朝日新聞デジタル
2020年4月16日
日本国内の新型コロナウイルスの検査数は、なぜ少ないのか。
これまで新型コロナ対策の専門家会議は、不安な人が検査のために病院に殺到すれば「医療崩壊」が起きる、と説明してきた。
だが現状は、感染に気づかない人が来院するなどして医療従事者にも感染が広がっている。
海外在住の専門家は「クラスター対策」には限界があるとし、検査態勢を拡充するよう求める。
■高熱4日・嗅覚障害でも断られ
「感染しているかもしれない」。4月はじめに高校生の長女(16)が2日続けて38度台の熱を出したとき、大阪市に住む女性(45)は不安を抱いた。直前に夫も発熱していた。
検査を受けられないか、地元の保健所に電話すると、「4日間発熱が続かなければ対象ではない」と言われた。長女の高熱は続き、4日目には39・6度に。水を飲むのも大変なほどぐったりしていた。
保健所に電話をかけ続け、約2時間後につながったが、今度は「1カ月以内に海外に渡航」「身近に陽性の人がいる」などに該当しないため、「検査の対象外」と言われた。
「4日間、待ち続けてきた」と訴えたが「保健所の医師が検査不要と判断した」とにべもなかった。
4月中旬に感染が確認された神奈川県在住の40代の男性会社員も、一度は検査を断られた。
4月1日にキムチを食べたがにおいがしなかった。翌朝に嗅いだコーヒー豆も無臭。感染したプロ野球選手が「コーヒーなどのにおいがしない」と訴え、感染が確認されたことが話題となっていた。
その日のうちに、保健所が設けた相談窓口である「帰国者・接触者相談センター」に電話。検査を依頼したが、「様子を見てください」と言われた。
担当者からは「厚生労働省の検査の『目安』に、嗅覚(きゅうかく)障害は入っていない」と説明されたという。
1週間経っても症状は消えず、別の診療所を通じて再び相談センターに相談したところ、今度は検査が認められ、2日後に陽性と確認された。
現在は軽症者を受け入れている県内の宿泊施設にいる。「陽性かどうか分からず過ごすのは、自分も家族も不安でしかたなかった。
必要な人に適切に検査できる態勢をつくってほしい」
(新屋絵理、増山祐史)
■「通常診察に影響」対象絞る
なぜこうした不満が噴出しているのか。大きな要因が、厚労省が検査へのルートを絞ってきたことだ。
厚労省の示す「目安」によると、(1)風邪の症状や37・5度以上の発熱が4日以上続く(2)強いだるさや息苦しさがあるといった場合、まず帰国者・接触者相談センターに電話などで相談する。センターで感染の疑いと判断された場合、専門外来である「帰国者・接触者外来」を受診する。ここで医師が必要と判断して、ようやく検査が受けられる。
検査希望者が病院に次々と訪れれば、通常の診察に影響が出たり院内感染につながったりするおそれもあるとして、感染の可能性が高い人や重症化しやすい人だけに検査を絞る仕組みだ。厚生労働省によると2月1日~3月31日、東京都内の相談センターには4万1105件の相談が寄せられたが、実際に検査されたのは964件(2・3%)のみだった。
新型コロナ専門家会議の尾身茂氏は4月1日の記者会見で「日本ではコミュニティーの中での広がりを調べるための検査はしない」と述べた。
だが、顕在化したクラスターを追跡する一方で、感染経路不明の感染者が急増。各地の保健所も手いっぱいだ。日本救急医学会は9日、「新型コロナではない疾患で受け入れた救急患者が、後に感染していたと判明する事例も増えつつある」として、迅速な検査の必要性を訴えた。
地域のかかりつけ医などが帰国者・接触者外来につなぐこともできるが、検査のハードルは高いようだ。
日本医師会の調査では、地域の医療機関の医師が検査が必要と判断しても、保健所に断られるといったケースが、少なくとも2月26日~3月16日の間に290件確認されている。
一方で、新潟市では各国で活用されている「ドライブスルー方式」を導入。今月12日までの1カ月半にこの方式で、約500件の検査をした。市保健所の担当者は「医療機関は症状が重い人の検査や治療の場として優先したい」と話している。
(黒田壮吉、高橋俊成)
■検査態勢、充実急いで 市中感染、軽症者らが広げている可能性
日本の検査件数は海外と比べて桁違いに少ない。4月3日には在日米国大使館が「広範な検査をしないという日本政府の決定は、感染率を正確に評価することを難しくしている」と指摘した。
安倍晋三首相は6日、検査態勢を1日2万件に倍増する方針を表明したが、検査件数は12日までの1週間で、平均約6500件にとどまる。
公衆衛生の専門家で、世界保健機関(WHO)の事務局長上級顧問を務める渋谷健司氏は、取材に対して「感染拡大を止めるには『検査と隔離』を徹底するしかない。日本では検査態勢の充実が急務だ」と話し、クラスター追跡重視の方針を変えるよう訴えた。
これまでの日本の対応について渋谷氏は「クラスター(感染者集団)の連鎖を断ち切ることに注力してきた」と指摘。
「検査を絞ったために、見つかっていない軽症例や症状のない感染者が市中での感染を拡大させている可能性がある。それが院内感染につながっているおそれもあり、救急外来が機能しないなど、医療崩壊が起き始めている」と危機感を示した。
日本では7日に緊急事態宣言が出たが、「遅きに失した感は否めない」と指摘する。
「3密(密閉、密集、密接)」や「若者」「夜の街」などのクラスターばかりが注目され、「家にいて接触を減らす」という、最も大事なメッセージが浸透していないとも懸念する。
WHO事務局長上級顧問・渋谷健司氏
■Q&A 大阪弁護士会・谷真介弁護士
Q お客が減って自宅待機命令、休業手当は?
A 「会社の都合」理由ならもらえる
Q ホテルでパートタイマーとして勤務しています。新型コロナウイルス感染拡大の影響で宿泊客が減り、自宅待機を命じられたのに
「休業手当は出ない」と言われました。
A 労働基準法では、休業手当が支払われるのは「使用者(この場合はホテルの経営会社)の責に帰すべき事由による休業」、つまり会社側の都合で
仕事を休むことになった場合とされています。
経営不振がコロナウイルスの影響でも、ホテル側の都合で自宅待機を命じているので休業手当(平均賃金の60%以上)はもらえます。
逆に「感染が怖いから仕事を休みたい」という理由だけでは、自分の都合とされ休業手当も出ません。
たしかに、同法によれば天変地異で社屋が壊れるなど、不可抗力で出勤できないときは休業手当は出ません、
今回の緊急事態宣言を受けて休業した会社は、「不可抗力」を主張することが考えられます。
ただ、本当に「不可抗力」かは個別の事情で判断されます。一人で行動するのが難しければ同僚と一緒に会社に交渉したり、ひそかに
労働基準監督署に匿名で申告したりすることもできます。個人加盟の労働組合(ユニオン)への加入も考えてはどうでしょうか。
一方、民法によれば、経営不振など会社の都合で休業する場合、休業手当ではなく100%の賃金が認められる可能性もあります。
本当に休業させる必要があったのかがポイントです。(このシリーズは平賀拓哉が聞き手をつとめました)
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