コロナ禍で露呈「トヨタ生産方式」の決定的な弱点
利益を出すために無駄を省きすぎた末路
The New York Times
2021年06月09日
新型コロナウイルス発生初期のアメリカ・
現代世界の成り立ちを語るとき、
半世紀以上にわたり、
本家本元の自動車業界が「ガス欠」
ところがコロナ禍による経済の混乱で、
激しく揺れ動く世界経済にJITは追いつけていない。JITへの過度な依存は、
物不足が広範囲にわたって持続している現状から見えてくるのは、
JITはビジネス界においては、
こうした強みは企業に付加価値をもたらし、
利益拡大に前のめりすぎた?
それでも、今回の物不足をきっかけに、次のような疑問が浮かび上がっている。 「一部企業は在庫削減による利益拡大に前のめりとなりすぎたのではないか、そのせいで想定できた事態への備えを怠る結果となったのではないか」という疑問だ。 マサチューセッツ大学の経済学者ウィリアム・ラゾニックは「必要な投資が行われなかった」と話す。 世界経済を襲う物不足は、もちろん在庫の引き締めだけに起因するわけではない。新型コロナウイルスの感染拡大で港湾労働者やトラック運転手が以前のように働けなくなり、アジアの工場で生産され、北アメリカやヨーロッパに海上輸送される製品の荷下ろしや流通が滞った。製材所の操業もパンデミックで停滞し、木材不足からアメリカの住宅建設が進まなくなった。メキシコ湾の石油化学工場が大寒波で停止したことも、主要製品の供給不足につながった。
こうした状況がとりわけ痛手となった企業には、コロナ危機となる以前から、そぎ落とした在庫で切り盛りしていたところが少なくない。
さらに、多くの企業はJITの徹底と同時に、中国、インドといった低賃金国のサプライヤー(調達先)への依存度を深め、国際輸送の混乱が直撃する構図となっていた。 今年3月にはスエズ運河で大型コンテナ船が座礁し、ヨーロッパとアジアを結ぶ主要な水路が封鎖される事態となったが、このように歯車がちょっと狂っただけで被害が増幅するメカニズムだ。
「人々は(無駄を徹底して削る)この種のリーン思考を取り入れ、それをサプライチェーンに適用したが、これは低コストで信頼性の高い輸送が利用できることが大前提になっていた」とハーバード・ビジネス・スクール(HBS)で国際貿易を専門とするウィリー・C・シーは語る。「そして、このシステムはいくつかのショックに見舞われている」。
ペンシルベニア州コンショホッケンでは、アンドリュー・ロマノが文字どおり船の到着を待ちわびていた。 ロマノは全世界から化学製品を調達し、塗料やインクなどを製造する工場に販売するバンホーン・メッツ・アンド・カンパニーの販売担当バイスプレジデントだが、同社は建材メーカーに販売する特殊用途の樹脂を十分に確保できていなかった。その樹脂を供給しているアメリカのサプライヤーも、中国の石油化学工場から、ある素材が調達できずにいた。 ロマノの得意先である塗料メーカーは、完成品の出荷に必要な金属缶が十分に手に入らないことから、化学薬品の発注を手控えていた。「すべてが連鎖している。もうしっちゃかめっちゃかだ」とロマノは言う。 もっとも、JITとグローバルなサプライチェーン(供給網)に過度に依存するリスクはコロナ禍となる前からすでに明らかになっていた。専門家らはその帰結について何十年と警鐘を鳴らし続けてきた。 例えば、1999年に台湾を揺るがした地震では、半導体工場がストップした。 2011年に日本に甚大な被害を及ぼした地震と津波でも、工場の停止や物流の停滞から自動車部品や半導体が足りなくなった。さらに同年にタイで発生した洪水でも、コンピューターに使うハードディスクドライブ(HDD)の生産が急落した。こうした災害が起こるたびに、「企業は在庫を積み増し、サプライヤーを多様化する必要がある」との議論がかまびすしくなった。
それでも企業はリスク承知で突き進む
しかし、多国籍企業はこうした事態となっても、それまでの手法を改めることなく突き進んだ。
これまでJITを売り込んできたコンサルタントは現在、「サプライチェーン・レジリエンス」の伝道者となっている。
サプライチェーン・レジリエンスとは、強靱で復元力の強い調達網を意味する近頃はやりのバズワードだ。
結局のところ、JITはこれまで企業に利益をもたらし続けてきた。こうした単純な理由から、企業のJIT依存は今後も続いていくに違いない。
「まさに『企業が経営の重要な判断基準として低コストの追求をやめるのかどうか』という点が問題になっているわけだが、企業行動が変わるとも思えない」とHBSのシーは話す。
「消費者は危機的な状況にでもならない限り、レジリエンスにお金を払ったりはしないものだ」。
=敬称略=
(執筆:Peter S. Goodman記者、Niraj Chokshi記者)
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