IT大手4社の売上高の推移
(出所:各社の決算資料を基に日経クロステック作成)
日経クロステック/日経コンピュータ
2023.08.28
日本のIT業界のトップが交代した。NTTデータグループが2023年8月に発表した2023年4~6月期の連結決算(国際会計基準)は売上高が前年同期比50%増の1兆149億円と1兆円の大台を突破した。
一方、長らく国内トップを維持してきた富士通の売上収益(売上高に相当)は同2%減の7996億円だった。
2024年3月期通期の見通しでもNTTデータGは富士通を上回る計画だ。
NTTデータGは4兆1000億円、富士通は3兆8600億円を見込んでいる。
NEC、NTTデータG、日立製作所、富士通のIT大手4社のうち、2023年3月期の売上高でNTTデータGは既にNECを抜き2位だった。
日立は売上収益で10兆円を超えるが、IT関連事業だけで見ると、もともと他の3社より規模が小さい。
NTTデータグループの組織再編
(出所:NTTデータグループの資料を基に日経クロステック作成)
NTTデータGが急拡大している理由は、NTTグループの海外事業を統括するNTT Limited(NTTリミテッド)を2022年10月に傘下へ収めたためだ。
これを機に売上高は約2兆5000億円から約4兆円へと伸びる見込みだ。 海外売上高比率も4割から6割となり、名実ともにグローバル企業になった。海外事業の急拡大に伴って、2023年7月に大きく機構改革を実施した。旧NTTデータを持ち株会社化し、NTTデータGと社名変更。
その傘下に国内事業会社のNTTデータと、海外事業会社のNTTデータインクを置いた。NTTデータの傘下には国内のグループ会社が、NTTデータインクの傘下には海外のグループ会社が入った。NTTリミテッドもNTTデータインク配下である。
NTTデータGの本間洋社長は「効率的な経営と全体最適、機動性の3点を重視してこの体制にした」と話す。
海外に進出している国内のSIer(システムインテグレーター)はあるものの、売上高の過半を海外で稼ぐ企業はほとんどいない。
官公庁向けのシステム構築を請け負うNTTの事業部門が分離・独立して誕生したNTTデータGにとって、本格的なグローバルガバナンスは未知の領域である。それだけに、新たな課題が浮上している。
世界のトップ企業と差が縮まらない
海外事業の目下の課題は利益率の向上だ。NTTデータGが海外事業の本格展開に動き出したのは2005年ごろ。
同時期から積極的なM&A(合併・買収)により海外事業を拡大し始めた。
2006年3月期に100億円に満たなかった海外事業の売上高は、NTTリミテッド統合前の2022年3月期に1兆円を超えた。
NTTデータGの海外戦略は規模の拡大を優先しており、買収した企業同士の再編などの構造改革はあまり進めてこなかった。
しかし、海外売上高比率の高まりと共に海外事業の収益性が足を引っ張り、2019年以降、本格的に構造改革に着手した。
拠点の統廃合や海外ブランドの統一、収益性の高い事業への人員の入れ替えなどを実施。
営業利益に近いEBITA(利払い・税引き・一部償却前利益)の売上高に占める割合は2020年3月期の0.7%から2023年3月期には6%まで改善した。一定の成果が見えたところに、NTTリミテッドの統合が加わった。2024年3月期から3年間は、事業再編や本社機能の統合などで年間100億~200億円の統合費用がかかる。これらの構造改革を進めながら利益率をさらに改善しなければならない。中期経営計画では2026年3月期までに調整後の売上高EBITA率を10%に引き上げる目標だ。前中計では海外利益率の目標が未達だっただけに、今中計では必達が求められる。
国内トップが見えたNTTデータグループが抱える課題
(出所:日経クロステック)
海外事業ではもう1つ、「2026年3月期をめどに世界のITサービス企業のトップ5に入る」という目標もある。
米ガートナーの調査によれば、世界のITサービス企業の収益ランキングでNTTデータGは世界9位(2022年時点)だ。
この目標を打ち出した2017年から売上高は約2倍に拡大しつつあるが、米アクセンチュアや米デロイトなど世界の上位企業との差はなかなか縮まらない。NTTデータインクの西畑一宏社長は「当社も急拡大しているが、世界のトップ企業はもっと伸ばしている。このままでは差が開いてしまう」と危機感を示す。
国内トップ企業になり、世界に打って出ることになって初めて実感した世界との差だ。利益率の向上は喫緊の課題だが、世界のトップ企業と伍(ご)していくためには、売り上げの拡大を止めることはできないのである。
国内事業を人材不足が襲う
かたや国内事業はDX(デジタル変革)需要に支えられ順調だ。
課題は人材不足にある。新卒も中途も採用数を拡大しているが、業界全体で人材が足りないため、引く手あまたで外部への流出が増えている。より少ない人数で効率よく事業を運営する組織体制が求められている。
その一方で、昨今は業界を横断した課題を解決するための「社会DX」とも呼べる案件が増えている。
例えば貿易業務システムの「トレードワルツ」がそれに当たる。
商社や物流企業、船会社、金融機関などが輸出入の関連書類をやり取りする。現在90社以上の企業が利用している。
こうした背景を受け、NTTデータGは組織の効率化を図りつつ、業界横断的な社会DX案件の獲得につなげるための組織の見直しを進めている。同社はこれまで、大きく3つの分野に分けて国内事業を展開してきた。官公庁向けの「公共」、金融機関向けの「金融」、金融以外の民間企業向けの「法人」だ。それぞれの分野をまたがった人事交流や共同プロジェクトはほとんどなかった。
そこで全社レベルで横串を通す組織を3つ設けた。
1つは2020年につくった「ソーシャルデザイン推進室」、残る2つは2022年7月につくった「デザイン&テクノロジーコンサルティング事業本部」と「ソリューション事業本部」だ。いずれも公共・金融・法人の枠組みを超えた新しい案件獲得のために動く。
ソーシャルデザイン推進室は社会を俯瞰したサービスの設計、他の2組織は新技術を活用した提案をそれぞれ手がける。
事業部門レベルでも横串の組織を用意した。金融分野では2022年7月に金融関連の技術を統括する「金融イノベーション本部」を設立。
これまでは銀行や保険など業種ごとに組織が分かれていたため技術ノウハウを共有することが少なかったが、今後は金融分野全体で情報共有する。今後稼働を予定している共同利用型勘定系システムの「統合バンキングクラウド」などに役立てる。
法人分野でも2023年4月にコンサルティング強化のための「法人コンサルティング&マーケティング事業本部」を設置した。
様々なレベルで横串組織をつくることにより、新しいDX案件の獲得と効率化を実現し、人材不足に対抗しようとしている。
加えて「個人を尊重する新人事制度など魅力的な企業への変革を続ける」(稲村佳津子執行役員)ことで離職者を防ぐ考えだ。
もろもろの変革を進めるNTTデータGを冷ややかに見ている顧客もある。
「黙っていても順調な国内事業では、既存顧客にあまり手をかける必要がないと思っているのではないか」。
金融関連で取引がある顧客はこう漏らす。
「NTTデータのサービスは質が高いから利用している」と前置きした上で「こちらからお願いしたことには対応してもらえるが、NTTデータから提案は出てこない。
NTTデータGの興味は海外にあり、国内の既存企業に対してはこれまでのサービスを維持すればよい、とでも考えているのだろうか」と話す。「3社で役割を分担した結果、国内事業だけを見た場合はフットワーク軽く判断できるようになった」。
NTTデータの佐々木裕社長は2023年7月以降の新体制についてこうメリットを強調するが、国内事業でも「NTTデータは変わった」と評価されるようになれるか。変革の成果が待たれる。
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