ROE・効率性重視では製造業が生き残れない理由
不確実性とダイナミック・ケイパビリティ
中野 剛志 : 評論家
2020年06月09日
不確実性の高い世界で、製造業はどのような経営戦略をとるべきなのか(写真:yoh4nn/iStock)
新型コロナの拡大は、中国からの部材調達がストップするなど、サプライチェーンにも多大な影響を与えている。将来が予測困難な世界において、製造業はどのような経営戦略をとるべきなのか。
評論家の中野剛志氏が「不確実性」と「ダイナミック・ケイパビリティ」をキーワードに読み解いていく。
問題はパンデミックそれ自体ではない
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新型コロナウイルス感染症の感染拡大は、世界の様相を一変させると言われており、早くも「ポスト・コロナ」社会の「ニュー・ノーマル(新常態)」についての議論が活発に行われている。
もちろん、そういう議論は必要である。ただし、問題の本質を見誤ってはならない。
例えば、中国武漢で感染爆発が起きた際、中国からの部材の供給が途絶したため、製造業のサプライチェーンを見直すべきだという声が高まった。その問題意識は正しい。しかし、中国から移した新たな製造拠点の国で、自然災害や戦争など別の危機が発生したら、再びサプライチェーンを見直さなければならなくなるだろう。
要するに、問題は、パンデミックそれ自体ではない。予測困難な激変が突然起きるという「不確実性」こそが、問題なのである。
「不確実性」には、パンデミック以外にも、自然災害、地政学的紛争、サイバーテロ、破壊的な技術革新、政治の不安定化など、いくらでもある。最近では、ブレグジットや米中貿易摩擦などが挙げられる。
われわれは、すでに「不確実性」に満ちた世界に生きている。しかも、近年、「不確実性」は著しく高まりつつある。今回のパンデミックは、そういう「不確実性」の1つにすぎないのだ。IMF(国際通貨基金)のクリスタリナ・ゲオルギエバ専務理事も、「不確実性が、ニュー・ノーマルになりつつある」と述べている(「世界経済のために強固な足場を見つける」IMF Blog
2020年2月20日)。まさに、そういう時代認識が求められている。
繰り返しになるが、問題の本質は、コロナウイルス感染症ではなく、「不確実性」にある。不確実性の高い世界を前提として、戦略を組み立てなければならないのである。
しかし、不確実性の高い世界では、将来予測がほぼ不可能であるがゆえに、有効な戦略を立案することは著しく困難なものとなろう。
例えば、製造業は、ある程度、将来を予測したうえで、技術開発や設備投資に踏み切るものである。しかし、将来が予測不能だということになると、リスクを負って巨額の投資を行うことは、およそ不可能になる。技術開発も設備投資もできないのでは、製造業は成り立ちえない。不確実性とは、製造業にとって最大の敵であると言っても過言ではない。
では、将来が予測困難な不確実性の高い世界において、製造業には、どのような経営戦略がありうるのであろうか。
最も有効な生存戦略とは
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そこで『2020年版ものづくり白書』が着目したのは、現在、最も影響力のある経営学者の1人であるデイヴィッド・ティース教授(カリフォルニア大学バークレー校)が提唱する「ダイナミック・ケイパビリティ」論である。
「ダイナミック・ケイパビリティ」とは、環境や状況が激しく変化する中で、企業がその変化に対応して自己を変革する能力のことを指す。
ティースによると、企業の能力は、「オーディナリー・ケイパビリティ(通常能力)」と「ダイナミック・ケイパビリティ(企業変革力)」の2つに分けられる。
「オーディナリー・ケイパビリティ」とは、与えられた経営資源をより効率的に利用して、利益を最大化しようとする能力のことである。それは、労働生産性や在庫回転率、あるいはROE(自己資本利益率)のような数値によって測定することができる。
オーディナリー・ケイパビリティは、言うまでもなく、企業の基本的な能力である。しかし、それだけでは、競争力を維持することはできない。なぜならば、環境や状況に想定外の変化が起きた場合に、どう対応すべきかについて、オーディナリー・ケイパビリティは、何も語らないからだ。
それどころか、オーディナリー・ケイパビリティが洗練され、精緻化されていればいるほど、それを変えるコストは高くなってしまうので、いっそう変化に対応できなくなる。
例えば、オーディナリー・ケイパビリティの観点からは、生産拠点を中国に集中させることは、正解だったのかもしれない。そのほうが効率的だからだ。しかし、その効率的なサプライチェーンが、パンデミックという「不確実性」によってもろくも崩れるのを、われわれは目の当たりにしたであろう。
そこで、「不確実性」に満ちた世界では、環境や状況の変化に応じて、企業内外の資源を柔軟かつ迅速に再構成して、自己を変革する「ダイナミック・ケイパビリティ」を高めることが必要となる。要するに、何が起きるか予測ができないのであれば、何が起きても迅速に対応できる能力を強化しておくことこそが、最も有効な生存戦略だということだ。
不確実な時代における経営戦略の「ニュー・ノーマル」
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慶応義塾大学商学部の菊澤研宗教授は、ダイナミック・ケイパビリティを説明するにあたり、コダックと富士フイルムを対比させている。
両社とも写真フイルムの生産販売で利益を得てきたため、デジタルカメラの普及によって苦境に立たされた。
コダックは、株主価値最大化を重視してオーディナリー・ケイパビリティに固執した結果、倒産の憂き目をみた。しかし、以前より、株主価値最大化よりもイノベーションを重視してきた富士フイルムは、既存の技術を再構成して新たな技術を生み出すことで、自己を変革して生き残った。富士フイルムは、まさにダイナミック・ケイパビリティを発揮したのである(「ダイナミック・ケイパビリティと経営戦略論」Harvard
Business Review 2015年1月16日)。
このようなダイナミック・ケイパビリティこそ、コロナ危機を生き抜くうえで最も必要とされる能力ではないだろうか。「ポスト・コロナ」社会の議論が盛んだが、「ポスト・コロナ」社会の下で、相変わらず効率性やROEといったオーディナリー・ケイパビリティ重視の路線を継続するようでは、新型コロナウイルス以外の不確実性には対処できないだろう。
したがって、不確実性の時代における経営戦略の「ニュー・ノーマル」は、オーディナリー・ケイパビリティではなく、ダイナミック・ケイパビリティを重視する経営戦略となるであろう。
『2020年版ものづくり白書』は、製造業がダイナミック・ケイパビリティを構築するためには、どのような経営哲学、経営戦略あるいは人材が必要になるかについて、豊富な具体的事例やデータとともに詳述しているので、ぜひ、参考にしていただきたい。
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トランプが中国に覇権を譲る日〜WHO脱退、香港国家安全法対抗措置で袋小路へ
2020年6月2日
トランプ大統領は中国による香港への統制を強める「国家安全法」導入への対抗措置を打ち出した。香港に認めてきた優遇措置の撤廃に加え、「中国寄り」と非難してきた世界保健機関(WHO)脱退の意向も表明。対中強硬姿勢に拍車が掛かっており、米中対立が一層深刻化するとの懸念が高まっている。
トランプ大統領氏の強硬姿勢の背景には、11月の大統領選での再選をにらみ、「中国たたき」に活路を見いだしたい思惑があるとされる。5月29日の記者会見でも「中国は数十年間、米国を略奪してきた」と非難し、「歴代大統領とは異なり、公平で相互的な扱いを受けるために中国と交渉し、戦ってきた」と自賛している。
トランプ政権が5月21日に発表した議会向けの対中戦略報告書では、中国の挑戦に対抗するため「競争的アプローチ」を採用すると表明した。歴代米政権の「関与政策」を批判した上で、「外交の効果がなければ、米国の利益を守る行動を取る」として、対決姿勢を打ち出している。かなり強行になってきているのがわかる。
ただし、外交実績である米中貿易合意を維持したいトランプ大統領は、中国との決定的な対立は望んでいないとみられている。対中批判を繰り広げた5月29日の記者会見でも、習近平国家主席の名前は出さず配慮を見せたとされている。さらに、会見後に記者団に「私たちは米中新冷戦の開始を目の当たりにしているのか」と問われた際にも、「中国には本当に不満だ」と述べるにとどめている。
トランプ政権は今回の制裁に関する措置を実施する期限は示していない。香港で操業している米企業は厳しい措置に反対を示しているため、時間を稼ごうとしている可能性がある。
*中国企業の米上場廃止まで検討?
トランプ大統領は厳しい姿勢を示しながらも、中国との対立が一段と精鋭化すれば、難航した協議の末にようやく得られた第1段階の通商合意が覆されると認識しているとみられる。香港には約1,300社の米企業がオフィスを構え、約10万人を雇用。大統領はこうしたことにも配慮しているものとみられる。
また、いったん使用を控えてきた「武漢ウイルス」の名称も再び持ち出し、中国が新型コロナ感染を隠蔽したと改めて批判。香港の自治侵害に関わった中国や香港の当局者に対して制裁を科す方針も示した。
トランプ大統領は強硬姿勢を強めすぎることで、米国経済が悪化し、それが自身の再選を妨げることはしたくないという思惑があるのだろう。
しかし、進んだ道を戻るわけにはいかない。すでに戻れない道を米国は進み始めている。それは「覇権国家を中国に譲る」という道である。
新型コロナウイルス流行で落ち込んだ景気の回復に向け刺激策を打ち出す余地はあるが、大規模な措置は想定していないとした。湖北省武漢が発生源になった新型コロナの影響から中国経済は回復しつつあるが、第1四半期の成長率は前年同期比6.8%減少し、四半期の統計でさかのぼれる1992年以降で初のマイナスとなった。
また、今回の全人代でも19年ぶりに成長目標の公表を見送った。李首相は新型コロナ流行を制御できたとし、今年もプラスの経済成長達成に努めると表明。政府は必要に応じて支援するとし、「政策余地は備えている。タイムリーに新たな政策を打ち出すことは可能で、中国経済の安定運営を維持するためにためらわない」と強調した。一方で、経済成長率を重要視していることに変わりはないとした。
香港国家安全法の詳細は数週間内に策定され、9月までに成立する見通し。李克強首相は、国家安全法は香港の長期的安定と繁栄に資するとした。
香港では、中国政府による香港統制が強まるとの懸念が高まり、抗議活動が実施されている。中国当局は、香港の自治が脅かされることは全くなく、香港国家安全法の対象は絞られていると説明するが、米欧などは懸念を表明している。
中国による国家安全法の香港への導入方針について、香港の旧宗主国である英国は、「一国二制度の原則の土台を壊すものだ」と重大な懸念を表明。中国企業の次世代通信規格「5G」網参入をめぐるあつれきや、新型コロナウイルス感染拡大に絡んだ中国への不信が高まる中、今回の中国の動きを受け、対中関係の見直し論に拍車が掛かるのは必至である。
英中関係も冷え込む
経済の結び付きを強める英中関係は数年前、「黄金時代」とされていた。しかし、英国では昨年から今年にかけ、5G網の整備に中国通信機器最大手・華為技術(ファーウェイ)の参入を認めるかが大きな議論になり、対中関係の変調が鮮明になっている。
そこへ新型コロナの世界的流行が発生。英国でも中国の初動のまずさが大流行につながったとの疑念がくすぶっている。ラーブ外相は4月中旬、感染拡大の原因について国際的な徹底調査を求めた上で、コロナ危機収束後の対中関係について「以前と同じに戻ることができないのは間違いない」と発言している。
ツイッター社は29日、ミネソタ州の黒人男性が警察官に押さえつけられた後に死亡した問題への抗議に関するトランプ大統領の投稿に「暴力の賛美についてのルールに違反する」との警告を表示した。トランプ大統領は同社の別の警告表示に反発し、SNS運営側の投稿への介入を阻止するための大統領令に署名している。
ツイッター社はこの投稿の上に、暴力を引き起こす可能性があるとして禁止されている「暴力の賛美」の警告を表示し、「公共性があると判断した」と引き続き閲覧できるようにした。トランプ大統領は警告を受け、「ツイッターは中国や急進左派民主党から出されたうそと宣伝については何もしていない。彼らの免責特権は剥奪されるべきだ」と投稿し、同社の対応を改めて非難した。
SNSにも難癖をつけるトランプ政権だが、ますます袋小路に入っていくだけであろう。まさに政権の負のスパイラルへの突入である。
*これから起きる歴史的大転換
米国から見れば、中国の独断は許せないだろうが、すでに中国は米国を超える力を備え始めている。米国はそれに気づいている。しかし、放置もできない。そこで、仕方なく圧力をかけているというのが現状である。過去の歴史は最終的には戦争で決着をつけるのだが、それも費用が掛かりすぎて現実的ではない。
しかし、2020年は歴史の転換点である。50年の景気サイクルであるコンドラチェフサイクルを当てはめると、今年がほぼピークに相当する。その前はハイテクバブルである。50年サイクルの4サイクル前の200年前は英国の産業革命である。この数年間で米国主導の資本主義経済の形は変わっていくだろう。
その結果、中国主導の社会資本主義が中心的な考え方になっていくだろう。それを採用し始めているのは、ほかでもない米国であろう。
新型コロナウイルスの感染拡大で経済が落ち込むことを避けるため、政府は国民に配給制とも言える資金供給を行った。これにより、個人所得が急激に上がっている。失業していても、たっぷりとお金が手元に入ってくる。仕事をする必要がないのである。そのお金で株式を買っている若者も少なくないようである。だからこそ、株価が上がっているのだろう。しかし、経済が止まり、企業業績が悪化する中、株価だけが上昇する。
しかし、これにも限界がある。米国民はすでに気力を失っている。また、安易な方に向かっている。製造業や物を作ることの重要性を忘れ、安価なものを輸入すればよいという発想が染みついている。そして、製造業から金融業に移行した。安易な選択だが、これが米国をいずれダメにするだろう。
覇権国家としての地位を奪われれば、
中国がデジタル法定通貨の発行に向けて着々と準備を進めているが
現在はこのような覇権国家の移行期にあることを十分に理解し、
日本経済、コロナで原爆も空襲もなく焼け野原へ。GDPマイナス25%の世界が来る
2020年5月29日
そのため、これまでに正確に感じられなかったその壊滅的悪化ぶりを、ようやく多くの国民が身をもって感じさせられる時間がやってくることになりそうです。
四半期GDPは終わってから発表になる遅行指標ですから、正確な数字が示現するのは7月以降。
そもそも本当の数字がちっとも良くわからない疑惑の殿堂内閣府がまとめるので、手心が加えられる心配もあります。
しかも、第2四半期の一時的な落ち込みだけで終わるかどうかは、まだ誰にもわからないのが実情。今年1年間の落ち込みは、我々が足元でほのかにイメージする内容より遥かに悪化することだけは間違いなさそうな状況です。
第2四半期だけで25%のマイナスGDPが示現した場合、実額としては20兆円近い消費の落ち込みになるわけですから、それはもうすさまじい数字であると認識すべき状況です。
この3月、リスクパリティ戦略をとりながらも久々に巨額の損失を出してしまった世界最大のヘッジファンドであるブリッジウォーターアソシエイツのCEOレイ・ダリオは、LinkdInのインタビューで、足元の状況が1933年当時の大恐慌の真っただ中の状況と酷似しており、すでに不況を超えてカネと信用を作り出すメカニズムが完全に崩壊したと語っています。
「歴史は常に繰り返す」とする見方をしているレイ・ダリオの視点は、国内外で中央銀行がなんとかしてくれるから相場は大きく戻し、この下落が最大のチャンスであるという見方をする投資家とはかなり異なるもの。
相場に精通して大きな利益を得ることができたエキスパートほど、今の相場の上げには追随していないことがわかります。
悲観と楽観で真っ二つに割れた金融市場
ここからの相場展開を想定するにあたって、このどちらの意識を強く持っていくのかは、投資の結果にもかなり大きな影響を及ぼすことになるでしょう。
日本が焼け野原になっているのが見えないのか?
まさに足元の状況は、そのズレが最大に乖離した状況なのではないか?と強く実感させられます。
しかし現実は遥かに壊滅的で、原爆も空襲もないものの、その後に匹敵する焼け野原状態がすでに姿を現そうとしているように思われます。
緊急事態宣言が解除されたことで東京の経済再開が徐々に始まると、その状況はますます露わになることでしょう。
改めて、大恐慌という状況がどんなものなのか、再認識する必要がありそうです。
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