三井住友FG、もはや動揺しない「GAFA」の金融参入
おおた・じゅん/1958年生まれ。1982年京都大学卒業、旧住友銀行入行。三井住友銀行専務、三井住友フィナンシャルグループのITイノベーション推進部担当役員、副社長・グループCFOなどを経て、2019年4月から現職(撮影:尾形文繁)
太田純社長は金融グループ「2つの強み」を強調
2021.12.08
2021年は東南アジアの金融機関に相次いで出資。異業種参入もある中で、今後の展開をどう考えているのか。
低金利による収益低下やデジタル化で銀行業界は大きな変革期を迎えている。
そうした中、海外金融機関への出資や新たな収益源獲得に向けた動きを加速させているのが三井住友フィナンシャルグループ(FG)だ。
太田社長は新たな取り組みの狙いと共に、GAFAに対しては「負けているところがあまりない」とも語った。
── 2020年を振り返って、新型コロナウイルスが企業の経営にどんな影響を与えたとみていますか。
コロナの影響は残っている。やはり「K字型」になっていて、業種によってずいぶんと差が出てきた。
よくなった業種は新型コロナ対応で行った融資も返済して、通常モードに近づいている。
逆に影響が残っている業種は借り入れが残っていて、過剰債務の状況にある。
とくに対面型のサービス業はダメージが残っているし、苦労している。
少し巡航速度に戻り始めた製造業は、グローバルなサプライチェーンの分断で部品や原材料が不足して、需要が戻ってきても供給サイドが追いつかないという問題がある。そういう意味ではコロナ影響はまだ残る。
オミクロン株のようなものも出てきたので、先行きは不透明だ。
* 次のステップを考えるべき
── 融資で支援をする中で、倒産せずに残ったゾンビ企業が増えているという指摘もあります。
存続できる可能性のある企業、何らかの手を打てばまだ生きていける企業はサポートしていきたいと思うし、そうすることが金融機関の責務だ。一方で延命しているだけの企業は、次のステップを考えたほうがいい。
そうした企業をどう整理しながら、産業の新陳代謝を高めていくかについては考えなくてはいけない。
あくまでも個社の状況に応じてだが、対話をしながら、顧客の意向や状況を見ながら対応をしていく。
── ここまでは融資による支援が中心でしたが、今後は事業再生やコンサルティングを求められますね。
事業再生は大きなテーマの1つだ。
コロナを受けて、(2021年4月に)事業再生専門の会社を設立し、経験のある人材を集めた。
現時点では、当初想定していたほど、再生の案件は出てきていない。ただ、今後そうした案件が増えてくる可能性は十分ある。それも見据えながら体制は整えておきたい。人員も維持する。
ポストコロナを見据えて、業界再編が必要なところもある。表面的には、再編の動きはまだ出ていない。
だが潜在的には、構造的な問題を抱えている企業や業種がある。今後動きが出てくる可能性はある。
── 2021年は東南アジアの金融機関に相次いで出資しました。
現地に「第2、第3のSMBCグループを作る」とかねて言われていますが、進捗はいかがでしょうか。
インドネシア、インド、フィリピン、ベトナムと、戦略の対象となる国にはほぼ手をつけた。
ただ、日本におけるSMBCグループに比べればまだまだだ。これから柱として太く育てていかないといけない。
銀行やノンバンクだけでなく、その国の経済成長に合わせた複合型の金融機関にしていかないといけない。
ただ、証券業務をしたくても、証券マーケットがまだ育っていない国もある。
規制もあるので、タイミングを見ながら、それぞれの国で業務を広げていく。
── 業務の拡大にあたり、まだ出資や買収の可能性はあるのでしょうか。
ありますね。
ただ、地域を増やすというよりも、今ある柱を太くしていくイメージだ。あまりたくさんやっても、手が足りない。
いい国があれば当然検討するが、まずは今やっている4カ国をしっかりと育てていく。
* 将来像はGAFAに近い
── 将来の金融機関像として、プラットフォーマーを目指すとしてきました。
電通と広告会社を設立するなど、そちらの動きも加速しています。
プラットフォームにどういう「付加価値」つけるかという実験をしていて、それに対する手応えはある。
ただ、まだまだこれからだ。中身のサービスを充実させないといけない。
── 三井住友FGが考える「プラットフォーマー」とは、どのようなイメージでしょうか。
われわれには個人の預金口座が約2700万口座ある。
カードも含めれば4300万の顧客がいて、日本人の3人に1人が顧客だ。法人の融資先は70万社ある。
まさにこれがプラットフォームだ。
これに載せるサービスは必ずしも金融に限らない。金融ではないビジネスをするには、「どう補っていくのか」「誰と組むのか」という話になる。
業務提携もしょっちゅうやってます。あちこちで。その中で、利便性が高く、より安価にサービスが載せられれば、プラットフォームとしての価値が高まってくる。
── GAFAなどが指しているプラットフォームと近いイメージにも感じます。
おっしゃるとおりです。
── すると、彼らとも競合すると。
GAFAをはじめとする企業は、プラットフォームを作っていて、広告のビジネスをしているので、同じようなところを目指してるんだろうなと思う。ただ、われわれは金融を起点にしているので、金融の持つ「信用」や「顧客基盤」が差別化要因になる。
例えば高齢者向けに(2021年4月から)始めたエルダープログラム(定額課金で見守り、家事代行など非金融も含めたさまざまなサービスを提供する)では、顔見知りの信頼できる銀行員に相談できることが1つの売りだ。そういう強みで差別化はできる。
── 異業種も金融に入ってこようとしています。
おそらく、日本でリテールバンキングをしても儲からない。収益を生むのは大変だし、彼らが求めるROEには達しない。
参入するのであれば、楽天の楽天経済圏のように本格的にやらないといけない。決済だけとか、住宅ローンだけでは儲からない。
── GAFAは、あまり怖くはないと。
もう6~7年くらい前になるが、世界の銀行のトップと監督当局の会議があった。
そこで、「GAFAが金融に参入したら席巻される」という話があった。
それから5年ほど経って同じ会議があったが、「何も起こっていないよね」と。最後には「儲からないんだよね」という結論で終わった。
とくに日本の場合、相当強固な基盤ができてしまっている。そこに(外から)入ってマーケットを取るのは大変だ。
例えば中国のように、システムもそこまで発展していなかったときに、異業種が入ってきて、根本から変えていけるのであれば可能性はあった。だから、アリババがあそこまで伸びた。
日本で同じビジネスモデルで伸びるためには、楽天のように相当な時間とコストがかかる。
* サステナビリティーの対応に力点
── データでは異業種に強みがあるのではないでしょうか。
銀行が持っているのは、口座の情報だけではない。例えば、カードのデータを持っている。負けているところはあまりない。
ただ、これまではそれを活用して、マネタイズしていくという発想がなかった。
データや情報といったバランスシートに載っていない資産をどのように収益に落とし込むかが勝負だ。
あとはどれだけスピーディーにその方向に舵を切れるかだと思う。
── 2022年に向けて、力を入れていく分野は?
1つは海外。アジアのプラットフォームを作るために、対応できる体制をきちんと構築しないといけない。
もう1つは(脱炭素の対応といった)サステナビリティーだ。
金融機関は投融資先も含めた脱炭素を進めないといけない。ただ、これは顧客も同じような状況になってくる。
ほとんどの皆さんはこれを金融の議論だと思っている。
時間的な余裕はほとんどないのだが、自分ごとという意識がまだ浸透していない。
サプライチェーンを含めて脱炭素に対応する必要がある。
それをどうやって計測するか、どうやって削減するか、一気通貫で担当する組織をグループ全体で作る。
Copyright©Toyo Keizai Inc.All Rights Reserved.
※ メール・BLOG の転送厳禁です!! よろしくお願いします。
コメントをお書きください