コニカミノルタ、コロナ後の複合機に自信の訳


山名社長が語るペーパーレス化への対応策

大竹 麗子 劉 彦甫 : 東洋経済 記者

 

2020年07月09日

ペーパーレス化とテレワークという逆風に複写機メーカー中堅のコニカミノルタはどのように立ち向かうのか(記者撮影)

新型コロナウイルスの感染拡大でテレワークが一気に拡大している。通勤がなくなることで打撃を受けているのが事務機器・複合機業界だ。

もともとあったペーパーレス化の流れにテレワークの動きが加わり、オフィスでのプリント需要が急減している。

リコーやキヤノンなど複合機大手の2020年3月期は軒並み減収減益となり、中堅メーカーのコニカミノルタは30億円の最終赤字に転落した。

そんな中、オフィスのIT支援など収益の多角化を進めるため、2020年5月にサーバーを搭載した複合機「Workplace Hub Smart(ワークプレイス ハブ スマート)」を発売。

単に複合機を売るのではなく、オフィスのIT化支援を本格化する方針を打ち出した。 

 ペーパーレス化やテレワークという逆風にどう立ち向かうのか。コニカミノルタの山名昌衛社長兼CEOに聞いた。

 



* コロナ前からオフィスのIT化を推進

――2020年3月期決算の最終損益は30億円の赤字と厳しい結果でした。

新型コロナウイルス感染拡大が直撃した。

収益基盤であるオフィス向け複合機などで構成されるオフィス事業は年度末である3月に売上高のピークが来る。

だが、まさにその時期に各国でロックダウン(都市封鎖)が起こった。

特に売上高比率の6割ほどを占める欧米市場で営業活動が制約されたことが痛手となった。

 

――コロナの影響によって在宅勤務が広がり、ペーパーレス化がさらに加速することが予想されます。

コロナが収束してもテレワークの動きは継続し、オフィスでのプリント需要は減少する。

しかし、数年前からペーパーレスを想定した経営を進めてきた。

コロナによってペーパーレスのスピードが速まったというだけであり、まったく新しいことが起こったわけではない。

ペーパーレスを想定していたからこそ、オフィスでのプリント需要依存から脱し、2018年から複合機を中心にオフィスのIT化を推進する「デジタルワークプレイス」という新規事業へ転換させてきた。

コニカミノルタの顧客は中堅中小企業が多い

こうした企業はITを専門にした部門が社内になく、オフィスのIT化をしたくても推進しづらいという課題がある。

IT機器の管理やセキュリティはさまざまなITベンダーに頼まなければならず、コストも時間もかかる。

大手のITベンダーも中堅中小企業を直接訪問するようなことはまれにしかなかった。

そこで、複合機の設置・管理を通じて個々の企業と付き合いのあるわれわれが一括してIT化を推進しようというのがデジタルワークプレイス事業の目的だ。複合機を通じた定期的な付き合いがあるからこそ、顧客の希望に沿ったサービスを提供できる。

 

――デジタルワークプレイス事業とは具体的にどんな取り組みなのですか。

ワークプレイスハブ(WPH)というコンセプトが核となる。

これは複合機にサーバーを組み込み、ITマネジメントを一括したプラットフォームとして提供する仕組みだ。

顧客企業は使用したアプリの数やユーザー数に応じて使用量を支払うため、経費を抑えることができる。

ペーパーレスが加速してプリントサービスの売り上げが減っても、ITマネジメントの売上高が増加するとみている。

一般的に複合機の契約は2~3年に1回更新される。そのため、より安い機器を提供する企業が参入してくれば、(更新のタイミングで契約が打ち切られて)顧客との関係が切れる。

だが、ITマネジメントは個々の顧客の実情を理解してソフトウェアなどの更新を行う必要があり、新規参入が難しい。顧客からしても、自社に理解があるコニカミノルタに一括してITマネジメントを行ってほしいという需要があるため、長期的な関係を築きやすい。

 

* 顧客視点の開発に時間がかかった

――2023年3月期にデジタルワークプレイス事業の売上高を1000億円にする計画を立てましたが、

2020年3月期の売上高は他の事業も含めて106億円と達成には程遠い状況です。

狙ったようなニーズはあるのでしょうか。

計画の遅れは顧客視点のサービス開発に時間がかかったためだ。

ソフトウェア開発は作って終わりというわけではない。

完成後もさまざまな業種・業態の顧客の要望に沿った開発に取り組む必要があった。

今は試行錯誤の時期を終え、顧客が必要とするサービスを提供する体制が整った。

サービスは欧米で先行し、料金体系も欧米の需要に合わせて定額制を採用した。

当初は月々の使用料を1250ドルくらいと想定していたが、実際には約2倍の使用料をもらえている。

顧客に価値を認められている証拠だ。

ITサービスの開発や販売、保守・管理など、デジタルワークプレイス事業を構成する技術やサービスは欧米を中心にM&Aを進めて一通り獲得できた。

今後は投資と収益のバランスを取っていく。日本でもサービス提供を開始しており、今後は成果をあげていけるだろう。

コロナ後にペーパーレスが加速するからこそ、こうした事業機会が拡大する。

大手に比べてIT化が遅れている中堅中小企業こそアフターコロナへの対応を早めなければならない。

だからこそ、中堅中小企業を主要顧客とする我々のサービス需要が増加していく。

 

――注力してきたヘルスケア事業にも注目が集まっています。

コロナにより顕在化した医療従事者の負担低減、診断の早期化・確実化に取り組んでいる。

特に肺の診断に注力し、AI(人工知能)による画像診断ソフトウェアで医療従事者の意思決定を助けている。

大病院だけなく、町のクリニックにもIT化やオンライン予約・診断システム(を採用するところ)が広がっている。

人との接触を減らす意味でもクリニックのIT化は重要だ。

バイオヘルスケアにも注力している。

コニカミノルタはタンパク質解析技術を持っており、それを遺伝子解析技術にも生かしている。

遺伝子解析で自分自身や家族がどのような病気になりやすいのか知ることができ、患者それぞれに合った治療・投薬を行う個別化医療が可能になる。アメリカでは個別化医療の社会的認知が進み、コニカミノルタの事業として基盤ができあがっている。

 

* コロナ後に生かせる遺伝子解析技術

――なぜ個別化医療に注力するようになったのでしょう。

コニカミノルタは前身のコニカの時代からレントゲンフィルムを手掛けており、画像診断技術に強みがある。

診断技術のような「見える化」する分野を強化しようとする中で、遺伝子解析や個別化医療にたどり着いた。

こういった遺伝子解析を基盤とした医療を国も重要視している。

遺伝子解析を駆使すれば、創薬日数を短縮でき、国の医療費負担を抑えることができる。

今までは主にがん患者が自身のがんの状態を把握し、治療方針の決定に役立てたいというニーズが大きかった。

今後は、健康な人もPCR検査や抗体検査が必要であり、遺伝子解析の技術はここでも生かせる。

また、コロナに感染して重症化するのは基礎疾患を持つ人だ。個別化医療はそういった疾患を早期に発見するニーズも満たす。

 

――今後はコニカミノルタの事業構造も大きく変わってきそうですね。

コロナ禍により、新規事業として育ててきたデジタルワークプレイス事業やバイオヘルスケア事業がくしくも求められている。これはコニカミノルタがコロナ以前から目指していた方向だ。

これら戦略投資している新規分野は赤字幅が確実に縮小している。

コロナをはじめ経済の環境が厳しくなると、新規事業への投資を止めるという経営判断もあるかもしれないが、中長期の観点で苦しいときでも投資は続けていく。

 

 

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