新型コロナウイルス感染症の拡大を防ぐために多くの国で、人と人が接触する機会をできるだけ減らす「社会的距離戦略」が実施されている。これまでの「日常の生活」には戻らないかもしれない。
by Gideon Lichfield
2020.05.04
新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)
誰もが早く日常の生活に戻りたいと思っている。しかし、
しかし、これで収束することはないだろう。世界のどこかに新型コロナウイルス保有者が存在したら、厳格な規制で封じ込めない限り、アウトブレイクは繰り返し発生する可能性がある。実際、何度も繰り返し発生するだろう。インペリアル・カレッジ・ロンドンの研究者は3月16日、封じ込めの方法を提案する報告書(PDFファイル)を公表した。その方法は、集中治療室(ICU)の入院患者数が急増し始めるたびに思い切った社会的距離戦略を実施し、ICUの入院患者数が低下するたびに緩和するというものだ。その過程を示したのが下のグラフだ。
定期的に社会的距離戦略を実施することでパンデミックは抑制され
オレンジの線はICUの入院患者数の変化を表す。
「社会的距離戦略(Social
distancing)」とは何だろうか。インペリアル・
インペリアル・カレッジの研究者はこのモデルで、
18か月も社会的距離戦略を実施するのはたいへんだ。
たとえば、ICUを増やして、
広範囲の社会的距離戦略を実施しない想定では、
しかし、インペリアル・カレッジの研究チームのモデルでは、
工場でベッドや人工呼吸器、
完全な社会的距離戦略とその他の措置を5か月間実施しても、
冷酷な対策をとったらどうなるだろうか。すなわち、
これは一時的な混乱ではない。
パンデミック下の暮らし
短期的には、レストラン、カフェ、バー、ナイトクラブ、ジム、
もちろん、ある程度は適応できるだろう。たとえば、
すでに「シャットイン・
しかし、
では、どうやってこの新しい世界で暮らしていくのだろうか。
短期的には、
しかし、最終的には、
この先駆けとなる措置がいくつかの国で現在実施されている。
シンガポールで発表されている新型コロナウイルス情報の詳しさに
は驚かされます。このWebサイトでは、 これまで確認されたすべての感染者、感染者の居住地と職場、 入院先の病院、 および保菌者のネットワークトポロジーをすべて時系列で見ること ができます。pic.twitter.com/ wckG8KpPD
*この記事は、2020年3月24日に公開した記事の再掲です
『コロナ後の世界』に立ちはだかる2つの難題
<巨大な「真空地帯」となる湖北省以外の中国の鎖国状態、そしてアフリカなど南半球の感染拡大とどう向き合うか――日本には国際協調へのイニチアチブが求められる>
感染拡大の際に実行された「ロックダウン」や「非常事態宣言」からの「出口戦略」を世界の各国が模索し始めています。
日本の場合もそうですが、当面は経済の再起動を注意深く進めることになり、その先まで見通した戦略というのはなかなか考えられない状態だと思います。
ですが、仮にある程度「国内経済」を再起動できたとしたら、その次は国際情勢、つまり「コロナ後の世界」に適応した戦略を考えていかなくてはなりません。
もちろん、早期に治療薬や予防ワクチンが確立するようなら、「V字型」とまでは行かなくても、「U字型」の回復という可能性も見えてくるでしょう。
けれども、そうではなく、とりあえず2020年前半のパンデミックは収束した、だが、治療薬は完全ではなく、予防ワクチンは未開発という状況が続くとしたら、どうでしょう? その場合、世界の経済や外交ということでは、2つの問題に向き合って行く必要があると考えられます。
1つ目の問題は「中国という巨大なコロナ真空地帯」の問題です。
この中国の「真空」というのは、湖北省でパンデミック再発の危険があるという意味ではありません。
情報統制が強すぎてブラックボックス化するということでもありません。
中国が「免疫を持たない集団」に
今回のパンデミックに際して、湖北省など感染地域以外の約10億人の人口、例えば北京や上海などを含む中国全土は「早すぎる、そして完璧すぎるロックダウン」を実現してしまっています。そのために、早期の経済再起動ができているのは事実だと思います。ですが、同時にこの「湖北省以外の中国」は、地球最大の「コロナ陰性+コロナ抗原・抗体陰性」という「感染への免疫が希薄な集団」として残ってしまうことになります(あくまで、抗体が何らかの免疫力を持つという仮説が前提ですが)。
と言うことは、「被害が少ないので経済活動を牽引できる」はずの中国が「ワクチン完成までほぼ完全な鎖国を継続」しなくてはならないことになります。これは世界経済にとって、また日本経済にとっても深刻な問題です。
もちろん、中国で湖北省以外でも感染が拡大して、欧米並みの感染者が出た方が「良かった」とは言えません。
少なくとも湖北省で起きたことに衝撃を受けた中国政府として、厳しいロックダウンと湖北省封鎖によって感染拡大を防止したのは正しい判断であるし、その背後には日欧米の専門家の助言も、WHOのサポートもあったと思います。
そうなのですが、ほぼ全く感染していない10億人が、ワクチン待ちの期間は鎖国を継続しなくてはならないとしたら、これは大変なことです。
しかしながら、いち早く再起動を進めつつある中国経済の存在は、日欧米にとっても重要です。
相互のコミュニケーションを改善して、モノの行き来や、カネの行き来に良い知恵を出していくべきでしょう。
2番目は「アフリカなど南半球での感染拡大継続」という問題です。
今回の新型コロナウイルスは、過去のコロナウイルス、例えばSARSやその他のインフルとは違って、高温多湿でも感染力を保つ可能性が指摘されています。ですが、コロナウイルス一般の性質として、RNAを囲んでいるタンパク質のケースは温度や湿度には弱く、北半球の夏場には活性度が下がることが期待されます。
ですが、その場合でも、反対に秋から冬を迎える南半球でのパンデミックが続くようですと、北半球の秋以降の「第2波」がより深刻なものとなる危険が増します。
と言うことは、この間、南半球での感染拡大を阻止するために、国際社会の協力が必要です。
つまり、WHOを批判している場合ではないわけで、改革や人事が必要ならそれを行った上で、WHOを中心に国際社会が結束して、南半球でのパンデミック阻止に動かなければなりません。
この2つの問題は重要ですが、現時点のアメリカやヨーロッパには、そうした戦略的な支援や対話を行う余裕は極めて乏しいのが現実です。その意味で、人口あたり死亡数が、一桁から二桁低い日本の場合は、国際協調のイニチアチブを取ってゆく責任があるように思います。日本にとって「コロナ後の世界」を考えるとは、そうした問題ではないでしょうか。
出典 : プリンストン発 日本/アメリカ 新時代 /冷泉彰彦
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