2024年にも世界大恐慌か?
引き金となる6つのメガトレンドと日本経済への影響
高島康司
2023年10月9日
いま世界を動かしている6つのメガトレンドと、その結果として起こる世界的な不況の可能性について解説したい。今後、なにが起こり、世界と日本がどうなるのか注目しなければならない。
世界を動かす6つのメガトレンド
いま世界を動かしている6つのメガトレンドと、その結果として起こる世界的な不況の可能性について解説したい。
いまウクライナ戦争、欧米とロシアとの厳しい敵対関係、米中の先鋭化する軍事対立、アフリカ、西サヘル地域における革命とロシアの勢力拡大、欧米の凋落とBRICSの拡大など、いま世界史的な転換点にあることは間違いない。
今後、なにが起こり、世界と日本がどうなるのか注目しなければならない。
では、そうした状況で、今年の年末から2024年にかけてなにが起こるのだろうか。気になるところである。
それを判断するためには、世界の動きを左右する6つのメガトレンドを確認しておく必要がある。
このトレンドを見ると、これから世界的な不況が迫っている恐れがあることが分かる。
その6つのメガトレンドとは、以下のものである。
1. ウクライナ戦争の長期化、2035年まで続く?
2. 米中対立とBRICS経済圏とのデカップリング
3. 食料、資源、エネルギー、IT製品価格の高止まり
4. 慢性的な労働力不足と賃金の上昇圧力
5. インフレの恒常化
6. 高金利の恒常化
これらのメガトレンドをそれぞれ見て見よう。
<世界を動かすメガトレンド(1)ウクライナ戦争の長期化、2035年まで続く?>
将来的に停戦はあり得るだろうが、ウクライナとロシアとの敵対関係は永続化する。
それに伴い、ロシアと欧米との鋭い敵対関係もロシア制裁も実質的に永続化する。
ウクライナは敗北する可能性は高いが、関係改善の糸口が見えてくるのは、何十年もかかるだろう。
アレストビッチの言うように、2035年まで続くかもしれないし、さらに敵対関係は長期化するかもしれない。
<世界を動かすメガトレンド(2)米中対立とBRICS経済圏とのデカップリング>
いま米バイデン政権は中国との対話を模索していうように見えるが、実際の米中関係は改善しているとは言えない。
バイデン政権は背後で中国を軍事的に封じ込める準備を着々と進めている。
このような状況は、日本の主要メディアではあまり報道されていない。
一方、中国だが、経済の悪化と成長の大幅な鈍化が伝えられているものの、実際に調べてみると、思っているほど状況は悪くはない。不動産バブルの破綻の余波も最小限に押さえられ、安定成長の軌道に乗る公算の方が高い。
そうした中、中国は、ロシアを始めとしたBRICS諸国と共同して、BRICS経済圏を急速に拡大している。
BRICSは欧米には依存しない独自の決済システムを備えた独立した経済圏として、「世界銀行」や「IMF」、そして
「世界貿易機構」や「SWIFT」などワシントンコンセンサスを中核としたアメリカ主導の経済圏からデカップリングしつつある。これも背景になり、中国とロシアに対するアメリカの経済制裁は長期化する。
<世界を動かすメガトレンド(3)食料、資源、エネルギー、IT製品価格の高止まり>
ウクライナ戦争の終結やBRICS経済圏の拡大には歯止めがかからないので、ロシアと中国に対する欧米の経済制裁の長期化は避けられない。これに伴い、食料、資源、エネルギー、そしてIT製品などの価格は高止まりすることになる。
もちろん価格の変動はあるだろうが、中ロに対する制裁解除の方向性が見えない限り、価格の高止まりは長期的に続くことになる。
<世界を動かすメガトレンド(4)慢性的な労働力不足と賃金の上昇圧力>
こうした状況でも、先進国の慢性的な労働力不足は続いている。これにはいくつかの理由がある。
パンデミックで拡大したリモートワークでフリーランス化が急速に進んだこと、特にエセンシャルワーカーが別分野でフリーランス化したこと、株や暗号資産への投資収入で生活できる人口が増えたこと、パンデミック後の超過死亡率の増大で労働力人口が減少傾向にあることなどだ。こうした状況が背景となり、先進国では慢性的な労働者不足が恒常化しつつある。
そして、労働者不足が背景になり、賃金の上昇圧力は強くなっている。
もちろん日本は例外だが、多くの先進国では、毎年5%を越える賃上げが当たり前になっている。
<世界を動かすメガトレンド(5)インフレの恒常化>
中ロ制裁の長期化や、労働力不足による賃金の上昇圧力などが背景となり、主要先進国ではインフレが恒常化している。
昨年に比べると落ち着いてきてはいるものの、それでも主要な先進国では、インフレ率はかなり高い水準に止まっている。
高インフレ状態は恒常化する可能性は高い。
<世界を動かすメガトレンド(6)高金利の恒常化>
資本主義のシステムにとって、一定水準を上回るインフレはいわばガンのようなものである。
高いインフレは労働賃金の上昇圧力となる。
賃金コストの上昇は企業の利益を減少させるので、企業は製品価格の引き上げで補おうとする。
この結果、製品価格と労賃が相互に刺激しあってインフレが加速し、インフレのコントロールが効かない状態になる。
これを回避するためのもっとも有効な手段は、中央銀行による金利の引き上げである。
事実、欧米の主要先進国の中央銀行は、昨年の2月にウクライナ戦争が始まってから、複数回金利を引き上げている。
高金利の恒常化とその余波
この6つが、世界を動かしているメガトレンドだ。
こうしたメガトレンドの結果として、2024年には顕在化すてくる可能性のあることは、恒常化しつつある高金利がもたらす余波の顕在化という事態だ。
もちろん高金利はローン金利を引き上げてしまうので、住宅ローンや商業不動産ローンの破綻を招きかねない。
これらのローンが破綻すると、ローンの提供先となった銀行は膨大な不良債権を抱えることになる。
そして、特に資金力の弱い銀行が破綻する可能性がある。もちろん政府と中央銀行はこれに対応するだろうが、対応のスピードが追いつかない場合、金融危機の発生から深刻な景気後退に陥ることになる。
アメリカの具体的な状況
もちろん、まだ商業不動産の崩壊は起こっていないし、財務状態が厳しい銀行はあるものの、銀行破綻の連鎖も起こっていない。いまのところは大丈夫だと見てよい。しかしながら、高金利が恒常化すると、その余波はかなりあると思っていた方がよい。ここで、アメリカの状況を少し具体的に見てみよう。数値は以下のようになっている。
・インフレ率 :3.7%
・食料インフレ率:4.30%
・家賃インフレ率:7.27%
・賃金上昇率 :5.73%
・金利 :5.50%
平均のインフレ率は3.7%だが、食料と家賃という生活に直結したものの価格が高いので、国民への負担は大きい。
一方、労働力不足が背景にあるため賃金の上昇率も大きい。これがまたモノの価格をさらに押し上げる原因にもなっている。
このようなスパイラル型のインフレをコントロールする必要から、金利は恒常的に高い状態が続く。
いまアメリカのGDPは2.1%と高いものの、高金利のマイナスの余波による景気後退の可能性が高まっているようだ。
以下にまとめた。
<消費者信頼感指数の低下>
民間の調査団体、「コンファレンス・ボード」が発表した消費者信頼感指数は、8月の108.7から9月は103に低下した。
特に問題なのは、将来への期待を測る指数の低下だ。これは、8月の83.3から9月は73.7に急落した。
将来予想が80を下回ると、歴史的に1年以内の景気後退を示唆するとしている。
<新築住宅販の減少>
住宅ローン金利が7%を超え、過去20年間では最高水準に上昇したため、8月の新築住宅販売件数は季節調整済み年率換算で67.5万件となり、7月の73.9万件から8.7%減少した。
<信用状況が厳しくな る消費者>
「ニューヨーク連邦準備制度理事会(FRB)」の調査によると、アメリカの消費者は、金利の上昇と銀行の審査基準の厳格化が続く中、クレジットへのアクセスに不安を抱いている。
ローンやクレジットカード、住宅ローンを組むのが1年前より難しくなったという回答は60%近くに上り、2013年6月までのデータでは最高となった。この結果は、ニューヨーク連銀による8月の消費者期待調査の一部である。
<破産件数の増加>
2023年8月にアメリカ人が提出した破産件数は3万9,000件以上で、昨年の同時期から18%増加した。
市場データ分析会社の「Unusual Whales」が発表したデータでは、個人の破産申請とともに、8月には企業を含めて41,600件以上の新規破産が記録されたことが詳しく説明されている。
これは、バイデン政権の経済政策のもとで、13ヶ月連続で倒産件数が前年同月比で増加していることを意味する。
<クレジットカード会社の損失拡大>
「ゴールドマン・サックス」によると、クレジットカード会社は、大金融危機を除けば過去約30年間で最も速いペースで損失を積み上げている。クレジットカード会社の損失は2021年9月に底を打ち、当初の増加は景気刺激策からの反転であった可能性が高いが、2022年第1四半期以降は急速に増加している。
それ以降、損失が増加しているのは、最近の歴史では2008年の不況時のみである。
理由のひとつは、高金利による支払い不能に陥る顧客の増加だ。
上げればきりがないないのでこのくらいにするが、これらは、高金利の余波がもたらしていることだ。
高金利が恒常化すると、こうした現象は確実に増えるだろう。
これに商業不動産の破綻が加わると、アメリカは本格的な景気後退に入る可能性は高くなる。
イギリスの状況
こうした、高金利の恒常化のマイナスの余波が現れているのはもちろんアメリカだけではない。
欧米諸国の多くは似たような状況にある。
次はイギリスを見て見よう。GDPの成長率は0.2%と低いが、なんとかプラス成長を維持している。
・インフレ率 : 6.7%
・食料インフレ率:13.6%
・家賃インフレ率: 6.4%
・賃金上昇率 :
7.3%
・金利 : 5.25%
インフレ率は6.7%とアメリカよりも高い。食料のインフレ率にいたっては、13.6%である。
賃金の上昇率を上回っているので、国民生活は相当に厳しいはずだ。
インフレをコントロールするために、金利を恒常的に引き上げなければならない。
次のような高金利の余波が現れている。
<万引きの急激な上昇>
イギリスでは、特に食料価格の上昇が特徴的だ。
生活に直結した食品では、砂糖、55.8%、オリーブオイル、38.3%、冷凍野菜、24.1%などだ。
こうしたインフレの高まりを背景にして、万引きが急増している。
これはアメリカでも起こっているが、イギリスもすさまじい。
例えば、イギリス中央部の都市のリーズでは、2022年の万引きは800万件に及んでいる。
このような増加は、ロンドンを始め、大都市圏でも同じような状況だ。
<失業率の上昇>
イギリスの失業率は4.3%だが、次第に上昇している。
これは、2008年の金融危機のリーマンショック時を上回るスピードで、企業のリストラが進んでいる。
特にリストラの対象は若年労働力に集中しており、若年者の失業率は12.7%にもなっている。
こうしたリストラの背景になるのは、やはり高インフレと、インフレ抑制のための高金利だ。
これらで企業のコストが上昇しているので、コスト削減の必要からリストラが進んでいるのだ。
こうした状況を背景に、寿命に到達する前に死亡する国民の割合が増加している。2023年度では、6.4%の増加だ。
また、日本と同じように、イギリスは1970年代から80年代に建設されたインフラが一斉に寿命を迎えている。
だが、高インフレと高金利による企業収益の悪化で税収は対前年比で6.6%も落ち込んでいるため、インフラの再建もままならない状況だ。
こうした厳しい状況にあることは、イギリス政府自らが認めている。
「国立経済社会研究所(NIESR)」は、2024年末までにイギリスが景気後退に入る確率は60%だと見ている。
はるかに高い確率で不況入りするとの見通しの民間シンクタンクも多い。
やはり2024年は世界的な景気後退期か?
今回はアメリカとイギリスの状況を見て見たが、ユーロ圏も基本的に似たような状況だ。
また、いずれ詳しく記事に書くが、意外にも中国経済の状況は思ったほど悪くはない。景気後退には陥ることはないだろう。
アメリカやイギリス、そしてユーロ圏でも商業不動産や住宅用不動産の破綻、また大量の不良債権を抱えた銀行の破綻などはまだ起こっていない。
しかし、最初に確認した6つのメガトレンドが今後も長期に続くとすれば、2024年にはかなり厳しい景気後退の波が、特に欧米を襲うに違いない。一方、日本では欧米の高金利の恒常化で、円安もかなりの期間続くと思われる。
こうした状況をしっかり理解して、我々も対処するべきだろう。
最後までお読みいただき、有り難うございました。 ☚ LINK
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