リモートワーク時代にも役立つ聞く力を磨く
岡 重文 : グロービス経営大学院教授
2020年07月24日
会話のすれ違いが大きな問題に発展することはよくあることだ。相手が何を伝えたいのかわからずにその場しのぎに適当な返答をしてしまう人も多いのではないでしょうか。
このたび『入社1年目から差がつく ロジカル・シンキング練習帳』を上梓した、日本最大級のビジネススクール、グロービス経営大学院で教鞭(べん)を執る岡重文氏が、コミュニケーションに潜む落とし穴を解説します。
大切なのは「論点」で聞くこと
コミュニケーションは双方向、自分が何を言うかも大切ですが、相手が何を言っているのかを正確に理解することもとても重要です。コミュニケーションが苦手という人は、実は相手が言っていることをきちんと聞くことができていないことが往々にしてあります。
自分と対立する意見だからと理解しようとしない人、そもそも聞く耳を持たない人は論外として、人の話を理解できない人の多くは、その発言を「内容」=「意見」としてだけ捉えようとしてしまいます。
一方で、人の話を理解できる人は、話し手の発言の内容のみを理解しようとして聞くのではなく、「論点は何なのか」そして「意見は何なのか」と2つを同時に考えながら聞いています。
普通、人は、意見と論点を峻別して話をしてはくれません。多くの場合、意見のみが語られます。
また、複数の論点を含む意見が話されることもしばしばあります。
さらには、話し手自身が論点を意識できていなかったり、整合性の取れない論点と意見が混ざった発言もあったりします。
だからこそ、聞き手は「発言」の内容に引っ張られることなく、「その発言」はどんな論点に関する意見なのかを意識し、理解するよう心がける必要があります。
簡単な例題を出すので、試しに取り組んでみてください。
「論点」と「意見」で整理してみよう
「キックオフ・ミーティング? あれは開催までの調整やら連絡が面倒だよね。
誰を呼ぶかとか、どのくらいの時間にするかとか、どこでやるのかとか。
あと、議題を決めて資料の作成なんかも手分けしないといけないし。
始まったら始まったで、議論するのかと思いきや、一方通行の報告だったり。
自由に発言してもいいと言われて発言したら怒られて、で、結局偉い人の一言で結論が決まってしまったりして。
それに、決まったことが実行されればいいけど、かえってモチベーションが下がるだけになったりする。
だから、やらなくてもいいんじゃない?」
文章で読めば、まだわかりやすいかもしれませんが、同じ内容を語りで、ぱっと聞いただけでは、話し手が何を言いたいのか、何を相談したいのか、よくわからないのではないでしょうか。
そこで、このように複数の内容がいろいろと述べられる発言に対しては、主旨を大きく捉えながら、論点と意見で整理するというアプローチをとってみましょう。
まず、この発言で最もこの人が言いたいことは何かを考えてみます。
いろいろな意見が述べられていますが、いちばん言いたいことは、「キックオフ・ミーティングはやらないほうがいい」ということのように思われます。論点は、この意見が答えになるような問いを考えることで明確化できます。
「キックオフ・ミーティングをやるべきか」が論点となります。
したがってこの発言の主旨は、以下のように整理をすることができそうです。
「論点」:「キックオフ・ミーティングをやるべきか」
「意見」:「キックオフ・ミーティングはやらないほうがいい」
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そう考えると、ほかにいろいろなことを述べていますが、それらはキックオフ・ミーティングに反対する理由にあたるものと考えてもよさそうです。
すると例えば、「準備は楽か」「実施して有益か」「行った後、仕事にプラスになるか」という論点に対して、いずれもNoという意見であると整理することができそうです。
このように、話し手の発言内容をそのまま捉えるのではなく、どのような論点に対するどのような意見で構成されているのかを理解しようと試みてください。
発言を聞きながら、同時にその発言を構造的に捉えることは、難易度が高い取り組みです。
ただ、内容=意見だけに引っ張られるのではなく、どういう論点に対してどのような意見なのかが意識できることによって発言の核になるポイントを押さえられるようになります。
また、論点間のつながり・関係性がどうなっているのかを捉えることができるため、論点間の重要性や順序性にも理解が及ぶので発言に対する理解度は間違いなく、上がっていきます。
ファシリテーション能力も向上
さらに、これができるようになると会議をより円滑に運営することができます。
往々にしてやってしまいがちなことが、前述のような一連の発言に対して、「何か意見はありませんか」という質問を場に投げてしまうことです。
そうなると「どのような論点なのかが、聞いているほうもわからない」「どの論点に対して意見を述べればいいのかがわからない」ことから、さらに収拾がつかなくなってしまいます。
発言から議論に必要な論点を捕まえ、場に提示してみましょう。
どの論点に対して意見を言えばよいのかを提示することで議論がうまく進むようになります。
先の例で考えてみれば、以下のような問いを立てることができます。
・「準備が大変かどうか」について、こうすれば準備が楽にできるのではという意見がある人はいますか
・「実施して有益か」について、こんなふうにすれば意味のある場になるのではという意見がある人はいますか
・「仕事にプラスになるか」について、こんなプラス要素もあるのではという意見がある人はいますか
・「キックオフミーティングをやるべきかどうか」について、ほかに意見のある人はいますか
とくに最近は、テレワークが推奨されオンライン会議を多くの会社が導入しています。
オンライン会議は、リアルの会議に比べて、言語情報の重要性が高まります。
それゆえ、しっかりと聞く力が、より求められるようになっていますので、ぜひ、「論点で聞く」にチャレンジしてみてください。
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