あの小林製薬がとる「小さな池で大きな魚」戦略とは?
2023.09.19
by 土井英司のビジネスブックマラソン
さまざまな業種でシェアを独占している企業は、一体どのようなマーケティングで勝ち上がってきたのでしょうか。今回紹介する本は、そんな企業での62の事例と自社のダメなところを
チェックできる一冊です。
高収益体質になるために⇒『価格支配力とマーケティング』
本日ご紹介する一冊は、ネスレ、マッキンゼー、ブエナ・ビスタなどを経て、経営コンサルティング会社ボナ・ヴィータを設立した菅野誠二氏と、同社のコンサルタントである千葉尚志氏、松岡泰之氏、それにBBT大学でゼミ指導を長年手伝ってもらったという村田真之助氏、川崎稔氏が共著でまとめた、マーケティングの決定版。
メイン執筆者の菅野誠二氏は、過去に『値上げのためのマーケティング戦略』という本も書いています。
あらゆる分野で価格が高騰しているのに加え、放っておくと巨大ネット企業による値下げ圧力が働く時代、いかにして価格支配力を手にするか、気鋭のマーケターがその戦略を述べた一冊です。
オビに書いてあるように、注目は「シェア独占企業62の事例」で、それぞれの企業がいかにして価格支配力を手にしたか、その戦略がまとめられています。
ネスレ、P&G、テスラ、小林製薬、ソニー(αカメラ)、スノーピーク、アパホテル、キーエンスなどに加え、名前こそ非公開ですが、戦略的にユニークな事例が取り上げられており、じつに読み応えがあります。
第3章に出てくる、自社の「価格“無”支配力企業」チェックポイントをチェックすれば、自社の戦略・マーケティングに何が欠けているのか、よくわかると思います。
欠けているものがわかれば、あとはそれを本文で重点的に学び、実践するのみ。
ちょっと難しい理論もありますが、豊富な事例が理解を助けてくれると思います。
600ページ弱の分厚い本ですが、中身が面白いので、マーケティングに興味のある方なら、一気に読めると思います。
さっそく本文のなかから、気になった部分を赤ペンチェックしてみましょう。
・ 一番重要なのは、野心的な変革目標(MTP: Massive Transformative Purpose)から事業をはじめること
・ マーケティングの妙は、顧客の琴線に触れるコミュニケーションによって価値均衡点/VEL: Value EquilibriumLine を上回る「突き抜ける価値」に対して共感を得ることにある
・ ちょっとした贅沢品でよく売れるものは、この3段階目の探求・知識・学習・自己実現・自己超越
などのニーズを本人に自覚させるようなコミュニケーションを経て、欲求に転化させることが多い
・ サイモン・クチャー社の調査によると「ラグジュアリー製品の販売価格を2%引き上げると、税引前利益が
9~25%向上する(利益増加幅の差異は製品カテゴリーに依存)ことが判明しており、価格最適化による利益拡大の機会が存在する可能性は高い」
・ 小林製薬が掲げるのは、「小さな池の大きな魚」戦略である。思考順序はこうだ。
(1)みんなが釣りに来る池は競争が激しい
(2)小さくてもよいから自分一人で釣る
(3)その池を掘りつづけて大きな魚が住めるようにする=市場を大きくする
・ 2010年にキヤノンやニコンの最大の強みである「レンズ資産活用」を無効化するために、ソニーαシリーズ新規 格のレンズ口径に変更し、他社レンズが使えるように仕様情報を開示することで、レンズマウントアダプターもサードパーティを通じて整備した。こうすることで、両老舗メーカーからのスイッチングコストを下げたのである
・ 成功の鍵は「マーケティング・イノベーション・マトリクス」
「(1)分散化・売り手市場」では、「ハイエンド・ブランド商品の希少性」(スノーピーク、ルイ・ヴィトンなど)
「(2)集約化・売り手市場」では、「エントリーバリア商品」の戦略(キーエンス、日東電工など)
「(3)分散化・買い手市場」では、「ピンポイントニッチ商品」の戦略(小林製薬、クラシコムなど)
「(4)集約化・買い手市場」では、「マス高付加価値商品」の戦略(アパホテル、テスラ、ソニーαカメラなど)
・ サイズダウンには、顧客が納得する理由が必要
5人の共著ということで、仕方ないと思うのですが、なかには掘り下げが甘い記述や、他の本で十分カバーできる内容もありました。
ただ、オビにある「シェア独占企業62の事例に学ぶ」という部分は約束通り書かれており、どうすれば価格支配力を持てるのか、どう商品開発やマーケティングをすればいいか、ヒントが多くありました。
最新の事例と見解が載っており、マーケティングの知識をアップデートしたい向きにも最適です。
最後までお読みいただき、有り難うございました。 ☚ LINK
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