プロだけ活発な回路、瞬時に最善手
2023年10月13日
朝日新聞デジタル
将棋界初の8タイトル独占を果たした藤井聡太八冠(21)=名人・竜王・王位・叡王・王座・棋王・王将・棋聖。
快挙を達成した21歳の若者の頭の中はどうなっているのだろうか。
棋士の脳内を研究する理化学研究所(理研)脳神経科学研究センター特別顧問の田中啓治氏は偉業をたたえつつ、「プロだけに働く脳の回路で、集中力を省力化している可能性がある」と分析する。
棋士巡り理研分析
プロ棋士は、脳内に将棋盤を描き、数十手先まで予測して、あらゆる思考を働かせて指す。そう思っている人も少なくない。
だが、田中氏は「プロ棋士は1秒で最良の手にたどり着く。これは本人も意識していない『直観』という。
直観は先天的なものではなく、毎日3時間の集中した訓練を10年以上積むと得られるという。いわゆるインスピレーションと言われる「直観」とは異なる。
田中氏は「藤井八冠は質の高い訓練によって、この直観が他の人より、鋭くなっているのではないか」と指摘する。
2011年に発表した調査で、理研などのチームが、日本将棋連盟の協力を得て羽生善治名人(当時)らプロ棋士とアマチュアの有段者らに脳活動を調べる装置の中で、将棋の盤面を見てもらったところ、プロだけが活発に働く領域が二つあることがわかった。
1つは、直観的な選択の際に働く、脳の奥の方にある大脳基底核の「尾状核」だ。体で覚えた行動をするときに活性化すると言われる。
問題を1秒だけ見せ、答えを2秒以内に四つの選択肢から選ぶ時、プロだけにいつも活発な動きが見られたという。
もう一つは、実践的な盤面を見たときに活発になる「楔前部」。空間イメージをつくるときに活発化する。
この二つは連動しており、プロは盤面情報を楔前部で処理し、瞬時に尾状核へ送り込む、と田中氏は言う。
「長年の訓練で、二つを結ぶ神経回路が発達している」
この神経回路は誰にでもある。例えば、料理をしたり、車を運転したりするときに働くという。
「毎回同じ材料でなくても、料理が出来る。すべて記憶によるのではなく、何度も同じ学習をすることで、応用もできるようになる」
プロ棋士は一般的には単純なイエス、ノーを決める神経回路を、複雑な一手を選ぶときに使う。
そのことで、無意識に短時間で、多くのエネルギーを消費することなく、最善手を決められる可能性があるという。
田中氏は、藤井八冠のこの神経回路が他の棋士よりも発達し、「直観力が高い可能性がある」と分析する。
直観力を支える理由の一つとして、AI(人工知能)を挙げる。
藤井八冠は16年頃からAIを研究に採り入れたと取材に語っていた。
「人間の10年分を1日で学習してしまうのがAI。AIから学ぶことで藤井八冠の訓練の質があがり、回路の発達に影響しているのではないか」
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