情報提供を要請するも、中国には隠蔽の前歴
The New York Times
2023年11月28日
世界保健機関(WHO)は、原因不明の肺炎が子どもたちの間で増加しているという未確認のメディア報道を引用し、中国に対して、呼吸器疾患の急増について詳細な情報を提供するよう正式に要請した。
小児病院に長蛇の列
中国はここ何カ月かで呼吸器疾患が急増したと報告している。
中国メディアは、小児病院に長蛇の列ができている様子を報道。医師たちも、今年の流行は過去数年よりも深刻だと述べている。
中国当局はこの疾患について、インフルエンザ、新型コロナウイルス感染症の原因ウイルスSARS-CoV-2、通常なら子どもたちに軽い症状しか引き起こさない一般的な細菌である肺炎マイコプラズマといった、既知の病原体が原因だとしている。
しかし一部のニュースやソーシャルメディアの報告では、肺炎を起こした子どもが病院に押し寄せているが、その原因は特定されていないと伝えられている。WHOは22日、中国に対し、さらなる情報提供を要請した。
「この事態が、中国当局が以前報告した呼吸器感染症の全体的な増加と関連しているのか、または別の出来事が関係しているのかは明らかでない」。国連機関であるWHOは、23日に出した声明でそう述べた。
2003年にSARS(重症急性呼吸器症候群)が流行した際も、2020年に始まった新型コロナウイルスのパンデミックの際も、中国が行う感染症の監視と報告は世界的な批判と検証の対象となった。
中国当局はSARSと新型コロナのいずれにおいても、初期の症例を隠蔽し、さらなる情報提供や患者データへのアクセスを求めるWHOを含む海外の保健関連機関の要請にまともに応じなかった。
「中国からの報告は透明性の点で懸念がある」
複数の専門家は取材に対し、現在の症例増加は懸念すべきものではないかもしれないとし、原因不明とみられている症例の原因はさらなる検査によって明らかになる可能性があると語った。その一方で専門家たちは、世界では多くの人々が中国からの報告に警戒心を抱いていることを認めた。
「間違いなく、中国からの報告には透明性の点で懸念がある」。
オーストラリアのニューサウスウェールズ大学でグローバル・バイオセキュリティを専門とするレイナ・マッキンタイア教授は、「新型コロナウイルス感染症のときに起こったことを踏まえ、WHOは先手を打つ決断を下し、この段階で中国に情報提供を要請したのだと思う。これは良いことだ」と話した。
WHOは、子どもたちの間で発生したと報告されているクラスターに関する分析結果に加え、医療体制の現在の逼迫度合いについての詳細な情報提供を要請したと発表した。中国国内のネットワークを介して臨床医や科学者たちとも連絡を取っているという。
台湾メディアによる報道の1つは、国際感染症学会が運営する感染症追跡サイトProMEDでも共有されている。
2003年のSARSウイルスとSARS-CoV-2でも、初期の報告のいくつかはこのサイトで共有された。
中国当局は今回、未知の病原体についての懸念を公に認めておらず、WHOの声明にも公には応じていない。
中国当局は国内のメディアを通じ、呼吸器疾患の急増は中国が3年間にわたって続けてきた厳格なコロナ対策規制を解除したことが一因であるとし、冷静な対応を呼びかけている。
こうした規制によって通常なら冬に流行する他の感染症の多くが抑制されたことで、足元での呼吸器疾患の増加は劇的なものに見えているが、実際は例年どおりの状況だと、北京呼吸器疾患研究所の童朝暉所長は11月13日に中国国家衛生健康委員会が主催した記者会見で述べた。
気管支鏡検査が1日67回行われている
国家衛生健康委員会は、疾患急増に関する全体的な統計を発表していない。
しかし地方政府の報告によると、安徽省のある小児病院では、通常なら1日に10回程度しか行われない気管支鏡検査が1日に67回も行われたという。
中国東部の杭州市の国営メディアは、1つの病院を訪れる小児外来患者が、コロナ規制がまだ続いていた昨年の3倍に増加したと報じた。
その記事によると、病院を訪れた子どもの約30%〜40%がマイコプラズマ肺炎と診断されている。
ニューサウスウェールズ大学のマッキンタイア教授の話では、原因不明の肺炎の症例が現れること自体は新たな病原体発生の兆候とはならない。
肺炎のような症状が見られるケースはかなり一般的であり、診断で原因が特定できるかどうかは、その国の監視・検査システムしだいとなる。
ほかの国々でも、パンデミック対策の規制解除後に新型コロナとそれ以外の感染症に感染する人が急増したため、中国でもこれと同じことが起こっている可能性がある。
中国の医師たちは、今回の患者にはさまざまな感染症や薬剤耐性を持った感染症が見られ、それによって症状が悪化している可能性があると話している。
重要なのは、中国で病気になった子どもたちを検査し、それが既知の原因によるものなのか、あるいはそうではないのかを確認することだとマッキンタイア氏は言う。
「検査結果が繰り返し陰性となるなら、それは新たな病原体(の存在)を指し示すものとなる」
中国国民に広がる不安
中国では親たちの間で懸念が高まっているようだ。小さな診療所にかかるか、軽症の場合は自宅で過ごすよう専門家が勧めているにもかかわらず、彼らは病院に押し寄せている。ニューヨーク・タイムズに提供された北京のある病院の写真には、女性とともに床に横たわっている子どもの姿と、ロビーにできた長蛇の列が写っている。
3歳の男の子の母親ウー・スーさんは、11月2日に軽い発熱と咳の症状が現れた息子を北京児童医院に連れて行ったところ、8時間以上も待たされたと語った。男の子は後にマイコプラズマ肺炎と診断された。
「狂っている」。ウーさんは待ち時間についてそう言った。「こんなことが毎年起こったら、親たちは耐えられない」
香港大学のウイルス学者・金冬雁教授は、中国政府は現在の感染の波が新型コロナ禍前の状況より深刻ではないとする主張の裏付けとなるデータを早急に提供すべきだと述べた。
足元での感染の急増について、金氏はほかの場所で起きた同様の現象を指し示しながら、「私たち専門家の判断としては、これはそこまで大騒ぎする問題ではないかもしれない。すべては十分に予測されていた」と話した。
だが、「人々は敏感になり、過剰反応している。とにかく、人々に真実を伝えることだ」と金氏は言った。
(執筆:Vivian Wang記者、Siyi
Zhao記者)
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