古事記に「過酷な話」がわざわざ書かれている理由
何を伝えようとした?
2023.09.08
by 小名木善行
日本の神様の名前の中で最も美しい御神名とされる『木花咲耶比売(このはなさくやひめ)』。
この由来について、作家、国史研究家でもある小名木善行さんが紹介。
木花咲耶比売と石長比売
古事記全編を通じて、最も美しい神名を持つのが、ご存じ、木花咲耶比売(このはなさくやひめ)です。
木花咲耶比売の物語は、邇邇芸命(ににぎのみこと)の天孫降臨に登場します。
ある日、邇邇芸命が岬を散歩していて、美しい女性を目にします。
たまらずニニギ(邇邇芸命)は、「そこのお嬢さん。僕と結婚してください」と声をかけます。
実際には、僕とエッチしてくださいと言った意味の言葉をかけたとあります。
ずいぶんとストレートですが、それはまあ置いといて、天津神であり、しかも天照大御神のお孫さんから声をかけられた木花咲耶比売は、とても頭の良い女性です。
「ありがとうございます。でも、そういうことでしたら父に許可をいただきませんと、私一存ではお答えしかねます」と答えて、父のもとに行きます。
父は大山津見神(おおやまつみのかみ)です。喜んだ父は、姉の石長比売(いわながひめ)も一緒にニニギのもとに送り出しました。
ところがここで古事記は、ニニギが、「石長比売が凶醜(はなはだみにく)かったため、石長比売を返し、木花咲耶比売とだけ結婚した…」と描写しています。
古事記を読む時、こういう、すごい言葉が使われている時が、実はくせものです。
いわゆる「ひっかけ」があるのです。
もともと、神話は、何千年にもわたって、大人が子らに語って聞かせたものです。
子らが「え~!!」となってくれれば、そこですかさず、「じゃあ、お前はどう思う?」と、子の考えを聞くことができるのです。
そこから、神話の意味する深いところへの話になるのです。
ただストーリーを追うだけなら、神話は長続きしない。考えるか、頭を使うから、印象に残り、何千年も語り継がれるのです。
石長比売が「みにくい」と書かれているのは、「見えにくかった」のではないかと解釈する人もいますが、それもあるかもしれないけれど、もっと実は深い意味があります。
そこで話を先に進めてみたいと思います。
ひとり帰ってきた石長比売を見て、父の大山津見神(おほやまつみのかみ)は、「姉妹で送り出したのは、宇気比(うけい)によるものであった。
石長比売を帰してきたことで、天津彦(あまつひこ)の御命は短いものとなるであろう」と嘆いたとあります。
ここでいくつもの解釈があろうと思いますが、ひとつ大切なことは、御神名にあります。
木花咲耶比売(このはなさくやひめ)の名は、木に咲く花という名ですが、この時代「花」といえば桜花のことを意味します。
桜は、盛大に咲き誇り、あっという間に散ってしまいます。これは「一時的な繁栄」を意味します。
石長比売(いはながひめ)の名は、岩石のようにいつまでも変わらないものを意味します。一時的な繁栄ではなく、安定して継続することを意味する名です。
少し考えたらわかりますが、今月1,000万円利益が出ても、来月以降、なんの収入もないということでは困るのです。半分の500万でいいから、ずっと継続してもらいたいのです。そしてその継続が、安定してもらいたいのです。
この、満開の桜のような繁栄と、岩のような安定的な継続。両者は、本来、不可分なものです。
なぜなら、人の身上(しんじょう)は一代限りのものではなく、子の代、孫の代、曾孫の代へと、ずっと続いてもらわなければならないことだからです。
では、この両者をつなぐものは何でしょう。それが父の大山津見神(おほやまつみのかみ)です。
「津見(つみ)」というのは、「綿津見(わたつみ)」という言葉もあるくらいで、山々や、海の波が、延々と重なり合って連なることを意味する古語です。
「積み木」の「つみ」も同じです。木を重ねて結ぶから積み木です。つまり「津見」とは、「つながり」のことを意味します。
ここまでくると、古事記が伝えようとしたことがわかります。一時的な繁栄と、永続的な安定をつなぐのが、「津見」すなわち「つながり」です。
誰しも繁栄したい。繁栄したら、その繁栄を継続させたい。そのために必要なことが、「『つながり』なのですよ」と古事記は書いているのです。
「つながり」は、現代用語にすれば、コミュニケーションです。
誰もが神社やお寺や教会に行って、幸せになりたいと祈ります。
そのためには、神様とつながり、人とつながり、家族とつながり、職場でつながり、お客様とつながり、一緒にいる人たちとつながること。
そういう「つながり」の中にこそ、一時的な繁栄を継続させる力になるのですよと、古事記は教えてくれています。
最後までお読みいただき、有り難うございました。 ☚ LINK
*** 皆さんからの ご意見・ご感想など 『
※ メール・BLOG の転送厳禁です!! よろしくお願いします。
コメントをお書きください