万全な体調のための「脱プラスチック」のすすめ
化学物質は21世紀の快適な生活を可能にしている。しかしそれらは、皮膚や食品、呼吸を通して体内に取り込まれ体に悪影響を及ぼしうることはご存じでしょうか……
「身の回りの化学物質」が私たちに与える危険性
マックス・ルガヴェア : 映画製作者、健康・科学専門ジャーナリスト
2021年07月08日
母親のアルツハイマー闘病生活をきっかけに健康や脳のはたらきについて学び、ニューヨーク・タイムズ・ベストセラーとなった『Genius foods』(未邦訳)を上梓したマックス・ルガヴェア氏が、健康的な生活を送るための実践的なガイドブックとして『ジーニアス・ライフ』を上梓した。食生活のみならず、エクササイズや自然との関わりなど生活全般についてまとめられた本書から、私たちの身の回りにあふれる化学物質に関する指摘を抜粋、編集してお届けする。
* 内分泌を攪乱する化学物質の怖さ
健康的な食生活を心掛け、適度に運動していても、なぜか本調子とはいえない。そんな状態に陥ってはいないだろうか。
もしかしたら身の回りにある化学物質が、あなたの努力を台無しにしているかもしれない。
化学物質は生活のあちこちで使われ、21世紀の快適な生活を可能にしている。
しかしそれらは、皮膚や食品、呼吸を通して体内に取り込まれる。そして何年も、何十年も影響を及ぼすものもある。
からだのさまざまな機能に関わる内分泌系を攪乱する化学物質には注意すべきだ。
内分泌系の情報伝達物質として働くのが、からだ中の細胞に受容体を持つホルモンで、これには、脂肪の貯蔵や代謝のはたらきをするインスリン、脳を活性化させる機能を持つ甲状腺ホルモン、生殖器の発達を促すテストステロンやエストロゲンなど多くの種類がある。ホルモンは、強い働きを持つパワフルな物質だ。
そのためホルモンに予期せぬ変化が加わった時には、私たちのからだはその影響を受けやすくなってしまう。
■ 内分泌攪乱物質(環境ホルモン)が引き起こす影響
化学物質が体内に取り込まれるとどうなるか。
細胞のホルモン受容体を活性化することによってホルモンの作用を模倣し、体内で生成された本来のホルモンの働きを阻害する。こうした化学物質は、「内分泌攪乱物質」(環境ホルモン)と呼ばれている。
ある団体の調査によれば、こうした作用を持つ化学物質は1400以上にのぼり、現代人はそのような化学物質に日々、囲まれて生活しているという。
多様な機能を調節するホルモンが化学物質によって攪乱されてしまうと、私たちのからだは体重増加、代謝疾患、不妊、特定のがんなどのさまざまな症状を起こしやすくなる。
発育期にある若者の場合には、生涯にわたる影響が表れやすい。
そのなかには生殖器異常、子宮内膜症、思春期早発症、喘息、免疫不全、ADHD(注意欠陥・多動症)なども含まれる。
こうした内分泌攪乱物質の一般的な隠れ場所は、プラスチックだ。
* 現代社会はプラスチック天国
毎日の暮らしは、サイズもタイプもさまざまなプラスチック製品で溢れている。
私たちの身近にあって、詳しい研究が進んでいるプラスチック化合物と言えば、ビスフェノールとフタル酸エステルだ。
大雑把に言って、ビスフェノールはプラスチックを硬くし、フタル酸エステルは軟らかくする。
ビスフェノールは家具や哺乳瓶、缶詰の内側のコーティング、プラスチック製のフォークやスプーン、筆記用具などに使われている。また、感熱紙タイプのレシートにたっぷりと付着している。
一方のフタル酸エステルが使われているのは、使い捨てペットボトル、テイクアウト用の食品容器、プラスチック製の収納ボックスやタッパーウエアなどだ。合成香料として洗浄剤やパーソナルケア製品に添加されていることも多い。
ビスフェノールのなかでも特に一般的なビスフェノールA(BPA)は、食品容器や再利用可能なウォーターボトルに使われている。BPAを使った製品は廉価で洗浄しやすく、壊れにくく、耐熱性がある。
BPAは私たちの生活を満たしていったが、市場に十分投入されたあとになって、環境ホルモンとして有害性が明らかになった。
■ 女性の苦しみを緩和するはずが……
20世紀の初め、研究者たちは、生理痛、ほてりなどの更年期障害の症状や、つわりなどの妊娠の初期症状を緩和し、流産防止に役立てるために、ホルモンの代替物質を探していた。
1930年代半ばに、ロンドン大学のエドワード・チャールズ・ドッズがその候補となる化学物質を見つけ出した。
それがBPAであり、女性ホルモンのエストロゲンの作用を模倣することが期待された。
ところがその後、BPAより強力な合成エストロゲンとしてジエチルスチルベストロール(DES)が発見され、DESは薬剤として市場に投入され、BPAは製造現場で活躍することになった。
それからの数十年間、このふたつの化学物質は私たちの生活を満たしていったが、社会学者のスーザン・ベルは、ある記事の中でDESについて、「長期的には女性に深刻な被害をもたらした」と指摘した。
妊娠中にDESを投与された母親から生まれた女児たちに、子宮機能不全や膣がんを発症するリスクが激増したのだ。
DESは1971年に使用禁止になったが、兄弟にあたるBPAは使われ続けた。いま、BPAを使ったプラスチック容器から、このエストロゲン加工物が溶け出して、容器内の食品や飲料に混入していることがわかっている。
* 「BPAフリー」だけでは十分でない
カーペットや電子製品、家具から出る埃にも、同じ化合物が見つかっている。
また感熱紙タイプのレシートを指で触ったり、その指を使って食べ物を口に運んだりすると、BPAは体内に取り込まれる。
ある調査において、93%の人の尿から測定可能な量のBPAが検出され、特に肥満の人にその量が多かったと言う。
私たちが曝されるBPAの量は、注射器で投与されるDESの量よりもはるかに少ない。
それでもほかの内分泌攪乱物質と同じく、たとえ微量であっても大きな影響を及ぼす。
BPAの影響を懸念する声が大きくなると、多くのメーカーが使用を取りやめて「BPAフリー(使用していない)」の製品を販売した。だからといって、それらの製品が類似の化合物を使って“いない”という意味ではない。
BPAからBPS(ビスフェノールS)に切り替えたメーカーも多い。
BPSの研究はBPAほど進んでいないが、BPAと同様の影響があるはずだ。
* プラスチック容器でのレンジ加熱はやめよう
とはいえ、これらの化合物を完全に避けようとするのは不毛な努力だ。
私たちの暮らしはそれなしに成り立たなくなっている。
ありがたいことに、私たちの体内のデトックス経路は、これらの化合物を早々に排出してくれる。
偽のエストロゲン化合物を極力避ければ、体内のホルモンや受容体が本来の作用を取り戻すために大きな効果があるだろう。
そのほかのアドバイスを、以下にあげよう。
▶プラスチック容器によるレンジ加熱、温め直しは禁止
加熱によってBPAとフタル酸エステルが食品中に溶け出し、それを食べると体内に入る。プラスチック容器を使った調理や、熱い料理の保存は避けよう。
▶プラスチック容器入りの食品や飲料はなるべく買わない
プラスチックのボトルやコップでなにかを飲んだところで死ぬことはないが、できる限り、ガラス容器入りの飲み物を。そのプラスチック容器が、どこでどのように保管されていたのかはわからない。
▶プラスチック製の食器はなるべく使わない
プラスチック製のフォークやスプーン、皿、カップなどを避けることは環境にやさしいだけでなく、化学物質を体内に取り込む機会を減らすことにつながる。
▶合成香料を使った製品を避ける
食器用洗剤、洗濯用洗剤、柔軟剤、芳香剤、脱臭剤などは避け、無香料か、天然のエッセンシャルオイル(精油)を使った製品に切り替えよう。
▶レシートは破棄する
保存する必要がある時には、触ったあとにすぐ手を洗うこと。子どもたちにもそう教えよう。
食品やサプリから薬剤、医療機器まで、工業的につくり出されたものが、長期にわたる厳しい検査を経ないままに、私たちの生活に入り込まれることは多い。ただ「口に入れるものではない」というだけの理由で、厳しい審査を免れる化学物質も多い。
あるいは人間のからだは複雑なので、いざ危険性が明らかになった時には、すでに手遅れということもある。
いずれにしても、証拠がないからと言って、「危険ではない」という証拠にはならないのだ。
(構成:笹幸恵)
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