トヨタの全方位戦略は成功なのか?
EV戦争を静観する3つの理由。海外での評価も解説
2023年11月4日
佐々木悠
トヨタはまだ成長できるのか?これは日本の経済を考える上で非常に重要な疑問です。トヨタの戦略において中核となるのは「全方位戦略」です。この全方位戦略とはどのようなものなのか、それはうまくいっているのか?アメリカ、中国、アジアの地域ごとの潮流を抑えていきながら、評価・分析していきます。
トヨタは世界トップの自動車メーカー
まずは、トヨタの業績推移を見てみましょう。リーマンショックで業績が大きく落ち込んだものの、24年3月期は売上と営業利益で過去最高を達成見込みです。じっくりと成長していることがわかります。そして、22年の販売台数は世界トップ。名実ともに自動車業界のトップ企業です。
出典:各社IR/ニュースより作成
出典:23年3月期 決算説明資料より作成
これだけの販売規模を誇りますから、トヨタは世界中で自動車の生産・販売を行っています。北米における販売が最大であり、次いで日本とアジア地域が続きます。
このようにトヨタは世界中に展開していることから、それだけ多くの自動車メーカーと競争しています。そして、その世界の競合他社はBEV(バッテリーEV車→完全電動車であり走行時のCO2排出量が少ない)生産に全力を注いでいると言って良いでしょう。その中でトヨタは全方位戦略を打ち出しています。
ここからはその理由と効果を解説します。
この戦略がどのようにトヨタの成功に寄与しているかの理解を深めていきましょう。
トヨタの全方位戦略とは何か?
全方位戦略とは「BEVだけでなく、ハイブリッドや水素燃料電池などの様々な脱CO2の自動車の生産に注力する」というものです。
GMやホンダなどグローバル競合各社が、BEVの量産を目指しているのに対し、方向性が微妙に違うのです。
トヨタが全方位戦略を打ち出す理由は3つです。
<業界リーダーとしての視点>
頼るエネルギーを電気に一本化した時、仮に電気に何か問題が起きたらエネルギー安全保障をどう担保するのかを考えている。
<巨大自動車産業の雇用確保>
BEVは比較的構造が単純である事から、膨大な数の下請け企業と、そこで働く人たちを守るために、内燃エンジン型の脱CO2カーの可能性を追求している。
<地域を問わずカーボンニュートラルを実現>
アジアなど急速な電動化が難しい地域もある。
実現可能で、社会インフラやエネルギー事情を考慮しながらカーボンニュートラルを実現し、地域ごとに異なる事情に応じそれぞれの解決策を提案する。 この戦略が、どのようにしてトヨタの持続可能な成長と、競争力を支えているかを考えます。
まずはBEVの潮流に乗り遅れないこと。
特に今年の4月に社長が豊田章男氏から、エンジニア出身の佐藤恒治氏に交代して以降、BEV量産に向けた戦略をアピールしているように感じます。
一方でBEV以外に注目が集まった際に備えて、ハイブリッドや水素燃料電池などの開発にも力を入れているのです。
しかし、全方位戦略は「どっちつかずの戦略」と揶揄されることもあります。
トヨタはBEVで遅れている、という印象があるのは、このためかもしれません。
実際、中国のBYDなどの企業は比較的低価格のBEVをすでに販売しています。
しかし、トヨタにとってはBEVは未だ「未来のクルマ」感が否めません。
少なくとも日本では、日産の軽自動車のBEV(サクラ)が好調である中、トヨタのBEVが国内で好調である、というニュースは聞きません。このように、BEVで遅れをとっているトヨタの全方位戦略ですが、逆に評価されている側面があります。
それは、BEVの課題が意識されているためです。
BEVの課題がハイブリッド見直しの流れを生んでいる
実はBEVの利用と普及には2つの課題があります。
<1. コスパが悪い>
まず、BEVとHVの電池には大きな差があります。
BEV電池は重く高価であり、HV車の電池に比べて加速性能や燃費に悪影響を与えます。
従って、ガソリン車に比べて車体の値段が高いにも関わらず、移動距離が稼げず、充電による電気代もかかる、と言う意味でコスパがあまり良くない、と言えるのです。
今後さらに電気代が上がれば、ランニングコストも増大します。
値段が高い割に走行距離が短いという課題を、電池の研究開発でカバーできるかが鍵になります。
<2. 充電とCO2>
BEVが普及したとしても、充電スタンドの課題もあります。
都市部では充電ステーションが充実したとしても、地方や過疎地では充電設備が不足するリスク、高速充電器を使用しても、ガソリンを給油する時間に比べて充電には時間がかかかる可能性、充電ステーションの設置には高額なコストがかかること、これらがインフラ整備の進展を妨げる要因となっています。
一方でBEVが進んでいるドイツでは、路上充電が普及しています。
しかし、例えば日本では路上充電=路上駐車となるため、普及しづらいでしょう。
地域・文化的な違いからBEVが普及しづらい現状もあるのです。また、結局電力発電時のCO2があるため、そこまで環境に優しくない、という話もあります。
出典:日刊自動車新聞
これでは、そもそもエコなのか?と言う疑問も湧いてきます。
停電のリスクなども踏まえると、BEVを使うことに課題が湧いてくることも頷けます。
このように、BEV普及には課題があることから、ハイブリッド車の見直しが進んでいるのです。
BEV全集中、と言う訳ではないトヨタが、結果的に評価される局面に来ているのです。
アメリカ、中国、東南アジア…地域ごとのトヨタの戦略
では、トヨタの全方位戦略の実態はどうなのでしょうか?地域ごとの市場の状況と、トヨタがやりたいことを確認しましょう。
<アメリカの現状>
トヨタがアメリカで最も意識していることはBEVの生産です。
ノースカロライナ州で工場を建設し2025年にBEVのSUVを生産予定です。
一方でアメリカでは、充電箇所が不足しているなどの問題があることから、HVに注目が集まっています。
米国の全住民の3分の1以上が集合住宅で暮らしているため、個人が自宅に充電設備を設置することは難しいのです。
米エネルギー省によると、国内に設置されているBEV用公共充電スタンドは50,000カ所足りません。
トヨタはアメリカでBEVの現地生産を目指しながらも、ハイブリッドに注目が集まっていることからどちらの方向性に行ってもトヨタにチャンスが回ってくるでしょう。全方位戦略の成功地域であると考えます。
<中国の現状>
トヨタは中国で2024年に、現地のニーズに合わせたBEVを2種投入する予定です。その後、モデル数を増やすことを目指しています。しかし、中国では外資メーカーが値下げ圧力にさらされています。
そもそも中国は世界最大の自動車市場であり圧倒的なBEV普及率を誇ります。
背景には、国をあげてBEVを推し進めていることがあります。自動車メーカーに一定割合の新エネ車の販売を義務付けるのです。
国内産業優遇を行いながら環境規制を行うことで、外資系に高い障壁を作っています。
実際に、つい先日の23年10月24日、BEVが比較的進んでいる三菱自動車が中国からの撤退を表明しました。
それだけ日系企業にとっては難しい市場であることが分かります。
中国は圧倒的な世界一の規模を誇る市場だが、世界一攻略が難しい。
トヨタをはじめとした日本の自動車メーカーが、中国で躍動するイメージは持てない。このような現状だと考えます。
<東南アジアの現状>
アジアをはじめとする新興国ではニーズが伸び始めているBEVに加え、収益力が高いHVを販売する予定です。
この東南アジア地域は、新車や増車による市場拡大が見込まれる成長領域といえます。
今後、トヨタのHV事業の大きな役割として期待されているのはアジア地域です。
新興国向けこれらの国では現在ガソリン車を中心とした自動車市場そのものが拡大基調にあり、今後は一定のCO2削減が実現できる「環境にやさしい」HV車の需要増加が見込まれています。
先進国を席巻してきたトヨタのHVを今後は対新興国に活用することで、全方位戦略の費用確保に向けた大きな収益源として期待されています。
まとめると全方位戦略は、・・・
アメリカ○、中国×、東南アジア○、このような勝敗であると考えます。
トヨタの戦略がもたらす利点と今後の課題
トヨタの全方位戦略の目的と効果について理解していただけましたか?
トヨタは全方位戦略によって世界中の異なるニーズに対応することを目指し、概ね実現しています。
株価の評価も上々であり、株価が上がらないメーカーもある中で、トヨタの株価は相対的に上がっています。
出典Yahooファイナンス
青:トヨタ 赤:GM 緑:フォード
とはいえ、全世界的に市場はBEVに注目している現状もあります。
競合他社の投資額が増えている中で、トヨタの投資額はそれについていけるのかどうか?
中国のメーカーが低価格帯のBEVを開発している中で、どこまで売価をコントロールできるか?この辺りが今後の課題です。
一方で、ハイブリッドの注目が集まっている側面もあり、トヨタは一定の評価がなされています。
途中、トヨタの戦略に政治家や投資家から疑問が湧いた時期がありましたが、結果的にトヨタの全方位戦略はうまくいっていると考えます。
首相の任 能わざる
最後までお読みいただき、有り難うございました。 ☚ LINK
*** 皆さんからの ご意見・ご感想など 『
※ メール・BLOG の転送厳禁です!! よろしくお願いします。
コメントをお書きください