補助金でごまかして税金を下げぬ政府の罪
原彰宏
2023年8月30日
市中では、ガソリン価格が1リットル200円に迫ろうとしています。原油価格は落ち着きつつあり、円安も一時よりはおさまった状況なのに、一体なぜでしょうか?
その原因は、日本の政府にあります。税制の構造問題が大きく絡んでいるのです。
原油価格は落ち着いたのに、なぜガソリン価格は上がる一方?
高騰するガソリンへの補助金について、岸田総理大臣は9月末の期限を延長する方向で検討に入ったと報じられています。
市中では、ガソリン価格が1リットル200円に迫ろうとしています。200円ですよ。
世界で取引されている原油価格は、一時ほど高くないような気がします。
原油価格は、昨年夏前にWTIで1バレル115ドル近辺、ブレントで120ドルでした。 いま足元では、WTIで80ドル近辺、ブレントでも85ドル近辺で推移しています。確かにロシアによるウクライナ侵攻で、地政学的リスクにより原油価格が高騰しました。
そして、「OPEC」と呼ばれるサウジアラビアなどの原油産油国が、減産とよばれる原油供給を絞っていることも、原油価格高騰の要因とはなっていますが、高いとは言え100ドルを超えるような高騰にはなっていません。
では、日本のガソリン価格が高いのは円安のせいなのでしょうか…。
たしかに円安になっているとはいえ、いまは1ドル145〜146円近辺です。一時ドル円は、150円台をつけていました。
日本のガソリン価格推移を見ると、今年の6月頃から急に上がっています。
足元ではレギュラー価格が175円です。ハイオクは180円超、こんな数字は今まで見たことがないですね。お盆の帰省時期に、ガソリン価格高騰はきついですね。じゃあなんで日本ではこんなにガソリン価格が高騰しているのでしょうか…。
そこには「補助金」という存在があるのです。
燃料油価格激変緩和補助金
経済産業省資源エネルギー庁のホームページを見れば「燃料油価格激変緩和補助金」という文言を見つけることができます。
燃料油価格激変緩和対策事業として、以下の説明があります。
コロナ禍における「原油価格・物価高騰等総合緊急対策」(令和4年4月26日原油価格・物価高騰等に関する関係閣僚会議にて取りまとめ)に基づき実施する施策であり、原油価格高騰が、コロナ下からの経済回復の重荷になる事態を防ぐため及び国際情勢の緊迫化による国民生活や経済活動への影響を最小化するための激変緩和措置として、燃料油の卸売価格の抑制のための手当てを行うことで、小売価格の急騰を抑制することにより、消費者の負担を低減することを目的としています。
出典:燃料油価格激変緩和補助金 – 経済産業省 資源エネルギー庁
ガソリン価格が1リットル170円を超えると「激変緩和事業が発動」します。つまり、補助金が支払われ、市中のガソリン価格高騰を強制的に抑えます。昨年1月から始まった「ガソリン補助金」は、市中ガソリン価格が上昇するに連れて補助金額は増え、ガソリン価格を「168円」におさえてきました。ただその助金としての支給額は、今年の6月から徐々に縮小されることになり、日本のガソリン価格は6月から上昇幅が大きくなりました。
高速道路のサービスエリアのガソリンスタンドでは、1リットル200円を超えるということになりました。
そして、この補助金は9月で終了することになっていました。ここに、冒頭の岸田総理の発言記事がつながるのです。
補助金は出すが税金は下げない
「補助金」というお金の流れはこうです。
国 → 燃料元売り会社 →(価格抑制)燃料油販売業者(ガソリンスタンド等)→ 消費者
補助金制度が出されたときは、元売り会社がきちんと燃料価格抑制に使われるのかは疑問だという声もありました。
こんなことをしなくても、ガソリン価格抑制には「トリガー条項」というものがあります。
トリガー条項は、レギュラーガソリン価格が1リットル当たり160円を3カ月連続で超えた場合、揮発油税(ガソリン税)のほぼ半分に相当する約25円の課税を停止し、価格を引き下げる制度です。
3カ月連続で130円を下回った場合は元の税額に戻す仕組みで、民主党政権時の2010年に導入されました。
東日本大震災の復興財源を確保する目的で、2011年から凍結されています。つまり、今は「トリガー条項」を凍結させて、通常(?)の税金を徴収している状態です。
補助金は出すが税金は下げない…。税金を下げるくらいなら、いくらでも補助金を出すといった感じですね。
いったん手にした税収は、どんなことがあっても手放さない……この財務省の姿勢に関しては、東日本大震災復興税終了に伴い、森林環境税を導入したことを解説したコラムでも指摘しました。
【関連】使い道なくても増税?「森林環境税」住民税に上乗せで1人1000円徴収のずる賢さ。一度手にした財源は手放さない財務省
立憲民主党など野党は、いまこそ「トリガー条項凍結解除」すべきだと主張しています。
なぜ「トリガー条項」を使わない?
政府がトリガー条項凍結を解除しない理由は何か…。
税源を手放さない財務省の姿勢もさることながら、どうやら、ガソリンに関わる税の問題を、国民の目に触れさせたくない事情もあるようです。
ガソリン価格の二重課税……ネット上では、以下のような記事もありますね。
トリガー条項の凍結解除には法改正が必要で、国会審議を経なければなりません。
そうなれば、審議する中でガソリン税そのものに国民の意識が向く恐れがある。ガソリンには、ガソリン税と石油石炭税が課せられ、さらに消費税がかけられている。『二重課税』と批判されています。税の『撤廃論』が高まれば、税収がガタ減りするため、財務省は徹底抗戦するでしょう。財務省に言いなりの岸田首相は立ち往生してしまいかねません。
出典:ガソリン料金“爆上がり”が岸田政権を直撃! 国民が怒り「トリガー条項」がトレンド入り – 日刊ゲンダイDIGITAL(2023年8月20日配信)
ガソリンには「ガソリン税」と「石油石炭税」が課せられ、その税金が乗っかった金額にさらに「消費税」がかけられています。
まさに「二重課税」状態です。ガソリンにかける消費税を無くせば良い……実に簡単なことです。実にスマートです。
そうするとガソリン価格は低く抑えられます。
本当はもっと安くできるガソリン代
日本のガソリン価格が高騰しているのは、1リットル200円になろうとしているのは、原油価格が高騰しているせいだけでもなければ、円安が加速していることだけのせいでもないのです。日本税制の構造問題が、大きく絡んでいるのです。
岸田政権は、ガソリンのトリガー条項凍結を解除するのではなく、補助金支給を9月以降も続けることを検討しています。
補助金支給継続によって、消費者にとってはガソリン価格を抑えられるわけですが、本当は、今までももっと、ガソリン価格は下げることができたのですよ。普段から、ガソリン価格は安くできるのですよ…。
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