悪化する日本の潜在成長率。私たちは「デジタル化」で復活できるか?
2020.10.09
人口減少が続き、生産年齢人口はそれ以上に減り続ける日本社会。
人手不足を外国人労働者受け入れ拡大により補おうと打った手も、コロナ禍により空回り。ジリ貧の日本経済を表すように「潜在成長率」はさらに悪化すると見られています。
『uttiiの電子版ウォッチ DELUXE』著者でジャーナリストの内田誠さんは、読売新聞が「潜在成長率」についてどのように報じて来たかを検証。
菅政権の方向性と一致する「デジタル化」に望みありとする主張に対し、安倍政権時代から課題と認識されながら進まなかったことが実現できるのかと疑問を呈しています。
*日本の「潜在成長率」を読売新聞はどう報じてきたか?
きょうは《読売》の番です。9面の解説記事は「コロナ下の日本経済」がテーマ。
キーワードとしては「潜在成長率」が有力なので、検索を掛けてみました。
読売オンラインの「記事検索」(1年分の紙面掲載記事が対象)では20件、「サイト内検索」(サイトに公開中の全記事が対象)では25件ヒットしました。後者の25件を対象にします。
まずは、9面解説の見出しから。担当は倉貫浩一編集委員。
コロナ下の日本経済 潜在成長率上昇 道半ば 労働力減■設備投資も鈍化 デジタル庁 生産性向上へ期待
バブル崩壊後、日本経済の本来の実力を示すといわれる「潜在成長率」の長期低迷が続いているという。
その潜在成長率がコロナ禍によってさらに悪化する懸念があるという。
潜在成長率は潜在国内総生産の伸び率を指す。
潜在国内総生産(潜在GDP)とは、「その国の労働力や生産設備などを有効活用した時に得られる、実力ベースの経済の体力を示す指標」とされる。
80年代には年4%を越えていたが、2005年に1%を割り、その後は0%台。20年1~3月期は0.9%という。
潜在GDPの要素は3つ。「労働者数と労働時間」「生産に必要な設備などの量」「それらをいかに効率よく使ったかを示す生産性」の3つだ。
日本はG7の6位で、下に居るのはイタリアだけ。トップのアメリカは2%程度。
専門家によれば「米国は移民の流入で若い労働力人口を維持できる。また世界中から優れた人材が集結し、転職の柔軟性があり、技術革新を生むダイナミズムに富み、生産性が高い」(小玉祐一・明治安田総合研究所フェロー・チーフエコノミスト)という。
日本の問題は、「労働力人口の減少」「国内市場の縮小による設備投資の鈍化」「情報技術活用の遅れで生産性が伸びないこと」が背景にある。
●uttiiの眼
ほとんど日本経済の凋落を決定づけるような話が続いた後、最後のブロックに登場するのが「デジタル庁」。
潜在GDPを構成する要素のうち、労働力人口と設備投資はどうにも対処のしようがないとして、最後の望みである「生産性」の向上を、デジタル庁に担わせようということのようだ。
ちょっと荷が重すぎる気もするが、台湾のことを考えれば、可能性もなくはないのかもしれない。
しかし、これまで「ITの導入に際して、組織の在り方や仕事のやり方、人材に大きな変更を加えてこなかった」ことが生産性の低迷につながっていたのだとすると、デジタル庁をつくっただけで、その条件を一変させることができるのか、大変心許ない。
*関連記事など
「潜在成長率」について読売の過去の記事が何を書いてきているか、見てみよう。
2018年12月9日付
米中の貿易摩擦が過熱する中で、両国の経済の状況を分析する記事。
そのなかで、アメリカについて「7~9月期の実質国内総生産(GDP)成長率は前期比年率3・5%で、4~6月期の4・2%に続いて潜在成長率の2%程度を大きく上回った。
中国製品への制裁関税の激化を見越した駆け込み需要もあり、10~12月期も2%台後半の底堅い成長が続くとみられる」と。
*潜在成長率を実際の成長率が大きく上回っているのは、一般的には経済が好調ないし過熱気味の印。
2019年1月3日付
新年にあたり、日本経済についての社説。
例によって「30年前に4%を超えていた潜在成長率は、1%前後の低空飛行が5年以上続いている。
経済の推進力は頼りない」と嘆いている。
2019年2月2日付
これも社説。景気が「戦後最長」になったとの安倍政権の発表に対して、「経済の実力を示す潜在成長率は1%前後に低迷している。これを改善するには、企業の生産性を高めることがカギとなる」
2019年3月10日付
経済学者・伊藤元重氏による少し詳しい分析記事。
「潜在成長率とは、日本経済がどの程度のスピードで成長していけるのか、つまり成長力を評価したもの」としたうえで、「潜在成長率は、1人当たりの労働時間、労働者数、資本設備の大きさ、そして全要素生産性という4項目の伸び率を足し合わせたもので計算できる。全要素生産性とは、資本や労働の生産性を統合したようなものと考えればよい」と。
*全要素生産性については、こんな説明がある。
「人口減少の中で資本や労働の量が大きく増えていくことは期待できない。潜在成長率を伸ばすには、資本や労働の配分がより効率的になり、結果として全要素生産性の伸びを高めていかなくてはならない」と。
*その後、政府の成長戦略についての社説、アナリスト、経営トップなどの口から同様のことが語られる。
*米国の予算についての報道の中で、議会事務局が潜在成長率2%を下回る予測を出しているのに対し、トランプ氏は高めの3%を強気で主張している…と言った具合の記述が目に付いた。
目標数字を掲げる時に、潜在成長率の数字はベースラインとしての意味を持っていることが分かる。
*ここから先、コロナ禍での潜在成長率が問題となる。
財政試算の悪化を受けた8月の社説では、デジタル庁を先取りするような提案が為されている。
2020年8月2日付
社説。
「財政の立て直しには経済成長も重要となる。他国と比べて遅れているデジタル化を強力に後押しし、潜在成長率の底上げにつなげることが大切だ」と。
*続いて、「アベノミクスの失速」、さらに「安倍退陣」を受けてエコノミストのコメント。
2020年8月29日付
「戦後最長には至らなかったが、安倍首相が長期の景気拡大を実現したのは事実だ。一方、目標としていた財政健全化や潜在成長率の上昇などは達成できていない。(物価変動の影響を除いた)実質賃金もなかなか上がらなかった」(河野龍太郎・BNPパリバ証券チーフエコノミスト)。
*そして、菅政権誕生後に…専門家のコメント。
2020年9月17日付
「日本は近年、経済の実力を示す潜在成長率が1%弱の低水準で推移している。新型コロナウイルスの感染拡大で低下が懸念される。菅内閣は、官民のデジタル化を進めることで潜在成長率を引き上げることが必要だ」(翁百合・日本総合研究所理事長)。
●uttiiの眼
中には、「日本経済の地力」と表現したものもあった「潜在成長率」。
少子化対策は打たねばならないとしても、労働力人口の減少や設備投資の鈍化は避けようがないと、実はもう見切りを付けていて、潜在成長率を上げるには生産性を上げること、とくにデジタル化が不可欠だという認識が、政界、経済界に広く浸透しているようだ。
デジタル化はかなり前からその必要性が意識されていたように思われるが、逆に、なぜ安倍政権で進められなかったのか。
その理由次第では、菅政権に実現できるとは限らないということになるのかもしれない。
コロナ後の経済
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