なる3人の将軍の解任で準備を整えているとされている。ザルジニーの最側近はすでに殺害されている。
このように、ウクライナは全面的な敗北を前に、ゼレンスキーと軍との内部抗争が激化し、内紛かクーデターが起こる可能性が高くなっている。ウクライナ戦争でロシアを追い詰め、同国を弱体化するというアメリカの意図は完全に頓挫した感がある。これは、アメリカの影響力の大きな低下に結果するだろう。
そうしたタイミングで、11月10日、大手格付会社の「ムーディーズ」は、米国債の格付け見通しを「安定的」から「ネガティブ」に引き下げた。財政赤字の拡大に加えて、「議会内で政治的二極化が継続」しているという政治的混乱が、政府や議会による財政ガバナンスを低下させていることを理由に挙げている。
米議会は11月17日の期限に間に合い、つなぎ予算案が可決しても「ムーディーズ」の評価は変わらなかった。
最近米国債は下落し、長期金利は高止まりしている。これも、アメリカの信用が失墜していることの反映であろう。
☞ ガザ戦争による認識の変化
さらに、ガザ戦争でもアメリカの影響力の低下が目立つ。米バイデン政権と他の欧米諸国は、1,200人が死んだ10月7日の「ハマス」による攻撃はいわれのないテロであり、イスラエルは自国を自衛する権利があるとして、イスラエルのガザ攻撃を支持している。
ガザの民間人の死傷者を抑えるようにイスラエルに要請しながらも、停戦の勧告は行っていない。
イスラエルのガザ攻撃はいまに始まったことではない。
2006年、2008年、2009年、2014年、2021年と攻撃は頻繁に行われ、そのたびに1,000人を越える死者が出ていた。
どの攻撃でもイスラエルの残虐性とガザの市民の悲惨な状況はSNSを中心に広く伝えられていた。
しかしどの攻撃でも、イスラエルはテロの被害者であり、ガザ攻撃はイスラエルの自衛権の行使として正当化されるという論理と説明で一貫していた。そして、おおむね国際世論もこれを受け入れ、ガザの攻撃を招いた責任はテロ組織である「ハマス」にあるとするコンセンサスができていた。またイスラエルは、絶えずテロ攻撃の対象となっているかわいそうな被害者というのが、通用しているイスラエルの一般的なアイデンティティーであった。
しかし、10月7日の「ハマス」の攻撃で始まったガザ戦争で、状況は180度変化しつつある。
もちろん、今回のイスラエルによるガザ攻撃は、規模も死傷者数も、そして残虐性もこれまでのどの攻撃も上回っている。
それがイスラエルに対するイメージと認識を根本から変化させていることは間違いない。
だが、それだけではない。アメリカの覇権失墜による信用と影響力の低下から、これまでアメリカを中心とした欧米の説明や認識の枠組みの通用力がなくなっているのだ。テロ組織に攻撃される被害者としてのイスラエルという、1948年の建国以来欧米を通して喧伝されてきたイメージは、根っこから崩れつつある。
いまでも残る残虐で暴力的なアパルトヘイト国こそ、イスラエルの実態であるというイメージが世界的に共有されている。
このイスラエルに対する強いネガティブなイメージは、毎日のように世界各地で起こっているパレスチナ支持と即時停戦を求める抗議運動の激しさに現れている。
☞ 「ハマス」はテロ組織なのか?
こうした状況の変化の中で、問われているのは「ハマス」という組織の基本的な実態である。
10月7日の「ハマス」によるイスラエルの攻撃は、多くの民間人が死亡した非常に残虐なものであったことは疑いない。
現在でも200人を上回る人質が「ハマス」に捕らわれており、彼らの早期の解放を願う声も多い。
しかし、この攻撃の残虐性によって「ハマス」をテロ組織とする認識には、強い反対意見が世界的に目立つようになっている。
これは、「ハマス」はイスラエルの抑圧に抵抗する正当な運動であるとする見方だ。この根拠になっているのは、意外にも国連の決議や「国際司法裁判所」の見解である。
まず、「国連総会(UNGA)」は、パレスチナ人が武力闘争を含め、イスラエルの軍事占領に抵抗する権利を明確に認めている事実がある。
この権利は、外国や植民地支配下にあるすべての民族の自決権という文脈で肯定された。ちょっと複雑になるが、この内容を見てみよう。
まず「国連総会決議3314(1974年)」は、すべての「植民地支配や人種差別体制、あるいは他の形態の外国人支配下にある諸民族」の自決、自由、独立の権利を確認し、「これらの諸民族がその目的のために闘争し、支援を求め、受ける権利」を確認した。
さらに、「国連総会決議37/43(1982年)」は、パレスチナ人民「および外国と植民地支配下にあるすべての人民」の自決に対する「不可侵の権利」を再確認した。
また、「武力闘争を含むあらゆる利用可能な手段による植民地支配、外国支配、外国占領からの解放を求める人民の闘い」の正当性も再確認した。同様の原則は、他の数多くの国連総会決議でも繰り返されてきた。
国連総会決議には法的拘束力はないが、「世界の主権国家の大多数における慣習的な国際法上の見解」を正確に反映している。
これを見るとはっきりするが、パレスチナ人は武力闘争を含むあらゆる利用可能な手段で植民地支配からの解放を要求する権利があるのだ。
その意味では今回の「ハマス」のイスラエル攻撃は、テロではなく、イスラエルの植民地支配からの解放を要求する攻撃として正当化されることになる。
だが、どんな状況でも武力行使が許されるわけではない。それには制限もある。
国際法では、武力行使の権利は無制限ではなく、非正規戦闘を規制する他の法律と同様に、区別と比例の原則によって規制されている。
「区別」とは、占領軍の戦闘員と民間人を区別する義務のことである。
そのため、パレスチナの武装抵抗は占領軍の兵士とインフラを標的にしなければならず、決して民間人を標的にしてはならないことになる。
☞ 10月7日の攻撃はテロなのか? ※ 関連LINK : おがわの音♪ 第1505版の配信
このように、国連や国際法の現行の規定では、「ハマス」は占領者であるイスラエルの戦闘員とインフラを攻撃している限り、正当な解放闘争であることになる。テロではない。しかし「ハマス」による今回の攻撃は、音楽祭の観客、260人を含む1,200人が殺害された。
これを見ると、やはりこれは「ハマス」によるテロであり、それに対抗するためにイスラエルは正当な自衛権を行使していることになる。
そして、アメリカやイスラエルの提供している既存の言説を疑う傾向が強くなっているので、SNSを中心に今回の攻撃が本当にテロと言えるのかどうか検証が進んでいる。あまり知られていないが、イスラエルはアメリカ以上に国民の分断がある国家だ。
現在のネタニヤフ政権を支持しているのは、イスラエル国内の右派と極右である。
これらはイスラエル国内にパレスチナ国家が誕生することを許さず、パレスチナ人を放逐して、大イスラエルの建設を目指す。
他方、パレスチナ人の国家を認め、2つの国家の共存を主張するリベラルから左派も強い。
彼らは、「Ynot」や「Times of Israel」、さらに「Haaretz」などの大手主要紙に結集して、盛んに言論活動を展開している。
中には、現在のイスラエルを解体し、パレスチナ人と一緒になった新しい国家の形成を主張するグループもある。
右派と極右、そしてリベラルと左派の2つの政治勢力は、それこそアメリカのバイデンの民主党とトランプ支持の共和党が骨肉の争いを繰り広げているように、敵対的に対立している。そして、興味深いことに、リベラルと左派によって、10月7日に何が本当に起こっていたのか解明が進められている。
こうした中でさまざまなことが明らかになっている。「Ynot」や「Times of Israel」の記事を見ると、次のようなことが明らかになっている。
1. 10月7日にガザ近郊の集団農場(キブツ)で殺害された人々の一部は、「ハマス」とイスラエル軍(IDF)の戦闘に巻き込まれて死んだ。「ハマス」による一方的な攻撃ではなかった。
2. 「ハマス」の攻撃でイスラエル軍はパニック状態になり、上空からヘリコプターで無差別に地上の動くものを攻撃した。
「ハマス」の戦闘員と逃げる民間人の区別は不可能だったとパイロットは証言している。
民間人の一部はイスラエル軍によって殺害された可能性がある。
3. 死亡した1,200人のうち、320人はイスラエル軍の兵士や将校だった。また、イスラエルは皆兵制である。
すべての国民は徴兵義務があり、40歳になるまでは予備役として登録される。これらの予備役は軍人として扱われる。
このなかで特に問題になるのは、(2)と(3)だ。少なくとも320人の軍人は戦闘員になるので、「ハマス」の正当な攻撃目標になる。
また、いまのところ割合は分からないが、かなりの数の予備役が犠牲者に含まれている見込みだ。彼らも軍人である限り、戦闘員として見なされる。また(1)は、すべての死者が「ハマス」によるものではないことを示している。
「Ynot」や「Times of Israel」の取材記事が示す状況を見ると、微妙な結果になることが分かる。
少なくともすべての死者が「ハマス」によるテロの犠牲者だとは断言できなくなる。
死者は「ハマス」の正当な攻撃対象となるイスラエル軍の軍人や予備役兵、そしてパニックしたイスラエル軍によって殺害された人々も含まれている。少なくとも、冷血なテロの犠牲者としてのイスラエルという、欧米が喧伝しているイメージは成り立たないことになる。
☞ パレスチナ問題ではイスラエルに自衛権はない
そして、ガザの攻撃はテロの対象となったイスラエルの正当な自衛権の行使であるという主張も、実は成り立たないことがはっきりしている。「国連憲章」の第51条には、攻撃されたときに反撃できる国家の自衛権が正当な権利として保証されている。
しかしながら、ことパレスチナに関する限り、イスラエルには自衛権の権利は否定されているのだ。
2004年、イスラエルが自衛を口実にヨルダン川西岸に分離壁を建設したことに関して、イスラエルではこの正当性が議論されたことがある。
これに対して「国際司法裁判所」は 「イスラエルが国連憲章第51条に基づく正当な自衛権を有すると主張するのは正しくない」と結論づけた。「国際司法裁判所」の文書には次のようにある。
被占領パレスチナ地域における壁建設の法的影響
自衛 – 憲章第51条 – イスラエルに対する攻撃は外国に帰属しない – イスラエルが支配権を行使している領域内で発生した1~11号機の建設を正当化するために持ち出された脅威 第51条は、本件では関係ない。壁の建設とそれに付随する体制は、国際的なIUCVに反する。
ガチガチの法律用語が多く理解するのは難しいかもしれないが、要するにイスラエルはパレスチナを不法に占領しているので、パレスチナに対してはイスラエルの自衛権の行使は認められないということだ。
☞ ほころびるアメリカとイスラエルの論理
アメリカとイスラエル、そしてイギリス、ドイツ、フランスなどは、イスラエルは「ハマス」のテロの犠牲者であり、自衛権の行使としてガザを攻撃する権利はある。
しかしながら、民間人の犠牲は最小限に押さえるべきだと主張している。だがこの主張は、根本から成立しないことが明らかである。
こうした事実の根拠となった数々の国連決議や、「国際司法裁判所」の意見書などは、かなり以前から存在していた。
パレスチナ人には武力を手段とした正当な抵抗権が認められていること、そしてイスラエルにはパレスチナに対する自衛権は認められないことなどは、何年も前から明確だった。イスラエルを不当なテロの犠牲者とし、パレスチナの攻撃をイスラエルの正当な自衛権の行使であるとするこれまでの認識は通用しなくなっている。
もちろん、その理由の1つは、今回の攻撃の規模と死者数が飛び抜けて高いことにあることは間違いない。
だが、アメリカの影響力の凋落で、アメリカが中心となって提示してきた認識が信用されなくなったことが、最大の理由であろう。
特に、BRICSに結集しているグローバルサウスの国々は、国連決議や「国際司法裁判所」の文章などを根拠に、アメリカの説明が成り立たないことを盛んに暴いている。
そして、この新しい見方がSNSなどを通して世界的に拡散し、パレスチナを支持して即時の停戦を求まる世界的な運動に拡大しているのだ。パレスチナ支持の運動の高まりは、アメリカの影響力失墜の反映である。
☞ 米国内の反発
イスラエルとパレスチナ問題に対する見方のこのような大きな変化は、アメリカ国内でも顕著な動きとなって現れている。
最近起こった出来事は、これを顕著に表している。
11月14日、約40の政府機関を代表する500人以上のホワイトハウスが任命した管理職、そして一般の職員が、バイデン大統領に書簡を送り、ガザでの戦争におけるイスラエル支持に抗議した。
この書簡は、政権のガザ戦争支持に対する反対意見の高まりの一環であり、大統領に対し、ガザ地区での即時停戦を求め、イスラエルに人道支援を認めるよう働きかけるよう求めている。
この書簡は、バイデン政権全体から提出された数通の抗議文のうちの最新のもので、国務省の職員数十人が署名したアントニー・ブリンケン国務長官宛ての3通の内部メモや、「米国際開発庁」の職員1,000人以上が署名した公開書簡も含まれている。
この書簡には次のようにある。
「私たちはバイデン大統領に対し、緊急に停戦を要求し、イスラエルの人質と恣意的に拘束されたパレスチナ人の即時解放、水、燃料、電気、その他の基本的なサービスの回復、ガザ地区への適切な人道援助の確保によって、現在の紛争を非エスカレーションに導くよう求める」
これまでバイデン政権は、ガザのパレスチナ人への人道的な配慮の姿勢は示しつつも、ガザ攻撃をイスラエルの正当な自衛権の行使として認める立場から、テロ組織の「ハマス」を利することになるとして、停戦の勧告を拒否してきた。
今回の抗議文書は、イスラエルとパレスチナ問題に対する既存の認識が、米政府の内部でも揺らいでいることを示している。
☞ ドゥーギンの多極的世界のイメージ
このように、イスラエルとパレスチナ問題に対する認識の世界的な変化は、アメリカの覇権と影響力の失墜の端的な反映である。
つまり、イスラエルへの認識の変化は、アメリカが主導しない新しい世界のイメージを提示する契機になっているのだ。
この新しい世界観は、多極型秩序を提唱するBRICSとグローバル・サウスが主導して形成するものだ。
そうした中で、いまSNSで非常に注目されてるのは、ロシアの右派を代表する思想家で、プーチンの思想的なブレーンともされているアレキサンドル・ドゥーギンである。
ガザ戦争が始まってからドゥーギンは、Xにほぼ毎日長文の投稿をして、アメリカの覇権に代わる多極型世界のイメージを広めている。
これが方々で引用され、拡散している。投稿の一部を引用する。
イスラエルはウクライナと同様、威圧的で冷酷な西側覇権の道具にすぎない。
イスラエルは犯罪行為や人種差別的なレトリックや行動から逃げない。しかし、問題の根源はイスラエルそのものにあるのではなく、むしろ一極世界の枠組みの中で地政学的な道具としての役割を担っていることにある。
これは、ウラジーミル・プーチン大統領が最近、「クモ」によって編まれた敵意と対立の網に言及したとき、「分割統治」原則に基づく植民地主義戦術を採用するグローバリストの比喩として述べたことと正確に一致する。
(中略)
ガザ地区とパレスチナ全体で進行中の紛争は、特定のグループやアラブ人全般だけでなく、イスラム世界全体とイスラム文明への直接的な挑戦となっている。欧米がイスラムそのものと対峙していることはますます明白になっており、この現実は今や多くの人が認めている。サウジアラビア、トルコ、イラン、パキスタンといった国々から、チュニジアからバーレーンにまたがる地域、サラフィストからスンニ派、スーフィズムまで、パレスチナ、シリア、リビア、レバノン内のさまざまな政治的派閥、さらにはシーア派とスンニ派の分裂に至るまで、イスラム文明の尊厳を守る集団的な必要性がある。
イスラム文明は、いかなる不当な扱いも拒否する、主権を持つ独立した文明である。
エルドアンが紛争への対応としてジハードについて言及したことは、歴史的な十字軍を思い起こさせるが、この例えは現在の状況の本質を十分に捉えていない。現代の西洋のグローバリゼーションは、キリスト教文明から大きく乖離し、物質主義、無神論、個人主義を優先するあまり、キリスト教文化との多くのつながりを断ち切った。
キリスト教は、物質科学や利潤を第一義とする社会経済システムとはほとんど関係がなく、逸脱を合法化したり、病理を規範として受け入れたり、イスラエルのポスト・ヒューマニスト哲学者ユヴァル・ハラリが熱心に推進するポスト・ヒューマン的存在への傾倒を支持するものでもない。
現代の西洋は、反キリスト教的な現象であり、キリスト教の価値観やキリスト教の十字架の受け入れとのつながりを欠いている。
イスラム世界が西洋と衝突するとき、それはキリスト文明との衝突ではなく、むしろ反キリスト文明と呼べる反キリスト文明との衝突であることを認識することが重要だ。
多極型秩序というと、現在では中国やロシアを中心としたBRICS諸国とグローバル・サウスが協力することで作られる新しい政治経済秩序というイメージが強い。
そこでは、アメリカの一極集中の秩序に支配されることのない、それぞれの国の独自性が尊重される多様性のある秩序になるとされている。
しかしドゥーギンは、このイメージをさらに進化させる。
ドゥーギンは多極型秩序を新しい政治経済秩序としてだけ見るのではなく、欧米とは異なった文明が複数出現する文明史的な転換の過程であると見る。それは、文化圏が固有の精神性と独自性に目覚め、自らを文明として新しく形成する運動だ。
そしてガザ戦争こそ、新しく多様的な文明が出現するプロセスを解除する契機だというのだ。
ガザ戦争が契機となってイスラムは団結する。イスラムの対抗軸になるのは、キリスト教ではなく、現在の欧米が象徴する精神性を忘れた物質主義に走る反キリスト文明である。いま、イスラムを文明として再度形成する歴史的なプロセスが始まったと見るのだ。もちろん、これを同じことは、東アジアを始め他の文化圏でも起こる。
だからドゥーギンにとって、多極型の秩序とは、単なる政治経済的な概念ではない。
文明史的な概念である。このツイートはあらゆるサイトに拡散している。
どうもイスラム圏の人々は、この投稿を読むことではっとして、これまで宗派や国益の対立で分裂してきたイスラム圏が、精神のない物質文明に対する対抗軸として、忽然と姿を現すのを、ガザ戦争を契機に実感しているのかもしれない。
ドゥーギンは、アメリカの覇権に代る多極型秩序を文明史の転換として見る。ガザ戦争以降、こうしたイメージが広く支持されているように見える。そして、もし一国主義のトランプが次の大統領になると、アメリカも自らの独自な文明に引きこもって世界から撤退し、その結果、ドゥーギン的な多極型の文明の世界が出現するのかもしれない。
アメリカの影響力失墜でイスラエルとパレスチナ問題に対する認識は根本的な変化している。
そしてそれは、ドゥーギン的な世界の見方を切り開くことになった。注目すべきだろう。
※ 記事抜粋
アメリカの“対中外交戦略”に次々と浮上する「不都合な問題」とは?
2023.11.15
by 『富坂聰の「目からうろこの中国解説」』
米サンフランシスコで日本時間12日に始まったアジア太平洋経済協力会議(APEC)の期間中に米中首脳会談が予定されていて、懸案山積の国際情勢のなかで、大きな注目を集めています。米国と中国それぞれの思惑について解説するのは、多くの中国関連書を執筆している拓殖大学の富坂聰教授。大統領選挙を控え、中国に甘い姿勢を見せられないバイデン大統領が中国からロシア批判やハマス批判を引き出すのは容易ではないと分析。
国際情勢はいま、中国にとって強い追い風となっていると伝えています。
イスラム武装組織ハマスの越境テロ攻撃から1カ月が過ぎた。
パレスチナの人々が暮らすガザ地区へのイスラエル軍の報復攻撃は凄まじく、崩壊した建物の瓦礫をかき分けるパレスチナの人々の映像が連日のように伝えられている。その惨劇は、ロシアによるウクライナ侵攻で見慣れた光景とは、また次元の異なる破壊として人々の目に焼き付けられている。
多くの懸案が世界に山積するなか、今月12日からアジア太平洋経済協力(APEC)首脳会議がサンフランシスコで開催される。注目は、会議に合わせて行われるジョー・バイデン大統領と習近平国家主席の対面による二度目の首脳会談だ。国際政治の一つのハイライトだ。
西側メディアの関心は、例によってイスラエル・パレスチナ問題とロシア・ウクライナ問題をめぐる二大国の駆け引きに向けられている。即ち、中国をいかにロシア批判やハマス批判に引き込めるかというバイデン政権の思惑だ。
だが、中国の優先順位はそうではない。米中首脳会談はあくまでアメリカと中国の「二国間関係を整える場」と考えているからだ。
中国が獲得したいのはトランプ政権下で激増した対中制裁関税の解除や安全保障を理由とした輸出・投資の制限の撤廃である。安全保障面では、台湾問題を利用して中国をけん制する動きを止めさせることだ。
いずれも歩み寄りは簡単ではない問題だ。大統領選挙を控えたアメリカでは、民主党と共和党との対立が激しさを増し、与野党が協力できる材料は乏しい。だが、そんな中にあっても対中国では両党議員が「強硬」でまとまっているのがアメリカ政治の特徴だ。
先月は下院議長の選出で混迷し、共和党の内部で亀裂が浮き彫りになった。そしてここでも党の団結を呼びかけるために引き合いに出されるのが中国だ。
そもそもアメリカ人の対中感情の悪化や議会の雰囲気を考慮すれば、バイデン政権が中国に柔軟なメッセージを発することは期待できない。また一方の中国にもアメリカに歩み寄る気配は感じられない。
デカップリングやAUKUSなど、バイデン政権の繰り出す仕掛けにはうんざりしながらも、慌てて妥協する要因とはなっていないからだ。
そもそもアメリカは、中ロという核兵器を保有する二つの大国と同時に対峙することで大きなプレッシャーに晒されている。
ロシアのウクライナ侵攻後、プーチン政権を孤立させ経済制裁で弱体化させようとしたアメリカの試みは奏功したとは言い難い。その大きな要素として挙げられるのが、中国やインドがロシアとの通常の貿易を止めなかったことだ。
加えて対ロ制裁の抜け穴となったのがグローバル・サウスの存在だ。西側先進国の団結とは異なり、発展途上国のほとんどは対ロ制裁には消極的だった。そしてここにきてロシアの戦争継続に大きく貢献し始めたとアメリカが疑っているのが金正恩率いる北朝鮮だ。
北朝鮮とロシアの相互軍事支援の強化にバイデン政権が神経を尖らせていることは、今月9日、韓国を訪問してパク・チン(朴振)外相と会談したブリンケンの発言からも読み取れる。
ブリンケンは韓国で、「北朝鮮に対し、中国が建設的な役割を果たすことに期待する」(アントニー・ブリンケン米国務長官)と唐突に中国に注文を付けた。おそらく首脳会談でも話題に上るはずだ。だが、いまの習近平政権が簡単にこの呼びかけに応じるとは考えにくい。
かつてトランプ政権の初期には、ウイグル問題や香港問題で中国を揺さぶろうとするアメリカに不満を覚えながらも北朝鮮にプレッシャーをかけてアメリカに協力した。
しかし現在の中国には対米不信が根深い。
首脳会談でアメリカが約束したことさえ「信用できない」と考えているほどだ。しかも当時と比べて中国にとっての北朝鮮の価値は大幅に増しているのだ。さらに重要なのは、現在の国際情勢が中国に強い追い風だという点だ。
冒頭で触れたイスラエルとハマスの戦争は一つの大きな画期であり、その影響力は凄まじい。
例えば、中東で進みつつあったイスラエルとサウジアラビアの国交正常化の動きが、ハマスによってほぼ完璧に消し去られてしまったことだ。・・・
※2023年11月12日号より一部抜粋
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