トヨタ社員の逆質問
「なぜできないのですか」で痛感した現場力の差
2021.01.18
どんなに崇高な企業理念を掲げても、現場力が高まらないことには社の成長は望めません。
そんな現場力、どのように引き上げてゆけばいいのでしょうか。
株式会社シナ・コーポレーションを率い数多くの企業にコンサルタントとして入ってきた遠藤功さんが、トヨタ社員の「意識の高さ」を挙げつつ、現場力を高めるため経営者が続けるべき努力を記しています。
*「現場力の高め方」 遠藤 功(シナ・コーポレーション代表取締役)
現場力を高めるにはどうすればいいのか──。
経営者にとって痛切な願いであり、永遠の課題であるに違いない。
しかし、それは社長が現場に出ていって「おまえたち、もっとしっかりしろ」と檄を飛ばすことではない。
現場力というボトムアップの動きは、実はトップダウンからしか生まれない。
重要なのは、経営者が現場に対してことあるごとに「君たちが会社のエンジンなんだぞ」と働きかけ、モチベーションを高めること。現場の仕事をよく見て、「この前のあの改善、よかったな」と褒めること。そして貢献した人物を正しく評価して登用していくことである。
経営者がこの努力を怠っては現場力の向上はあり得ない。
そもそも現場には慣性の法則が流れている。
現状のまま、決められたことを繰り返していることが現場にとって一番楽である。
しかし、それでは現場は進化しない。私がコンサルタントとして企業に入り、まず着手することは、自分たちがいかに惰性に流され、言われたことしかやっていないのかを気づかせ、目を覚まさせることである。
それには「あなたたち、ダメですよ」と叱っても意味がない。
よいお手本、よい事例を実際に見せることが最も効果的である。
そこで私の顧問先で現場力の優れた他企業に連れていき、見学をし、社員の話を聞いてもらう。
例えば、トヨタ自動車の生産現場に連れていき、働いている人の話を聞かせると、やはり皆「すごい」と驚く。
トヨタでは、年間約60万件の改善提案が出て、その90%は実行されている。
当然品質もよくなり、コストダウンもできる。
見学に訪れた一人の社員が、トヨタの社員に「どうしてこれだけの改善ができるのですか?」と質問したことがある。
うちの会社はできないのに、なぜできるのか、という素朴な疑問である。
それに対し、トヨタの社員は「なぜできないのですか?」と逆に質問していた。これが現場力の決定的な違いだ。
トヨタでは自分たちの業務を改善するのが当たり前だという企業風土が根づいている。
一方、現場力の弱い企業には改善するという風土がない。
この事例からも分かるように、現場力は一朝一夕に高まるものではなく、時間をかけてつくっていく組織能力である。
1年やそこらの取り組みで、簡単に手に入るものではなく、5年、10年かけて根づかせていくもの。
倦(う)まず弛まず現場力の重要性を説き続け、その仕組みをつくり、根づかせるのが経営者の仕事といえる。
米国民主主義の底力
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