今の日本に「バラマキ政策」適さないシンプルな訳
財政出動は「乗数効果」「雇用の質」基準に増やせ
デービッド・アトキンソン : 小西美術工藝社社長
2021年11月17日
オックスフォード大学で日本学を専攻、ゴールドマン・サックスで日本経済の「伝説のアナリスト」として名をはせたデービッド・アトキンソン氏。
退職後も日本経済の研究を続け、日本を救う数々の提言を行ってきた彼は、このままでは「①人口減少によって年金と医療は崩壊する」「②100万社単位の中小企業が破綻する」という危機意識から、日本企業が抱える「問題の本質」を徹底的に分析し、企業規模の拡大、特に中堅企業の育成を提言している。
今回は、いまの日本に「バラマキ」政策が適さない理由を徹底的に解説。
☞ 今回のまとめは、以下のとおり。
(1) バラマキ的な量的景気刺激策は特にデフレ不況時に効果的である
(2) しかし、第二次安倍政権以降は、デフレでもないし不況でもない
(3) 世界的にも、デフレ不況は滅多に起きない
(4) 180年、17カ国のデータ分析では、73回の不況のうち、デフレ不況はたった8回
(5) 財政出動の効果は、失業率が高いほど大きくなる
(6) 失業率が高ければ、乗数効果は1.5を超えることもある
(7) しかし、日本は史上最高の労働参加率を維持している
(8) 不況ではないときは、乗数効果は0.5程度
(9) 乗数が1以下の場合、財政出動するほどGDPは成長しないので、財政はさらに悪化する
(10) よって、リフレ派などが主張するほどには乗数効果は期待できないし、危険である
(11) 財政出動の議論は乗数効果に終始するべき
(12) 日本政府は乗数が1以上の投資に専念するべき
(13) よって、政府は三大基礎投資に集中的に財政を使うべき
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20211017 今の日本に「バラマキ政策」適さないシンプルな訳
以下、この記事の重要な部分を「抜粋」しました。
ご参考まで。。。
日本は1994年から2019年まで、個人消費は増えていますが、輸出と設備投資は減っています。これだけを見ても、個人消費が問題で、個人消費を刺激するべきだという主張は不適切です。
さらに言うと、デフレギャップのもう1つの原因は日本経済の成長が過去のトレンドを下回っていることですが、それは人口の増加トレンドが過去のトレンドを下回っているからです。
世界的に、戦後の経済成長にしめる人口増加要因は約50%と言われているので、当然、人口が増加しなくなった1995年以降の日本では、潜在成長率が下がっていると考えられます。
問題5:需要が足りないというエビデンスもない
バラマキ的な財政出動を主張する人は決まって、日本経済が成長しない原因は日本の消費者にお金がないことだと言います。そして、需要がないから物が売れない、だからデフレなのだと主張します。
その延長で、お金がない原因を消費税に求める人も多くいます。こういう人たちは、消費税減税や廃止を提案します。あわせて、財政出動をすれば需要が戻って、経済は成長すると強調します。しかし、なぜお金がないと言えるのか、そのエビデンスを示してもらいたいと頼んでも、出てきたことがありません。
日本は消費性向が低いですし、個人金融資産は2021年6月末時点で1992兆円と過去最高を更新しました。
企業にも内部留保が溜まりまくっているので、設備投資を増やせないはずはありません。
需要がないのではなく、日本企業が需要を発掘できていないのです。自分たちでできていないのに、政府に「その需要を作ってくれ」というのは、かなり無茶苦茶な要求です。
魅力的な商品をどんどん作っていければ、どんどん売れるに決まっています。それができていないから需要が増えていないのではないでしょうか。
* 需要が増えても、設備投資が増える保証はない
問題6:そもそも需要主導型の景気回復は弱い
人間は、生きていくためには消費をしないといけませんので、そもそも個人消費が不況の原因になることは少なく、不況時には個人消費のGDPに占める比率が上がるほうが一般的です。また政府支出の対GDP比率も、不況時には経済を下支えするために高くなることが多いです。
つまり、需要が足りない主な要因は企業部門にあるのです。設備投資などの要素は個人消費に比べて、変動率が激しいとされています。当然、好景気の場合、企業の需要が増えていることが多いのです。
しかし、特に最近、個人消費の増加が経済成長のドライバーとなることが増えています。ただ、国際決済銀行が調べたところ、その持続性も回復幅も、設備投資主導の景気回復に比べて弱いと分析されています。
経済は需要と供給で成り立っています。当然、供給を増やすためには需要が増えないといけないのですが、需要が増えたからといって、供給側が必ず設備投資を増やすという保証はありません。
先ほどの図表にありましたように、事実として、今の日本でも、個人需要は増えているにもかかわらず、企業はむしろ設備投資を減らして、内部留保を増やしているのが実態です。
しかも、企業は目の前にある今の需要が増えた場合、雇用を増やすかもしれませんが、設備投資を増やすとはかぎりません。
企業は今の個人消費の持続性と、将来の需要の見込みを見て設備投資を判断をするので、政府がお金を出して需要を創出したからといって、企業がそれに応えて設備投資を増やすとは限らないからです。特に、財政が悪化すればするほど、企業は設備投資を控える傾向が確認されています。
どんな経済政策でも、最大の目的は以下の2つです。
(1)雇用の量の確保
(2)雇用の質の向上
働きたい人全員に提供できる「雇用の量」と、十分な生活ができる賃金をもらえる「雇用の質」です。
ケインズ経済学は1930年代の大失業時代に生まれました。
不況時に財政出動をして、完全雇用を維持することが目的だという意味において、主に雇用の量を確保するための政策です。
MMTをベースとした政策も、主に完全雇用をどう達成して維持するかをメインにしている点で同様です。
仕事の量には、財政出動などの政策で大きな影響を与えることができます。事実、アベノミクスでも、仕事の量を確保することはできました。単なる量的景気刺激策は、失業者を減らして、経済の均衡を引き上げる効果がありますが、それを今の日本でやっても、一時的な押し上げ効果しか期待できません。人口が増加しない中で完全雇用を達成すれば、その効果は薄れます。
リフレ派は需要を増やすことによって持続的な経済成長ができると主張していますが、根本的に誤っています。
量的景気刺激策は、一時的な影響しかないのです。
* 日本に必要なのは「雇用の質」を高める財政支出
限りなく完全雇用に近づいている日本の今後の課題は、雇用の量ではなく雇用の質です。賃金をいかに上げるかです。
賃金は労働生産性と労働分配率で決まります。
政府は最低賃金政策などによって、ある程度労働分配率に影響を与えることが可能です。
しかし、労働生産性はそう簡単に動かすことはできません。
1995年から2015年までの間に、日本の労働生産性は大きく低迷し、G7の中で最低になってしまいました。
GDPは3つの要素から構成されています。人的資本、物的資本、全要素生産性です。
簡単に言うと、・・・
それぞれ「①何人が何時間働いたか」「②機械などをどれだけ使ったか」「③どれだけ賢く働いたか」を表します。
データを見れば、日本では人的資本や物的資本の伸び率は先進諸国とあまり変わらないことがわかります。
問題は全要素生産性、つまり「③どれだけ賢く働いたか」です。実は、この全要素生産性がGDPを成長させる一番の原動力です。同じ数の人間が同じ設備で働いても、企業によって生産性が違う場合、全要素生産性が違うと考えられます。
経営戦略の適切さ、雇った人をどのように使うか、技術の違いや技術革新、規模の経済の違いなども全要素生産性で把握されます。日本の場合、全要素生産性が伸びていないので、賃金が上がらないのです。
言うまでもなく、この問題は政府がただ単に景気対策のためのバラマキを行っても解決できません。
需要が増えたからといって、絶対に労働生産性の向上が起こるという保証はないのです。そもそも、需要と労働生産性の向上は相関していませんし、因果関係もありません。MMTの議論もベーシックインカムの問題も一切関係ありません。
よって、政府は、技術革新、革新的技術の普及、労働人口の再教育、産業構造の変革などを推進するべきなのです。
*「乗数効果」「雇用の質」を基準に財政支出を増やせ
日本政府はしばらくの間、総合的な産業政策を実施してきませんでした。
そろそろ、どの先進国でも行っているきちんとした産業政策を構築していただきたいと切に願います。
財政出動は、インフレ2%目標や消費税減税ではなく、研究開発費、設備投資、人材投資を中心に、日本人労働者の賃上げにつながる支出に集中させるべきです。また、財政出動するかどうかの判断基準は、インフレ率2%の目標などではなく、乗数効果に置くべきです。
ここまで数回にわたり、私は緊縮財政を唱えているのではないということは、改めて強調しておきます。
乗数効果が1以上で、「雇用の質」を高めるという条件を満たす支出先を賢く探し、いまよりも財政支出を増やすのが、日本がとるべき道です。バラマキではなく、賢く使うべきなのです。
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バラマキ政策の典型
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