EV化からの「脱落」が示す日本産業界の衰退
2022.11.22
by 高野孟『高野孟のTHE JOURNAL』
もはや世界の潮流となった自動車の電動化。しかし主要国の中で日本のみが、その流れに大きく乗り遅れていることは否めないようです。ジャーナリストの高野孟さんが、トヨタ自動車の社長らが政府に対して行った「陳情」がいかに浅ましく恥ずかしいものであったかを解説するとともに、彼らに対する岸田首相の対応の情けなさを批判。
その上で、官民共に劣化した日本のさらなる衰退は必至との見方を記しています。
恥ずかしいトヨタの陳情
「業界内ではガソリン車に代わってEVの普及が急速に進めば、部品など下請け企業も含めて多くの雇用が失われる懸念が高まっている。一方、政府は2035年までに 新車を全てEVなどの電動車にする方針。このため業界側は政府との連携を深め、有利な規制や税制整備などの支援を取り付けたい思惑もありそうだ」
これ、分かりますか?
世界のEV化の急速な進展の中でトヨタはじめ日本は致命的とも言える酷い遅れをとっていて、このままでは「下請け企業も含めて多くの雇用が失われる懸念」があるので、政府が余り急速にEV化を進めないようにして貰いたいし、その懸念が現実化した場合は「国の財源」や税制優遇で救済して欲しいという陳情に行ったのだと判る。
日本を代表する製造業大企業だと思われているトヨタが、どうにもならない自分の経営戦略の失敗を税金で尻拭いしてくれるよう願い出るという浅ましくも恥ずかしい姿で、まさに日本産業界の劣化を曝け出していると言える。
対する岸田も情けなくて、毎日記事による限り「自動車産業はわが国経済、雇用の大黒柱だ。脱炭素化などの転換点を迎える中で、官民が連携し、さらなる成長にチャレンジしていく必要がある」と寝惚けたことを言っている。
本当なら「あなた方、雁首揃えて何を言いに来たんですか。トヨタの内部留保は24兆1,042億円、ホンダは8兆9,013億円(20年度末)。 それを吐き出して派遣社員、非正規社員も含めた史上空前の賃上げをやってくれないと、私の『新しい資本主義』は始まらないんですよ」と叱りつけるのでなければならない。
経済も政治も劣化して、日本の将来像を切り開くための戦略などどこにもないままお互いに寄りかかりながら、衰退に向かうのである。
・・・
EVの先に必ずやってくる「水素エネルギー社会」への戦略的展望を官民で培っていれば、こんな惨めなことにならなかったはずなのだが、もはや遅しである。水素をガソリンや石炭やLPGfや電気などと同等の車を動かす燃料の1種と捉えるのは間違いで、水素ベースのエネルギーを主とする社会ということは、現在のような 電力ベースでエネルギーを生産・伝送・貯蔵・配分・消費することを廃絶するという質的かつ原理的転換を意味していて、日本は世界に先駆けてその実現の入り口に到達することができたはずなのだ。しかし、繰り返すが、もはや遅しで、岸田と豊田らとの会談はそのことを表象しているのである。
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